誰そ彼はしじまの向こうからやってくる   作:上条@そぉい!

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「人生は遊びながら老いていく」

 その日はまあ大変だった。何故かって、一人暮らしの部屋に突然同居する人が増えたんだ。色々と無理が出てくるものだ。しかもそれが子供とは言え異性である。まだ話題にあがらないだけで沢山問題はあるだろうが、差し当たって問題が出たのは寝る場所どうするか問題であった。当初は、男が使っていたベットを開け渡し、男はソファで寝ればいいと思っていた。なんならそう提案もした。しかし、子供。いや、シービーと名乗った女の子はそれを拒否した。

 

「いやいや、居候する身でそれは申し訳ないよ」

 

 家主を差し置きそんなことは出来ないと言ってきた。一理あるが、それはお互いの立場が平等だった場合に適応される。子供と大人。どちらが優先されるかという倫理観に基づきベットで寝てもらう事が確定した。家主と居候のカーストを舐めてはいけないのである。

 服の事やら生活の事やら、まだまだ考えなくてはならない事が沢山あるが、一度寝に入ってしまえばそれらはみな空の上でお散歩。次の日の自分がなんとかするだろうと楽観的に投げ出してソファで寝る男であった。

 

 そうして次の日。朝に瞼を開けた男は、眼前に広がるシービーの顔に内心驚くもその感情を出す事なく冷静に言った。

 

「人の寝顔を見るのは趣味が悪いぞ」

 

 じっと見つめ返してやれば、カラカラと笑いながら顔を退けた。

 

「ごめんごめん、あんまりに静かに寝てるものだから生きてるのかな?って」

 

 まあ寝相が悪い方ではないと思っていたが、側から見るとそんな死人に見えるのか。これは新たな発見だ。心の片隅にメモしておくとして、今日はどうしたものか。仕事は……本来ならあるが休みを取るとしよう。どうせ使わない有休だ。溜まってるものは消化した方がいい。

 

「出かけるぞ」

「何処行くの?」

「ずっと俺の服だと不便だろ、服買いに行くぞ」

 

 しかし頭は帽子か何かでなんとかなるとして、尻尾はどうしたものか。隠せるものがあっただろうか。しかしシービーはそんな男の視線に気がつき、ふふんと口元を丸めて言った。

 

「これくらいならズボンの中に隠せるよ」

 

 ちょっと気になるけどね。と続ける彼女になるほど、と納得顔でとりあえず朝の支度を済ませる。朝食は軽めに食パンで済ませた。シービーは珈琲派閥だったようだ。男は緑茶である。これには2人で顔を見合わせどちらにするかを数分議論し、勝者はシービーとなった。飲めないわけではないが、やはり何がいいのか男には理解できなかった。珈琲の苦さとお茶の渋さは似てるようでやはり違うのである。

 

「雨もあがったねー」

「流石にな。どうする?」

 

 このまま歩いて向かうのもいいが、どうせ荷物もあるのだ。男のバイクで向かうのもありだ。そんな意図を込めて聞けば、んー、と腕を組み悩んだと思えば、ピンっと顔をあげる。帽子で見えないが、きっとウマ耳も跳ねただろう。

 

「じゃあバイクで行こう!考えてみたら乗った事なかったし」

 

なんというか、新しい物好きなのだろうか。新しいものを見ると試さずにはいられないというか。その気持ちはわかるだけに男は苦笑いでその提案に乗った。

 

「ほれ」

 

 バイクの後部に取り付けたボックスから予備のヘルメットを取り出し、投げ渡す。ウキウキした顔でヘルメットを被ると、そのままバイクの後部座席に座った。

 

「はやく行こう!」

「はいはい」

 

 キーを差し込み、スイッチを入れて一捻り。ブルルンとエンジンが響きだし、その存在をこれでもかと主張する。昔のバイクに比べ楽になったとは言え、やはりエンジンをいれるこの瞬間は何回やっても好きなものである。さぁ、出掛けよう。

 

「うひゃー」

 

 走り出したバイクに間抜けな声を上げるシービーは、ヘルメットからはみ出した長い髪をバタバタと風に揺らしながら笑っていた。

 

「気に入ったか」

「うん……うん、いいねこれ。自分で走るのとはまた違った楽しさがある」

 

 そうだろう。やはりウマ娘に限らず、人は風を切って我が道を征く事が好きなんだ。人生も、道路も。と、そこでふと気がついた事があった。このバイクとシービーの偶然な共通点。

 

「あぁ、そう言えばこのバイクにも名前があるんだけどな、名前の中にCBって入ってる」

「へぇー……君も走りたいんだね」

 

 その言葉に共感したようで、自分が跨るバイクを優しく撫でていた。そうして駄弁りながら走る事数十分。目的地であるショッピングモールに到着した。まあお洒落なところではなく、何処にでもある量販店なんだが。

 

「ほらほら、行こう!」

 

 バイクをぬるりと降りてするする走って店前まで行ってしまうシービー。急かされてヘルメットを脱ぎ、鍵を閉めて後を急いだ。

 

「へー、こんな感じなんだ」

 

 店内に入ったシービーはキョロキョロと商品が並ぶ空間を忙しなく見ている。

 

「想像と違ったか。悪いがお前が着てるような高級なやつじゃないぞ」

 

 素人目に見てもシービーが着ていた私服はブランドものだとわかる。向こうの世界でどうだったのかは知らないが、ブランドにはその付加価値だけでなく、生地、縫い方一つとってもその価値を見る者に分からせる力があるのだ。

 

「アタシだってそこまでしてもらうつもりはないよ、ただでさえ居候なんだし」

 

 そんなことを言うシービーの頭をくしゃくしゃと撫で付け男は言う。子供が遠慮するな、と。

 

「そういうとこに行けないのは俺の不甲斐なさ、いや甲斐性のなさか?まあそんなところが原因だ。お前は子供らしく我儘言えばいい。ダメなら怒るしそうでないなら可能な限りやるさ」

 

 子供に仕事があるとするなら、それは我儘を言う事だと男は考えていた。現実を見る時は大人になってからでも遅くはない。そして、そんな大人は子供の我儘に振り回されるのが一つの仕事だと思っていた。

 

「……うん。じゃあ服選んでくる!」

 

 そんなシービーは帽子を深めに被り直し、目元を隠すと店内を走り出して物色を始め出す。

 

「店内で走るなよー」

「わかってるー!」

 

 そうこうしてるうちに気がつけば夕方まで楽しんでしまった。いや、よく聞く話だったが女の子の買い物は果てがない。身をもって証明する事になるとは思わなかった。しかしシービーが楽しそうだったので良しとする。

 いや……調子に乗って自分を女性下着コーナーへ誘導しようとしたのだけは許さん。ニヤニヤと笑っていたので確信犯である。成人男性があそこに行くことは精神的死を意味する許されざる行為。怒りのチョップを頭に振り下ろしたのは余談である。

 

「楽しかったー」

「そりゃよかった」

 

 一日でどうにかなるものでもないが、シービーの気晴らしになったならいい。見た目にはなんともないように気丈に振る舞っているが精神的に参っているはずだ。自分がいない世界にただ一人という孤独は毒のように彼女を蝕む、それを少しでも軽減できたら、という思惑が男にはあったのだ。元に戻れる保証もないのだ。少しでも彼女がこの世界に根を張ることができますように、と祈った。

 しかしまあ……買い物袋が沢山あるが、これバイクで運べるかねぇ?

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