異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
今日で異世界三回目の朝。日数で言えば四日目になる。
今日はまだ日が昇る前の早朝に起きられた。
俺はベッドから降り、軽く体を動かす。
こちらに来てから、すでに色々あった気がする。
初日は盗賊イベントの代わりに魔物イベントが発生してジョブ英雄を取り損ね。
二日目は始めての迷宮でスケープゴートを相手に経験値稼ぎと初めての奴隷。
三日目は遅れてきた盗賊イベントと一階層ボス狩り周回。
普通に狩りだけする日はまだ来ないものか。
あんまり忙しくない方が俺は好きだぞ。
俺自身は、まずはジョブのレベルはそれぞれ探索者12、剣士11、戦士10、僧侶9、魔法使い7、村人5となった。
順調と言えるだろう。
迷宮で得たドロップ品は百数十個。
装備品は盗賊共が持っていた鉄の剣、銅の剣×5、革の鎧、皮の鎧×5。
そして初めての女奴隷はミレーナさん。
27歳の未亡人で、10歳の娘のミンがいる。
戦闘は出来ないがパーティーに入り経験値だけ共有した結果、探索者レベル5になった。
主な仕事は家事全般と、夜伽。
これらが今の俺の全てだ。
ベッドから起きてリビングへ行くと、ミンとミレーナさんがいた。
ミレーナさんとはすでに一度ベッドを共にした仲だ。
彼女は栗色の髪に青い瞳でそれなりに整っている西洋風の顔立ちで、スタイルは良くもなく悪くもなく。
こう言ってはなんだが、ちょうどいい美人、というところだろう。
ミンは髪も顔立ちもミレーナさんによく似ているが、ミンの方が目がクリクリとしていて、将来が期待出来るというところだ。もちろんスタイルはまだこれからだ。
二人ともこれから労働を始めるのだろう。
「おはよう、二人とも」
「おはようございます、カズト様」
「おはよございます」
「ミンはこれから水汲みか?」
「はい」
「ああ。じゃあちょっと待ってくれ」
二人に洗濯用のたらいと水汲み用の木桶を用意させる間に、キャラクター設定でMP回復速度をあげておく。
「カズトさま、これは?」
「まあ見ててよ、ミン。ウォーターウォール」
「わ!!」
「魔法ですか?!」
突然現れた水の壁に二人は目を丸くしてとても驚いた様子だ。
ふふん、とドヤりながら俺は言う。
「内密にな。で、こうやって水を作れば井戸までいかずともここから水瓶に入れればいい」
「わあ。ありがと、カズトさま」
日本でも水道が普及していない時代には、水汲みという家事は一日で最も大変な労働だったらしい。
魔法一つで家事の時間が減るのなら手伝ってあげるべきだろう。
「でも、こんなに良くしてもらって良いのでしょうか……」
「? ミレーナさん、それはどういう意味?」
「私達だけが水汲みしなくてもいいなんて、なんだか皆に悪くて……」
「……そういう事か」
あそこの家だけが水汲みしていない、なんて情報はきっとすぐに知れ渡る事になるだろう。
そうなれば羨み、嫉妬するのはよくわかる流れだ。
かと言って、流石に俺が一人で各家庭にまわって水を出すなんてまっぴらごめんだ。
「自分は迷宮に潜らずに水は欲しいなんて、村の皆には考えてほしくないけどね」
「それは、もちろんです」
「ま、村長に相談しておこう」
この村は今、閉鎖した文字通りの村社会だ。
村社会として世界的に有名な日本出身としての知識があれば大丈夫だろ。
フフ……俺の知識チートに慄くがいい。
今日はドロップ品を売りに街へ向かう日だ。
ちなみに街の名前はトレイアというらしい。
トレイアの街へ行くメンバーは俺とミレーナさんとミンの三人。
村人から何人かつけようかという話もあったが、宿泊費がかかることやその間の漁や畑仕事が出来なくなる事など鑑みて、俺たち三人だけで行くことになった。
後は村長から荷車を借りて準備終了というところだ。
村長の家をノックする。
「おはようございます、カズト様」
「おはよう、村長。昨日話した通り、荷車を借りたい」
「ええ、裏に用意してありますよ。こちらです」
「いや、その前に少し話がしたいのだが、入ってもいいか?」
「え? ええ、どうぞ」
にこやかに案内しようとする村長だったが、俺は先に話をするために、一緒に家に入った。
「まずはこれだな」
パーンのドロップ品のヤギ肉を数十個出した。
「これは?」
「一階層のボスのドロップ品だ。大量に手に入れたので村の皆にもと思ってな」
これぞ日本の心、おすそわけ作戦である。
利益を分配する事によって仲間とする。
理屈で言えば俺が魔法使いのジョブで俺の奴隷のミレーナさんに便宜を図ったとて文句を言われる筋合いもないし、迷宮で得たドロップ品を分ける理由もない。
が、人の心は理屈ではなく、納得を求めるのだ。
だからこうしておすそわけをする必要があるんですね。
「いえ、いただけません! ただでさえ迷宮に潜っていただけるだけでありがたいと言うのに、この上ドロップ品まで分けていただくなど……!!」
「気にするな。 野菜や魚などの食料は分けてもらっているだろう?」
「ですが……」
「それに頼みたい事もある」
「頼みたい事……ですか?」
「ああ。風呂が欲しいのだ」
異世界四日目。
濡らした手拭いで体を拭いたりはしているが、そろそろ風呂に入りたいと思っていたのだ。
だがミレーナさんの家は寝室二つにリビングダイニング一つといった間取りで、風呂場を作る様な空きスペースはない。
そこでどうするかといえば、空き家を利用したいと思っている。
空き家に風呂桶を設置し、銭湯の様にする。
湯は俺がいれるとして、掃除や石鹸の作成などの面倒なところは村人にやらせるのだ。
残り湯くらいは使ってもいいし、ファイアーボールでガンガン熱した石でも用意すれば追い焚きに使える。
まあ風呂を入れるのは大変らしいから、10日〜5日に1回程度しか出来ないが。
もちろん湯の調達方法などは追及しない条件をつける。
これで誰からも文句の出ない水汲み問題の解決だ。
ちょっと完璧なアイデア過ぎて怖いくらいだな。
といった話を村長にプレゼンすると、村長はいたく感動したようで体を震わせて頷き、風呂桶の作成や空き家の改装など、村人を動員して行う事を約束してくれた。
やったぜ。
「10日程いただければ形になるかと思います」
ああ、うん。
そりゃそうか……すぐには出来ないよね……。
あと10日は我慢しよう……。
「忘れるところだった。あとこれだ」
詠唱省略を外し、しっかりと呪文を詠唱してアイテムボックスから盗賊の武器と防具をいくつか出した。
「大した金にならんだろうし、村に預ける。必要な時に勝手に使っていい」
村長はもはや何も言わずに深々と頭を下げてきた。
トレイアへの道は代わり映えのない平原をただ進むだけだった。
ほとんど誰も使わないし整備しない道なので、ガタガタ揺れる荷車をひたすらに引く。
隣の街まで1日がかりって、遠いよなあ。
まあ一度行けば後はワープでの移動だ。今回はのんびりとしよう。
特に魔物と出会う様な事もなく、無事に街まで辿り着いた。
うん。街並みはヨーロッパ風だな。テレビなんかでたまに見る感じ。
もう夕方だし、今日は宿屋を探しておしまいだな。
「街は珍しいですか、カズト様」
「ん? ああそうだな。俺のいた所とは色々違って楽しい。ミレーナさん達は?」
「私は何度か来たことがあります」
「わたしは初めて!」
「お、初めて仲間だな。ハイタッチしよう」
「ハイタッチ?」
イェーイ、と俺たちが遊んでいると、ミレーナさんに呆れとも微笑みともつかない、微妙な生温い目で見られてしまった。
「さあ宿へ行きましょう」
宿は旅亭ギルドに属している宿にした。
宿泊費は村長に借りていたので換金前でも十分足りる。
部屋はダブルを借りる事にした。子供と大人二人なら十分だからな。
……流石に10歳の子供がいるのでハッスルはせず、大人しく川の字になって寝た。
明日はいろいろと回らないとな。