異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
翌日。
この宿は朝食が頼めるので、朝ごはんを部屋で食べながら今日の予定を確認する。
「今日は冒険者ギルドの換金と、奴隷商でミレーナさんの登録。騎士ギルドでインテリジェンスカードの提出。あと市で必要な雑貨の購入。これが済んだら観光でもしよう」
「はーい」
「わかりました」
まずは冒険者ギルドからだ。
いやぁ緊張する。問題ないだろうが、初めての3割増しをつけての換金だ。これが効くと効かないとでは大きな差となってしまう。
ギルドは閑散としていた。
見た限りは受付に一人いるだけで、後は誰もいない。
この近辺で迷宮があるのがダーリョ村、つまり俺が拠点にしている村だけだからだろう。
しかし、原作のソマーラ村もだが、村長の名前がそのまま村の名前になるのはどこも共通ということか?
分かりやすくていい……のか?
いやどうでもいいんだが。
換金は無事に済み、ちゃんと三割増しになっているようだ。合計二千ナールほどになった。
これがこの世界の俺の初稼ぎか。
あ、黒魔結晶を買っておこう。
奴隷商ではミレーナさんの名義変えだけと知り、商人は渋い顔をしていた。
まあ普段何十万ナールの商売をしている所で手数料の様な数百ナールの仕事を持ち込まれてはそんな顔になるだろう。
いつでもニコニコ笑顔でサービス、なんてのは日本だけということだ。
いや本当にごめんな。
俺だって稼げたら奴隷商には儲けさせる予定だから許して欲しい。
しかしそれはいいとして、実はミレーナさんを奴隷にすると自動的にミンも俺の奴隷になった。
家父長権がどうのと言っていたが、要は未成年のミンの権利は親であるミレーナさんにあり、ミレーナさんが奴隷となったのでミレーナさんが持つ全ての財産や権利は主人である俺に移ったらしい。
常識だったらしく、奴隷商もミレーナさんもミンも当たり前という顔をしていた。
原作でも両親が奴隷であるベスタがそんな感じだったので、俺も想像して然るべきだったよ……。
騎士ギルドでのインテリジェンスカードの提出は一銭にもならなかった。
こちらは想像していたので特に言うことはない。レベル一桁の盗賊の分しか無かったからな。
だから入り口で立っていた爺さんにカードを渡してそれで終了と思ったんだが……意外にも、どこで盗賊に襲われたとか、それなりに事情聴取を受けた。
治安維持の為には当然なのだが、原作ではそういった事をしていなかった様なので少しびっくりした。
ついでに、入り口の爺さんを鑑定すると竜人族の聖騎士Lv22だった。
聖騎士と言えば原作の公爵がついていたジョブだ。
なんでそんなのが入り口の門衛してるのかと思い聞いてみたら、腰をやって引退したらしい。
この爺さんが現役だったなら、迷宮討伐ももっと進んだのかね。
市は街の広場で立っていた。
これはまあ日本でもよく見たフリーマーケットだな。
武器を売る隣で野菜を売っていたり、服の隣で調味料を売っていたりと中々に混沌としていた。
ジャンル毎に売り場を決めてくれた方が買い手としては楽なんだが、まあこれはこれで色々まわる楽しみもあって悪くはないのかも知れない。
おっと、石鹸の材料のコイチの実とシェルパウダーは絶対に忘れられないな。
色々買うものを探して歩いていると、ふと装飾品の店が目に入った。
そういえばミレーナさんもミンも、服以外は何もつけてなかったな。
……奴隷を着飾らせるのは主人の楽しみとミチオ君も言っていた気がする。ちょっとくらい良いか。
「主人。このリボンはいくらだ」
「どれでも一つ百ナールだよ」
「なら二つくれ」
「あいよ。そちらの可愛いお嬢さんのためにサービスしよう。百四十ナールでいいよ」
お、三割引。
「じゃあ二人とも。どれでも良いらしいから、一つづつ選んで」
「いいの?」
目を輝かせるミンだが、ミレーナさんからは待ったがかかった。
「カズト様。私達は正式にカズト様の奴隷となりました。その様なお気遣いは無用です」
……堅い。堅いなあミレーナさん。
とはいえ与えられて当然の様な態度よりは好ましいね。
感謝の気持ちを持ってもらえるのは嬉しいもんだ。
「ミレーナさん、あの「さん、も不要です。ミレーナと呼び捨てにして下さいませ」」
おお……堂に入っているというかなんというか。ロクサーヌばりに忠義を示してくれる。
ならば、俺は俺なりの主人のあり方を示す番だな。
「ミレーナ。俺はみすぼらしい奴隷よりも華やかな奴隷の方が好きだぞ。
もちろん俺は無限に与えられる主人ではないが、リボンの一つも渡せない主人でもない。
わかるだろ?」
「……わかりました」
「ああ。
それと、必要な物があれば適宜教えてくれ。男で、異邦人の俺ではわからない事も多い。渡せるかは別としても、必ず相談だけは持ちかけるように」
「はい」
ミレーナさんが納得してくれたので、俺はついでにリボンが貰えないのかと不安そうなミンの頭を撫でてやった。
「というわけだ。自分の好みのリボンを選んで、好きにしていい」
「ありがと、カズト様!」
輝くその笑顔、リボンの代金より価値があるね。
二人は白と黒のリボンを選んで、早速髪に結んでくれた。
眼福である。
買い物を終え予定では観光のつもりだったが、観光地でもない街に見る所は特に無かった。
様々なギルドの場所を巡り、夕飯を食べて宿に戻るだけだった。
「カズト様」
「ミン?」
買ってきた荷物の片付けを終え一息ついていると、ミンが話しかけてきた。
珍しい。
「私を迷宮に連れてって下さい!」
突然の懇願に俺もミレーナさんもとても驚いた。
「どうした急に」
「急じゃないです。ずっと考えてました」
それからミンは迷宮のせいで村がどんどん貧しくなっていったこと。貧しくなり、村の大人がいなくなっていったこと。盗賊が現れ、父を失ったことを語った。
「弱いと、失います。強くなれば、守れます。カズト様は、それを教えてくれました」
だから、強くなりたい。
そう言ってミンは口を閉じた。
やがて、今度はミレーナさんとミンが二人で話し始めた。
「✕✕✕✕✕✕」
「✕✕✕✕✕✕」
「✕✕✕✕✕✕」
「✕✕✕✕✕✕」
何を言っているのかはわからない。だが俺は口を挟まず、母娘の話が終わるのを待った。
「カズト様」
「ん」
話し合いは終わったようで、ミレーナさんが話しかけてきた。
「ミンを迷宮に連れていっては、邪魔でしょうか?」
「……それが結論か」
「はい。もしご迷惑になるのなら今まで通りに過ごさせます。ですが」
俺は手を挙げて発言を制した。
「俺からの要望を伝えたい」
二人は真剣に俺の言葉に耳を傾けていた。
「俺が求める最大のものは、秘密を守れる事。
すでに知っての通り、俺は遠くから来た。そしてそれに起因する、他の者とは違う力が俺にはある。
その力が知られれば、利用しようと多くの人間が押し寄せるかも知れない。俺はそれを望まない。
だから、俺は秘密を守れる事を望む。
次に、パーティーメンバーは女性にするつもりだ。これは単に夜伽をさせたいからだな。とはいえ妊娠して離脱もよくはないので、普人族は避ける。
最後に、迷宮に潜る意思がある事。
俺は奴隷だとしても望まない者に迷宮探索を強いるつもりはない。
無理矢理に連れて行った所でしっかり働けるか怪しいという意味もある。
以上が、俺が望むパーティーメンバーの条件だ」
ここまで言うと、二人の顔に不安が浮かんでいた。
条件を満たせないのではと思ったのだろう。
「はっきり言うが、俺は15歳未満に夜伽をさせるつもりはない」
正直に言うと……。
幼女ってどんな感じ? という興味はある。
日本では犯罪だったが、この世界なら問題はないだろう。
だが。だからこそ。そこは一線を引くべきだと、俺の中で何かがささやく。
すでに人を殺し、人を奴隷としている俺だが、それでもどこかで線を引くのだと。
俺の一線は、ここだ。
俺は一つ咳をすると、
「ミンに夜伽をさせるつもりはないが、ミレーナが代わりを担っていると言える。
だから、後はお前次第だ。ちゃんと出来るか? ミン」
ミンはその瞳の輝きを真っ直ぐ俺に向けた。
「はい!」
「なら、次の迷宮探索からは一緒に行こう」
パーティーメンバーに、10歳の女の子が加わった。