異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
トレイアの街での用事を済ませ、帰り道ではミンと迷宮探索の知識を交換した。
どうやら原作で色々と学んだ俺の方が知っている事は多いらしい。
亡くなった父親は元探索者だったとはいえ、わざわざ迷宮内部の細かい話はしなかったという事だろう。
せっかくなので、内密の話としてジョブの話もした。
一般には知られていないが村人にもレベルがある事や、転職に関する条件など。流石にすべての職の話はせず、探索者や戦士、僧侶や魔法使いなどの身近な職ばかりにしたが。
「私、魔法使いはなれない?」
「そうだなぁ。貴族は五歳までに自爆玉を使わせて、わざと失敗させて魔法使いの条件を得るらしいが……」
「五歳……駄目かぁ」
「うーん。他のやり方もありそうな気はするんだがな。大人でも身代わりのミサンガをつけて自爆玉を使うとかすれば良さそうな気もするが……さすがにこの実験はできないしな……」
あと別な手段としては自爆玉のような魔法扱いのアイテムが他にもあればいい。
知られていないだけでメテオクラッシュやガンマ線バーストが使えるアイテムが存在する可能性はある。
10歳の子には後衛にまわってもらいたい気持ちもあるから、魔法使いの条件取得手段、しっかり考えてみるべきだろうか。
「カズトさま、私が何になれるか見てほしい」
黙考していた俺にミンが話しかけてきた。
「んー? 別にいいぞ。じゃあパーティー編成」
ミンをパーティーに加え、パーティージョブ設定を開く。
「とはいえ多分、今は村人と農夫くら……い……」
「カズトさま?」
「どうしたの?」
動きを止めた俺を不思議そうに二人が見ていたが、それどころではなく、俺は何もできなかった。
村人lv2、農夫lv1、英雄lv1。
これがミンの持っているジョブだった。
「なんで……」
つい、俺は口から漏らしてしまった。
「なんで……俺じゃなくてミンが英雄なんだ……」
納得していたはずの心が激しくざわめいていた。
それから、会話も少なく俺たちは村への道を辿った。
不機嫌に黙り込んだ俺に向かい、二人は怯えながらついてきた。
わかってる。
こんなのはただの八つ当たりだ。
なぜミンが英雄のジョブを持っているのか。
ひょっとしてミチオ君の推測とは違う取得条件があるのか。そう思ってミンとミレーナさんに確認してみたのだが。
ミンは魔物と戦ったことはなかった。
そして、盗賊とは戦っていた。
かつて村が盗賊に襲われたとき、ミンの父親は盗賊の頭目との戦いで亡くなった。
だがその時、命がけで頭目を羽交い絞めにし、なんとミンが落ちていた剣で動けない頭目を倒したそうだ。
その結果、父親も傷がもとで力尽きたが、盗賊を追い払うことに成功した。
そういうことらしかった。
つまり。
やはり、英雄とは初陣で盗賊を倒すことが条件なのだろう。
どうして俺ではないのか。
ミンが英雄を取得しても、あまり意味はない。
なぜならブラヒム語に精通していないから。複雑な詠唱が必要だった場合、彼女一人で詠唱を完成させられるか怪しい。
なぜなら詠唱省略ができないから。とっさにスキルを発動できるからこそ、オーバーホエルミングは攻防に使える無敵のスキルになる。ミンでは攻めには使えても、守りで使えない。
なぜなら必要経験値減少ができないから。英雄はほかのジョブと比べて極端に成長が遅い。俺なら上位職である勇者になれるだろうが、ミンでは長く時間が必要だろう。
他にも理由が浮かんでくる。複数ジョブにすればインテリジェンスカードがごまかせるだとか、スキルの同時使用による効果の相乗効果だとか。
俺の方が、はるかに英雄を活かせるのに。
わかっている。
この世界には偶然に英雄の取得条件を満たす可能性はあるし、その子が偶然に俺の前にいた。
たまたまその子が襲われていて、その子を助けたことにより俺は英雄の条件を満たせなくなった。
これはすべて偶然だ。ミンは何も悪くない。だから俺は何も言わない。
この子を助けるんじゃなかった。
そう思ってしまったとしても。
何も、言わない。
俺たちは静かに村に戻った。
荷車を村長に返し、疲れたからと最低限の挨拶に留めてすぐに家に帰った。
そして、俺は乱暴にミレーナを抱いた。
何も言わずに彼女の腕を強くつかみ、寝室へ連れ込んだ。
投げるように彼女をベッドに押し倒した。
抵抗しない彼女の服を無理矢理に剥ぎ取り、準備ができていない彼女の体に無理矢理に押し入った。
睦言も交わさず、口づけもなく、手で体をほぐす事もなく、ただ押し入り、ただ打ち付けた。
ミレーナは痛みに顔をしかめながら、三度終わるまで何も言わなかった。
「申し訳ありません」
俺が事を終え、疲労で動けなくなるとミレーナは言った。
「……何を謝る」
「私達がカズト様を不機嫌にさせてしまった事に対してです。そして私達は何が悪かったのかわかりません。本当に申し訳ありません」
「……。違う」
ミンは悪くない。
ミレーナだって悪くない。
「俺は……ただ」
静かにミレーナは聞いていた。
「……お前たちには関係ない」
「……そうですか」
静かにミレーナは息をついた。
そして、真っ直ぐに俺を見つめてきた。
「カズト様。どうぞ、いつでも私の体をお使いください」
「……え」
「それで気持ちを鎮めてくださるなら。
私は、何でもいたします」
彼女の瞳は、深く、静かな色をたたえていた。
そんな瞳に映った俺は、情けなく、恥ずかしく、惨めで。
目を合わせられず、逸らした。
俺はミンが羨ましい。
自分に欲しかった、自分に無いものを持っている10歳の女の子が羨ましい。
あの子が妬ましい。
助けなければ、盗賊を初陣にする事が出来たかも知れない。
それは人として良くない考えだと分かっている。
だがそれでも、俺の心は理屈で納得出来ない。
「カズト様」
目を逸らす俺を安心させるように、ミレーナはゆっくりと言葉を紡いだ。
「大丈夫です。カズト様は十分に頑張って下さっています。私もミンも、村の皆も分かっています。
お気持ちが乱れることもありましょう。その時は私にぶつけて下さい」
「……それは……それは、駄目だろ」
そう、駄目なことだ。
苛立ちを他人にぶつける。しかも、抵抗出来ない相手に。
そしてその駄目なことを、いま、俺はやった。
「お気になさらずに。覚悟はしております」
覚悟。
そうだな。俺以外、みんな覚悟してる。必死に生きている。
だからミレーナはこんな扱いをされても受け入れている。
俺は……覚悟、しているつもりで、やっぱり何も覚悟していない。
迷宮で死にかけた。人を奴隷にした。盗賊を殺した。
それでも俺は、信念を持っていない。覚悟がない。
きっと俺はまた間違える。失敗する。
こんな俺に何の価値があるのだろう。いっそ……。
いや。違う。そうじゃない。
俺は逃げようとする心を抑えつけた。
俺がなにものか?
俺は偽物の英雄だ。
信念を持たず、形だけ英雄のフリをするのが俺だ。
本物の英雄の様に上手くいく訳が無い。
失敗こそが俺なのだ。
それを否定しても何も残らない。
もちろんそれで良い訳はない。人はより良い自分を目指すべきだ。失敗しない自分を。
だが、理想の自分になれない人は多い。俺の様に。
そして、それでも人は生きていく。
俺はこのままの俺でいい。
俺のまま、進んでいくのだ。
それしか出来ない。
「ミレーナさん」
「はい」
「……ごめん」
俺は彼女の体にすがりついた。
「大丈夫です。私も、あなたも、大丈夫」
迷宮に入る。
それは俺が望まれている事だ。そして俺の出来る事でもある。
だが俺は自分のために迷宮に入る。それがやりたい事だから。
「ごめんなさい」
リビングの椅子に二人を座らせ、俺は地面に頭をこすりつけた。
土下座である。
みっともなさは今更だ。
「ミンに嫉妬して、当たり散らしました」
英雄というジョブについて全て話した。
取得条件。有用性。デメリット。
俺が取れないこと、ミンが持っていること。
そして嫉妬し、苛立ち、ミレーナさんに八つ当たりしたこと。
話の途中でミレーナさんはブラヒム語ではなく、この村の言葉でミンに何か話していた。
恐らく難しい言葉を解説してあげていたのだろう。
「英雄は強いジョブ。なら、私は強くなれますか?」
ミンが聞いてきた。
「なれる。初代皇帝が就いていたジョブというのは伊達じゃない。将来はこの国でも屈指の存在になれる」
「それなら、私は強くなりたいです。そのためにカズト様と一緒に迷宮に入りたいです」
「……もっと、望みはないのか? 奴隷から解放してほしいとか」
「今まで通りで構いません」
「……ミレーナは?」
「私も特には。強いて言うなら……」
「言うなら?」
「閨の中ではもう少し優しくいただけたら」
俺は一度、ギュッと目を瞑った。
「約束する。ミンを強くする。ミレーナには優しくする」
「はい」
「はい。……遅くなりましたが、夕飯にしましょう」
偽物の英雄が本物の英雄を強くする、か。
ひょっとして俺がこの世界に来たのはそのためだったのか?
……どうでも良いか。
神様が望んでいようと、俺が出来るのは出来る事だけだ。
今日の夕飯も魚だった。
ミンが英雄持ちなのは最初から決めていました。
展開を読んでいた人は……流石にいない?
でもなんとなくミンに違和感があった人はいるかも?
いたら存分にドヤって下さい。君、才能あるよ。