異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
「……しかし、魚ばかりだと少し飽きるな」
昼食を食べながら俺はポツリとこぼした。
「……申し訳ございません」
ミレーナさんが謝ってきたので、慌ててごまかした。
「あー、いや、この村の状況はわかってる。畑作が難しかったんだよな?」
「はい。魔物がうろついている状況でしたので……」
最初にミンと会った時にグミスライムに襲われていたのも、少しでも森のものを採集しようとした結果の事だ。
「昔はこの村でも小麦を育て、パンを焼いて食べられたのですが……」
「小麦か。迷宮でコボルトの出る階ならコボルトフラワーという小麦粉が取れると聞いたんだがなあ」
「そうなの?」
「そうだぞ、ミン。そのためには早く深い階層に潜れる様にならないとな」
「うん。カズト様、私がんばる」
ミンの目にキラキラと光が灯っていた。
しかし、俺達だけが頑張っても村の状況が劇的に良くなる程ではないんだよな。
俺とミレーナさんとミンの三人分だけなら何とかなるだろうが、それでは意味がない。
他の手段もいずれ考えていかなくちゃな……。
とりあえず短期的にはヤギの肉でしのぐか?
「一日一品、ヤギの肉を渡すだけだと大したことないか?」
「いいえ。だいぶ変わってくると思います」
「そうか。なら明日からは昼にでもまとめて村長に渡すか」
「え? 村長に?」
「え?」
村全体の事を言ったつもりが、俺達だけの話と思われてた。
言葉足らずでごめんな。
「村を代表してお礼を申し上げます。ありがとうございます」
「なに、鍛錬のついでだ」
正直、別にお礼を言われる様な事をしてるつもりはないんだが……。
感謝してるなら夜に行動で示してもらうぜ!
さて、ダーリョの村の迷宮、その二階層への再挑戦だ。
今回はアリに近づかれないよう魔法主体のボーナスポイント構成を行う。
午前中のパーン狩りでレベルも上がったし、見直しの時だ。
再設定、鑑定、フォースジョブ、詠唱省略、経験値獲得20倍、必要経験値1/10、結晶化促進8倍だ。
デュランダルをしまい、いよいよ経験値稼ぎが始まる。
ジョブは探索者Lv13 剣士Lv12 僧侶Lv9 魔法使いLv9 をセット。
なおミンも英雄が上がりLv3、ミレーナさんも探索者Lv7になっている。
「アリが二匹の時はウォーターストーム二回。アリ一、ヤギ一ならウォーターストーム二回、その後ウォーターボールで仕留める。ヤギだけならウォーターストーム三回か四回、またはウォーターボールを同じだけ。これが俺の役割だ。ミンの役割は?」
「敵が近くに来たら二匹とも引きつける。攻撃より防御優先」
「毒を受けたら?」
「動けるほうが無理矢理でも毒消し丸を口にねじ込む」
「よし」
二階層入り口の小部屋で最終確認を行う。
さあレッツ・エントリー!
二階層に入って、またすぐに会敵した。ニートアントが二匹だ。
「ウォーターストーム」
詠唱省略はつけているが、あえて口に出しながら魔法を使う。
アリたちの周りに水の嵐が吹き荒れるが、そのまま近づいて来ようとした。
「ウォーターストーム……ウォーターストーム……ウォーターストーム。
やっと発動したか」
再度水の嵐に見舞われ、アリたちは倒れた。
二回目の発動のタイミングがよくわからないな。
ここは練習して見極めが必要そうだ。
MPは恐らく連続で10回くらいが限界だろうと感じた。
枯渇まで使うなら12回いけそうだが、そこまで使うとその後に差し支えるからな。
という事は、連続での戦闘は三回までにして、その後はデュランダルでの回復が必要だな。
細かい切り替えが必要だが、どこぞのゲームなんぞ1回戦闘する毎に宿屋に戻ったしな。
灰にならなくても死んだらロストだ。
慎重にいこう。
ニートアントとの戦いは大体危なげなく進める事が出来た。
デュランダルを出している間の戦いも一匹なら一撃で問題ないし、ニートアントとエスケープゴートの組み合わせなら俺がニートアントを受け持つ事で危険はない。
デュランダルを出してニートアントが二匹の時はヒヤヒヤしたが、毒のスキルを使ってくる事は無かったし、通常攻撃もミンが被弾する事は無かった。
「そろそろ帰るか」
「はい」
百匹以上の魔物を狩った所で終わりとした。
三時間以上は経っただろうか。
「今日は初めての迷宮だったな。どうだった?」
ミンにそう聞くと、ちょっと困った顔をされた。
「ほとんど何も出来ませんでした」
言われてみればそうか。
MPがある内は魔法で完封したし、デュランダルを出している時もすぐに倒している。
しかも経験値効率が二百倍に達しているおかげでどんどんとレベルが上がり、魔法の使用は今では倍の二十回も連続で使えそうだ。
こんな状況では何もしていないと感じるのが当然だ。
「明日は3階層を目指すとするか」
「はい」
家に戻るとすでに日は暮れかけていた。
「おかえりなさいませ、カズト様」
「ああ、ただいま」
「ただいま、お母さん」
夕飯もないので、後は片付けや寝る準備などが終われば眠るだけだ。
俺はコホン、と咳を一つした。
「あー……ミレーナ」
「はい?」
「家事を終えたら、俺の部屋に来るように」
「かしこまりました」
……背徳感が凄いです。娘の前で夜のお誘いとか……。
クセになりそ……いやならないな、なんかちょっと恥ずかしい……。
とてもミンの方を向けません……。
でもちゃんと契約したし。これもミレーナさんの仕事だし。オレワルクナイ。
ベッドの上ではちゃんと優しくしました。
「カズト様」
「ん?」
コトを終えて体を拭いていると、ミレーナさんが呼びかけてきた。
「本当に、村の皆にもヤギの肉をいただけるのですか?」
「ん? そうだが、なぜそんな事を?」
「迷宮で取れた食材はどれも高いはずです。街で買えば百ナール以上します」
うーむ。そう言われても価値がいまいち分からないし。
気分的にはタダで手に入れたものを活用してるだけなんだよな。
何かそれっぽい事を適当に言っておくか。
「俺の故郷では、『情けは人のためならず』という言葉がある」
「それは……どういう意味でしょうか」
「他人に情け、つまり優しくするのは他人のためでなく、自分のためという言葉だ。
手に入れた肉を配ることで、村人は感謝をし、俺のために出来る事をするだろう。
そしてもっと言えば、将来において、今、村にいる子供たち。彼らが大人になったときでも、俺への感謝を忘れないかも知れん。そうなれば俺が迷宮で戦えなくなった後でも、何かと出来る事をしてくれるだろう」
ミレーナさんはじっと聞いていた。
「肉で今、村人は助かる。将来、俺も助かる。どちらにとってもいい結果となるだろう」
「そんな事をお考えだったのですね……」
考えてないです。
「さ、ミレーナも体を拭いて。明日も色々と頼む」
そう呼びかけて俺はベッドに戻って寝る事に……寝ようと……。
ミレーナさんが優しく微笑んでいた。
「カズト様」
「うん?」
「感謝をお伝えします」
「え? それはもう聞い、っんむ! あっ、んあ」
かんしゃのきもち、すごかったです。
あしたもがんばります。
一ナールは20円くらいらしいですね。
あと村人は50人くらいいます。