異世界迷宮の英雄に!   作:チワワ

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15-今は痴呆症とは言わないらしい

「じゃあ、騎士団所属というのは本当なのか」

「はい。ガドー領騎士団トレイア支部の騎士見習い、リビラです」

 

俺たちは村長の家に向かいながら少しだけ会話をする。

恐らくこの盗賊女……リビラの言う事は真実なのだろう。

あたりには他の盗賊の気配もないし、リビラの語りはとても滑らかだ。

 

「それで、なぜ騎士見習いが備品を盗んだんだ?」

「……借りただけのつもりだったのです」

「そういうのはいい。もっと根本的な理由を聞いている」

「……この領内でいくつの迷宮があるか、知っていますか?」

「たしか、3つか4つだったか?」

「5つです。どの迷宮も討伐に至らず、だんだん増えていきました。この村の迷宮に至っては、ついに騎士団の派遣すら出来ない始末です」

「……らしいな」

 

俺が相槌を打つと、リビラは大きく声を上げた。

 

「こんな事は許される事ではありません! 我々騎士団は、迷宮の討伐に力を尽くさなければならないのです!!」

「それは立派な心がけだな」

「だから……私は一人でもこの迷宮に挑むつもりでした」

「その為なら無断で借りても許されると思ったのか……」

 

若者には有りがちな、正義感の暴走というやつか。

自分の15歳の頃を思えば、納得する部分もある。

 

あ、恥ずかしい記憶が湧き上がってくる……!

消えろ、忌まわしい記憶よ……!!

 

「……ん? それならなんで俺のところに来たんだ? いや、そもそもなんで俺の事を知っている??」

「5日前に、伯父からこの村に探索者が来たと聞きました」

「5日前?」

 

5日前とはトレイアの街に行った日だな。そこで聞いたとすると……。

 

「伯父ってのは、トレイアの街の騎士団で門番してたじいさんか? 竜人族で聖騎士の?」

「そうです」

 

なるほど納得。たしかに門番のじいさんには探索者である事と、ダーリョの村から来たと話したわ。

ほー、こいつ、あのじいさんの親戚なのか。

 

「なので、私もこの村の迷宮の討伐のため、パーティーに入れてもらおうと……」

「それで盗賊堕ちしたら意味ないだろ」

 

ツッコむとリビラはしょんぼりとうなだれた。

 

 

そろそろ夕暮れ色になりそうな村を歩き、俺達は村長の家に到着した。

扉を叩くとすぐに村長が出てくる。

 

「これはカズト様」

「すまない。少し面倒ごとがあってな。相談したいのだが、良いか?」

「そうなのですか。実は私もカズト様に相談がありまして……。とりあえず中へどうぞ」

「お邪魔する」

 

そうしてリビラを連れて村長の家に入ったのだが、そこには先客がいた。

 

「伯父さん?!」

「リビラか。やはりこの村にいたか」

 

中にはトレイアの街で会った、騎士団の門番のじいさんがいた。

じいさんはこちらを向いて挨拶してきた。

 

「5日ぶりじゃな。名前は忘れてしもうたが、久しぶりじゃ」

「田中カズトだ。姓が田中、カズトが名だ」

「そうそう、そうじゃったの。ワシはザクリ。元ガドー領騎士団トレイア支部所属の聖騎士、そしてそこのリビラの伯父じゃ」

 

チラリ、と見るとリビラはその小さい体を更に小さくしていた。

 

伯父が姪を連れ戻しに来たとか、そんな感じで小さくなってんのかね。

飛び出したところで親戚に連れられるとか恥ずかしいもんな。

 

「よくこの娘がここにいると分かったもんだな、じいさん」

「常々、この村の迷宮に挑むべきと言っておったからの。良さそうな探索者が来たから心配いらないだろうと言ったんじゃが……」

「それが逆効果になって、パーティーに入れてもらおうと飛び出しちゃったか」

 

俺達は顔を見合わせてため息をついた。

 

「とりあえずじいさん。コイツのインテリジェンスカードの確認を頼む。盗賊かどうか確認してくれ。俺はその確認を村長にしてもらうために来たんだ」

「盗賊? なぜじゃ? リビラは普通に探索者じゃぞ」

「備品を持ち出したんだろ? 盗賊になってるんじゃないか?」

「なに?」

 

ザクリのじいさんはリビラを一瞥すると、左手を出すように言って、インテリジェンスカードを出させた。

 

「……おぬしの言う通りじゃの。なんということを……」

「こういう場合、どうなるんだ? そっちで引き取って処罰してくれるのか?」

「……通例ならば盗賊を生かして捕らえた場合は奴隷とし、その半金が報奨金としておぬしに渡るのう」

「へー。元騎士団所属で竜人族の女奴隷なら、高い金になりそうだ」

「……まあそうじゃの」

 

俺の軽口に、じいさんは苦虫を噛んだ顔をしていた。

まあそりゃそうだよなあ。

姪がただ飛び出しただけじゃなく備品を盗んじゃったらなあ……。

ちょっと可哀想に思えてきた。

 

「まあ俺はじいさんが下す判断に従うぜ。じいさんが温情をかけてほしいとか言うならそうするよ」

 

ザクリのじいさんは不思議そうな顔をした。

 

「なぜじゃ? おぬしの立場なら金をもらえばそれで良いじゃろう。なぜそんな事を言う?」

 

俺はひょいと肩をすくめ、

 

「若者の失敗なんてよくあることだろ。1回くらいなら大目に見るさ」

「……半分でも数万ナールにはなるぞ?」

 

おお。俺の数日分の稼ぎじゃん。大金だぁ……。

 

「んんっ。金は欲しいが、慌てる事もない。じいさん、あんたに任せるよ」

「ふむ……」

 

じいさんは何やら考え込み始めた。

親戚の情と騎士としての正義を秤にかけてるのか?

 

「まあ長くなりそうなら、明日にでも決まった事を聞かせてくれ。日が昇る頃にまた来るよ」

「そうか。すまんの」

 

 

リビラを預け、俺は村長の家から一人で戻った。

 

ミンとミレーナさんに村長の家での事を話していたが、ふとあることが気になった。

 

「そういえばミン、オーバーホエルミングのスキルは使えるか?」

「オーバー……?」

「オーバーホエルミングだ。使えるか?」

「ええっと……受け渡されし英雄の✕✕✕✕……」

 

ちゃんとブラヒム語になっていない。

一応最後まで唱えていたが、当然、発動しなかった。

 

「だめそうだな……」

「すいません……」

「いや仕方ないさ。だがそうだなあ……明日からは昼までブラヒム語の勉強の時間にしたらどうだ? 以前も言ったが、オーバーホエルミングは強力なスキルだ。使えるようになっておいた方が良い」

 

今は大した力にならなくても、例えば将来デュランダル級の武器が作れれば強力な助けになる。

HP吸収とMP吸収、詠唱中断があればミン一人でパーンを狩れるかも知れない。

そうなれば手分けして他の食材集めも出来る。

今からブラヒム語を練習する事は決して無駄にならないだろう。

 

「まあ畑仕事などもあるだろうから、毎日少しづつ……という形になるだろうが」

「わかりました」

 

 

翌日、俺は朝食を終えて約束通りに村長の家に行った。

 

「おはようございます」

「おはようございます、カズト様」

「おおカズト殿、おはよう」

「おはようございます」

 

俺の挨拶に村長とザクリのじいさん、リビラが応えた。

 

「カズト殿。我が姪の話の前に少し聞かせてもらいたいのじゃが、良いかの?」

「ん? なんだい、じいさん」

「村人にヤギの肉を与えているのはなぜじゃ?」

 

なんで知ってる? 村長が何か話したのか?

俺は村長をチラリと見た。

だが村長は首を振った。

 

「いやなに。村長は何も言うとらんよ。

ワシが気付いたきっかけは、朝食にヤギの肉が出てきたことじゃ。始めは聖騎士ということで奮発したのかと思うたが、どうにもそういう雰囲気ではなくての。毎日の様に出しているから普通に出している、そんな様子じゃった。

さて、迷宮で獲られる肉をどうやって毎日入手するのか? 答えは一つというわけじゃ」

 

俺が黙っていると、さらにじいさんは続けた。

 

「そう考えてみれば、この村の雰囲気にも気付いた。ワシもこういう状況の村は何度か見たが、どこももっと飢えた空気が漂っていたものじゃった。

にもかかわらず、今のこの村にはそんな気配はない。

おぬし、かなりの量を出しているのお」

 

なんだこのじいさん。有能キャラかよ。

若い時は糸目で関西弁でも喋ってたに違いないぞ。

俺は観念して話す事にした。

 

「別に大した理由なんてない。たまたま肉がそれなりに手に入って、それを渡せば喜ぶやつがいる。

ただの気まぐれで配っているだけだ」

「一日あたり千ナールではきかない気まぐれ、かの?」

「迷宮で俺が取ってくればタダだろ。計算おかしいぞ」

「……ふっ。ふふふ。ふはははは」

 

じいさんは笑い出した。

 

「なるほど。よく分かった。面白い話が聞けたわい」

「よくわからんが、楽しいんなら何よりだな。

で、そろそろ本題に入ろうぜ。

あんたの姪はどうするんだ?」

 

じいさんは、それは楽しそうな笑顔でこう言った。

 

「おぬしの奴隷にする」

 

 

認知症でも患ってんのか、ジジイ?

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