異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
「英雄? 英雄って初代皇帝が就いた伝説の? 冗談ですよね?」
俺は優しく微笑んだ。
「なあリビラ。なんで俺が秘密を守れと何度も念を押したと思う?」
「……じゃあ……本当なんですか……」
リビラは驚きの目でミンを見たが、ミンは落ち着いていた。
「カズト様のほうが強いし、すごいです」
「そうなんですか?」
今度は俺を見つめるリビラ。
「まあ俺も現時点で魔物相手ならそれなりに強いな。
だが心の強さという点ではミレーナさんは俺より優れていると思う」
あっちこっち見回して、ついにリビラは天を仰いだ。
「なんだか凄いって事だけわかりました」
お互いの紹介も終わり、もうすぐ太陽も沈む時間なので寝床に案内した。
俺とミレーナさんとミンが寝ている家はもういっぱいなので、あらかじめ村長に別の家を用意してもらっている。こちらを本宅として別宅というわけだ。
パーティーメンバーはあと三人は増やすので、広めの家を用意してもらった。
……七人ぐらいで暮らせる家もあるそうなのだが、ミレーナさんとミンには元々の家がある。
引っ越しさせるのは少しためらわれたので、断った。
「明日、日が出る前にあっちの家に来い。朝食を一緒に作ってもらう。
そして朝食を食べ終えたら迷宮に行くから、そのつもりでな」
「はい。……あの」
「なんだ?」
「その……夜伽は良いのでしょうか。初めてですが、頑張ります」
俺がじっと見つめると、恥ずかしいのか、もじもじと体を動かしていた。
「今日のところはいい。それも明日からだ」
「えっ……そうなんですか?」
「今日はとにかくゆっくり休んで明日に備えろ。
おやすみさん」
「あ、はい。おやすみなさい」
「おかえりなさいませ。……こちらでよろしかったのですか?」
出迎えてくれたミレーナさんは、暗にリビラと同衾せずに良かったのかと問うてきた。
俺は頷きながらミンの様子をうかがった。パーティーを解散させていないから、どこにいるのかすぐわかる。
まだ寝てはいないようだが寝室にいるのを確認し、ミレーナさんを俺の寝室に誘った。
「……よろしいのですか?」
二度目の確認に、改めて頷く。
「ミレーナさんが一番だから」
何となく激しくする気分ではなく、お互いの隅々まで穏やかに触れる様な、あるいは口づけていく夜を過ごした。
「明日はリビラも初めてだし、ミレーナさんもあちらの家に来てくれ。出来るだけ安心できるようにしておきたいからな」
「わかりました」
「明後日からは順番であちらのベッドを使う。寝る時はここに戻る」
「順番……ですか」
「たまには複数人で過ごすこともあるかもしれないが、基本的に俺は一晩に一人がいい。これからもパーティーメンバーは増えるだろうが、一番として差配は頼む」
「……かしこまりました」
翌朝。
俺が起きる頃には既に三人共に起きていた。
「おはよう」
「おはようございます、カズト様」
「おはようございます」
「おはようございます、主様」
どうやらリビラもちゃんと寝られたようだ。すっきりした様子に見える。
日課の水魔法に取りかかる。
寝ぼけ眼でウォーターウォールを使い、水瓶を満たしていく。
ついでに顔も洗う。冷てえ。
「主様、今のは……」
「んあ? あー水魔法だが……?
あ、リビラは初めて見るのか。俺は攻撃魔法も使える」
「なんと……主様は凄いですね……」
「カズト様はすごいです」
驚くリビラの横で、ミンが楽しそうに言った。
四人で朝食の準備を行う。
どうやら包丁の扱いが上手いのはリビラ、ミレーナさん、ミン、俺の順のようだ。
……日本でも料理をしなかった訳ではないが、インスタントで済ませる事もあった。
それに対し毎食しっかりと作っているミレーナさんやミンに負けるのは当然なのだろう。悔しいが。
「しかし、リビラが一番包丁の扱いが上手いのは意外だな」
「僕が一番器用だったので、毎日の様にやらされました。騎士団では何十人分の芋の下拵えをする事もありました」
「……そいつは大変だ」
「主様こそ、料理は僕達に任せていただいて良いのではないですか? なぜわざわざ?」
「まあ……趣味だ」
嘘です。
本当はミチオ君の真似をしてるだけだよ。
日本の美味しい食べ物、作ってあげたいんだけどなあ。
朝食を終え、午前中は俺とリビラの二人で迷宮に行くことにした。
リビラはワープで家から直接迷宮に飛んだ事で驚いていたが、「内密にな」の一言で黙らせた。
リビラのジョブを改めて確認してみる。
村人Lv4、探索者Lv7、盗賊Lv1。
「実際のところ、どうなんだ? 魔物と戦った経験はどのくらいあるんだ?」
「騎士団では訓練ばかりでしたが、知り合いの方と一緒に街の外でよく戦っていました」
ということは、見た目で後方に回されていただけ……か?
ロクサーヌの様に、能力があっても使ってもらえない、なんて事は日本でもよく聞く話だ。
リビラもやる気はあるし、このレベルという事はかなりの数の戦闘経験があるのだろう。
「リビラはどうしたい? 将来は伯父のような聖騎士を目指すのか?」
俺としてはせっかくの竜人族だし竜騎士になってほしいが、リビラが憧れたのは聖騎士の伯父だ。となれば、ジョブも聖騎士にしたいかもしれない。
確認すると、だがリビラは表情を硬くしながら首を振った。
「僕は、竜騎士になりたいです」
「わかった。じゃあ竜騎士になってくれ」
「え?」
あっさり首肯する俺に、しかしリビラは驚きの声を上げた。
「どうした?」
「いえ。あの。……なれないとは、おっしゃらないのですね」
「……ああ。誰かに竜騎士は無理と言われたのか」
リビラは暗い顔でうなずいた。
なるほど。こうなったら最短で竜騎士を目指してもらおう。
俺はパーティージョブ設定を開き、リビラのジョブを村人にした。
「よし。細かい話は抜きだ。まずは戦うところを見せてくれ。で、剣はこれを使ってくれ」
デュランダルを呼び出して渡したが、リビラが驚いた顔をした。
「今のは……アイテムボックスですか?」
「ん? いや武器を出す……スキル? のようなものだ。色々出せるぞ」
言いながらボーナス武器や防具を出したりしまったりすると、リビラの顔がもはや引き攣っていた。
うーむ、ミンやミレーナさんはこんなに激しい反応をしなかったよな……?
騎士団にいた分、この力の非常識さが分かるからか?
「俺は色々な事が出来るが、これらは内密にするように。他人に知られてもいい事がないからな」
「そうなのですか? 力を示した方がトラブルは起きないと思うのですが」
「それは普通の探索者として示す分で行う。どうせトラブルはどこかで起きる。
ならばいざという時の切り札は隠し持つ方がやりやすい」
「なるほど……」
嘘です。
本当は「これが隠されし本当の力……」とか「内密にな」がやりたいだけです。
「さ、それじゃ一回層の敵はエスケープゴートだ。気楽にやってくれ」
「はい!」
エスケープゴートは十分少々で見つかった。
飛びかかってくるエスケープゴートに対し、まずは一撃とリビラは攻撃を加えた。
そしてエスケープゴートは逃げ出した。
「え?」
またもリビラが驚きで固まった。
動きを止めている隙にエスケープゴートは視界から外れる。
「一撃で逃げ出すなんて……」
「その剣はデュランダルといって、俺の持つ最高の剣だ」
「……主様は凄いですね」
んんー。褒めてもらうの気持ちいいれす。
竜騎士の習得条件のため、リビラにはもう一度エスケープゴートと戦わせ、今度はリビラが一対一で倒せた。
これでよし。
「後は俺がやる。午前中はパーンを相手にするだけだから、明日からは午前はミレーナさんと一緒に他の事をしてくれ」
「え? いえ、危険です! 僕もお供します!」
「いや危険は無いんだが……。まあ見れば分かるか。
とにかくついてこい。手出しはするなよ」
ボス部屋まで直行し、道中のエスケープゴートは一撃で、パーンは二撃で倒す。
「流石のデュランダルでも、ラッシュとスラッシュ抜きだと二撃では倒せん。真似しようと思わない様に」
振り返ると、リビラは固まっていた。
「……はい……真似しません」
そんなに驚かなくていいと思うんだがなぁ。
吃驚仰天を、きっきょうぎょうてん、ではなく、びっくりぎょうてん、だと思っていました。
いや間違いではないみたいだけど。
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