異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
こちらは『異世界迷宮でハーレムを』の二次創作作品、『異世界迷宮の英雄に!』です。
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1-英雄の資格
英雄になりたい。
そんな子供のような夢を見なくなったのはいつの頃だっただろう。
だらだらと人生を歩み、そこそこに二十数年生きてきた。
大きな成功もなく、かといって取り返しのつかない失敗もない。そんな人生だった。
不満はない。そうやって生きてきたのだから。
……でも、時々は思う。思ってしまう。
もっと冒険しても良かったのではないか。
ネットを回っていたある時、『自殺を決意をするその前に』というバナーが画面の前に表れた。
思い出すことがあった。
《異世界迷宮でハーレムを》
そのタイトルは小説家になろうで人気を博し、コミカライズでさらに飛躍した作品だ。
冒険譚としてはかなり慎重ではあったものの、主人公は死と隣り合わせの迷宮に挑んでいた。
この世界なら。今ならこの焦りを鎮める事が可能ではないだろうか。
そう。
英雄になれるかも。
そんな思いを抱きつつクリックしてみれば、そこには漫画で読んだ通り、世界の設定画面になった。
剣と魔法の世界、戦争は少なく、人間と亜人のいる世界。文化と国は色々、ダンジョンとフィールド型。使用言語はブラヒム語。
ウキウキと騒ぐ心を抑えながら、なるべく原作通りになるように設定を決めていく。
せっかく原作知識があるんだ。活かせるようにしていこう。
本当に異世界に行けるのだろうか。
ボーナスポイントの決定画面に移った。
……ここは時間かかるんだよな。
99が出るまで頑張ろう。
1、5、11、22、37、7、15、9、7、6……。
いや本当に低いポイントしか出ないな。
途中、休憩を挟みつつ、数時間で何とか99を出すと、ポイントの割り振り画面になった。
最初に必要なのはデュランダルと決意の指輪。
原作通りなら最初から対人戦となり、盗賊と戦い、そこで英雄のジョブを獲得する。
英雄は数あるジョブの中でも作中最強の、勇者へと続く大事なポイントだ。
ここは絶対に外せないイベントとなるだろう。
経験値は後で良いとして、念のために移動速度などを狙って足防具もあった方が良いだろう。
デュランダルで63、決意の指輪で3、足防具はレベル3くらいで7ポイント使うとするか。
後はサードジョブで3、鑑定で1、キャラクター再設定で1。
……思ったより余るな。
後は胴や頭、腕防具もつけるか。
もし思ったより弱い装備でも、再設定で直せるし。
よし。
これで準備は整った。
……けどせっかくだから、もうちょっと色々持ち込んでみるか。
家の中を漁り、リュックに異世界でも使えそうなもの、価値の高そうな物を詰めていく。
換金用に手鏡、メモを取れるように筆記具、下着やシャツ、防災用の手回しの携帯充電器、携帯にはサバイバルを始め料理や服飾などの実用的な情報を入れておく。
よし。今度こそ準備完了だ。
目標はどこかの迷宮を攻略し、領主になる事。
今日でだらだら生きるのは終わりだ。
俺は、なるのだ。
英雄に。
警告!
あなたはこの世界を捨て異世界で生きる事を選択しました。
二度とこの世界には帰ってくることはできません。
はい
いいえ
画面の警告を読み、はいに合わせマウスをクリック。
二度目の警告をはいに合わせ、大きく深呼吸。
カチリ。
マウスが鳴る音と共に、俺は意識を失った。
目覚めると、そこは物置きのようだった。
釣り竿や銛等の漁具、タライなどの生活道具が置いてある。
……あれ? 馬小屋じゃないのか?
辺りには生き物の気配はない。
原作だと始まりは馬小屋だったのだが……。
まあいいか。とりあえず周りを鑑定してみると、デュランダルを始め鎧などの防具が見つかった。
よし。盗賊が来ないうちに装備をしなくちゃな。
多少手間取りながらも、問題なく装備を終えられた。
後は……盗賊のジョブが欲しい。村人だけより補正が利くだろうから。
置いてある銛を装備して、自分を鑑定する。
田中 カズト
〈男・23歳〉
村人:Lv1
盗賊:Lv1
よし、成功。
銛を元あった場所へ置くと、俺は物置き小屋から外へ出た。
夕方の沈みゆく太陽に照らされ辺りが一望できるが、何より感じたのは潮の香りだった。
そこは漁村だった。
へぇ。スタート地点は違うのか。
原作は農村だったがなあ。
しかも漫画で読んだ様子よりこう、寂れているというか田舎というか……。
空き家が多いのだろうか? ボロい家が結構並んでいた。
まあどうせイベントを消化したらすぐ移動するんだ、なんてのんびりとしていると、やがて遠くから人の叫び声が聞こえてきた。
お、キタキタ。
盗賊イベントの始まりだな。
声のした方を見てみれば、十歳くらいの子供が遠くから村へ向かって走ってくるのと、丸いグミの様な形をした何かが追ってくるのが見えた。
……ん?
鑑定してみたが、グミスライムと表示される。
見晴らしのいい道には他に何もいない。
……という事は?
あの子は魔物に追われていて?
盗賊はいなくて?
混乱した俺は目に入る景色を理解しようとするが、そうしている内に、追われている子は転んでしまった。
村の方を見れば、慌てて子供を助けに行こうとする大人が何人かいるのを確認する。
だが、足を痛めたのか、立ち上がれない子供にたどり着くのは魔物の方が早そうだった。
俺は慌てて子供に向かい一歩を踏み出して……。
二歩目には、助けるべきではない、と考えた。
もしここで魔物と戦えば、俺は英雄のジョブを得られなくなる。
俺が行かなければ、ひょっとしたらあの子は助からないかもしれない。
だが俺には関係ない。
どうせこの世界ではありふれた悲劇だ。
ここで英雄のジョブを失ってまで助けに行く価値なんてない。
俺は冷静にそうやって思考して。
だがなぜか足は止まらず、全力で駆けていた。
装備品のスキルのおかげだろう、俺は誰よりも早く魔物の前に立った。
「うあああああ!」
勢いに任せ、剣を振りかぶり、一撃。
グミスライムは弾かれて距離が開くが、すぐに詰めてもう一撃。
「死ねぇぇぇぇ!!」
トドメにもう一撃……そう思ったが、今度はグミスライムの体当たりの方が早かった。
腹にモロに俺の動きが一瞬止まる。
だが大したダメージは受けていない。
ボーナス防具のスキルには体力上昇や物理ダメージ軽減がついていた。そのおかげだろう。
すぐに動く。
やらなきゃやられる。やらないと。
やらないと、俺も、後ろのこの子も死ぬ。
「うらぁっっっ!」
無理矢理に体を動かし、何とかグミスライムにデュランダルを当てた。
やっと消滅していくグミスライムを見ながら、俺は達成感と後悔が同時に湧き上がってくるのを感じた。
やった。
やってしまった。
俺はもう、英雄にはなれない。
俺の異世界で初めての戦闘は、こうして終わったのだった。