異世界迷宮の英雄に!   作:チワワ

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28-英雄の力

迷宮の五階層は今までと変わらない様子だ。入口は謎の黒い壁だし、通路は遺跡のように石造りの壁だ。迷宮そのものがうっすらと光っていて、閉じられた空間なのに空気にかび臭さも感じない。

 

違うのは俺たちの心だけだ。

身近な人が病にかかっているという事実は俺たちを焦らせた。

 

「ミン、もう少しゆっくり歩いて」

「でも、リビラさん……」

「普段のペースを保った方が疲れにくくなります。疲れなければ休憩の回数を減らし、結果、早く先に進めます。さあ深呼吸をして、落ち着いて」

「……うん。わかった」

 

ミンは大きく息を吸った。

 

「……ありがとう。リビラさんのおかげで、落ち着いた」

「いえ。気持ちはわかりますので」

 

平常心。こういう時こそいつも通りに。

大丈夫。俺は取り繕うのに慣れている。

俺たちは改めて迷宮を進んだ。

 

 

五階層で最初に現れたのは、グリーンキャタピラーが一匹だった。

 

「チッ!」

 

俺は盛大に舌打ちしながら近づき、デュランダルを力任せに振るう。

一刀のもとに切り捨てられた後はドロップ品の糸が残ったが、俺はそれを蹴り飛ばした。

いらねえよこんな物。

 

「この階層にはいないな。時間の無駄だから、ドロップ品は集めなくていい。六階層までさっさと進むとしよう」

「「わかりました」」

 

俺達は平静を保つように努めながら、五階層の探索を続けた。

 

魔物は五分も歩けばすぐに出現する。グリーンキャタピラー、ナイーブオリーブ、スパイスパイダー。どれも一振りで消えていく。

だがすぐに倒せるとはいえ、短いスパンで現れてくる魔物に俺のイライラは溜まっていった。

 

進む。魔物が出る。進む。壁がある。扉かどうか確かめ、進む。すぐに魔物が出る。進む。壁がある。行き止まりを引き返す。魔物が出る。進む。

 

「……クソが」

 

今までの階層と同じ造りで、今までと同じように進んでいる。頭ではわかっていても、心は追いついてこなかった。

いくらデュランダルを魔物にぶつけても変わらない。

早く。

もっと早く進まなければ。

 

 

単調な迷宮と頻繁に現れる魔物、いつもと変わらぬ探索に精神を消耗し、そうして二時間ほど探索を進める俺たちの前に、それは現れた。

 

魔物部屋だ。

扉が開いたその先に、何十もの魔物が部屋にいた。

 

「主様……!」

「大丈夫だ。リビラ、俺の隣で攻撃を防いでくれ。ミンは後ろの警戒を。敵の殲滅は俺がやる」

 

焦るリビラと、ミンに指示を飛ばす。

どうせここを進まなければ先に行けないんだ。いちいち逃げてはいられない。

これだけの数がいるとストーム系の魔法でまとめて倒すことはできないが、デュランダルなら一匹ずつ確実に倒していける。

 

一階層でそうであったように、扉を抜けてくる敵はせいぜい三匹。俺が正面と右側の敵を倒し、リビラは左側の敵をブロックする。

盾で上手に防ぎ、時に敵を押し返しさえするリビラと違い、俺は相応に被弾する。

だが大丈夫。予想通り、竜騎士の体力中上昇、小上昇、微上昇が効いている。デュランダルの体力吸収で完全に回復出来る。

 

一匹、また一匹と敵の数はどんどん減り続け、すぐに残り十匹程度になった。

あと少し。

とっとと全滅させて、すぐにこの階層を抜けるんだ。

俺は、絶対にミレーナさんを助……。

 

「主様!」

 

リビラの声にハッとなった時には遅かった。

正面の敵の後ろから、グリーンキャタピラーが糸を吐き出していた。

すぐ目の前の敵しか見えていなかった。遠くから糸を吐き出す事は警戒しなければいけなかったのに。

マズい。ここで糸に絡められたらっ……。

 

「危ない!」

 

糸が俺にかかる瞬間、リビラが横から俺を庇った。

まともに絡みついた糸はリビラの盾の動きも封じ、リビラに魔物の攻撃が当たる。

 

「ミン! リビラと場所を交代しろ!!」

 

叫びながらリビラを攻撃されないように前に出る。

剣を振るって数を減らすと同時に、リビラに糸を吐いたグリーンキャタピラーに向かってファイアーボールを飛ばす。

当たった。あのグリーンキャタピラーを倒せばリビラを縛る糸は消える。そうなればまた安定して戦える。

横からスパイスパイダーの攻撃が当たるが、問題ない。すぐにデュランダルで斬り伏せて回復……しない?! 攻撃を受けた痛みは消えず、むしろどんどん熱くなっていくように感じる。

今度は正面からナイーブオリーブの攻撃をくらう。デュランダルで斬って……。そしてファイアーボールでグリーンキャタピラーを攻撃。あと少し当てればあいつは倒せる。

 

だが体がまともに動くのはそこまでだった。熱はさらなる痛みとなって体中に広がっていく。

手から力が抜けていき、強く握っていたはずのデュランダルが床に落ちた。

 

「カズト様?!」

 

ミンの悲鳴が響く。……これは、毒か。

毒消し丸を取り出そうとするが、手が震えてうまくいかない。

好機とみたか、魔物が俺に攻撃を加えてくる。力の抜けた体ではその衝撃を受け止めきれず、俺は壁に吹き飛ばされた。

 

「ミン! 主様に毒消し丸を!」

「ダメ! 行けない!」

 

ミンも目の前の一匹を食い止めるので精一杯だ。

クソ。ならファイアーボールだ。

攻撃魔法は発動し、糸を吐いたグリーンキャタピラーに命中。だがまだ魔物は残っている。

 

「主様!」

 

リビラがこちらに来ようとしているが、糸に縛られた身では近づけない。

俺の前には魔物が近づいてくる。

俺は霞みゆく視界に何とかグリーンキャタピラーを収め、最期のファイアーボールを当てて、倒した。

 

 

死ぬのか。

 

 

俺は、こんな死に方をするのか。

何も成せず、誰も助けられず。

 

死にたくない。いやだ。誰か、助け……。

 

 

「受け渡されし英傑の御霊と共に打ち倒す……」

 

声が、聞こえた。薄れゆく意識を繋ぎ止める、英雄の声が。

 

「……圧倒 オーバーホエルミング!」

 

詠唱が終わると同時に、俺の前の魔物が消えてゆく。

そこにいたのは、デュランダルを構えたミンだ。

一瞬で移動してデュランダルを拾い、俺の前にいた魔物を倒し、今は俺の目の前に立っていた。

 

「リビラさん!」

「お任せ下さい!」

 

糸が消えたリビラは俺に駆け寄ると毒消し丸を取り出し、口移しで俺の口内に流し込む。

 

「受け渡されし英傑の御霊と共に打ち倒す 圧倒 オーバーホエルミング!」

 

そして再度詠唱されるオーバーホエルミングにより、また魔物が二匹減る。

いつの間にか、魔物は残り僅かだ。

 

……ははっ。

すげぇ。かっこいいなあ。あれが英雄かぁ。

俺もなりたかったな。

 

 

三度、オーバーホエルミングが唱えられ、魔物は全滅した。




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クライマックスを終えたので、あと二話で区切りになります
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