異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
迷宮の五階層は今までと変わらない様子だ。入口は謎の黒い壁だし、通路は遺跡のように石造りの壁だ。迷宮そのものがうっすらと光っていて、閉じられた空間なのに空気にかび臭さも感じない。
違うのは俺たちの心だけだ。
身近な人が病にかかっているという事実は俺たちを焦らせた。
「ミン、もう少しゆっくり歩いて」
「でも、リビラさん……」
「普段のペースを保った方が疲れにくくなります。疲れなければ休憩の回数を減らし、結果、早く先に進めます。さあ深呼吸をして、落ち着いて」
「……うん。わかった」
ミンは大きく息を吸った。
「……ありがとう。リビラさんのおかげで、落ち着いた」
「いえ。気持ちはわかりますので」
平常心。こういう時こそいつも通りに。
大丈夫。俺は取り繕うのに慣れている。
俺たちは改めて迷宮を進んだ。
五階層で最初に現れたのは、グリーンキャタピラーが一匹だった。
「チッ!」
俺は盛大に舌打ちしながら近づき、デュランダルを力任せに振るう。
一刀のもとに切り捨てられた後はドロップ品の糸が残ったが、俺はそれを蹴り飛ばした。
いらねえよこんな物。
「この階層にはいないな。時間の無駄だから、ドロップ品は集めなくていい。六階層までさっさと進むとしよう」
「「わかりました」」
俺達は平静を保つように努めながら、五階層の探索を続けた。
魔物は五分も歩けばすぐに出現する。グリーンキャタピラー、ナイーブオリーブ、スパイスパイダー。どれも一振りで消えていく。
だがすぐに倒せるとはいえ、短いスパンで現れてくる魔物に俺のイライラは溜まっていった。
進む。魔物が出る。進む。壁がある。扉かどうか確かめ、進む。すぐに魔物が出る。進む。壁がある。行き止まりを引き返す。魔物が出る。進む。
「……クソが」
今までの階層と同じ造りで、今までと同じように進んでいる。頭ではわかっていても、心は追いついてこなかった。
いくらデュランダルを魔物にぶつけても変わらない。
早く。
もっと早く進まなければ。
単調な迷宮と頻繁に現れる魔物、いつもと変わらぬ探索に精神を消耗し、そうして二時間ほど探索を進める俺たちの前に、それは現れた。
魔物部屋だ。
扉が開いたその先に、何十もの魔物が部屋にいた。
「主様……!」
「大丈夫だ。リビラ、俺の隣で攻撃を防いでくれ。ミンは後ろの警戒を。敵の殲滅は俺がやる」
焦るリビラと、ミンに指示を飛ばす。
どうせここを進まなければ先に行けないんだ。いちいち逃げてはいられない。
これだけの数がいるとストーム系の魔法でまとめて倒すことはできないが、デュランダルなら一匹ずつ確実に倒していける。
一階層でそうであったように、扉を抜けてくる敵はせいぜい三匹。俺が正面と右側の敵を倒し、リビラは左側の敵をブロックする。
盾で上手に防ぎ、時に敵を押し返しさえするリビラと違い、俺は相応に被弾する。
だが大丈夫。予想通り、竜騎士の体力中上昇、小上昇、微上昇が効いている。デュランダルの体力吸収で完全に回復出来る。
一匹、また一匹と敵の数はどんどん減り続け、すぐに残り十匹程度になった。
あと少し。
とっとと全滅させて、すぐにこの階層を抜けるんだ。
俺は、絶対にミレーナさんを助……。
「主様!」
リビラの声にハッとなった時には遅かった。
正面の敵の後ろから、グリーンキャタピラーが糸を吐き出していた。
すぐ目の前の敵しか見えていなかった。遠くから糸を吐き出す事は警戒しなければいけなかったのに。
マズい。ここで糸に絡められたらっ……。
「危ない!」
糸が俺にかかる瞬間、リビラが横から俺を庇った。
まともに絡みついた糸はリビラの盾の動きも封じ、リビラに魔物の攻撃が当たる。
「ミン! リビラと場所を交代しろ!!」
叫びながらリビラを攻撃されないように前に出る。
剣を振るって数を減らすと同時に、リビラに糸を吐いたグリーンキャタピラーに向かってファイアーボールを飛ばす。
当たった。あのグリーンキャタピラーを倒せばリビラを縛る糸は消える。そうなればまた安定して戦える。
横からスパイスパイダーの攻撃が当たるが、問題ない。すぐにデュランダルで斬り伏せて回復……しない?! 攻撃を受けた痛みは消えず、むしろどんどん熱くなっていくように感じる。
今度は正面からナイーブオリーブの攻撃をくらう。デュランダルで斬って……。そしてファイアーボールでグリーンキャタピラーを攻撃。あと少し当てればあいつは倒せる。
だが体がまともに動くのはそこまでだった。熱はさらなる痛みとなって体中に広がっていく。
手から力が抜けていき、強く握っていたはずのデュランダルが床に落ちた。
「カズト様?!」
ミンの悲鳴が響く。……これは、毒か。
毒消し丸を取り出そうとするが、手が震えてうまくいかない。
好機とみたか、魔物が俺に攻撃を加えてくる。力の抜けた体ではその衝撃を受け止めきれず、俺は壁に吹き飛ばされた。
「ミン! 主様に毒消し丸を!」
「ダメ! 行けない!」
ミンも目の前の一匹を食い止めるので精一杯だ。
クソ。ならファイアーボールだ。
攻撃魔法は発動し、糸を吐いたグリーンキャタピラーに命中。だがまだ魔物は残っている。
「主様!」
リビラがこちらに来ようとしているが、糸に縛られた身では近づけない。
俺の前には魔物が近づいてくる。
俺は霞みゆく視界に何とかグリーンキャタピラーを収め、最期のファイアーボールを当てて、倒した。
死ぬのか。
俺は、こんな死に方をするのか。
何も成せず、誰も助けられず。
死にたくない。いやだ。誰か、助け……。
「受け渡されし英傑の御霊と共に打ち倒す……」
声が、聞こえた。薄れゆく意識を繋ぎ止める、英雄の声が。
「……圧倒 オーバーホエルミング!」
詠唱が終わると同時に、俺の前の魔物が消えてゆく。
そこにいたのは、デュランダルを構えたミンだ。
一瞬で移動してデュランダルを拾い、俺の前にいた魔物を倒し、今は俺の目の前に立っていた。
「リビラさん!」
「お任せ下さい!」
糸が消えたリビラは俺に駆け寄ると毒消し丸を取り出し、口移しで俺の口内に流し込む。
「受け渡されし英傑の御霊と共に打ち倒す 圧倒 オーバーホエルミング!」
そして再度詠唱されるオーバーホエルミングにより、また魔物が二匹減る。
いつの間にか、魔物は残り僅かだ。
……ははっ。
すげぇ。かっこいいなあ。あれが英雄かぁ。
俺もなりたかったな。
三度、オーバーホエルミングが唱えられ、魔物は全滅した。
お気に入り登録、感想ありがとうございます。
クライマックスを終えたので、あと二話で区切りになります