異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
戦いは終わった。
地面に転がっていた俺はリビラに支えられ、その様子を見ていた。
ミンが走って近づいてくる。
「カズト様!」
「ああ、見ていたぞ。……すごかったな」
本当に凄かった。
まるで自分の無力さを突きつけられるようだった。
俺は首を振って気持ちを改め、体を起こそうとして……まだ力が入らず、回復スキルを使う。
「手当て」
うん、失われた生命力が戻ってくるのを感じる。
俺には俺の、できることがある。
それにミンはまだ子供だ。いつか、あいつはワシが育てた、とか存分にドヤってやればいい。
「……申し訳ありませんでした」
ゆっくり体の調子を確かめていると、リビラが謝ってきた。
突然の事に俺は戸惑う。
「なにがだ?」
「主様を守れなかったことが、です。僕がグリーンキャタピラーの糸をもっとしっかり払えていれば……」
「私も……もっと強ければ……」
俺は呆気にとられた。
リビラは俯きがちになり、ミンもデュランダルを持った手を強く握りしめる。二人は心の底から自分達が悪いと思っているようだった。
……だが今回は俺のミスだ。
自分のせいと落ち込む二人を見て、俺は情けなくなった。
命を助けてもらった相手に、危機に陥った責任まで取らせるのか?
「……休憩するか」
俺は長く息を吐き、そう提案した。
「冷静に考えれば……間違ったのは、俺だ」
「そんな!」
「カズト様は悪くありません!」
「かばってくれるのは嬉しいけどな。安全策をとるなら、一度引いてもよかった。……俺が焦りすぎた」
なおも反論しようと口を開いた二人を俺は手を挙げて制した。
「リビラが言ったように、あれだけの数の魔物がいたなら、いったん離れてからでも良かった。なのに俺がその場で倒すことに固執したのは、慢心していたからだ」
「「……」」
メテオクラッシュやガンマ線バーストのような、強力な範囲攻撃魔法があれば別だっただろうけどな。
それまでは魔物部屋は撤退して、少しずつ削るようにしなければ。
「それだけじゃない。俺はグリーンキャタピラーが糸を吐くことを知っていたのだから、魔法で防ぐことを常に意識しておくべきだった。
他にも防毒の盾をリビラが持っているのだから、スパイスパイダーはリビラに任せるだとか、あるいは最優先で倒すだとか、な。
全てが俺の判断ミスだ。すまなかった」
二人はまるで自分が責められているかのように沈痛な面持ちをしている。
……どこまでストイックなんだよ、お前らは。
俺は努めて明るい声を出した。
「それにしても、オーバーホエルミングは本当に凄かったな。一瞬で2体ずつ魔物が消えていった」
「え……そんな、カズト様のおかげです」
「いやいや、謙遜しなくていい。見事だった。
リビラも的確な判断だったよな。糸が消えたらすぐに薬を使ってくれた」
「いえ……恐れ入ります」
「本当にありがとう。休憩を終えたら、すぐに次の階層を目指そう」
「「はい」」
二人はまだ明るい顔とはいえなかったが、それでもしっかりとした返事を返してくれた。
俺達は手当てを使ったり、毒消し丸など薬の確認をしたり、あるいは持ち込んだ水袋の水を飲んだり、ゆっくりと休憩をとった。
今までの探索では十分程度の休憩をとることはあったが、今回は三十分近く休んでいる。
「迷宮でここまで休憩をとったのは初めてだな」
「うん」
「騎士団時代を思い出します」
ミンは床に座り、リビラはドロップ品を集めながらそう言った。
しかしリビラ、懐かしそうに騎士団時代とか言うけど、それはつい数日前の話だろ。
俺がそう言うと、
「今は何もかもが変わってしまいましたので。正直、まるで夢の中にいるようです」
「そんなにか?」
「……騎士団にいた時は、頼られる事も褒められる事も……それに、その、女として求められる事もありませんでしたので」
ドロップを拾いながらモジモジと赤くなり、リビラは言った。
「探索者としての評価が低かったのは聞いたが、女として……というのは意外だな。リビラ程の美少女がなぁ……」
そう言うとリビラはどこか悲しさを滲ませながら微笑み、自分の薄い苺色のような髪を触った。
「竜人族は、僕のように背が低くて胸が大きい女を好みません。この髪の色だって、もっとはっきりした色が好まれるのです」
なるほどなぁ。
俺からすれば、リビラはグラビアでたまに見るロリ巨乳で、街でたまに見るピンク髪だが。
テレビも写真もない世界では、見たことがない異端の存在というわけだ。
「俺は好きだ」
「……え」
はっきり告げると、リビラはドロップ品を拾う手を止め、意表を突かれたというように困惑していた。
「お前の防御技術も、騎士団で学んだ知識も役に立っているけどな。
その可愛らしい低い身長と、立派に育った大きな胸と、鮮やかで綺麗な髪の色だって同じくらい好きだ」
何より顔だって美少女だ。
本音を言えば外見の方が大事まである。
「だから前にも言ったが、お前が来てくれて本当に良かったと思っているし、俺はこれからもお前を手放す事は無い」
はっきりとそう断言すると、リビラは俯きながら何やらモゴモゴと呟いた。
「……です」
「ん、なんだって?」
「いえ、何でもありません」
難聴系主人公みたいな事を言ってしまったが、実際に聞こえなかったのだから仕方ない。
そんなやり取りをしていると、ミンがじっとこちらを見ているのに気がついた。
しまった、ひょっとしてミレーナさんを蔑ろにするんじゃないかと疑っているのだろうか?
俺は慌ててミンに言った。
「もちろん、ミレーナさんも大事に思っているぞ。だから何も心配はいらないからな」
「……はい」
ミンは真剣な表情のまま、ほとんど変わらない顔だったが、頷いた。
「よし、そろそろ進もう。慎重に、だが急いで次の階層へ行く」
その後の探索は普段通りに進んだが、やはりどうしても時間がかかってしまった。
やはりエンカウント数が多い。
いつもなら探索を切り上げる時間になっても、ボス部屋まではたどり着けなかった。
「一度帰宅しようか」
「「……はい」」
悔しいが、今日は無理をして死にかけたばかりだ。
これ以上の探索はやるべきではない。
俺達はワープで帰宅した。
「ただいま」
「えっ?! あ、おかえりなさいませ」
家に戻ると村長の奥さんが出迎えてくれた。
ミレーナさんと違って、突然の帰宅は驚かせてしまうな。
「ミレーナさんの様子はどうですか?」
そう聞くと、奥さんの表情が曇った。
「良くはないようです。……熱も、上がっているように感じます」
「……そうですか」
俺達は今日一日、ミレーナさんを看てくれた事に礼を言い、また明日も朝から世話を頼み、今日は帰ってもらった。
俺達はそっとミレーナさんの様子を見にいった。
いつもならすぐに気配を察して起きてくるミレーナさんも、今はベッドで寝たままだ。
「……ミレーナさん」
そっと声をかけると、ようやくといった風に目が開いた。
「かず……さま」
「うん。ただいま」
「もうしわけ……ありません」
「いいんだ。今はゆっくりして。俺達が薬を取ってくるから、もう少しだけ待ってて」
小さくそう話すと、ミレーナさんはキュッと眉を寄せた。
「カズトさま……私のために、無理はしないで……」
「大丈夫。無理なんてしてない。安心して」
「ほんとう……ですか?」
「もちろん。いつも通りだよ」
俺はニッと笑って、ついでに力こぶも作って、いつも通りをアピールした。
「だから、もう少しだけ頑張って。絶対に取ってくるから。約束だよ?」
「……はい。お待ちいたします……」
「うん。おやすみ」
ミレーナさんは目を閉じると、まるでそれ以上は起きていられないというように、すぐにまた眠った。
……間に合うのだろうか。
ミレーナさんの容体は悪化している。
絶対に助ける。絶対に。
そう心の中で唱えるが、不安がジリジリと俺の心を焼いていた。
お気に入り登録、感想ありがとうございます。
次話で区切りです