異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
「✕✕✕✕✕✕!」
後ろから声をかけられ、俺はハッとなった。
助かった興奮からか、早口で子供が俺に話しかけていたようだ。
俺は大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせた。
「✕✕✕✕✕✕?」
「ブラヒム語がわかるやつはいるか? ブラヒム語だ」
分からない言葉で話し続けられても困るので、ブラヒム語と強調して話しかけた。
「ブラヒム語、ワタシ話せる」
あれ? ブラヒム語が話せない人間は多いと思っていたのだが、こんな子供が話せるのか。
子供は俺の予想を裏切り、ブラヒム語を返してきた。
もっとも少し発音があやしいあたり、やはり難しいのか?
「そうか。俺は旅の者だ。迷っている内にこの村に着いた」
「そなのですか」
「ああ。怪我はどうだ? 歩けるか?」
「だいじょぶ、です。助けてくれて、ありがとございます」
立とうとするので手を貸してやる。ゆっくり動く分には問題なさそうだ。
そしてその時、ちょうど村人が来た。
「✕✕✕✕✕✕」
「✕✕✕✕✕✕」
「✕✕✕✕✕✕」
「✕✕✕✕✕✕」
何やら村人と子供の間で話し始めた。こちらへ感謝している様子の村人もいるな。
と思ったら、子供はまたこちらに話しかけてきた。
「あの、これから、どするのですか?」
「俺か? 実は金が無くてな。迷宮に行って稼ぎたいと思ってはいるのだが」
「迷宮!」
子供は大きな声を出すと、また村人と何か話し始めた。
おお、とか村人が驚いてる。
すると何人かはどこかへ移動していった。
なんだ?
と思ったらまたすぐに子供は話しかけてきた。
「今日、よければ、この村に泊まりませんか? もう日も暮れますし、お礼もしたいです」
「それは助かるな。どこに向かえばいい?」
「こっちです」
子供はひょこひょこと足をかばっていたので、ゆっくりした移動になった。
せっかくなのでその間に子供を鑑定してみる。
ミン 女:10歳
村人:Lv2
レベルが低い。
まあ、うん。こんなものだろう。子供だしな。
と、思ったが、周りを鑑定すると他の村人達もほとんど一桁だ。
きっと魔物被害の少ない村なのだろう。
たしか原作では迷宮のある都市では村人のレベルが高かったはずだ。
子供に案内されて連れられた家には、先程見かけた村人と、不安と心配のオーラを体中にまとった女性がいた。若く見えるが、おそらく母親だろう。
その推定母親は、ミンを見るとすぐに駆け寄ってきた。
「✕✕✕✕✕✕!」
「✕✕✕✕✕✕」
感動の再会というやつだろう。何言ってるのかわからないが、熱く抱き合ってるし間違いない。
さっきの村人がいるし、先に連絡したということか。なるほど。
鑑定してみると、
ミレーナ 女:27歳
村人:Lv2
と出た。え、やっぱり若い。
つまりミンは17の時の子供?
俺が結婚文化の違いにびびっている内に、2人はひとしきり話し終わり、ミンがこちらを母親に紹介してきた。
「お母さん、こっち、恩人の旅の人」
ミンがそう言うと、母親は深々と頭を下げて、
「はじめまして。私はこの子の母親で、ミレーナと申します。この度は娘を助けていただき、ありがとうございました」
ミレーナさんはミンと違って、流暢に喋りかけてきた。
「いや。こちらも色々あって迷ってしまい、たまたまこの村に着いたのです。
金銭も失い困っていたのですが、この子が泊まっていけと言うので、厚意に甘えようかと考えていました。
こちらは宿か何かで?」
ミンはクイクイとミレーナさんを引っ張ると、
「お母さん、この人、迷宮行くんだって。 家に来てもらおう?」
「ええ、聞いているわ。
旅の方。今日は是非我が家へ泊まって下さい。宿ではありませんが、精一杯もてなさせていただきます」
「ありがとう。名乗り忘れたが、俺の名は田中カズト。田中が姓でカズトが名だ」
家へ入り、くつろがせてもらいながら、疑問に思っていた事を尋ねる事にする。
すなわち、地名だ。
原作で出てきたベイルやクーラタルからどの程度離れているのかが知りたかった。
原作のストーリーにからむつもりはないが、原作キャラを一目見たい欲はある。
すると、このあたりは帝国の東の果てであり、帝都まではかなり遠いという事がわかった。
一番近くの街ですら、朝に村を出て夕方に着くという有様だ。
なるほどなあ。そんな田舎じゃあ寂れた村になるのも当然か。
「この辺りで一番近くの迷宮へはどう行けばいい?」
どうするにせよ、レベルは早めに上げたいからな。
近くにあるといいなと考えながら尋ねると、ミレーナさんは表情を引き締めた。
「この村にも迷宮があります」
「……ん?」
「この家からだと5分ほどの場所に、迷宮があります」
意外な答えに戸惑いを隠せない。
迷宮があるところはもっと栄えているイメージがあったからな。
特にクーラタルなんて迷宮が経済の中心になっているフシすらあった。
こんな村にも迷宮があるのか。
「今日はもう遅い事ですし、明日の朝食の後にこの子に案内させます」
「あー……そうか」
「寝具の支度をして参ります」
ミレーナさんを見送りながら、俺の中にある思いが浮かんできた。
何かがおかしい。
よくわからないが、何か違和感がある。
何がおかしいのかと記憶をたどり……。
迷宮だ。
ミンに迷宮に潜りたいと告げた時、驚いていたが、喜んでいる様にも見えた。
村人達とミンが話した時、こちらを見る視線は村の子供を助けた感謝ではなく、期待の視線になっていなかったか。
よくはわからないが、俺を迷宮に送りたがっている?
何か罠か?
と疑いかけて、止めた。
確かに違和感はあるが、何もわからないうちから相手を疑うのは失礼だろう。
隠している事はあるかも知れないが、まずは聞くという事をすべきだ。
そう考えていると、ちょうどミレーナさんが戻ってきた。
「おまたせしました。こちらの部屋へどうぞ」
「いえ、その前に。
ひょっとして、何か話すべき事があるのではありませんか。それを全て聞かせて下さい」
そう言うと、
ミレーナさんは動きを止めて迷う素振りを見せたが、話し始めてくれた。
この村は帝都から遠い田舎の村だが、5年程前までは魔物も来ない、平和な村だったらしい。
だが5年前に迷宮が出来てしまってから、事態は一変した。
本来ならば騎士団が討伐に来てくれるはずだが、この辺りの領地ではすでに複数の迷宮が発生してしまい、手が回らない。
仕方なく村の者で迷宮に入る事で魔物の活動を抑えようとしたが、平和だったために村人は戦い方を知らなかった。
やがて怪我人が出て、死人が出て、迷宮へ潜る事が難しくなっていった。
それだけでも致命的だったが、なんと2年程前に盗賊達が村を襲ってきた。
何とか撃退したものの、ミレーナさんの夫も亡くなり、いよいよどうしようもなくなり、ただ滅んでいくのを待つだけかと思っていたのだが……。
「そこへ俺が来た」
「そうです。凶悪な魔物であるグミスライムを簡単に、しかも攻撃を受けても問題なく倒したと聞いています。それほどお強い方が迷宮に潜ると聞いて、村の者は皆、期待を持っております」
「なるほど。……そして、村を出ていってしまわないか不安だ、と?」
「はい」
ミレーナさんからは緊張の様なものが感じられたが、そういう事だったのか。
納得はしたが……何となく、気に食わないものがあると俺は思った。
そういうのは、こちらから聞かれる前に、頭を下げてお願いするもんじゃないかなあ。
下手につついてやる気を失わせない様にとか考えたのかも知れないが……。
何となくモヤモヤしているのを感じ取ったのだろうか。ミレーナさんは必死に呼びかけてきた。
「お願いします! どうかこの村をお救い下さい!!
私で出来ることなら何でもいたします!!」
ん?
「今、なんでもするって言いました?」
いや、いかん。今はそういう反応するべき時じゃなかった。
「はい。何でもおっしゃって下さい」
「あー……いや。心がけは良いと思いますが、そういうのは良くないと思いますよ。
俺が、なら奴隷になれ、とか言ったら困るでしょう」
「覚悟はしております」
ええー?
「娘さんは嫌だと思いますよ」
「仕方のない事です。分かってくれるでしょう」
「どうかなあ。ちゃんと話し合うべきと思いますが……」
覚悟が重いよ。
俺はもっと気楽に過ごせると思ってこの世界に来たのに。
正直に言えば、早速女奴隷ゲットのチャンス、ラッキーだぜ! と思う気持ちもある。
あるが、イケニエを要求するドラゴンにでもなった様な気もして、ためらってしまう。
何だか上手くいかないな。
英雄にはなり損ねるし、悲惨な話を聞かされるし。
ミチオ君の様には出来なかったか。
はあ。
「わかりました。まずは明日、迷宮に行きます。これからの事は迷宮を出てからにしましょう」
面倒な事は明日の自分に丸投げだ。