異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
電気のない世界の朝は早い。
なぜならまともな明かりは太陽しかなく、人の活動時間は太陽が中心となるからだ。
日の出の少し前、空が少し白くなる頃にはすでに朝の支度が始まっていた。
ミレーナさんは朝食を作り始めていたし、ミンも水汲みを何度もしていた。
待っていても暇なので手伝いを申し出たが、2人は座って待っていてくれと、完全にお客様待遇だ。
仕方ないので、デュランダルを出して素振りでもしながら今後の方針を考える。
基本的にはミチオ君の様に、最初はデュランダルで戦いレベルを上げる。壁役を務められる奴隷を加入させたら魔法を使い、デュランダルの分のボーナスポイントを経験値や結晶に回していく。
やはりこれが最適解だろう。
そのためにも今日のポイント割り振りは、
キャラクター再設定、鑑定、ボーナス武器6、サードジョブ、取得経験値5倍、必要経験値5分の1。
ここまでで98ポイント。
余った1ポイントは腕力にでも振っておく。
これで完璧。今日は1日中1階層で狩り続けよう。
朝食のメニューは魚、魚、魚と海藻類、あと少しだけ野菜。
パンも米もなく、どうやら魚が主食と化しているようだ。
まあ漁村だしこんなもんだろ……と思ったが、恐ろしい事に気付いてしまった。
水生魔物が出たら、その時点で詰みでは?
村が存亡の危機にあると言っていたのは比喩でも何でもなく、まさに目の前の危機なんだなあ……。
朝食を済ませ迷宮に向かう支度をしていると、ミンが不思議そうな顔をしていた。
「カズトさま……その格好で迷宮に行くですか?」
ただいまの装備。
デュランダル。
地球産の服。靴。
リュック。
以上。
「昨日の鎧とかは……?」
あー……。
ポイントで出し入れしてる事を知らないと、そりゃ不思議だよな。
というか、迷宮を舐めてるようにしか見えん。
でも盗賊イベントで複数人と乱戦になる予定だった昨日と違って、今日は一階層だけだから……。
いかん、盗賊イベントが無かった事を思い出すと気分が沈んでくる。
「今日は一階だけのつもりだからな。防御よりも回避を優先するため、出来るだけ身を軽くしてみたんだ。
危ない様ならすぐに戻ってくる。何も心配はいらないぞ」
「そなのですか」
子供を騙すのは気が引けるが、ここは内密にするために仕方がないのだ。
強引に話を終え、俺たちは出発した。
迷宮までの道は目印が何もなかったので、時々デュランダルで辺りの木に印をつけながら進んだ。
まだワープを気軽に使えるほどのMPが無い以上、慎重に行かないとな。
……というか、けもの道レベルの道すら無いんだな。
俺以外に誰も迷宮に挑んでいないと思うと、本当に気が滅入る。
責任が重いよ……。
「ここです」
ミンが示した場所には、四角く黒い空間があった。
これが迷宮の入り口か。
漫画で見て知っていたが、やはりこういうのは実物を目にするとテンション上がるな!
……いや、村の皆の気持ちを思えば浮かれていられないな。
そもそも俺だって何か間違えれば命を落とす場所だ。
真剣にいこう。
「よし、ありがとう。お前は村に戻ってくれ。2、3時間ほど経ったら俺も一度戻るつもりだ」
「はい。気をつけてください」
さあ俺の冒険の始まりだ。
入り口をくぐると、原作通りに薄く光る石の壁の小部屋だった。
小部屋とは言っても扉で区切られていないので、呼び名に疑問はあるが。
まあ原作でそう呼んでいたし、小部屋でいいか。
まずは落ち着いてジョブの確認。
よし、探索者はあるな。
サードジョブまでつけているので、村人、探索者、盗賊が今のジョブになる。
まずは村人レベル5が目標だ。頑張ろう。
小部屋を出て移動を始めると、割とすぐに魔物と会敵した。
一階層の敵はヤギらしい。
……え? ヤギ?
鑑定!
エスケープゴート・Lv1
うわ……。俺は思わず絶句した。
面倒臭い敵ナンバー1のエスケープゴートじゃん。
こいつは確か、HPが半分以下になると逃げるタイプのはず。
俺は、だから村人達は迷宮に潜れなかったんだな、と気づいた。
デュランダルを持った俺はともかく、普通に槍だの剣だので戦うならトドメを刺す前にエスケープゴートは逃げ出すだろう。
戦う内に怪我を負うだろうし、経験値に出来ずに逃げ出されるし、ではただの村人達にはどうしようも無い。
騎士団ならすでに他の場所で鍛え、装備を整えられただろうが、他の迷宮にかかりきりで来られない。
他の冒険者や探索者達だって、わざわざ田舎の面倒臭い迷宮を探索するよりは条件のいい他の迷宮へ行きたいに決まってる。
本来なら、本当にどうしようも無かったんだな……。
そう。デュランダルを持った俺が居なければ、な。
デュランダルなら、一階層の魔物ごときは一撃だ。
スキルも何もしてこないヤギ、むしろ一階で出てきてくれてありがたいくらいだ。
「経験値、いただき!!」
むしろ笑顔すら浮かべた俺の一撃は、狙い通りにエスケープゴートに命中する。
ヨシッ!
そしてエスケープゴートのドロップ品はなんだったかな、と考える俺の目に映ったのは逃げ出すヤギの姿だった。
「……え?」
な、なんで??
一階層は一撃のはずだろ!?
混乱する俺だったが、答えはすぐに思いついてしまった。
英雄だ。
腕力中上昇の効果が俺にはついてない。
俺は膝から崩れ落ちた。
トボトボと入り口の小部屋に戻り、俺は膝を抱えてうずくまった。
はあ。どーしよ。
たっぷり十分はそのままでいただろうか。
何とか気分を持ち直し、キャラクター再設定をする。
減らすのは、必要経験値減少の項目。
5分の1から3分の1へ。浮いたポイントを腕力へ。
これで……これで一撃で倒せる様になれば……!!
小部屋を出て少し歩くと、またすぐにエスケープゴートがいた。
「お願いだから死んでくれ!!」
接敵し、祈りながらデュランダルを振るう。
確かな手応えの後、そこにはドロップ品が残っているだけだった。
「ぃぃぃいやったぁぁぁぁ!」
思わず天を仰いでガッツポーズを決めてしまう。
イヤだって、仕方ないじゃんよ。
まさかこんなに苦労するなんて思ってなかったんだよ。
俺はウキウキ気分でドロップ品を拾い、そして顔を上げるとエスケープゴートと目が合った。
え?
エスケープゴートの体当たりをくらい、吹き飛ばされる。
なんで!?
何とか態勢を整えてデュランダルを振るうと、またも一撃でエスケープゴートを倒すことが出来た。
動悸が治まらない。
驚きと恐怖で体が震える。
ここに狼人族……例えばロクサーヌがいてくれればきっと匂いで不意打ちに気づけた。
だがソロで戦ううちは、警戒を忘れてはいけなかった。
今度こそ警戒を忘れずにドロップ品を回収すると、俺は入り口の小部屋に逃げ出した。
本日3回目の小部屋である。
この安心感、まるで実家に居るようです。
ちなみにまだ迷宮に来て30分も経っていない。
デュランダルで回復しきれなかった痛みが、じわりと体に訴えてくる。
なぜ連戦になったのか。
落ち着いて原作を思い出せば、あまりにも近くに魔物がいる場合は戦闘音で魔物を引き寄せる、と書いてある場面があった。
つまり……俺があげた大声のせいで、たまたま近くにいた魔物が寄ってきてしまった、というわけだ。
「ぐぎぎぎぎ……」
どうしてこうも、あれも、これも、うまくいかないのか。
俺は悔しさに歯ぎしりをするのだった。
裏話
デュランダル一撃死問題
原作でLv1の魔物にデュランダル一撃死じゃなかったのって、薬草採取士Lv1だった時、グミスライム、階層ボスの3つ。
村人2英雄1盗賊2の時には一撃死だったわけだが、果たしてどの段階で一撃死になるかを悩みました
漫画だと複数ジョブで加算されるのは効果だと明示されてるけど、基本ステータスがどうなるかは不明なのよね……。
悩んだあげく、『別にいいか適当で』となりこの話は作られています。
マネはあんまりオススメしません笑
個人的には、『セットされたジョブのうち、一番高い値が適用される』説を推します。
でも『ファーストジョブだけ反映される』とかだと英雄をファーストにしないとヤバい場面とか作れておいしいかもですね。
カズトには関係ないが。