異世界迷宮の英雄に! 作:チワワ
「私はこの村の出身ではないのです」
寝物語にミレーナさんは話し始めた。
「こことは違い、主に小麦を育てて生計を立てる農村でした。父や母、姉や弟と平和な暮らしを営んでおりましたが、そこも迷宮被害により打ち捨てられる事になりました。
親しかった友達も、思い出のある場所も、何もかも無くしました。
移住の途中で魔物に襲われ、父が亡くなり、母が怪我を負いました。薬を買う金もなく、姉が奴隷になりました。
幸い街では宿屋の仕事があり、母は私と弟を育ててくれました。ですが時が経ち、成人した弟は迷宮に復讐をするのだと探索者になり、やがて連絡が途絶えました。さらに何年か経ち母も病に倒れ、亡くなりました。私は一人になりました。
ですが私は夫と出会いました。当時夫は探索者でしたが、私と結婚し、ミンを授かったことを契機に、夫の故郷であるここで漁師として暮らす事になりました。三人での暮らしはとても幸せでした」
静かに過去を語るミレーナさん。
「私はあの子に故郷を残してあげたい。夫が暮らしたこの海を見せ続けてあげたい。だから」
ミレーナさんは俺の上に乗り、微笑んだ。
「カズト様。私は何だっていたします」
冷静に、理論的に考えるなら、だ。
どこで挑もうと迷宮は迷宮。
順番に違いはあれど、出てくる魔物はどこも同じ。危険にそこまで差が出ることもなく、また収入も同じである。だから俺はここで戦ったっていい。
責任の重さを気にする事もない。
そう、逆に考えるんだ。失敗しちゃってもいいさ、と。
確かにこの村の命運は俺にかかっているのかも知れない。だが俺は所詮、一人の探索者だ。迷宮打倒まで期待されているわけでもないだろう。
いつか騎士団が来てくれて迷宮に挑むはず、だからそれまでの繋ぎとして探索者に頭を下げよう。
きっと皆が考えているのはこの程度。
もし俺が失敗しちゃっても仕方ない。だって俺だって死にたいわけじゃなく、生きる努力はするのだから。
その努力が及ばす死んでしまっても、誰に文句を言われる筋合いはない。
俺は俺のために迷宮に挑み、俺の責任で失敗するのだから。
俺の失敗は俺の物で、そこに他人が期待しているかどうかは関係ない。
文句があるなら自分で戦え。
そう、つまり。
にかいめも、いっぱいでた。
……性欲に負けたんじゃないから。
冷静に理論的に導いた結論だから。
俺とミレーナさんは村長の家に来た。
これから迷宮に潜り続けるにあたり、しっかりと取り決めをする必要があると感じたからだ。
俺は怪我や病気など特別な事情がない限り、ここの迷宮に潜る事を優先する事。最低でも三日に一度。
何か長期の休みが必要となった際には村長とあらかじめ相談し、了承を得ることが必要となる。
ミレーナさんは俺の奴隷となり、家事全般を行う。今更ではあるが、性奴隷となる事も改めて了承した。その他、俺から命令があった時もこれを遵守する。
正確に言うと、村長のジョブでは奴隷の所有者登録は行えないため、奴隷商に赴いた際にスムーズに手続き出来る様に書類を整えた、というわけだ。
村人に関してだが、俺やミレーナさんが暮らせるように、食料やその他の物資の提供を行う事、生活に必要な作業を誠実に手伝うことを約束させた。
俺は食料の生産を行わず、ミレーナさんも奴隷になれば今までと同じ生活は送れない。
となれば足りない分は村から出してもらわねば生活が出来ない。
……この村にドロップ品の買取が出来る場所があれば違ったのだろうが。
迷宮は村全体の問題として認識されている。
言われずともそうなるだろう、と村長も快く認めてくれた。
「最後に。俺が迷宮に入っている事に関して、外の者には言わないこと。村の中でも噂などはしないこと」
これは少し驚かれた。
「なぜでしょうか?」
もちろん、目立ちたくないから、が俺の本心だ。
いくら開き直ったとはいえ、俺の精神は常人のそれだ。
批判されたり文句を言われるのはイヤです。
「迷宮はそれなりの財貨になる。例えば盗賊どもに知られればどうなるかわからないだろう?
だから出来うる限り、俺が潜っている事に関して知らぬ存ぜぬを通した方が良い」
「なるほど確かに」
俺のいい加減な理由に村長はあっさり頷いた。
ミレーナさんはなんか微笑んでた。
家に戻ると遅い時間の昼食となった。
……遅い時間だ、と思ったのだが、ミレーナさんによるとまだ早いとの事だった。
「あ、1日の食事は二回?」
「一般的にはそれが当たり前だと思います」
「うーん……まあ良いか」
電気もガスも使えない世界だ。
食事のために火をおこすならその分の薪が必要だし、今の状況では食材だって十分な量の確保は出来ないだろう。
良い食生活のためにも、早く強くなって迷宮の奥深くに潜らねば。
休憩を終え、迷宮に戻る。
村人、探索者、盗賊の3つでエスケープゴートはすでに一撃で倒せる様になった。
なので気負わずに戦う回数を重ね、ついに村人Lv5に達した。
これで戦士、剣士、僧侶のジョブを得ることが出来た。
……僧侶の取得って村人Lv5だったのか。
そういえばせっかく地球から持ち込んだスマホも全然使ってない。原作を読み直せるようにと考えていたのに忘れていた。
帰ったら必ず読もう。
せっかく増えたジョブなので試しにジョブを剣士Lv1だけにして戦ってみたが、やはりエスケープゴートを一撃とはいかなかった。
うーん。これだと一階層のボスは何発になるかわからないな。覚悟しておかないとか。
とはいえ腕力上昇の効果がついた剣士を得られたのは安心材料だ。
ついでにセカンドジョブで剣士の組み合わせを試してみた。
結果、剣士と村人Lv5や剣士と盗賊Lv5、剣士と探索者Lv3の3つの組み合わせにおいて一撃で倒す事が出来た。僧侶と戦士はまだだめらしい。
だがこれなら行けるだろう。
モンスターハウスに。
原作ではデュランダルの回復量でなんとかなっていたし、そこに手当てのスキルが加わるなら安定して戦える。
今まではモンスターハウスを恐れて、突き当たりに来たらそのまま元の道へ戻っていた。
本来なら扉があればそこを越えて進まなければいけないのに。
まだボスに挑むつもりはないのだが、それはそれとして道の確認はしておきたい。
今からは多少大胆に道を進めるようになった。
迷宮の入り口に戻り、構成を改めて確認する。
キャラクター再設定、鑑定、武器6、経験値獲得5倍、必要経験値減少5分の1、フォースジョブ、詠唱短縮。ここまでで103ポイント。村人Lv5だともう1ポイント使える。体防具1でもつけておくか。
ジョブは村人Lv5、探索者Lv2、僧侶Lv1、剣士Lv1。
まだまだ自分は弱い。
弱いが、昨日よりも確実に進歩出来ている。
手応えを感じながらキャラクター設定を閉じた。
モンスターハウスを恐れない、と言ってもやはりそうそうあるものでもないらしい。
普通の戦闘は体感で5分に1回は起こっていると思うが、恐らくもう二時間は歩き回った事だろう。
あっという間に探索者もレベル5になったので、村人と戦士を入れ替える。
ポイントが問題なければ体力微上昇より体力小上昇をつけるべきと思ったからだ。
あと少ししたら探索も切り上げよう、と考えながら扉をあけた。
いる。
幅三メートルの扉の向こうには数十のエスケープゴートだ。
俺は一つ息をついて戦闘に備えた。
このくらいの広さの出入り口なら、左右の敵を倒し続ければ後ろに回られる事もないだろう。
そう思い、俺は入り口を塞ぐ形で戦う。
ニードルウッドとは違い、エスケープゴートは頭突きや体当たりが攻撃手段だ。
つまりこちらを攻撃する為には、こちらの間合いに飛び込まねばならず、さらにそこまで密集しての攻撃は出来ないという事だ。
すなわち、正面側、前方右側、前方左側の三方が相手だ。
まずは正面側から迫って来る一匹目を切り捨てる。
続いて右方から来たのでこれを倒す。
今度は正面側と左側が同時に来た。
左側に一撃加えて、倒す。
正面側から一撃もらったが、このくらいなら耐えられる。
デュランダルで攻撃すればほとんど全快したようだ。
連続で倒されて警戒したのか、三方から同時にかかって来た。
左側を切るが、その間に二発食らった。流石にかなり体にこたえる。
「手当て」
スキルを発動しながら右側。
一瞬気落ちしたが、デュランダルのおかげでHPもMPもほぼ全快だ。
やはり俺は戦えている。
そうであるなら、ここにいるのはただの経験値だ。
「さあどんどんかかって来やがれよ!」
俺は自分を鼓舞させながら戦いを続けた。
順調に十匹、二十匹と倒し続ける。
何度も被弾するが、すぐに回復する。
前をみれば、残りはあと十匹と少しか。
と、そんな時に後ろから衝撃が来た。
なんだ!? 俺は一匹もここを通してないぞ!!??
だが振り返ればそこには間違いなくエスケープゴート。
そして、背中を見せた俺を部屋側の奴らは見逃してくれなかった。
三発、被弾する。
命が脅かされる感覚があった。
「手当てぇ!」
スキルと同時に背中側の敵を倒す。
だがやはり部屋側から攻撃を連続で食らう。
……回復が追いついてない!
あ。
死ぬ。
周りがスローモーションになった様に思えた。
この世界に来てからの事が様々に思い出される。
今の様に油断した時に連続で戦闘になった事も。
そうか、戦闘の音で呼び寄せてっ……!
「手当てぇぇぇ!」
スキルと共に左側を倒す。
正面と右側から被弾する。
「手当て!」
右側を倒し、正面から被弾する。同時に左側にまた一匹現れるのが見える。
「手当て!」
左側を倒し、正面から被弾する……が、もう確実に回復量が上回っている感覚があった。
後ろにはもう何もいない。
残り十匹を切った魔物を全滅させたのは、それからすぐの事だった。
俺は、生き残った。