異世界迷宮の英雄に!   作:チワワ

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7-異世界迷宮の偽英雄

頭目だろうLv11の盗賊は広場に残り、残りの盗賊達がこちらに向かってくる。

 

 

ふざけやがって。

何で今日なんだよ。一昨日ならジョブ英雄取れたんだぞ。どんだけがっかりしたと思ってんだよ。

 

 

そもそも、こんな寂れた村からさらに奪い取ろうってのか?

希望もなく暗い顔した奴ばっかりのこの村から?

ようやくまた歩き出せるかってところなんだぞ。

なんで邪魔をする?

 

6人もいたら迷宮で十分戦えるじゃねえか。

この村なら入るだけで感謝されるんだぞ。

人から奪うよりマシだろうが。

 

 

奪うつもりなら、奪われる事を覚悟しろよ。

 

 

全力で走れば数秒で縮まる距離だとしても、俺が武器を持っているせいで警戒し、急がずに向かってきている。

その時間があれば俺は更に武装を整えられるとは思わなかったか。

 

 

キャラクター再設定!

 

キャラクター再設定、鑑定、武器6、頭防具3、体防具3、足防具3、腕防具3、アクセサリー2。

この世界に来たときと同じ設定を行う。

まあ使えるポイントが上がっているのでフォースジョブ、詠唱省略もつけている。ついでに余りは敏捷へ。

ジョブは探索者Lv10、僧侶Lv9、剣士Lv8、戦士Lv8。

 

 

こちらがどこからともなく防具を身に着けたのを見て、更に警戒したようだ。

ボーナス装備は着脱が楽だな。

盗賊達はジリジリと半円を保ちながら囲もうとしてくる。

 

だがこちらはもう準備が出来た。

 

 

まずは左端の男に向かい駆け出すと、5人から驚きの声が上がったようだった。

思ったより速い移動だったか? こちとら全部の防具にスキルが付いてんだよ! 移動速度も、敏捷も上がっているぞ!

 

全力でデュランダルを上段から振り下ろし、斬撃を加える。

相手も何とか剣で受け止めてきた。

流石のデュランダルでも相手の武器を破壊するのは難しいらしい。

 

だが折り込み済み。

すかさず蹴りを叩き込む。

 

ラッシュ!

 

モロに下腹にくらい、一人目は体をくの字に曲げて倒れた。

 

これぞアニメで学んだ必殺の連続攻撃。日本のオタクなめんなよ!

 

 

あっという間に一人目が倒れ、動揺した残りを片付けるのは更に簡単だった。

横薙ぎに切れば上下に真っ二つ、袈裟がけに切れば盗/賊となり、首をはねれば盗賊危機一髪とばかりに首が飛ぶ。

最後の背中を見せて逃げようとしたやつは胸の中心めがけて突き刺した。

 

あと一人。

 

近づいていくと、そいつは近くにいた子供を人質にとった。

 

「剣を捨てろ!」

 

まあそうだな。悪役はそういう事する。実にお約束のやり口だ。

俺は大きく息を吐き出して、剣を掲げた。

 

「これが怖いのか」

「いいから捨てろ!」

「そうか。ならそうしよう」

 

キャラクター再設定。

武器をしまい、防具をしまう。浮いたポイントは他にまわす。

 

「てめえ、アイテムボックスか? 俺は捨てろと言ったんだ!」

「そんな事より、最後に聞きたい事がある」

「ああ?!」

「遺言はあるか?」

「……おい、変な事をすればこいつの命は」

「そうか無いんだな、わかった」

 

剣を子供に向けた盗賊に向かい、さきほど取得したボーナス呪文を使う。

 

 

等量交換

 

 

ボーナス呪文の効果で盗賊の体が弾け飛ぶと同時、俺から気力が根こそぎ抜ける。

あまりの脱力感に立っていられず、無防備に倒れた。

 

「✕✕✕✕✕✕!」

 

誰かが何かを叫んでいる。

聞こえるが、理解する余裕がない。

 

駄目だ。

辛い。

死にたい。

何も聞きたくない。

 

「カズト様!」

 

ミレーナ……さん?

 

駄目だ、駄目なんだよ。俺みたいなのは生きてちゃ駄目なんだ。

俺はもう……。

 

「しっかりして! カズト様!」

「……あ……う」

 

何とか一声だけ出した。

 

「カズト様!」

「だ……いじょ、ぶ。だいじょうぶ、だから」

 

辛い。

だが、大丈夫。

 

ゆっくり呼吸を整える。

 

「子供は?」

「大丈夫です。怪我もありません」

「そう。良かった」

 

俺はゆっくり、大きく呼吸を整えた。

 

デュランダルの代わりにMP回復速度20倍をつけたおかげだろう。

少しの時間で、何とか立てる程度に持ち直せた。

さすが63ポイント使うだけはある。枯渇した気力が少しづつ回復してくる。

 

いや本当に辛かった。MP枯渇ってのは、女の子にフラレて友達に裏切られて家族が事故死して家が火事で無くなったくらい辛いんじゃないか? そんな経験ないけど。

 

体の痛みは……ほんの少しだな。後で手当てを一度使えば完治する程度だ。

俺はミレーナさんに寄りかかりながら尋ねた。

 

「結局、何があったんだ?」

 

 

すぐそこにある村長の家で休ませてもらいながら、村長やミレーナさんと話をした。

 

盗賊が襲ってきた理由だが、襲ってきた盗賊のなかには、二年前にも襲ってきた者がいたらしい。

その時は頭目を失って逃げたわけだが、恐らく、最近違う盗賊と合流しこの村をくみしやすいとみて襲ったのだろう、と。

 

「まさか、またこの村に盗賊が来るとは思いませんでした」

「盗賊というものはしつこいものだな」

「まったくです。おっしゃっていたように、カズト様の事はあまり噂しない方が良さそうです」

 

そういえばそんな事も言った。

嘘から出た真というか、まさか本当に盗賊に襲われるとは。

え、これひょっとしてフラグを立てた俺のせい……?

いや、そんなわけないか。

 

「盗賊共の装備とインテリジェンスカードは後で家の方に届けさせます。明日街に行かれるのであれば、そちらで売れるでしょう」

「そうだな。そろそろ家に戻ることにしよう。休ませてもらえて助かった」

「いいえ。迷宮の件だけでなく、今回の盗賊。こちらこそありがとうございます」

 

 

 

家で休みながらジョブの確認を行った。

村人、探索者、僧侶、剣士、戦士、魔法使い。

 

当然、英雄はない。

わかってはいたが……いたのだが。

 

「期待しちゃうのは仕方ないだろ……」

 

大きくため息は出たが、首を振って振り払う。

俺には英雄は過ぎた話だろ。

 

迷宮にでも行くか。

英雄は手に入らなかったが、魔法使いは取得出来た。

まだデュランダルをしまうわけにはいかないが、

今から魔法使いを鍛え始めておこう。

 

 

1階層もずいぶん回った。

だからそろそろ見つかるとは思っていたが。

 

「いよいよボス部屋か」

 

今までと明らかに違う扉を見つけ、俺はどうしようか考えた。

モンスターハウスで何発も殴られた経験を元にすれば、一対一のボス戦で遅れを取るとは到底思えない。正直楽勝に思えた。

 

「……で、そう思って入ったモンスターハウスで死にかけた、と」

 

まずは安全策を取るべきだろう。

武器6以外に防具もしっかりつける。

 

確かボスはデュランダルでも二、三発かかるからなぁ。

英雄無しだともっとかかるかも知れないし、被弾する事も視野に入れないと。

 

準備をしっかり整え、ボス部屋へ入っていった。

 

 

エスケープゴートのボスはパーン。

ヤギと人の半獣人だ。

部屋の奥に煙が集まり、ボスが現れた。

 

「行くぞオラッ!」

 

スラッシュを使いながら一撃目を加える。

返す刀でもう一度スラッシュ。

もう一撃入れられれば……とは思うが反撃を食らう。

やはり一方的には攻撃できないか。

 

スラッシュ

 

三発目をたたき込むとそこでパーンは消えた。

 

四発いらなかったのは良かった、というところだろう。

やはり攻撃力が足りないのはなんとかしたい……。

 

 

あ。

ちょっと思いついたかも。

探索者、剣士、魔法使い、僧侶だったジョブの僧侶と戦士を入れ替える。

 

二階層からすぐにダンジョンウォークで一階層のボス部屋の近くへ移動し、そのままボス部屋へ入る。

 

先程と同じ様に現れたパーンに近づき、スキルを二つ発動する。

 

ラッシュ

スラッシュ

 

パーンの体に入れた一撃はさっきより手応えがあったようだ。

思った通り、ラッシュとスラッシュは同時発動出来る。

 

すぐにスラッシュラッシュのスキル同時発動をした二撃目をたたき込むと、パーンは消滅した。

 

「ヨシッ」

 

原作で魔法使いと遊び人のスキルが同時発動したので、剣士と戦士もいけるのでは? と試した結果は中々のようだ。

 

強いて欠点を言うならスラッシュのみだとMP吸収で全快するが、ラッシュも加えると消費が残る感じがある所だろうか。

ダンジョンウォークも使ってボス周回する時には少し気にしよう。

 

 

パーンのドロップ品はヤギ肉。つまり食材だ。

この村では牧畜を営んでいないし、狩人もいないらしい。

肉は俺にとっても、この村の誰にとっても希少品だ。

出来るだけ狩っておくとしよう。

俺はそのままボス周回を始めた。

 

家に戻るとミレーナさんとミンの他に、女性と子供が居た。

主婦友かな?

 

マーサ 女 25歳 村人

シェミナ 女 9歳 村人

 

あ、女の子は盗賊に人質にされてた子だな。

二人は俺に向かい頭を下げてきた。

 

「✕✕✕✕✕✕」

「今日は盗賊から助けていただきありがとうございます、と言っています」

 

ミレーナさんが通訳してくれた。

女性はミレーナさんと同じく未亡人で、子供も歳が近いので何かと仲が良かったらしい。

ミンも助かった子とキャッキャッしてた。

 

 

……正直、盗賊イベントだな、くらいしか意識してなかった。

あんまり覚えていないが、あの時は村の人を助けるとかよりイベント発生の遅さの方に怒っていた気がする。

 

まあ結果的に正しい事を行えたのなら、誰にとっても良かったんじゃないかな。

 

 

「気にしないでくれ。この村にはこれからも世話になるからな。皆が無事で良かった。

あとこれ、ヤギの肉だ。明日村長から村の皆に渡すつもりだったが、持っていくといい」

 

遠慮していたが強引に押し付け、二人は笑顔で帰っていった。

 

 

頑張ってる奴は報われるべきだ。

そして汚物は消毒、盗賊は排除。

 

……あ、そういえば俺も人を殺した事になるのか。

 

びっくりするくらいなんとも思わないな。

 

そんな事考えている余裕が無かったのもあるが、最初から分かっててこの世界に来たしな。

思考と経験は違うと言うけど、次があっても普通に殺しそうだ。

 

うーん、俺ってサイコパスだったのかも知れん。

無辜の人には迷惑かけないように気をつけよ……。

 

 

 

「カズト様」

 

眠る支度をしていると、ミンが話しかけてきた。

どうした?

 

 

「カズト様は、この村の英雄」

 

 

俺は、その時どんな顔をしていただろう。

 

俺は、俺が大したことない人間であると分かっている。

努力で何かを得ていない。正義は胸に無く欲のままに動き、知識があっても活かせず失敗する。

 

そんな俺が英雄と呼ばれて……。

 

 

嬉しい。

 

 

恥知らずにも、俺はそう呼ばれた事がただ嬉しい。自分が満たされる。

 

だから。

俺はミンの頭をクシャクシャと撫でながら言った。

 

「明日はきっと、もっといい日になるぞ」

 

 

俺は、俺の出来る事をする。

 

そう、せめて、偽物の英雄としてこの村にいよう。

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