こちらサービスの、正月なのでトレーナーを実家に連れ込み羽子板で遊んでたら、きょうだいがいる家庭特有の自分のものに名前を書く習慣から思わずトレーナーの顔に『タマの』と書いてしまい焦るが、自分の名前が書かれたトレーナーを気に入ってしまい、いや嘘ではあれへんし、とか、家帰る時までに消したったらバレへんやろ、とか適当に消さない理由を探し始めるタマモクロスです。
タマモクロスと激動の3年間を駆け抜け、お互いに少し落ち着いた頃。タマモクロスは家族に会うために一度帰省することになった。
そして今日が帰省の最終日の予定だ。明日からのトレーニングの準備を進めていると、タマモクロスが部屋に飛び込んでくるなり、何も言わずにこちらを押し倒してきた。
「おっ、おかえりタマモ…どうした?」
「トレーナー、お願いがあんねん」
自分の腰の上に跨りながら、いつになくしおらしい態度のタマモクロスがこちらを見つめてくる。見れば、アクアマリンの瞳が少しだけ潤んでおり、胸元に置かれた両手がわずかに震えている。
「ウチもトレーナーも、3年間必死に頑張ってきたやろ?」
「アンタの言うように、ご褒美があったらええなって思ってな?」
「ほんでな、ウチ、考えたんや。ウチは何が欲しいんやろ、って」
数秒の沈黙のあと、タマモクロスがほんのわずかに口を開くと、消え入るような声で囁いた。
「ウチ、アンタと【既成事実】したい」
「!?」
「なあ、ええやろ…?」
タマモクロスの端正な顔が近づいてくる。文字通り目と鼻の先に、紅潮した頬とわずかに濡れた唇。理性がはち切れそうになったが、俺はなんとかそれを手で制した。
「タマモ、それはダメだ。止まってくれ」
握られているワイシャツからぎち、と嫌な音がした。
「なんでや!アンタだって、ウチのこと嫌いやと思ってへんやろ!?なあお願いや!ほんの1回でええねん!」
今のタマモクロスは明らかに普通ではなかった。妙に目が据わっているし、呼吸は荒く、首元にかかる吐息はじっとりとした熱と湿度を含んでいる。身体が勝手に反応しそうになるのを、鋼の意志で押さえつける。
一体彼女の身に何があったのか?とはいえ、まずはこの場を乗り切るのが先だ!
「1回だけとか、そういう問題じゃないんだよ!むしろ1回でも許しちゃダメなんだよそういうのは!」
「なんっでやねん!本人がええって言っとんねん!あとはアンタだけやねん!腹ぁくくれや!往生せいやあああ!」
タマモクロスが勢いに任せて服を脱がそうと身体をまさぐってくる。これ以上はコンプラ的にも社会人的にもまずいことになる!こうなればやむを得ない。ウマ娘にはかなわないとは言え、俺だって大人の男だ!
「ぐわああああああ!!くっ、負けるものかああああっ!」
「んなっ……!ほ、本気やんけ…!本気の抵抗や…トレーナー…アンタ…」
「ほ、本気で、ウチ…ウチじゃ嫌やっちゅうことか?ウチ、勘違いしてたんか?こ、こんなちんちくりん、そんな目で見られへんってこと…?」
すっかり眉は垂れ下がり、どうしても目の前で起きたことが信じられないような、不安げな顔でこちらを覗き込んでくるタマモクロス。
それを見て、俺は雷に打たれたような気持ちがした。
一体俺は何をしてるんだ!トレーナーが担当にこんな顔をさせちゃいけないだろ!担当が不安がってるなら、何としてでも安心させてやるのがお前の仕事じゃないのか!
自分のことばかり気にしやがって!
「…触るよ」
怯えるように縮こまった肩に手を添える。びくっ、と肩が跳ねるが、タマモクロスはそれ以上抵抗しなかった。そのまま彼女を引き寄せ、右手を彼女の頭に、左手を彼女の背中に回した。
「タマモ。俺だって、君以外と、
「せやったら!」
「でも君はまだ現役のウマ娘で、俺はトレーナーだから。トレーナーとして君を守る責任があるんだ」
「そんなん…っ」
「タマモクロス。大丈夫、そう遠い話じゃない。君の準備が整ったとき、きっと俺の方から迎えに行くから。だから今は…」
「……う…」
少しずつ、胸元をつかんでいた手の力がゆるんでいく。胸元に顔を埋めながら、タマモクロスは、わあ、と泣き出してしまった。
震える小さな身体を優しく抱きしめ、ゆっくり背中をさすりながら、泣き止むのを待つ。
しばらくそうしていると、彼女の身体の震えが止まり、また少しして、彼女は胸元から顔を上げた。泣き腫らした目で、彼女はこちらを見つめる。
「ごめんなあ…迷惑かけてごめんなトレーナぁ〜…」
濡れている目元を拭ってやり、大丈夫だ、と安心させる。
「…それで?なんで急にこんなことしたんだ」
「うん…えっとな…」
ぽつり、ぽつりと、タマモクロスは事のいきさつを語り始めた。
◆◆◆
「なになに…実家に戻って、弟に俺のことでからかわれて?つい見栄を張って、『お前に言われんでも、もうお互いのホクロの位置と数まで知っとる仲やねん』とか言っちゃって」
「真に受けた家族はすっかり結婚おめでとうムードになっちゃって、嘘ついたことを白状することも出来ず学園に戻ってきちゃったもんだから…」
「…もうこうなったらホンマにするしかあらへんって、もうそうするしか無いって思ってしもたんや」
「………」
思わずため息がもれた。普段は周りにも気を配り、冷静さのあるいい子なのだが、これと思い込むと、そのまま無理をしてしまう所がある。
とはいえ、もっと深刻な事態が起きていることも考えられたわけで。そう思えば、ただの暴走で済んで良かったのかもしれない。
「…ごめん。ほんまごめん」
「…まあ、ね。ひとまず、お互い忘れよう。何も無かったってことで、手打ちにしないか?どさくさに紛れて俺もけっこうすごいこと言っちゃったしな」
「すごい、こと…?………っっ!!?」
びびっ、と電流が走ったように、タマモクロスの耳と尻尾がピンと立つ。ようやく落ち着きを見せていた彼女の顔がふたたび紅潮し、こちらにぐっ、と顔を寄せてきた。
「あ、あ、あ、そ、そうや!ア、アンタ言うとったよな!?」
「ウ、ウチ以外考えてへんって!!その、迎えに来てくれるって!!」
「それってつまり、ウチを、ウチを…お嫁さんにしてくれるってことでええんよな!?……とっさについた嘘ちゃうよな?」
「嘘なわけあるもんか。恥ずかしいけど全部本心だよ」
「!!それってつまりその、そ、そそそ…そお〜……し……」
潤んだ瞳でこちらを上目遣いに見つめ、胸の前で両手の人差し指をつんつんと合わせるタマモクロス。言わせたいらしい。
「…相思相愛?」
「それや!ほんで恥ずかしげもなく言いよったなぁ!なははーー!あいにく追うのは得意やねん!絶対逃がさへんでトレーナー!!」
「心配しなくても逃げるつもりなんかないよ」
「あ、そ…そか。せやったら…ええねん。ほ、ほんで……」
おでこに手を当てて、一瞬だけの軽い口づけをする。
「あ…」
「…今はこれだけ。あとはさっき言った。いいね?」
「お、おう…せやな…ほな」
タマモクロスの髪がふわりと揺れる。瞬間、彼女の匂いに包まれた。頬に暖かい感触。
「…っ!」
「やられっぱなしは性にあわへんから、お返しや!…なはは、トレーナー、耳まで真っ赤やで。…お互い様か。2人して茹でダコみたいや」
「…あ、なんや騒いだらお腹空いたわ。せや、お土産にと思って買うたやつがあったわ。…一緒に食べよか?」
タマモクロスが立ち上がり、俺の手を引く。バッグの中に入っていた饅頭の箱を持って、一緒にソファに座った。
「ほれ、トレーナー」
タマモクロスは箱から取り出した饅頭を半分に割り、片方を自分に向ける。受け取ろうとするもかわされ、右手が空を切る。
「ちゃうちゃう。ほれ、口開けぇ」
言われるがまま口を開くと、そのまま菓子を口に突っ込まれた。驚いて喉に詰まらせかけたが、なんとか飲みこんだ。
「うまいか?…なはは、ひと口で食べるにはちょお大きすぎたか。今度から気いつけるから、堪忍な」
「ウチ、【ええ人】できたらやってみたかったこと色々あんねん。今のはその1個めや。どんどん行くで、これから覚悟しといてや!」
そう言って、タマモクロスはにっ、と笑った。
タマモクロスはね、目が良いんですよ。綺麗な目してるでしょう。ウマ娘には目も個性的な子が多い中、タマモクロスの目は特別な模様もないしちょっと地味に映るかもしれませんけどね、僕はタマモクロスの目が一番好きなんですよ。次点はフクキタルのしいたけです。
あとタマモクロスはストーリーと声と性格もいいんですけど、これ以上語るにはスペースが少なすぎます。