ウマ娘漫筆集   作:セイント14.5

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いらっしゃいませ。
こちらサービスの、賢さトレーニングとしてトレーナーとトランプ勝負するも、気分が乗らないから適当に流そうと思ってたらトレーナーから「何か賭けよう」と提案されて、横からゴルシに「じゃあ脱衣トランプだな!」とか茶々入れられて呆れ顔しながら実はめちゃくちゃ期待して明らかにガチの目になってるナカヤマフェスタです。




チケゾーダッシュ!!

 

 

金曜日の夜。一週間の労働を戦い抜いた企業戦士たちが、華やぐ夜の街を、それぞれの思惑を胸に歩いている。

 

ここは、そんな繁華街から道ひとつ離れた、薄暗い路地にたたずむ飲食店。

個室居酒屋『アルファルファ』────

丁寧で落ち着いた和洋折衷の店構えと、洗練された料理。何よりオーナーが全国をまわり自らの足で選び抜いたという地酒が名物の、知る人ぞ知る名店。

 

その一室では、三人の若い男が酒を飲んでいた。

 

大の男が三人も顔を突き合わせて、話す内容といえばウマ娘のトレーニング理論や戦略、ケア、マネジメントのことばかり。言葉の端々からは確かな経験値が滲み出ており、彼らが現役のトレーナーであることが伺い知れる。

 

そんな中、黒にグリーンの差し色が入ったネクタイをしめた男が机に両手をつくと、額を机にこすりつけた。

 

「お願いがあります。俺を殺してください」

 

「また唐突だな。アルコールが悪いとこ入ったか?」

 

ライトピンクの襟シャツを着こなす男が顔をしかめる。

 

「ストレスに素早く効くのはカフェインとセロトニンだ。コーヒーとバナナを摂取して仮眠をとるのがおすすめだぞ」

 

グレーのベストを着た理知的な男がふところからバナナを一本差し出した。

 

「うん、ありがとう。バナナはいらない」

 

「軽負荷の運動も非常に効果的だ。俺もハヤヒデに誘われて朝のジョギングを取り入れているんだ」

 

「話が逸れてるぞ。そんで?何かあったのか」

 

「ご存知ですか?あのウイニングチケットを担当しているのはこの俺なんです!」

 

ピンクの男の眉間にシワが寄る。

 

「めんどくせえ広告みたいに言うなよ」

 

「ご存知も何も…それぞれナリタタイシンとビワハヤヒデを担当していて、チケットのトレーナーを知らないのはありえんだろう」

 

「そう、チケットはかわいいんですよ」

 

「はあ?」

 

「彼女のかわいさについては俺も同意する部分がある。一番はハヤヒデだが」

 

「いやチケットだね!!一番はチケット!!」

 

「うるせえな急に!人それぞれだろそんなの俺はタイシンだと思うけど」

 

「そう、チケットはかわいい…いつも元気で前向きで、ちょっとしたことでも泣いちゃう感動屋さんで、色んなことに正面から向き合う、本当にいい子なんです」

 

「トレーナーとして、彼女を見守るいち大人として、そんな彼女がかわいくて仕方ない」

 

「でもね」

 

「ああ」

 

一瞬、三人の間に静寂が訪れる。緑の男が天井を仰ぎひと息入れると、手で顔を覆って口を開いた。

 

「そんな俺は今日!チケットに嫌われたかもしれない!!」

 

くぐもった声で叫ぶという器用なことをしながら、緑の男は頭を抱えた。

 

「はあ?」

 

「実は俺はチケットを……よこしまな目で見てしまっているんですが!!」

 

ふたたび静寂。

 

「………お前、まさかそれ言うために防音効いた個室料亭選んだのか?」

 

「とんだ馬鹿野郎だな」

 

グレーの男が鼻で笑った。それを見た緑の男が、グレーの男をキッとにらみつける。

 

「トレーナーなら何よりも守るべき秘密だろうが!」

 

「それはそう」

 

「ウマ娘に私心を抱くな。トレーナーとして最初に学ぶことだからな」

 

というのも、と緑の男が続ける。

 

「チケットは元々フレンドリーっていうか距離感近めの子なんだけど、ダービーあたりからそれがバグり始めてさあ!タブレット見てたら『なに見てるのー?』って肩くっつけて覗き込んでくるし、学園で会ったらトレーナーさん見つけたーっつって抱きついてくるし!!それがトレーニング前だったら『いっしょにいこーっ!』って手ぇ繋いでくるし!!」

 

「うわ…やばいな」

 

「彼女のプロポーションと君の女性の好みを考えれば…君の勝率は限りなく0に近い」

 

「プロポーションとか言うな!思い出して意識しちゃうだろ!!クソっ静まれ俺の【ハロン棒】!!」

 

男は梅干しのように渋い顔になり、自らの股間を恨めしそうにねめつけた。

 

「眠いんだか知らんがトレーナー室で無防備に眠りこけやがってよお…!しかもなんで体操服なんだよ!!そんなことしたら…そんなことしたら危ねえだろうが!!!」

 

「うるせえなあ!!」

 

「トレーニング終わって『疲れたー!マッサージしてー!』じゃねえんだこの小悪魔ちゃんが!!ほっかほかの無防備スポーツ少女の汗っかきボディ触っちまったら俺の理性はもういっぱいおっp…いっぱいだよ!!いや断ったけどね!!てか期待の眼差し向けんなよ!代わりに専門の女性マッサージ師呼んだらしゅんとしてんじゃねえよおお!!」

 

余程ショッキングなことを思い出したのか、何かから逃れるように身体をはね上げ、今まさに釣り上げられた天然マグロのようにのたうち回る男。すぐさまほかの二人に押さえ込まれた。

 

「ああー!!大人しくしやがれ!!」

 

「そろそろ本題に移ってくれないか?」

 

「お前はお前で落ち着きすぎだろ!!」

 

マグロ男はすとん、と席に座り直すと、今度は抑揚のない声で朗々と語りはじめた。

 

「ああ、それでもう瞑想も護摩行も滝行も自己催眠も効かなくなってきたからさ。あとはもう死ぬしか無いだろ?となると、俺が死んでもお前達にならチケットの引き継ぎも俺の死体の処理も任せられるからさ」

 

「飛躍しすぎだろ。てかどんだけ修行してんだよ」

 

「瞑想は悪い選択ではないと思ったが」

 

「瞑想はね、何も無いところにチケットが見えて、触れるようになってからやらなくなった」

 

帰ってこれなくなると思って。男はそう言って、両手を前にのばして『何か』をなぞり始める。

 

「ヤバい方向行ってんじゃねえか」

 

「そんで、流石にまずいと思ってさ」

 

「いつもみたいにくっついてこようとするチケットを、こう…押しのけたんだよ。ちょっと近すぎるかもって。そしたらさあ!!!」

 

「チケットがすんげー悲しげな顔になっちゃってさあ!!震える声で『あ…ごめん』ってよ!!!」

 

「終わったと思ったね!嫌われ確定ってか!ウマ娘を悲しませるトレーナーなんか生きてる意味ねーのよ!!」

 

ふたたびマグロになる男。

 

「で、一言目につながるってか」

 

マグロはぴたっと止まり、そのまま大の字になる。

 

「一思いに頼む」

 

「急に落ち着くなよ感情の起伏エグすぎるだろ」

 

「ううむ…だが死ぬのは最後にしよう。ほら、バナナだ。さっきのよりいいバナナだ。とりあえず、チケット君が積極的に接触を求めてくるのが、君には刺激が強すぎるんだな」

 

ピンクとグレーの男が顔を見合わせる。

 

「なら、チケットにちょっとそういうのは控えてもらうよう話をしとこうか」

 

「チケット君には悪いが、トレーナーの命の危機だ。背に腹はかえられんだろう。それでいいか?」

 

「うう…チケット…やめてくれ…俺には…家族が……!」

 

緑の男が苦しそうにしている。

 

「って、寝てるし。どんな夢見てんだこいつは全く…時間も遅いし、お開きだな。タクシーを呼ぼう」

 

「ああ。この件はハヤヒデに話してみるよ。とりあえずメッセージでも送って、彼女からチケット君にそれとなく伝えてもらおう。彼の話はある程度濁して…」

 

「頼む。そんで死ぬほど濁せよ。悪影響ってレベルじゃねえからなこれ」

 

 

◆◆◆

 

 

土曜日の夜。ウマ娘寮では、色んな子があれこれと日曜日の予定を立てたり、あの子は自主トレしてたのかな?ゆっくり休憩してる。あとは家族や友達とお話してたり。まさに土曜日ーって感じ。

ところで、アタシはというと…すっごく焦っていた!!

 

「アタシ…トレーナーさんに嫌われちゃったかもしれないよお゛お゛お゛!!」

 

どうしようどうしよう!トレーナーさんといつも通りトレーニングしようと思ってたのに、アタシが変なことしちゃったせいでトレーナーさんに嫌われちゃったかも!

 

「うるっさ。何?あんた達いっつも仲良さそうにしてたじゃん」

 

「ふむ…とりあえず、詳しく聞かせてもらおう」

 

頭を抱えながら歩いてたら談話室にタイシンとハヤヒデがいたから、思わず駆け寄っちゃった!いきなりだったけど話を聞いてくれるみたい!こんな親友を持って幸せだぁあーーーッ!

 

「うん…あたし、昨日はいつもみたいにトレーナーさんとトレーニングしてたんだ!その日はプールだったんだけどね」

 

「水着に着替えてプールサイドに出たら、トレーナーさんがタブレットで今日のメニューの確認してたから、驚かせようと思って後ろから抱きついてみたんだ!」

 

「何やってんのアンタ」

 

「そしたらトレーナーさん、すごい顔で『チケット、ちょっと近いよ』って、アタシをこう…ぐっ、て」

 

「押しのけられたわけか。なるほど」

 

なんで?って一晩かけて考えたけど、結局、トレーナーさんがなんでそうしたか分かんなくて、もしかしたら…って思って。思い出したら泣けてきちゃった…いやいや、今はガマン!

 

「いつもは抱きついても笑ってくれるのに…昨日はアタシ、何かダメなことしちゃったのかな!?」

 

「バカ。当たり前でしょ」

 

「うむ」

 

「ええ〜〜〜っ!?」

 

この大問題に、なぜか二人はすっごく冷静だった。ていうか冷ややか?分かってないな〜って感じのリアクション!?なんで!?どういうこと!?

 

「あんたのトレーナー男でしょ?付き合ってもないのに水着で抱きつかれたらこの子ヤバいって思うに決まってるでしょ」

 

「本格的な説教をされていてもおかしくなかったと私は思う」

 

「そんな〜!確かにアタシとトレーナーさんは仲良しだと思うけど、みんなそのくらいするんじゃないの!?」

 

だってトレーナーさん見つけたら嬉しくなっちゃうし、一緒にいる時はなるべくくっついてたい!触りたいし触ってほしい!そういうものでしょ?

 

「普通、トレーナーとウマ娘は同性の友達とか恋人みたいにベタベタしないの。ましてや水着で抱きつくなんて論外。アンタ達がおかしいんだって」

 

「でもタイシンだって、たまにトレーナーさんの膝の上でお弁当食べてるじゃん!」

 

「んぐっ…!な、なんで知って…って、アタシのことは今関係ない!」

 

「二人とも、トレーナーとウマ娘は互いの信頼関係が大切だが、それと同様に適度な距離感を保つことも大切なんだぞ?全く…」

 

「……先週の水曜の夜、あんたがトレーナー寮に入ってくの見たって子がいるんだけど」

 

「むっ」

 

「あ!木曜日もだよねー!あたし、ハヤヒデのトレーナーさんと腕組んで商店街歩いてたの見たよ!」

 

「んな、何故それを…こほん!とにかく、今回を機にチケットはトレーナーとの接触を控える方がいいだろう」

 

勘違いが起こる前にな。ハヤヒデはそう言ってアタシを見た。メガネをクイッてしてる。

でも勘違いってどういうこと?

 

「勘違いじゃないよ?アタシ、トレーナーさんのこと好きだもん!」

 

「!?」

 

だって…

 

「トレーナーさんはアタシのダービー勝ちたいって気持ちをずっと一番前で応援してくれたし、アタシがくじけそうだったときは一晩中励まして勇気づけてくれたんだ!アタシと一緒にスポーツだって楽しんでくれるし、あ!今度トレーナーさんとバドミントンやる約束してるんだよ!楽しみだな〜〜!あとあと、トレーニングだってアタシのことホントに大事なんだって気持ちが伝わってくるし、何よりお話ししててすっごい楽しくて安心する!トレーナーさんに見つめられるとドキドキするし、声を聞くとなんか胸のあたりがぎゅってなる。でもそれは全然嫌じゃないし、もっと欲しいって思う。だからずっと一緒にいたい!ず〜っとぴったりくっついてたい!そんなサイコーのトレーナーさんなんだ!!あっ、思い出したら会いたくなっちゃった…うっ…ううっ…うぉおおーーーーーんッ!トレーナーさん、会いたいよぉおおおーーーーーッ!!」

 

「………ハヤヒデ、アンタ【これ】知ってた?」

 

「悪いが、初耳だ」

 

「だよね。チケット、アンタがトレーナーを好きなのは分かったから、落ち着きなよ」

 

アタシが泣いてたら、タイシンが背中をさすってくれた。優しいなあ。おかげでちょっと落ち着いたかも。よく考えたら、トレーナーさんには、来週また会えるもんね。少しの辛抱だ!あっ、でも…

 

「グスっ…うん…でもでも、アタシ、トレーナーさんに…き、嫌われ……うお゛お゛お゛」

 

「…あーもう!どうせ嫌われてなんかないんだから大丈夫だっての!」

 

背中をさすってくれてたタイシンだけど、そのまま背中をパシンってひっぱたかれた。びっくりしたけど、あれタイシン、今なんて言ったの!?

 

「…へっ?アタシ、トレーナーさんに嫌われてないの!?」

 

思わず聞き返したら、ハヤヒデが実は…って話しはじめた。

 

「言うタイミングを逸してしまったが、私のトレーナー君から、君のトレーナーがその、思わず押しのけてしまったことを気に病んでいたと話があってね」

 

「アタシのトレーナーからも似たようなこと言われたよ。『担当が気を許してくれるのは嬉しいんだが、あまりに近すぎると意識してしまうんだよ。チケット君にもそれとなく伝えてやってくれないか』だってさ。全くひとの気も知らないで…」

 

えっとつまり、ベタベタしすぎてトレーナーさんに嫌われたっていうのは、アタシの勘違いだった、ってこと!?

 

「そ…そっかあ〜!嫌われてなくてよかったよぉおおおーーーーーッ!!」

 

あれ?でも…

 

「グス…でも、【意識してしまう】って、どういう意味なんだろ?」

 

「………あー……ハヤヒデ?」

 

「わ、私か…ううむ………つまりチケット。君のトレーナー君は………

 

アタシはそのままハヤヒデの話を聞いた。

えっ?意識するって、そんな意味なの!?

 

 

…へえ、そうなんだ。

 

 

◆◆◆

 

 

「トレーナーさん!トレーニング、今日も張り切っていこー!」

 

「ああ。チケットっ…な、なんだその格好は!!」

 

トレーナーさんとまた会えた!土日に会えないだけですっごく寂しかったから、この会えて嬉しいーって気持ちもすっごく大きいんだよね!

でもホントは毎日一緒にいたいんだけどなあ…

あ!トレーナーさんびっくりしてる。よしっ、まずは作戦成功だ!

 

「これ?学園指定の水着だよ?」

 

「それは知ってるけど、そうじゃなくて…今日はプールトレーニングの日じゃないぞ!そもそもここは…」

 

「トレーナー室、だよね。知ってるよ!」

 

「だったら…」

 

アタシがなんで水着着てきたか、トレーナーさんはピンと来てないみたい。でも大事なのはここから!アタシだって金曜日のことがあったから、けっこう勇気出してきたんだ!

 

「大丈夫だよ!今この部屋にはアタシとトレーナーさんだけ。カギもかけたよ、ほら」

 

がちゃん。後ろ手にトレーナー室のカギをかける。これで、誰もこの部屋には入ってこれない。それに、もしトレーナーさんが出ようと思っても、アタシが扉の前にいるからね。

 

「なんでそんなことを…」

 

「じゃあトレーナーさん、そこでじっとしててね…」

 

扉を背に、トレーナーさんに近づいていく。トレーナーさんもとまどってるみたいで、腰を落として変なカッコしてる。あは、なんかレスリングでも始めるみたい。

 

そのまま近づいていって、ついに、アタシの手がトレーナーさんの手の甲に触れる。そのまま手を重ねた。アタシの手より、少しだけひんやりしてて、大きくて、ごつごつしてる。好きだな、この手。

 

「…な、何を…なんでにじり寄ってくるんだ!」

 

トレーナーさんはアタシから目をそらしてる。だけど…

うん。そろそろいいかな。アタシもドキドキが限界だ。思い切って聞いてみよう!

 

「トレーナーさん、どう?今のあたし、【意識】する?」

 

「えっ…あ、ああ!す、する!するから!」

 

トレーナーさんは、アタシが急にこんなこと聞くから驚いたみたいだけど、それでもちゃんとアタシの望む答えをくれた!

やったーー!二人が言ったとおり、トレーナーさんはアタシのこと好きだって、ちゃんと女の子だって思ってくれてるみたい!

なんだろ、胸の奥がわーーーってなって、とにかく、なんかすっごくうれしい!!

 

「…あはっ♪」

 

「チケットおおおおおお!!?」

 

うれしすぎて、トレーナーさんに抱きついちゃった!金曜日はダメだったけど、今度はトレーナーさんも受け止めてくれた。それがまたうれしくって、トレーナーさんの胸に頭をぐりぐり押しつける。ああ、トレーナーさんのにおいがする!服越しに、トレーナーさんの体温が伝わってくる!アタシ今、すっごくドキドキしてる!トレーナーさんはどうなんだろう?アタシと一緒だとうれしいな!

 

「どう?トレーナーさん、ドキドキする?」

 

「ドキドキっていうか、ハラハラしてるっていうか、と、とにかく落ち着いて、いったん離れてくれないか!?」

 

トレーナーさんは、今度はアタシの望むような答えはくれなかった。でも大丈夫!抱きついてるから、トレーナーさんの鼓動も伝わってるよ!すごくドキドキしてる。これも、アタシを【意識】してるって証拠だよね。

 

あとは、ちゃんと教えてほしいな。トレーナーさんの口から!

 

「トレーナーさん!アタシ、トレーナーさんに聞きたいことがあるんだ」

 

「トレーナーさんはさ、アタシのこと好き?」

 

「…っ!?」

 

「アタシは好きだよ」

 

あはは!言っちゃった。でも一回言っちゃえば、あとはすんなり言葉が出てくる。

 

「アタシがダービーに出て勝ちたいって言ったら、『わかった、一緒にがんばろう』って言ってくれる人はひとりもいなかった」

 

「そりゃあ、アタシだってダービーがどんなに難しいレースかは知ってたし、その時のアタシの実力から考えれば、どれだけ途方もないこと言ってるのかもわかってた」

 

「トレーナーさんだけなんだ。このトレセン学園で、アタシの夢を『素敵だ』って、『一緒に目指そう』って言ってくれたの」

 

「全力で頑張ることしか知らないアタシを、トレーナーさんは粘り強く本気で向き合って、鍛え上げてくれて」

 

「皐月賞でタイシンに負けて、もうダメかもって不安になったときは、つきっきりで励ましてくれて」

 

「そして…ダービーを勝たせてくれた。ホントにアタシの夢を叶えてくれた」

 

「チケット…」

 

「こんなの、好きになっちゃうよ」

 

もう一度、ぎゅっ、て、トレーナーさんの身体を抱きしめる。トレーナーさんはアタシが離れる気がないことをわかってくれたみたいで、頭をぽんぽんしてくれた。優しいな。ありがとう。

でもトレーナーさんの返事、聞いてないよ。

 

「あのさ。トレーナーさんは、アタシのこと、【意識】しちゃうんだよね?」

 

「!?」

 

「だから、行こうよ」

 

「意識のその先!」

 

そう言って、トレーナーさんの目を見つめる。トレーナーさんは3秒ぐらいかな、アタシの目を見つめ返したあと…

 

後ろの壁に頭を打ち付けて気絶した。

 

「トレーナーさーーーーーーんッ!!?」

 

 

◆◆◆

 

 

翌週、ふたたび金曜日の夜。

 

薄暗いバーカウンターで、ピンクがあしらわれたアウターを羽織る男の隣のスツールに、グレーのハットを被った男が腰かける。

 

「お疲れ様。今連絡があった。アイツ、やっぱり来れないようだ」

 

「だろうな。一応誘ったけど、あんなことがあった後じゃ、俺達と居酒屋でクダ巻いてる暇はねえだろ」

 

「ああ。何しろ今や学園の話題の中心だ」

 

「ウイニングチケットの『恋人宣言』な。アイツには悪いが笑わせてもらった。歴史に残るぜこいつは」

 

二人は天井を見上げ、学園を騒然とさせた『事件』を思い出していた。

 

今週の火曜の夕方のことだった。ウイニングチケットが屋上から大声で、トレーナーとの将来を誓う言葉を叫びだしたのだ。

 

じきにウイニングチケットは大人しくなったが、本人曰く『うれしさが爆発した』とのことだった。

 

前年のダービーウマ娘が引き起こした事件に、学園はトレーナーへ事情聴取を開始。トレーナーも妙にスッキリした顔で『間違いありません』と言うものだから、それがどこからか学園中に広まってしまえば、年頃のウマ娘にとってこれほど上質なエサはない。

 

今頃はその対処に追われているのだろうその男に、二人は憐憫の眼差しを向けた。

その時、ピンクの男のポケットが震えた。画面には、彼の担当ウマ娘のぶっきらぼうな短いメッセージ。

 

「おっと、タイシンか…『今から会いたい』?何かあったのか?」

 

「トレーナーは担当第一。支払いはしとくから行ってこい」

 

「すまねえ、また今度埋め合わせする」

 

そう言って、ピンクの男はバーを飛び出していく。

 

「…触発されたクチかな。まあ、あの二人もかなり怪しかったし…ご愁傷さま、というところか」

 

グレーの男は空っぽになったグラスを置くと、二人分の会計を済ませる。

店を出た男は驚愕に目を見開いた。なぜなら、店の前で、自分の担当ウマ娘がこちらを見ていたのだから。

 

「ハ、ハヤヒデ?一体どうしたんだこんなところで」

 

「いきなりすまない、トレーナー君…少し、歩かないか。話したいことがあるんだが…」

 

男の足に、芦毛の尻尾が絡みついた。

 

 

 

そうして、夜は更けていった………

 

 





三人称視点とウマ娘視点の練習ということで書きました。あと前書きの同キャラ縛りやめました。
今回はBNWとそれぞれのトレーナーを出しましたが、その中で悩んだのがトレーナーの固有名詞どうすんねん問題です。
適当に名字つけるのがまあ無難なんですけど、どのウマ娘の担当か直感的に分からないのが問題で、わざわざ読む人に覚えてもらわないといけないってところが難しいんですよね。チケトレ氏とかでもいいんですけど、今回はお試しで別の方法を使いました。色で分かるでしょってことです。分かりづらかったら申し訳ない。以下は無駄話です。


個人的にはウイニングチケットはメインストーリーでやられました。快活前向き全力少女が不安になって心折れかけちゃうシーンなんかぶっ刺さりですよ。そこからちゃんと立ち上がってダービー勝つのも、ストーリーとして一連の流れがスポ根ものの王道って感じで良いですよね。汗と涙と鼻水たらしてかわいいね。
あとなんだかんだ私が言いたいのはスポーツ系女子が見せる『女の子』っていう概念自体がですね無自覚系でもいいし分かっててあえて無自覚を装うのも大好きでスペースが足りないので切り上げます
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