たまに長ったらしい地の文が入るのは趣味です。
たいてい読み飛ばしても影響ないです。
ゴールドシップに湿度マシマシの激重感情向けられたくないですか?そう、ゴールドシップに湿度マシマシの激重感情向けられたいんですよ。そういう話です。
聞こえる。
彼女の足音が聞こえる。
力強いその音が、大地を踏み抜きやってくる。
「さあ最終コーナーを回って最後の直線に入る!ここまでしんがりの───はどうする!?」
「おおっと内を突いて───!この不良バ場を、泥を蹴り上げやってきた!───ものすごい脚だ!ここで先頭集団も抜き去り一気に先頭に立った!」
「速い速い!後続は伸びてこない!───もはや独走状態!」
「───だ!もう間違いない!もう間違いない!!───が今一着でゴール!!URAファイナルズ決勝、勝ったのは───!」
歓声が大地を震わせる。彼女がこちらを向いた。視線が交わる。
「やった!やったぞ!一番だ!よくやってくれた!お前は最高のウマ娘だ!ゴ───
────
───
──
◆◆◆
「ん…」
窓から差し込む、おだやかな日差し。
外では雀が互いの歌声を競いあっている。
春。出会いと別れ、新たな門出の季節。
昨日仕掛けた時計のアラームを聞きながら、眠っていた脳が少しずつ覚醒するのを感じた。
「朝か…」
思い出せないが、何か、いい夢を見ていた気がする。
時計を止め、目をこすりながらベッドから身体を起こして、朝食を済ませ、顔を洗う。
姿見の前で真新しいネイビーのスーツに袖を通す。仕立てが間に合ってよかった。
半透明のケースから『蹄鉄をかたどったバッジ』を取り出し、少し苦戦しながらもそれを胸元にとりつけた。
「今日から俺もトレーナーかあ」
鏡に映る自分を見ても、まだ実感がわかない。まだクセの付いていない糊の乗ったジャケットが、ほつれひとつないベストが、いかにも新人然として落ち着かない自分の佇まいを際立たせる。
見れば見るほど、胸のバッジだけが威厳を放ち、自分から浮いているような気がする。
「いつかは、俺もG1を勝てるような子を育てたいな…その時には、このバッジだって似合うようになってるはずだ」
不安はあるが、それ以上の期待に胸をふくらます。これから先、どんな子に出会えるだろうか。どんな夢を持っているだろうか。まだ見ぬ担当ウマ娘が大舞台で走る姿を夢想する。
「よし…行ってきます」
両手で頬をひとつはたいて気合を入れる。部屋を出て、朝の空気をいっぱいに吸い込んだ。天気は快晴、すっかり目も覚めた。出勤初日、張り切っていこう!
◆◆◆
一週間後。俺はトレセン学園のベンチに座って頭を抱えていた。
「はあ〜……またダメかあ〜〜〜………」
果たして、新人トレーナーの自分がよほど頼りなく見えるからなのか、声のかけ方、誘い方が悪いのか。
様々なウマ娘に声をかけ、スカウトしてみるものの、残念なことに現在に至るまで、そのことごとくに断られてしまっていた。
「いったい何が足りないんだぁ…?」
確かに、実績のない新人トレーナーと契約することはウマ娘にとっても大きな賭けだ。新人トレーナーと組んで大きな実績を残した例こそあるが、彼女たちにとってこの三年間は人生で一度だけのチャンス。簡単に決められることではない。
理解しているつもりだった。だが…これほどその壁が厚いとは。
打ちのめされすっかり自信も勢いもなくした俺は、ついに頭を働かせるのも億劫になり、あてもなくふらふらと敷地内を歩き回った。
ウマ娘でにぎわう練習コースを抜け、中庭から渡り廊下、図書室、屋上、三女神像、そこから導かれるようにして、けもの道、裏山の休憩所…
「…あれ?」
いつしか日も沈みかけ、空がすっかり夕暮れ色に染まったころ。気がつくと俺は、あちこち歩いた挙句こんな裏山の奥までやってきてしまったようだった。
地面に長く暗い影を落とす木々が、ざわざわと揺れている。カラスかコウモリが群れをなして飛び回り、しめりけを含んだ、春にしては冷たい風が頬を撫でた。
背筋に冷たいものが走る。なんとなく自分がいるべきでない所に入り込んでしまったような不気味さを覚えた。
「…なんでこんなとこ来たんだか。夜になる前に戻らないと…」
「───よう、なんだオマエこんなとこで。迷子か?人生の」
踵を返し、来た道を戻ろうとしたところで、背後から声をかけられた。振り向くと、ひときわ大きな木の裏から、まるで美術品と見紛うような美しいウマ娘が姿を現した。綺麗に切り揃えた芦毛の長髪は、夕日を受けて黄金に輝いている。こちらを見る眠たげなまぶたに、特徴的なヘッドギア。
「君は…」
その時だった。突如視界が真っ白な光に覆われたかと思うと、走マ灯のように『知らない記憶』が連続してフラッシュバックする────
道を歩いていたらいきなりこのウマ娘に連れ去られ、流されるままに担当契約を結んだこと。
気分屋の彼女をなんとか宥めすかして、トレーニングを重ねたこと。
フランスの森の奥に置き去りにされたこと。
宝塚記念。
そして、俺は担当ウマ娘となった彼女と二人三脚で、三年間を数々の勝利で飾り、その勢いのままURAファイナルズ決勝へ挑むと、そこで見事に勝利し…
喜んで彼女に駆け寄る俺。ターフの上で佇む彼女がこちらを振り向いて───
そこで記憶が途切れる。
そうだ。忘れるはずが無い、そのはずだったのに。
彼女の名前は───
「ゴールド、シップ…?」
「……なんだ、アタシのこと知ってんのか?確かにアタシは正真正銘ゴルシちゃんだけど?」
間違いない。
知識として、というレベルじゃなく、俺はゴールドシップというウマ娘を、その身をもって『知っている』。担当したという『実感』がある。彼女と三年間を過ごしてきたという『確信』がある。
しかも────
不可解なことに、彼女との三年間に関わる記憶が『複数』ある。例えばゴールドシップに連れ去られるにしても、学園の裏手で連れ去られる時もあれば、海辺や路地裏、白昼堂々誘拐されたことを記憶している。
つまり、出会い方や出るレース…細かい部分に違いはあるものの、何度も、何度も、俺と彼女は似たようなことを繰り返している。
これは、どういうことだ?
「………」
遠のく意識を無理矢理引き戻し、口元に手をやり、思考を巡らせる。首元にかけて身体が熱を帯びる。鼓動が早まる。額に汗がにじむ。
「?おいおい、大丈夫か?お腹いてーのか?赤色のキノコでビッグになれるのはごく一部の特殊な才能とヒゲがあるヤツだけだってアタシの話聞いてなかったのか?」
そして。
ここまで思い出した情報をもとにして、ある『仮説』が浮かびあがった。
「…なあ、ゴールドシップ」
ひと息、呼吸を入れる。彼女は腰に手を当て、こちらをのぞきこんで心配そうにしている…いや、違う。一見そう見えるが、その実俺の反応を見て興味を持ち、面白がっている。何か、こちらのリアクションを期待していることが分かる。
「おう!帰り道が分かんねえのか?アタシはもう少しここでハルゼミの気分になってから帰「お前、『何回目』だ?」…」
「───!」
ゴールドシップの目が見開かれた。何度も繰り返した記憶の中でも、中々見ないような驚きに満ちた顔だった。
────俺の頭に浮かんだ『仮説』。
俺の中に存在する、通常あるはずのない、しかし確信めいたいくつもの記憶。
その全てにおいて、俺とゴールドシップは出会い、担当契約を結び、三年間を過ごし、そして途切れる。ということは…
『俺はこの三年間を無数に繰り返しているのではないか?』
『それを何らかの理由、または偶然によって思い出したのではないか?』
ありえない、と理性が否定する。単なる勘違い、ここ最近のストレスによって、白昼夢でも見たに過ぎない。時間ループなどありえない。
ゴールドシップと俺は、ここで初めて出会ったのだ。
ありえない、と感情が否定する。白昼夢にしては『明確』すぎる。『実感』が伴いすぎている。ゴールドシップと俺は、今まで何度も何度も何度も何度も出会っていないとおかしいのだ。
そして、今俺の目の前にたたずむウマ娘。
ゴールドシップは、確かに一秒でも目を離せばどうなっているか分からないような破天荒ウマ娘。だが彼女は単なる狂人(狂ウマ娘?)ではない。むしろ根幹には確かな冷静さとしたたかさを持ち合わせている。彼女に慣れた者が見れば、その目や仕草からも、態度からでも、彼女の思考や感情の動きや、行動の目的はある程度読み取れる。
…そして、長年こいつの専属トレーナーをつとめてきたからこそ分かるものもある。彼女の言葉の裏にある、普段の口調との微妙な違い。
───隠しごとの気配。
この場でわざわざ隠すこととは何か?
本来、出会って間もないハズの二人である。自然と答えは絞られた。
すなわち、恐らく彼女は、俺のことを知っているが、それを俺に知られないようにしているのではないか。
つまり、それは。そこから導かれるもうひとつの『仮説』とは。
『ゴールドシップもまた、この繰り返される三年間を、ともすれば俺よりも前から認識しているのではないか?』
だからカマをかけた。
結果、嘘つきや変なやつ扱いされるなら、それでもいい。だが────
「その反応を見るに、マジみたいだな」
「オ、オマエ………」
「俺の頭の中に、お前を担当した三年間の記憶が何重にもあるんだ。ありえないよな、『俺』は新人トレーナーで、お前はこの時点ではまだ担当のいないフリーのウマ娘のはずなのに」
「シップ…そうだ、俺はお前をそう呼んでた。…もしお前が知ってるなら、教えてくれないか。俺達に一体何が起きてるんだ?」
「………あー……うーん………ま、教えてやってもいいんだけどよ、その前に…」
「まずアタシの担当になってくれよ。アタシ的にそうじゃないと、ちょっと収まりつかねえからさ」
◆◆◆
結局、俺はゴールドシップの言うままに担当契約書を提出した後、トレーナー室で彼女の説明を受けることになった。
モダンなガラス机を挟んで、スツールを並べる。慣れた手つきで椅子を引き、ゴールドシップを座らせた。俺も対面に座り、何故かサングラスをかけたゴールドシップと向き合う。
「これで晴れてオマエはアタシのトレーナーってワケだ。よろしくな、トレーナー」
「ああ。誘拐されずに担当になったのは初めてか…それで、説明してくれるか?」
「おう。…んじゃ、まず大前提な。道すがら詳しく話してもらったオマエの予想はだいたいアタリ。確かにこの世界はループしてる」
多分な。とつけ加えて、ゴールドシップはいつの間にか外していたサングラスを器用にくるくると人差し指で回した。
「だからって毎回何もかも一緒ってワケじゃねえ。各ループごとにゆらぎがあって、例えばレースに勝ったり負けたりは、誰が勝ちやすいとか傾向はあるにしろ最終的にはその日の運次第だ」
「極端な話、URAファイナルズを優勝したウマ娘が、次のループでは担当契約を結ばねーまま未勝利で卒業してくことだってあるワケよ」
よよよ〜、と、誰かのモノマネをするゴールドシップ。記憶をたどれば、どのループでも彼女と仲のよかったメジロのお嬢様だと分かる。
「んで、ゴルシちゃんがこのループに気づいたのはー……まあ、ず〜〜っと昔の話だ。オマエらニンゲンがまだウホウホ言ってるぐらい。オマエの祖先にイワナとヤマメの見分け方を教えてやったのはアタシなんだから感謝しろよ?」
「いやこの三年間がループしてんだから、シップが原始人に会ってるのはおかしいだろ」
「るっせー!ゴルシちゃんあんまりマジメな話し過ぎると左わき腹の右ナナメ下が無性にかゆくなっちまうんだよ!」
「話戻すぞ。ほんでまあ、出口もわかんねーからよ、しょうがねえからアタシは適当に遊びながらゆるゆるループしてたんだよ。そしたらオマエがなんか珍しく山の方行きやがるから追っかけてみたらなんか変なこと言い出して…そんで」
「今に至る、と?」
「ま、そういうこった」
話は終わりだ、とでも言うように、ゴールドシップは糸が切れた人形のようにぐでんとスツールから崩れ落ち、うつ伏せになってその場で左右に一定周期で揺れながらわさわさと手をせわしなく動かし始めた。
…これは見たことがある。
「…タイヤが壊れたルンバのモノマネ?」
「おっ、よく分かったな!コイツを初見で見破ったやつぁ初めてだぜ!」
んじゃ、と今度は部屋の角にせり出した柱によじ登ると、そこからぼとりと落ちて動かなくなった。これも知っている。
「…セミファイナル。手足が開いてるからまだ生きてる。近づいたら激しく動いてジジジって鳴く」
「せいか〜い!テッテレー!ゴルシちゃんポイント1点!これも難しいヤツなんだけどな〜」
次ラストな、と部屋の中心…いやこちらに近づいてくるゴールドシップ。あと一歩でぶつかる、という至近距離で立ち止まると、俺を立たせた。
彼女の指が俺の手に触れ、ゆっくりと俺の手から肘、肩をなぞるように上がると、その両腕を俺の首の後ろに回した。ゴールドシップと目が合う。ゆっくりと、お互いの鼻先が触れそうな距離にまで彼女の顔が近づき───
「ココで問題」
「アタシはこれから何をするでしょーか?ヒントは…」
「後ろに回りこんでスープレックスだろ。力加減は分かってるだろうが、危ないからやめてくれ」
「………へっ、正解」
こつん、と彼女と俺の額同士がぶつかる。
「…ん。間違いねえみたいだな」
「しちゃってるぜ…ループ」
俺を見つめるローズピンクの瞳。彼女が目を細める。口角がわずかに上がり、隙間から白い歯がのぞく。ピンクの舌がちろりと現れる。
「アタシと一緒だな…へへ………」
ゴールドシップの目がいっそう細くなり、彼女の吐息が首元にかかる。首に回っていた手はいつの間にか両肩にかかり、痛いほどの力で掴まれている。
「シップ…?どうした?」
嫌な予感がして、じり、じりと後ずさっていく。
一歩、二歩。後ずさる。彼女は手を離さない。俺を離すまいと近づいてくる。三歩、四歩────とん、と背中に硬く冷えた感触。
「よう、そこの壁は壁抜けバグできねーぜ」
にいいっ、とゴールドシップの口が三日月のように歪む。
「ほれ、これでもう逃げらんねーな?」
猟奇的な笑みを浮かべたまま、両手で俺を壁に押しつけて、膝を股の間に差し込まれた。身動きがとれない…彼女の紅潮した顔がふたたび至近距離に迫った。
「な、何するんだ、離せ」
彼女はおもむろに俺の肩に頭を乗せ、そのまま耳元でささやくように話しはじめた。
「あ〜あ……黙ってりゃよかったのによう」
湿度を含む吐息が耳にかかる。
「なんにも知らねーフリしてりゃ、アタシは独りでゴールのない迷路をグルグル回ってる哀れなウマ娘で、オマエはアタシの単なるお気に入りの玩具」
「それだけの話で済んだのに」
「お気に入り…?俺が?」
「あん?なんだオマエ気づいてなかったのか?仕方ねえやつだなぁ……ほら、思い出してみろよ。アタシとアンタは、毎回どうやって出会ってんだ?」
子供をあやすような優しい口調で彼女は俺に問いかけた。
「どうやって、って…」
たいてい、同じだ。担当の見つからない俺のところにゴールドシップが現れて、何らかの方法で俺を連れ去っては担当ってことにしてくる。
そう、いつも同じ────
「あれ…?」
違和感。そうだ、もっと根本的な話…
そもそもなんで俺は、毎回必ずゴールドシップの専属トレーナーになるんだ?
先ほどの彼女の話を思い出す。ループには、ゆらぎがあると言っていた。担当トレーナーはループ毎に変わったり、担当がつかない可能性だってあると。
それなら俺がゴールドシップ以外を担当したり、どこかのチームに所属したり、誰とも契約を結べないループがあってもおかしくないんじゃないのか?
そもそも記憶によれば俺は、いつもはじめはゴールドシップを目当てにウマ娘のスカウトを進めていない。めぼしいウマ娘に断られたりはするが、仮に担当が決まりかけても、最終的にはゴールドシップに連れ去られてはいつの間にか契約を結ばされている。
つまり俺は、毎回結果的にそうなっているだけで、『担当するウマ娘がゴールドシップでないといけない必然的な理由がない』。
俺の方に理由がないのなら…当然に、もう一方に理由がある、と考える。
そしてゴールドシップが『ループ』を認識している前提を踏まえれば、自ずと答えは見えてくる。つまり────
「シップ、お前」
「わざと俺を毎回トレーナーにしてるのか…?」
「だぁから、お気に入りって言ってんだろ」
彼女が耳元で囁く。どうやら正解のようだった。
俺に寄りかかる身体の触れるところから、彼女の高い体温が伝わってくる。今までよりもう一段低くしっとりした声色で、彼女は続ける。
「ず〜っと、このループに気づいてるのはアタシだけだった。ループについて誰かに話したって、ソイツは次のループじゃアタシの存在ごと忘れてる」
「イイことしても、ワルイことしても、つまんねーことも面白かったことも、次のループじゃキレーさっぱり。ぜーんぶ消えて…そんでまた、ハジメマシテからだ」
「オマエ、定期的にリセットボタン押されるゲームを延々やらされる気持ち分かるか?」
「シップ…」
こちらをつかむ彼女の腕に力が入る。今まで以上に密着する彼女のにおいが肺に満ちる。
「でもな、アタシはそれでもよかったんだよ」
「だってアンタがいたから」
「アンタがアタシのトレーナーである限り、アンタがアタシと一緒にいてくれる限り、アタシの無限の三年間はずっと色褪せない、黄金の記憶になるんだから」
「アンタとアタシが出会って、面白おかしくバカやって、レースに勝って、そんな三年間がず〜っと続く。それはそれで幸せだと思ったんだ」
でも、だからこそ、と彼女は続ける。
「アンタ以外がアタシのトレーナーになるのは考えられねえ」
「アンタがアタシ以外のウマ娘を担当してるのなんか見たくねえ」
「だから毎回、ほかの担当が見つかる前にさらっては、無理矢理アタシだけのトレーナーにしてたんだ」
「お前…」
返しに困っていると、ゴールドシップがはた、となにかに気がついたように目を見開く。ぶわっ、と勢いよく後ろへ飛び退くと、後頭部に手をやってぎこちない笑みを浮かべた。
「……な、な〜んつってな!やべ、テンション上がって言いすぎたっつーか、言うつもりないとこまで出ちまったぜ…!」
「………」
「…お、おい、なんか言えよ………」
静かになったゴールドシップが上目遣いにこちらを見つめる。わずかに下がる眉と、行き場をなくして泳ぐ指先が、彼女の不安感を言葉なく示す。
なら、今度はこっちの番だ。
「シップ」
「!お、おう」
「ありがとな」
「へ…?」
「今までの俺の記憶を思い出してたんだけど…お前と出会って、担当して、最後に『後悔』したことは一度もなかったと思う」
「!」
もちろん、死ぬほど振り回されて大変だったけどな、とつけ加える。だが、それでも。
「だから、感謝してるんだよ、シップ」
「たとえ忘れてしまうと分かっていたとしても、俺に色んな景色を見せてくれて、ありがとう」
「お前はいつも、俺の最高の担当だった」
だから。
「お前さえよければ、これからのループも担当として一緒にいさせてくれ」
彼女に握手を求め、手を出した。
ゴールドシップはその手と俺の顔を交互に見ては、手をのばしたり引っ込めたりしている。
「お、お前…」
「い、いいのかよ。自分で言うのもなんだけど、アタシ相当ヤバいこと言ってるぜ?」
「それだけ俺のことを信頼してくれたんだろ」
「めちゃくちゃ嫉妬深いし」
「知ってるよ。じゃなきゃ毎回連れ去ったりしないだろ」
「アレはオマエがアタシ以外のやつと契約しようとするから!…じゃなくて、あと…」
「シップ、俺が何年お前のトレーナーやってると思ってるんだ。お前のことなら全部お見通しだよ」
「…まだ0日だろバーカ」
彼女はかすかに笑って、俺の手を取った。
「どりゃあああああーーーッッ!!!」
「うぉおおおおおおおッッ!!?」
手を思い切り引かれたかと思った次の瞬間、俺は床に仰向けに引き倒されていた。
「よっしゃーーーッ!!このゴールドシップ様にかなうとでも思ったかーーーッ!!」
盛大なかけ声とともに、彼女は俺の腹にのしかかったかと思えば、額を人差し指で突かれた。
「シップお前、急に……あれっ」
抵抗しようとして気がつく。身体が言うことを聞かない。
「秘孔を突いたからな。半日は首から下が動かねーぜ?さあて、次はどうしてやろうかな〜、ん〜?」
ニマニマとした彼女の顔が俺を覗き込む。
「………よしっ」
彼女が目を閉じた。
瞬間、口元に柔らかい感触。
「………へへ」
「………?……あっ、お前…!」
「さっきのオマエ、ちょっと生意気だったからな…お返しだぜ」
動揺している間に、じゃあな、あばよと言い残して、彼女はさっさと部屋から立ち去ってしまった。
してやられた、というどこかさわやかな感情が残された。きっとこれからも、俺は彼女にこうして振り回られるのだろう。
まあそれもいいだろう、と思った。
明日から彼女のトレーナーとしての活動が『また』始まる。身体を起こして───
「……やべ」
「アイツの身体、直すの忘れてたな」
思いつき、やる気が出次第書くので、思いつかないかやる気がなければずっと書きません。
いっぱい思いついたら、いっぱい書きます。
コンスタントに投稿してる人はすごいですよねホントに。