今回は新たな挑戦をしようと思って大好きな作品であるリコリス・リコイルの話を書いてみました!
拙い文章ですが楽しでくれると嬉しいです!
それではどうぞ!!
雨が降っている。まるで空が泣いているようだ。なんてありふれた事を言うつもりは少女にはない。
傘も刺さず、無様に雨に打たれ、張り付いた髪から覗く純粋無垢な瞳は目の前で蹲るもう1人の少女を真っ直ぐに見据えている。
「逃げ出しちゃう?ボクと君で」
「どうやって?ここから逃げ出すなんて、無理だよ」
「そこは気合いと根性さ」
そう言ってケラケラと軽く笑った。
「DAに居たとしても君は嫌になっちゃうでしょ?」
人殺しの力を教え込まれ、それが正しいことだと信じてしまう。それが嫌で2人は逃げ出そうとしていた。
「ボクは君を見捨てない。最後まで、一緒にいるよ」
少女のこの一言が。伸ばした手が世界を大きく変えた。
伸ばされた手を震えながらも彼女は取った。少女はその手を優しく握り、彼女に笑顔で未来を示してみせた。
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私、箕輪楓の朝は早い。
と言うには、程遠いまでに朝が苦手である。
ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピピピピピピピビピピピピピピピ。バァン!
布団の中からゾンビのように這い出た手が親の仇を取るが如く勢いで、目覚ましの音を粉砕した。ただ目覚ましは役目を果たしただけである。少し不憫だ。
「うる…さいなぁ……」
とは言え、目覚ましの事情など彼に取っては関係の無いこと。できる限り優しくしてあげたいとは常日頃思っている。ただそれでも眠りを妨げられることは何事にも耐え難いことであった。
「ボクはまだ眠るんだ……。夢の中で……良い夢を……」
戯言のように繰り返す彼は再び布団の中にその身体を溶け込ませていく。段々と布団と一心同体になり始めた私の化学反応を伸びてきた手が食い止めた。
「楓!起きてください。今日の朝食当番はあなたですよ」
私の同居人、結城奏が布団を剥いだ。
「わわ〜!奏の意地悪!まだボクはねむ……くないな」
「それなら早く食べてください」
「はいは〜い。全く。同居人がこうも真面目ちゃんだとボクも立場がない」
私がまだ開き切らない目を擦りながらリビングに向かうと、既に朝食が用意してあった。あれ?と首を傾げた私に奏は呆れ混じりに息を吐いた。
「少しは感謝してください。私だってご飯代わりに作るの嫌なんですから」
次の瞬間、私は奏に抱きついていた。
「なんですかこれは」
私の情熱とは裏腹に帰ってきた言葉は非常に冷めきっていた。
「何って大好きのハグじゃん」
「……私もです」
「ボクのこと好きすぎだね奏ちゃんは〜。もうそれは告白だよ」
「二度と楓には朝ごはん作りません」
「えぇ!?ちょっと!それは話が違うよ!?」
私の悲痛な叫びを無視して奏はテレビの電源をつける。ニュース番組の中では『延空木』と呼ばれる634メートルの高さを誇る電波塔が完成間近と紹介されていた。
「これ完成したら登りに行く?」
「お金があれば良いですよ」
「日々の生活費で消えていくバイト代を考えたら無理な話だ」
「それに完成した後なんて人が多くて行っても楽しめませんよ」
「そりゃそうだ」
私はケラケラと軽く笑った。
そんな会話をしている間に『延空木』のニュースは終わり、次の話題。次の事件発生数が連続2ヶ月0というニュースが流れた瞬間、奏は叩きつけるようにテレビの電源を落とした。
「そんなに嫌ならテレビ見なければ良いのに」
「今やこの東京でこの話題を見ずに過ごすのは不可能です」
「それだと尚更じゃない?」
「……それは、そうですね」
「気持ちはわかるよ」
「その割にはいつも平気そうですよね」
「割り切らないとね。ボクはその点は奏でより大人だ」
「よく言いますよ。朝も1人で起きられないくせに」
先程までの苦虫を噛み潰したような表情とは打って変わり、口の端を緩めて奏は立ち上がるとコーヒーを注ぎにキッチンに向かった。
私はコーヒーがカップに注がれる音を聞きながら、窓の外を眺める。
(平和で安全。綺麗な東京。犯罪は一切許さない法治国家日本、ね)
消して、消して、消して。そもそも存在がなかったかのようにされてしまう。そうして守られる平和。それが今の日本。それが正義であり、誇りであるのだ。
そして、この平和を守っているのが──。
「リコリス、ね」
「珍しいね。奏がその単語を言うなんて」
外を眺めている間に奏は椅子に戻ってきていた。
「私だって好きで言ったわけじゃないです」
「そう?と言うかもう出かける時間言うてなかった?」
「私まだコーヒー飲んでるんですが」
「優雅なものだね」
「私の唯一の趣味みたいなものなので。楓こそ何か趣味を持った方が良いですよ。あなた、思うより中身空っぽです」
「酷いこと言いよる……」
ただ、奏の言うことを全部否定できないのもまた事実だった。趣味という趣味を私は持ち合わせていない。
「人助けって趣味だったりするかな」
「趣味にするには些か不謹慎です。困ってない人が多い方が良いに決まってるんですから」
「今日はやけに言葉が鋭いね。どうしちゃったの」
「朝食の恨みです」
「うひゃひゃ〜。怖い怖い」
茶化すように自分の身体を抱きしめたのだが、奏の視線は鬼のようだ。きっと私は地獄に行くだろう。朝食を当番をサボったと言う罪を抱きながら。
「あまりにも業が深くないかな」
「普通だと思います」
「勘弁してよ」
譲る気のない奏の姿を見せられ、私は大人しく反省することにした。多分、反省しなければいけない。そうでないと未来が無い。
(まあ、元より未来はないんだけどね)
私はここに来て久しぶりに自分の境遇について思い出し、鼻で笑ってしまう。自らの選択を後悔はしていないが、年相応の日常を過ごせているかと言えばそうでもなかった。
夢にまで出てきたあの日の思い出が脳裏から顔を覗かせた所で、カップとソーサーがぶつかる小気味良い音で顔をあげる。
「ふぅ。一服したので私、バイトに行ってきます。楓はどうします?」
「ボクは用事があるから出かけるよ。奏が出かけてから行くから鍵はそのままにしておいて」
「わかりました。行ってきます」
「ほいほい。気をつけてね〜」
奏は歯だけ磨くとそのまま外に出て行った。ボロアパートのせいで軋む扉の音が虚しく部屋の中に残像を残す。
私は誰も居なくなった部屋で天井を見上げ、夢に見たあの日の事を再び振り返った。
「もうあれから何年経ったのかな」
時間を忘れてしまうほどにはこの生活に馴染んでしまったらしかった。
私は部屋にいるのも何だか気分が優れないので、予定の時間よりも早く部屋を出たのだった。
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今の日本は至極真っ当に平和である。その平和は『DA』と言う組織と『リコリス』と呼ばれる少女達によって構成する部隊によって保たれている。
今から3年前の事だ。私と奏は元々犯罪者や犯罪を行おうとする人物に対して暗殺などを実行するエージェントたる少女・リコリスだった。
表だけ見れば正義の部隊だが、裏を覗けば人命軽視の暗殺集団である。
私と奏はDAとリコリス達の人命を軽視した作戦に嫌気がさし、逃亡がバレれば処分されるとわかっていながら私と奏はDAを抜け出した。
(まあ、簡単に捕まっちゃったんだけどね)
逃亡作戦自体が杜撰なものだったのは間違いなく、私と奏は逃亡2日目にして捕えられた。
ただ、事情聴取を受けただけで私と奏は解放され、リコリスの第一線を退くと同時にDA監視の下であれば日常生活をする事を許された。処分による死を覚悟していただけにこの処罰は拍子抜けだったのを今でも覚えている。
(私の人生で一番ドキドキしたのがあの瞬間ってのがまた業が深い。あれ以来、私は抜け殻だなあ)
青く澄み切った空と街中の雑踏。この二つの織りなす空気感をたっぷり味わいながら私は自転車を漕ぐ。
(戸籍が無いから学校にも行けないし、バイトも限られたものしかできないし。相当な罰にはなってるよね)
リコリスとしての第一線は退いたものの、今も登録上は私も奏もリコリスだ。DAの中では私達の事を「臆病者」や「裏切り者」と蔑称する者も少なくないらしい。
(まあ、ファーストだった私が任務を放棄して逃亡したんだ。当然か)
リコリスにも階級がある。順に下からサード、セカンド、ファーストと言った具合だ。
リコリスの最も高位の階級に属していながら私はDAを裏切った。本当に良く生かせてもらっていると言う感じである。
「っと、昔話を思い出してる間に着いちゃった」
私が辿りついたのはとある喫茶店。アパートから自転車で20分ほどにある小さなお店だ。
【喫茶Lyco Reco】と書かれたネームプレートがぶら下がる扉を開けて中に入る。どうして喫茶店に入る時のドアベルの音と言うのはここまで風情を掻き立てるものなのか。そんな事を考えていると厨房から1人の女の子が顔を覗かせ、私を見るなり目を輝かせ飛び出してきた。
「おおっー!楓!何年ぶり!?」
「昨日かな」
「あれ?そうだっけ」
今、話しているのは錦木千束。私と同い年の17歳で、黄色みがかった白色の髪をボブカットに切り揃えており、左サイドだけ巻き髪と赤いリボンで飾られたアシンメトリーな髪型をした少女。顔立ちは異常なまでに良く、常に元気いっぱいで笑顔を絶やさない正に主人公と言った感じの子。
リボンも含め、赤色が好きなのか、髪を結んでいるリボンや私服のカラーリングは普段から赤を基調とした服を着ていることが多い。
「それで今日は千束さんにどんな用だい?」
「暇だから話相手になって貰おうかなって」
「おっ!いいじゃない!私も暇だったから丁度良かった!」
千束は屈託ない笑みを浮かべ、私をカウンター席に案内すると千束は私の隣に座った。
何だか少し距離が近いような気がするが、これはいつもの事だ。
「どんなお話する?恋バナとか!?」
「良いね!なんて言いたいけどあいにく誰かに恋するような余裕はないよ」
「楓は17歳だよ!今をトキメク女の子なんだよ!そんな悲観している場合じゃない!」
「千束だってそうじゃん」
「私はやりたい事さ・い・ゆ・う・せ・ん!今は恋とかは良いかな」
「逃げたな!?」
「避け上手だからね」
「やかましいわ!」
一旦、私と千束は2人で吐き出してお腹を抱えて笑った。千束とは何処となく似たものを感じている。
私が奏を除いて唯一、親友と呼べるのは千束だけだろう。
「ふふっ。はあ。笑った笑った。と言うわけで千束、ちょっと真面目な話OK?」
「OK!」
千束はノリと勢いで私にショットガンの銃口を向ける真似をする。それを見た私は再び吹き出した。
「コマンドーって今の子わかるのかな」
「名作だしわかるんじゃない?」
「かな。いかんいかん。また話が逸れた。もう一度話を戻すとして、ボクがリコリスに戻れって言うのは本当なの?」
私がここを訪れた理由はこれを確認するためだった。
先日、DAの本部から一通の手紙が届いた。内容は「リコリスに戻って来い」というものだった。
私の問いに千束は肩をすくめながら頷いた。
「みたいだよ。楠木さん曰く、ファーストが足りないってさ」
「また逃げ出すかもしれないのに?」
「もうあの事は水に流すって」
「優しい事で。当時はボクのこと本気で潰しにかかってたのに」
「多分、リコリスの逃走なんて初だったから楠木司令も焦ってたんだよ。しかもそれがあの楓なら尚更」
「前代未聞の反乱分子になれたのなら光栄だね」
私が変な所に胸を張っていると、千束はニヤリと笑って私の手を取った。
「それなら次は私も混ぜて貰おうかな!」
「勝ち確じゃん!やりい!最高の仲間ゲットだぜ!」
2人して手を繋いでキャッキャッと騒ぐ。そこに割り込むように昼間から酒瓶を抱えた喫茶リコリコの店員。中原ミズキが何やら液体が入ったコップを私の前に力強く置いた。
ちなみに、ミズキさんはDAの元情報部員であったが組織に嫌気がさし、DAをやめて喫茶店の店員になっている。
本当なら店長のミカと言うハードボイルドな雰囲気の黒人男性の店長もいるのだが今日は見当たらない。私と千束、他のリコリスはミカのことを先生と呼んでいる。
先生の事はさておき、ミズキさんは血走った目で私を睨みつけると一言。
「飲め!!」
「いや絶対これお酒ですよね!?ボク、未成年ですよ!?」
「あぁん!?」
まるで恫喝するかのように私に迫るミズキさん。しかし、その顔は千束が持つ、何処で買うのかバックサイズなハリセンで吹き飛ばされた。
「おぃおぃ酔っ払い。私の友人になにしてくれとんじゃ」
「うぅ……。また振られたからその腹いせにと……」
「一升瓶持って床に這いつくばって泣いてるから結婚相手見つからないんですよ」
「2人とも物理と言葉で私を傷つけるのやめて!!」
お店の中はとても朝10時ごろとは思えない程の喧騒。外に聞こえているのか一向に客が入ってこないのも点数が高い。
「ミズキさんは黙ってたら美人なのに」
「あんた、それ相当な悪口よ」
「何言ってるんですか褒め言葉ですよ」
「無理あるわよ。で、話は聞いてたけどあんたリコリス戻るわけ?奏ちゃんには話したの?」
「奏にはまだです。あの子に言うには、まだ心の準備が」
「そっか。それならそのお酒飲みな。きっと素直に打ち明けられるわよ」
「どんだけ飲ませたいんですか……」
私は手に持っていたお酒の入ったカップをミズキさんに押し付けるようにして渡した。
ミズキさんは渋々と言った様子で受け取ると、一気に飲み干した。
(肝臓悪くして体調壊さないのかなこの人)
悪いお酒の飲み方に戦慄しつつ、私は千束に向き直った。
「千束は戻るべきだと思う?」
「私は自分でちゃんと考えてから結論を出せば良いと思うよ」
「そうだよね。ありがとう。話聞いてくれて」
「いえいえ。嫌だったら最初に断ってるって。よし!楓の件はひとまず落着!私からも話があるんだ!」
「もしかして新メニューを出したり?」
「それはしないよ」
ここのメニューが好きな私に取って、数年ぶりの新作を期待したのだがどうにもそうではないらしい。
勝手に胸を躍らせ、舞踏会を開いた私が悪いのだが舞踏会は約10秒で閉幕した。歴史的快挙である。
「楓、ここで働かない?」
「へ?」
私は千束の提案に目を瞬かせた。面食らった私とは対照的に千束はニコニコとその経緯を話す。
「2年前くらいから誘おうとは思ってたんだけど、楓と私が仲が良いのを理由に本部からの風当たりが強くてさ。けど、楓がリコリスに戻ってくるのならどうかなって。それに私達は普通の働き口、見つからないでしょ」
「それは……確かに」
かなり魅力的な話だった。けど、これも私の一存では決められない。奏は私がもうリコリスとは関わっていないと思っている。彼女のリコリス嫌いは相当だ。私がDAの支部である喫茶リコリコで働いていると知れば、築き上げてきた信頼が揺らぎかねない。
私の心情を察したのか、千束は慌てて顔の前で手を振った。
「全然無理強いはしてないから!奏ちゃんにちゃんと相談して、それから返事をくれれば大丈夫」
「ありがとう。前向きに検討するよ」
「よしよし!1人仲間が増えそう!今日ね、これからまた1人増える予定なんだ!」
無邪気に喜ぶ千束。もしかして、遂にアルバイトの店員でも雇い始めたのだろうか。と思ったがここは表向きは喫茶店だが裏の顔は国家機密組織の支部だ。客以外の一般人を店員として招くとは到底思えない。
「一般人?」
「リコリスよ。なんか仕事でやらかしたんだと。それで、本部から支部のここに左遷」
ミズキさんが一升瓶の蓋を開けながら私に教えてくれた。
(……それ、2本目ですよね。奥に見える2本はいつの間に飲んだんですか)
見てしまったものを振り払うように私は苦笑いを浮かべた。酒豪恐るべし。
「任務でやらかし、か。ボクみたいに逃げたのかな」
「あんた、あの時のことあまり反省してなさそうね」
私がケラケラと笑って、あまりにも反省している様子が見受けられないからかミズキさんは呆れたように一息ついた。
千束は千束で面白かったのか目尻に涙まで浮かべて派手に笑い声を上げていた。
「それでそのリコリスはいつ来るの?」
「昼頃だったっけ。あぁっ!しまった!ごめん楓!私、先生からのお使い忘れてた!!」
何がトリガーになったのか、千束はお使いを思い出したと言って私にまた来てねと別れの言葉を言うとそのまま店から飛び出して行った。
お店には私とミズキさんだけが残された。ミズキさんは千束の背中を優しげな眼差しを見送っている。
「相変わらず忙しないわね」
「ですね〜」
「千束がいなくなったわけだけど、楓は帰る?」
「どうしましょう。その新しいリコリスを待って見ても良いけど……」
「ま、あんたは辞めといた方が良いわね。本部からのリコリスだと、あんたの顔見ても不信感しか抱かないだろうし」
「ボクもそう思います。と言うわけで今日は帰ります。また日を改めてそのリコリスには会うことにします」
「おう。そうしなそうしな。あ、次は一緒に飲もう」
「どんだけボクに飲ませたいんですか」
「あんなには何か通じるものがあるような気がするのよ」
「えぇ……。なんか嫌だ。と言うわけで帰ります」
「はいはい。気をつけて帰りな」
ミズキさんとお酒から逃げるように私は店を出た。店の前に停めた自転車のロックを外そうとしている時に前から見覚えのある男性が杖をついて歩いてきた。
彼は私を見るなり、頬を綻ばせて手を振ってくれた。私も思わず嬉しくなって手を振りかえす。
「先生!」
「楓じゃないか。元気にしてたか?」
「はい。おかげさまで」
「それなら良かった。今来たのか?」
「いえ。もう帰るところです」
私がそう言うと先生は残念そうに眉を八の字にした。
私よりも大きな男性が寂しそうにしているのを見て、思わず可愛いと思ってしまった。
「また明日来ますから。そこまで落ち込まなくても」
「そうか。それならまた明日来てくれ。談笑もしたいが、少し話さなければならない事もある」
「そうします。それなら先生、また明日!」
私は自転車に乗ると、先生に会釈してから一気にペダルを踏み込んだ。
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私はあのまま家に戻り、奏が戻ってくる間部屋で夕飯の準備をしたりお風呂の掃除をしたり、本を呼んだりと過ごした。
家事をこなす中で私はリコリス復帰の話をどうしようかと悩んだ。そもそも本当に戻るのか、戻るのなら相棒の奏になんと説明すれば良いのか。
夕飯のカレーで使う人参を切りながら、思わず呟いた。
「奏は怒るよなあ。ボクがリコリスに戻るって言ったら」
「怒りませんよ」
「怒らない。そっかあ……ってぬあああああ!?」
私はいつの間にか隣にいた奏に驚いて包丁で人参ではなく自分の指を切るところだった。先程からジクジクと痛みが走っているがきっと気のせいだろう。
「き、聞いてた?」
「はい。ガッツリと」
「思いの外、隠す必要なさそうでびっくり」
「リコリスに戻るんですか?」
軽口の一つや二つで緊張感をほぐそうと思ったのに、奏は遠慮なく165kmのストレートをぶん投げてきた。
私はそれを受け止めるとしばらく遊ばせ、奏に返した。
「まだ何とも」
「そうですか。それならもうハッキリ言います。楓はリコリスに戻った方がいいと思います」
「え?意外なこと言うね。ボクもあまりDAの事は好いてないのは知ってるでしょ?」
奏の予想外の提案に思わず聞き返してしまった。私に奏は小さく頷いた。
「私はサード・リコリスとして楓の活躍を見てきましたが、あなたは私とは違って心も身体も強い。私のために一緒に一線を退いてから楓はどこか抜け殻みたいです。私が憧れた箕輪楓はもっと目を輝かせてた」
「でもボクは奏と一緒で人命を軽く見るDAのやり方は嫌いだよ。それが嫌であの日も自分の意思で逃げ出したんだ」
やけにリコリス復帰を勧めてくる奏に理解が追いつかず、私は奏が無理をしているのではないかと彼女の望みとは逆のことを言い続けた。もちろん、それは私の本心だった。けれど、私の本心はまた別だと奏は見事に掘り当ててしまった。
「楓は本当ならリコリスに戻りたいんですよね。戻って、誰も命を奪わず落とさせないようにしようって思ってるんですよね」
「………そうだね。多分、ボクの本音はそっち」
「やっぱり。楓、意外に素直じゃないですよね」
奏はクスクスと小さく笑った。
「力のないサード・リコリスの私は誰かに救ってもらうことしか出来ません。けれど、ファーストの楓は違う。きっと戻った方が自分のためにも誰かのためにもなりますよ」
言いたい事は言い終え、奏は最後に私の肩を軽く叩いた。後の決断は任せる。そう言っているようだった。
こうも背中を押されてしまっては私も今更戻りませんとは言えなくなってしまった。
「リコリスに戻るよ。でも、奏に辛い思いはさせない。約束したから。最後まで一緒にいるって」
「そうでしたね。まるで告白ですよね。あれ」
「なっ!朝のお返し!?」
再びの予想外の返しに稲妻が脳を駆け巡る。
仕返しが決まったことに大満足している奏は心底嬉しそうに肩を揺らした。
「ふっふっふっ。やってやりました」
「こ、この!絶対にいつか仕返ししてやる」
「その前に明日はちゃんと朝食。作ってくださいね」
「あ、はい」
「それとカレー、焦げてます」
「………わお」
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数日後───。
3年ぶりに袖を通したリコリスの制服は何だか酷く新鮮で、ファーストの証である赤を基調とした制服は自分の中の覚悟を強くさせた。
DAの本部。楠木司令が待つ部屋へ続く廊下を歩く間、私は後ろ指を刺され続けたがお構いなし。部屋につくとノックをし、返事があってから私は中に入った。
「失礼します。お久しぶりです。楠木司令」
「やけに顔の締まりが緩くなったな」
「もう少し良い褒め方なかったんですか」
「私は今忙しい。世間話はまた今度だ」
「ちぇっ〜。連れないですね」
「どうして千束と言い楓と言い今のファーストは……。フキしかまともな奴は居ないのか」
「フキ、ファーストになってたんですか」
「楓の代わりにな。だが、恐らく今はお前より優秀だ」
「時代の流れって残酷ですね。司令もシワが一本増えて……何でもないです。えぇ」
「相変わらず余計なことばかり喋る奴だ。話はここまでだ。お前はファーストとして自由に動け。だが、命令は絶対だ。良いな」
「了解しました。それでは箕輪楓。再び着任しました!」
私は力強く、挑発的に楠木司令に笑顔を見せつけた。
そして、次の物語の幕が開ける───。
読んでくださいありがとうございます!
人物設定は後日出します!
2話はいつ更新になるか……笑
なるべく早いうちに出せるよう頑張ります!それではまた!