朝、カーテンの間から差し込む赤色の光で目が覚める。
時計の針は4時30分を刺している。そろそろ登校の時間だ。
目をこすりながら体を起こし、ハンガーにかかった制服に着替える。
朝食の栄養ゼリーを口に差しながら、寮を出た。
外に広がるのはいつも通りの真紅の空。
私は今日も生き続ける。
この『ゲヘナ連邦』で…
***
『連邦生徒会長、本日のご予定ですが』
「二人の時はその呼び方辞めてくれる?」
『…了解しました、ヒナ会長』
天雨アコ。現風紀委員長で元私の同期。
そんな彼女が今日も今日とてスケジュールを読み上げる。
頭に入れているからしなくていいと何度も言っているのに…
『それと本日は連邦会議がありますので、くれぐれも遅れないようお願いしますね』
「分かってるわ」
『では、私もすぐに向かいますので…失礼しますね』
その言葉の直後プツリと切れる通信。
一度ため息を吐いてからコーヒーを一口啜った後、会議までの時間でいくつかのニュースに目を通す。
『1棟前に格安ラーメン店が開店!!』『マコト議長「防衛費を下げるつもりはない」、ゲヘナ学園の行方は軍学校か』『温泉開発部、温泉の代わりに油田を掘り当てる』『美食配膳部の新メニューは高級フレンチ?』
くだらないニュースから、私の仕事にも影響がありそうなニュースまで。
特にサンクトゥムの件については連絡を入れておこう。
その後もニュースを見漁っていたら、気づくと会議の1時間前。
私は書類を脇に抱え、生徒会長室を出る。
***
「キキッ、生徒会長よ、このマコト様よりも遅い出席とは…漸くそのポストを譲る気になったか?」
「そんな気は欠片もないのだけど?貴方はゲヘナ"学園"で威張ってるのがお似合いよ」
「お二人とも、あまり熱くならないでくださいね。間に入るのはいつも私なんですから」
君の悪い笑い声と、聞くだけで眠気を感じさせるようなため息。
全く正反対の二人だが、彼女らはゲヘナ学園の生徒会、『万魔殿』の議長と戦車長。
名を羽沼マコト、そして棗イロハ。
マコトは何かにつけて私に因縁をつけてくる、正直言ってうっとうしい人だ。
ただその能力は優秀と言わざるを得ない。
荒くれ物まみれのゲヘナ生徒の統率を取り、ゲヘナ学園全体の兵器や部隊の総指揮を行う、まさにゲヘナ学園と言う一国の王だ。
イロハの率いる戦車部隊、それと彼女のトレードマークとも言える『超無敵鉄甲虎丸』と言う名の戦車はその名の通りまさに無敵。
彼女が優れているのはマコトからの指示を現場指揮として全軍に反映させ、不測の事態にも備えることが出来る状況判断能力。
先を読んだりと言うような盤上の強さはマコトが勝るが、瞬間瞬間の強さはイロハが圧倒的だ。
「ハーハッハッハ!!もっと明るい顔をしたらどうだヒナ会長」
そう言いながら私の肩を勢いよく叩いてくるのは鬼怒川カスミ、温泉開発部の部長でゲヘナ最悪のテロリストの一人。
温泉開発と称しながら文明破壊を繰り返す、如何にもゲヘナらしい人間だ。
半年ほど前までは私のことを恐れ、私を見るだけでか細い叫び声をあげていたが、今はもう吹っ切れたのか何なのか、すごく距離が近くて暑苦しい。
まあ…明確に敵意を向けてこない分、マコトよりも関わりやすい。
私は一度ため息を吐いたのち、席に座る。
「さて、今日の議題だけれど…」
「オカルト研究部からの報告よ。『サンクトゥムタワーの計測器が数秒間異常値を示した』らしいわ」
私が切り出したその話題は、先程までほんわかした?空気を切り裂いた。
「…具体的な数値を聞かんとなんとも言えんな」
「話によるとメーターが振り切れて計測不能らしいわ。ただ、後のデータ解析によると20000以上100000以下」
「ええっと…話についていけないんですが…」
気まずそうに手を上げながらイロハがそう答えた。
サンクトゥムタワーの計測結果が伝えられるのは私とマコトの二人のみで、その資料はオカルト研究部の方で厳重に保管されているらしい。
その他の生徒が知らないのは無理のないことなのだ。
「数値の算出は基本的に、『時空間の揺らぎの大きさ』と『関連した物質の質量』で決まる。つまり今は時空間が大きく揺れ動き、その原因には特大質量の物が関係していると言うわけだ」
「…以前、猫が異次元から飛来したことがあるわ。その時の数値が320ね」
「じゃあ猫100匹分のものが降って来たとか…?」
「ハッ、面白い考察だが間違っている。時空間の物質転送と言うのはデータのようなものでな、意識がある状態と無い状態で転送時の容量が数段階変わる。計測の詳しい仕組みはよく知らんが、意識の有無も計算に関わってくるのであれば…」
「…逆算で人間が2〜3人か」
「すぐに連邦全域を捜索、見つかり次第即攻撃に移るわ」
「イロハは戦車隊の準備をしておけ。私は各部活に伝達しておく」
「了解です、マコト先輩」
Q.なんでカスミは時空間転送に詳しいの?
A.別次元で温泉を掘り当てる計画を進めていた時、重機を別次元に転送する必要があった為必然的に詳しくなった。
ちなみに見事掘り当て、今は観光名所となっている