ド難産です
氷点下にもなる夜の砂漠。
そんな場所に建つ一つの廃墟。
私はそこの一室で、ただひたすら眠っていた。
正確に言うならば眠る事は出来ていないのだが…目をつぶって、力を抜く。それだけで体が安らぐというものだ。
あのヘルメット団から聞いた話…基礎的な情報しか聞けなかったが、今はそれで十分。
と言うかこれ以上あっても頭が追いつかない。
…話の内容をまとめると、まずこの世界の名前はゲヘナ連邦と言うらしい。このキヴォトス全体がゲヘナの自治区のようなものであり、学校自体もゲヘナ学園以外存在しないらしい。
何故こうなったのかと言うと、過去起こった学校同士の戦争が原因との事。
開戦当初はゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、アビドスの4高の拮抗した戦いになると考えられていたが…蓋を開けてみれば戦車隊やミサイル、何よりヒナちゃんを持つゲヘナと、当時連邦生徒会長であった『小鳥遊ホシノ』率いるアビドスの戦いとなったようだ。
(うへ…おじさんが連邦生徒会長…ちょっと想像つかないね……)
最終的にはゲヘナが勝利。
敗北した学校の生徒達はキヴォトスの外に出るか、ゲヘナに入学、もしくはひっそりと暮らしたりしているそう。
そして、ゲヘナの勝利によって元連邦生徒会長は姿を消し、今の連邦生徒会長は元風紀委員長のヒナちゃんになったと言う事らしい。
(……言うならここは、私の居た場所とは違う『異世界』ってことかな)
現状やるべき事は明確に見えてこない…だけど一つ分かる「絶対にやっちゃいけない事」は…
(私が『小鳥遊ホシノ』だとバレる事…もしくは勘付かれる事は絶対に避けなきゃ)
消えたはずの元連邦生徒会長と瓜二つの人物が人前を歩くのも相当危険だ。街に行く時はフードでも被っておいた方が良いのかもしれない。
私は壁に寄りかかりながら上を向く。
目に映るのはキヴォトスで幾度も見た紺色の夜空。昼の赤い空も、夜になれば私の知っているのと同じになるようだ。
星の光が朧になっていく、視野は狭まり思考は停滞する。
(……今日は…疲れたなぁ)
暗く寒い夜空の下、私はすんなりと眠りについた。
***
突然、肩を叩かれた。
もう朝かと思い、あくびをしながら目を開ける。
また黒服の面を見なければならないと思うと少し憂鬱な気分になるが、今は仕方ない。
「意外とねぼすけなのかしら?小鳥遊ホシノ」
だが、目の前に居たのは黒いスーツを着た大人ではなく…
「君は…どっちの空崎ヒナなのかな?」
私が知ってる風紀委員長であり、この世界の連邦生徒会長である、『空崎ヒナ』であった。
「……ああ、こっちの私に会った事ないのね。安心して、私はゲヘナ風紀委員長空崎ヒナだから」
嘘をついているようには見えない。
多分、私と同じキヴォトスのヒナちゃんなんだろうけど…
「こっちのヒナちゃんに会ったことないってどういう事?」
「彼女と私の見た目は結構違うの。気付かないって事は、見たことが無いんだろうなと思っただけよ」
「逆に、ヒナちゃんは会ったんだね。どんな人だった?」
ヒナちゃんは少し顔を歪めた後、語り始める。
「私は…先生と一緒に行動してた」
先生というのは勿論、私達の先生だろう。
「でも彼女に出会って、戦いになった。そして先生は」
「……連れ去られたわ」
思わず言葉が詰まる。
衝撃と悲しみとその他の感情がごちゃ混ぜになって吐き出せない。
だが一つ、出てきたのは疑問だった。
「……ヒナちゃんが、負けたって事?」
別の世界の自分が相手だったとしても、そう簡単に負ける子じゃない。
あまりに直接的な信頼…
「状況は十分だったと思う。周りの兵士?が持っていた見るからな高性能な武器を使って、先生の指揮の下で全力で戦った…のに」
ヒナちゃんは体を震わせる。
自分の無力さと、悔しさを抱えているのだろう。
「負けた、と言うか手も足も出なかったわ…それに先生が庇ってくれなかったら…私は逃げられなかったと…思う」
……たった今、やる事が決まった。
先生の連れ去られた場所を突き止めて、助けに行く。
かつて私が助けられた時のように。
「…黒服」
隣の部屋から壁をすり抜けて黒服が顔を覗かせる。
ヒナちゃんは相当驚いているみたいだけど…
「今すぐに先生の位置を特定できる?」
「クックック…今すぐにでも……」
「…勿論、裏切ったら容赦しないよ」
少し声色を変えて黒服に告げる。
黒服は元いた部屋に顔を戻した。
「え…?小鳥遊ホシノ、今のは…?」
「黒服って言ってね…悪い大人だよ」
語れる事はこれしかなかった。
私も黒服について多くは知らないし、できれば知りたくもないから。
「とにかく…さっきの黒服が先生の位置を調べてくれるって事で良いのね」
「そう…なんだけど…」
黒服に戦闘能力は無い…少なくとも生徒と渡り合えるほどのものは。
だから戦闘になった場合、私とヒナちゃんの2人で戦うことになる。
「もし、先生がいる場所にこっちのヒナちゃんが居たら…」
「いや…それに関しては大丈夫だと思う…彼女は先生を脅威とすら思っていなかった。おそらく、戦闘能力の無い指揮官としか思ってないんじゃないかしら」
「それなら本人直々に監視って事は無いかな…」
「それに…連邦生徒会長の私に、人1人を監視する余裕なんてスケジュールにあると思えないから…」
「うへ…嫌な考察だね…」
そんな話をしていると、壁からまた黒服が出てきた。
今度は顔だけではなく、全身だけど。
「ホシノさん、先生の居場所が分かりましたよ。南の港近く、古い工場に居るようです」
掛けておいた銃を掴み、腰を上げる。
「よし、じゃあ行こうか」
言うまでもなく…
先生を、助けに。
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