逃げろ!!魔法少女キューティ♡ポイズン(28才)だ!! 作:ニチアサ出禁系魔法少女
──魔法少女。
世界の平和のために戦う、一般的に言えば社会的には正義の存在であり、公的視点から見ると正体不明の武装集団でもある。
この世界には、怪人や妖怪や宇宙人と言った人間や社会に対する脅威となる存在が跳梁跋扈しており、魔法少女以外にも「特殊戦隊」や「マスクファイター」といった特殊な武装集団が存在している。
「魔法少女」も、そんな魑魅魍魎たちを相手にする武装集団の一つだと言える。
一昔前は「ギガントヒーロー」という、超巨大怪獣を相手にする謎の巨大宇宙人的ヒーローも存在していたが、彼らの戦いの舞台は地球の重力圏の外に展開するようになったため、近頃は活躍の話題を聞かなくなっている。
なお、魔法少女、特殊戦隊、マスクファイター、ギガントヒーローといった呼称は主に日本で使用されるもので、海外ではシンプルに「ヒーロー」と一括りにされることが多い。
海外のヒーローたちは一枚岩ではないながらも、色んな国から集まった玉石混交のヒーローが一纏めになった「ブリリアント」という世界規模の巨大ヒーロー組織や、あえてそこに属さないダーティ寄りの者たちが集まったという「マーベラス」なるアングラヒーロー組織が存在しているという。
閑話休題。
この物語の舞台である日本では、魔法少女は「魔法少女連合・スマイル」でまとまり、特殊戦隊は「特殊戦隊同盟・レンジャーベース」でまとまるという、いわば『二大秘密組織』が存在している。
また、独自に「マスクファイター」を抱えるパトロンや小規模な秘密組織が多数存在し、マスクファイター関連については極めて混沌としている。
ニ大秘密組織については、互いに連携を取り合うことも有るが一つにまとまることはない。
毎年目的や手段を異にする怪人や怪集団が発足されて社会に混乱を与えてくる現状では、二つの組織が一つになるよりも互いの長所を活かせる組織運営を維持し、どちらかの組織が致命的被害に遭ってしまった場合等を想定してお互いがお互いのセーフティのような存在で居る事を選んだ。
なお、マスクファイターたちについては、個人の思想が強すぎたり、政治的な思惑や裏取引などが密接に絡みすぎていて、二大組織にとっては悩みのタネというべき存在でもある。
なまじ裏の思惑を知らないマスクファイターたちがヒーローとしてしっかり活動しており、一般市民には畏怖される面もありつつ人気もそれなりに高いのが厄介であった。
魔法少女とは、言うなれば「日本の平和を守る正義の存在=ヒーローの一人」である。
基本的には「邪悪な存在の影響を受けて怪人化してしまった人間を助ける」という方針で出動し、平和を守るべく活躍する。
また、その活動方針から概ね「不殺」が前提であり、魔法少女たちが獲得・行使する能力もリミッターが自動でかかるような仕組みになっている。
ただ、特殊戦隊がそうであるため、日本政府からは一応悪の組織に対して殺害を正式に認可されている。ただしこれは、あくまで戦いの余波による事故などで殺してしまう場合があるかもしれない、という考えからだ。
対して、特殊戦隊は「特定の悪の組織に対抗して設立される専門部隊」であり、該当する悪の組織の活性化や活動が確認された場合に対応する組織が出動する形式であるため、魔法少女たちとは出動に至るまでの仕組みがやや異なる。
秘密組織でありながら日本政府には正式に認可を得ており、対象の悪の組織に所属する者たちの殺害を正式に許可されている。
もちろん、法的に殺人はアウトなのだが、平和の維持のためとして特例で認められる。そもそも悪の組織は普通に殺人や強盗や誘拐などやりたい放題で、法の甘さを適用する必要などない場合がほとんどである。
ニ大秘密組織は、こういった細かい部分でお互いに気を使いあい、生かせる命は生かし、殺すべき者は殺すという、日本政府の意向のようなものを汲み取って、組織間で連携を密にしているわけだ。
ちなみに、マスクファイターたちは勝手に戦って勝手に現場から逃走してしまい、その正体や戦う目的などを隠す輩が多すぎるので、ニ大秘密組織は連携を密にして「あいつらが何を目的にして、次にどこで暴れそうか」をなるべく特定し、お互いにマスクファイターの戦闘に巻き込まれないようにカバーし合う。
あいつらに巻き込まれると無差別に攻撃されることがある(マスクファイターには、一見しただけでは正義と悪の区別がつかない者が多く、味方と思って近づいたら普通に敵だったということがザラにある)ので、一般市民にとっては概ねヒーローとして見えていても、ニ大秘密組織にとっては日本から消えてほしい奴らの筆頭であった。
ちなみにマスクファイターのパトロンたちは、普通に政治家だったり表向きは高名な篤志家だったり警察高官だったりと社会に必要な存在である場合が多く、そんな社会の中枢に根を張る彼らが特別に抱えている秘匿戦力であるという裏事情ため、日本政府がマスクファイターに対して本気で取締を行うことはない。
ニ大秘密組織もそのへんはなんとなく察しているので、あいつらをどうにかすることはほぼほぼ諦めている。
要約すると、魔法少女たちは「特殊戦隊が専門の対抗組織を用意していない」かつ「人間を怪人化してしまう(※なるべくマスクファイターの関わりのない)邪悪な存在」を相手に、日本所狭しと広く出動して平和を守る者たちということになる。
これらの情報は、この物語の主人公である「魔法少女キューティ♡ポイズン」の活躍…いや、その魔法少女のありのままを綴るための前置きであり、彼女の苦悩に満ちた日々を理解するために少しばかり必要となる、事前共有というものである。
ここから先は、日本社会の平和のために、健気にも奮い立ち、怪人どもと相対する、一人の魔法少女の物語を追っていくことにしよう。
某年、某月、某日。
当時、彼女「
彼女の出自や経歴を語るために、時代は少し遡る。
数年前に両親が揃って頭のおかしいエセ宗教にドハマリし、幼い少女は頭のおかしい両親によってエセ教祖に巫女として捧げられ祀り上げられていた。
順当に行けば、エセ教祖が金のために下衆な幼女趣味の輩に売りつけるなどされて幼い少女の花弁を散らされていたところだろうが、そうなる前に人々の悪意が渦巻くその環境に目をつけた邪悪な存在「悪心魔族ゲラリアン」なる者がエセ教祖を怪人化して人間に変装させて組織丸ごと乗っ取り、特殊な素質…魔法少女の素質を持つ少女を、普通よりもずっと強力な怪人に育て上げるべく、長い年月を掛けてじっくり怪人化を進められた。
奇しくも、エセ教祖が怪人化したおかげで少女の花が散らされるような自体にはならなかったが、しかし素質だけなら他の魔法少女を圧倒するほどの潜在能力を秘めた少女の怪人化という、日本の平和という意味でより最悪の事態に発展していってしまう。
こうして、魔法少女の素質を持ちながら、ゲラリアンの怪人としての能力を持ち、さらに洗脳的教育により心を押しつぶされたことで、極めて強力な邪悪の尖兵として作られた少女だったが、その時代の最新の魔法少女たる「魔法少女キューティ♡ボンバー」を含む3人の魔法少女…通称「キューティ組」により救出され、数週間の療養と2ヶ月ほどの自主学習期間(魔法少女連合・スマイルの全面的バックアップ付き)を経て、本人の努力のかいもあって一般的な中学生として社会復帰を果たしたのである。
その後は念願の普通の中学生としての生活を手に入れた少女だったが、本人の受けた被害と、逆に引き起こしてしまった被害の大きさ、そしてそれを受け止めても前を向ける純粋な正義感、最後に極めて高い魔法少女としての素質をついに開花させたことで、自分も魔法少女として戦う道も選んだ。
もちろん、魔法少女連合・スマイルは少女の決意を聞き受け、その道を選ぶという覚悟と選択も快く受け止め、魔法少女としての覚醒を助けてあげるなどした。
そして誕生したのが、当代最新にして最強の素質を持つ魔法少女「キューティ♡ポイズン」なのである。
一度怪人化した影響のためか、なにやら恐ろしい能力まで開花しているようだが、心に輝く正義の光は非常に強く、魔法少女連合の重鎮たちは「それでも、彼女なら問題ないだろう、必ずやその能力を平和のために使ってくれる」と信じて世に解き放った。…解き放ってしまった。
そうして新たな人生を歩み始めた少女は、その新たな人生の最初の一日目となる日にゲラリアンの怪人の襲撃に巻き込まれてしまう。
戦いの舞台となる場所は、少女の通う中学校。
その学校の裏手の人目がつかない場所で、ゲラリアンの怪人…闇夜のような昏い群青色の毛皮を持つ人狼(二足歩行の狼)のような見た目で、口の端が耳の付け根にまで届くほど大きく裂けており、鋭い牙をむき出しにして愉快そうに歪んだ笑みを浮かべて、何事かの悪巧みを既に行っている様子である。
放っておけば、ゲラリアンの邪悪な思惑によって人々の心の闇が膨らみ、大変なことになってしまう…!
仲間である他の魔法少女の3人には既に連絡したが、しかしその3人の到着をただ待っているだけではいられなかった。
少女・南 ミミは、正義の心を輝かせて奮い立ち、魔法少女キューティ♡ポイズンへと変身し、怪人の前に躍り出る!!
……これは、キューティ♡ポイズンこと南 ミミが、いわば追加戦士として加わってからの、彼女の初めての戦闘シーンになる。
「ゲーラゲラゲラゲラ! そおれ、もっと人を見下すゲラ!蹴落とすゲラ! 見下す方も見下される方も、どんどん心に闇のエネルギーを湧き上がらせるゲララ〜!」
「そこまでよ! ゲラリアンの怪人さん!」
「なに!? 貴様、このミックダス様の
「私は、魔法少女、キューティ♡ポイズン! 怪人さん、今すぐ悪事をやめて、大人しくしなさい!」
ここで少しだけ説明を挟もう。
キューティ♡ポイズンは、一時はゲラリアンの怪人になっていたので、普通に正体がバレていると思われたかもしれないが、安心してほしい。
魔法少女に変身すると、魔法少女の素質がない者にはその正体を理解できない状態になるのである。
故に、この怪人がキューティ♡ポイズンを見ても、まるで初対面のような反応をしてしまうのであった。
また、逆にキューティ♡ポイズンは怪人化と洗脳とも言うべき執拗な教育により、心を押しつぶされていたことで主要な怪人たちのことをハッキリと覚えていない。
ゲラリアンの大総統と呼ばれる存在のことだけは、わずかに記憶に残っている程度である。
「ほっほう、魔法少女ゲラか! ゲラゲラゲーラゲラ! そんなに凄んだって怖くもなんともないゲラ!貴様こそ、怪我したくなかったとっととお家に帰るゲララ〜!」
「な、なんですってぇ! そんなこと言ったら、痛い目を見るのはあなたのほうよ、怪人さん!」
「ゲーラゲラ! いい〜ことを教えてやるゲラぁ! ついこの前も、魔法少女ミラクル♡なんとか~?とかいう4人組の魔法少女がやってきたが、オレ様一人で纏めて返り討ちにしてやったゲラよぉ~~ん! ゲーラゲラゲラゲラぁ!!」
「ええっ!? ミ、ミラクルの先輩たちを…!?」
説明しよう。
魔法少女ミラクル♡ハートを含む4人の魔法少女たち、通称「ミラクル組」は3年前から活動を開始している、魔法少女としてそこそこの先輩に当たる者たちである。
年齢的にはギリギリ少女なのでまだ引退はしておらず、極めて危険と思われる怪人が現れたときには情報収集のために、可能ならそのまま撃退まで行うために出動することがある。これは、他にも存在する先輩魔法少女たちも同様である。
ただし、年代を経るごとに個々の魔法少女の能力というものは弱体化するし、逆に新たに誕生する邪悪な怪人は既存の魔法少女に対して耐性を持つ場合が多いため、基本的には最新の魔法少女を最大戦力として動くのが「魔法少女連合・スマイル」の基本方針である。
ここで名前が登場した先輩魔法少女たちは、奮戦も虚しくやはり耐性を獲得していた怪人に返り討ちにされた、ということになる。
しかしいくら耐性があるとは言え、見る限り全く無傷でギリギリ現役の先輩魔法少女たちを返り討ちにできているということがこの怪人の強さを物語っており、絶望的で残酷な事実が突きつけられている状況だった。
「ゲラララ…嘘じゃあないゲラよ? オレ様はそんじょそこらの怪人とはモノが違うゲラ! このオレ様、ミックダス様はなあ、ゲラリアン大総統様が直々に力を分け与えて下さった、言わば大総統様の片腕とも言える存在ゲラ!! そ・れ・にぃ、前に来たやつは4人でも歯が立たなかったというのに、お前一人で何ができるゲラぁ? 何もできるわけがないゲラよなあ~~っ!? ゲーラゲラゲララぁ!!」
「ゲ、ゲラリアン大総統の、片腕、ですって…!? くっ…でも、ここであなたを見逃せば、みんなの心が闇に染まって大変なことになっちゃう…! キューティの他のみんなが駆けつけてくれるまで、私一人でもあなたの相手をしてみせる…!」
「ゲラ~ぁ? …ゲッゲッゲッ、良い顔つきゲラねぇ~、怯えているように見えても、ちゃあんと覚悟を決めた奴の目をしているゲラ。 これなら前の魔法少女なんかよりも楽しめそうゲラねぇ。 …まあ、オレ様が一方的に嬲り続けるって意味でだけどなあ!! ゲラアッ!!」
「きゃっ!? ポ、ポイズンシールド!!」
ミックダスと名乗った強力な怪人は、不意打ち気味に突進、そのまま左腕を振り上げて拳を真っ直ぐに打ち抜く構えを見せた。
それに対して一見すると頼りなさそうな様子を見せたキューティ♡ポイズンだが、長らく怪人化の調整を受け続けたことと、魔法少女としての素質の高さのおかげもあり、咄嗟のことながらも普通に反応することができた。実践経験が不足していようとも、伊達に当代最新の魔法少女ではないのである。
しかし、心を取り戻してからというもの、確かに内に秘められた強い正義の心は輝いている…が、しかし、自分から率先して攻撃に移るということには抵抗感を覚えていて、反撃ではなく防御を選択してしまう。
一時とは言え怪人側で人々を苦しめていたということが見えない棘となって心に刺さっており、無意識にだが攻撃することを嫌ってしまっているのである。
「ゲラゲラ!! いきなり守りの一手とは、そんなんでオレ様相手に勝つ気があるゲラ(ジュゥゥゥゥ…)か…ぁ、…ゲ、ラ?」
「…えっ?」
「ゲ、ひえっ、ゲエエエエエ!?(ジュウウウウウウウウウウッッッッ) う、腕、腕があっ!? 弾けっ…いや溶け、てっ…ギヒェエエエエエエッッ!?!?」
「ひっ、ひぃぃっ!? な、なんなのこの魔法!?」
だが、そんな臆病とも言えるキューティ♡ポイズンの心境とは裏腹に、ただ守るだけのはずの魔法が予想外の効果を発揮した。
ちなみに、魔法少女には基本とされる技がいくつかあり、眼前に盾のようにして自身の魔法少女としての性質を付与した魔法の膜を展開する「シールド」、そして同じく性質を付与したエネルギー弾を放つ「シュート」、エネルギー弾ではなく直接格闘を行うために自身にエネルギーを纏う「オーラ」などがそうだ。
例えば、同年代の魔法少女である「魔法少女キューティ♡ボンバー」がシールドを使うなら「ボンバーシールド」という魔法になり、攻撃を受けると爆破して反撃するという、中々に攻撃的な防御と言える。
ただし、あくまでも防御としての性質が強く、強力な怪人を相手に使っても目眩まし程度にしかならなかったりする。
…というような、せいぜい敵の攻撃の手を緩める程度しか効果がない、極一般的な防御魔法のはずだった。
しかし、キューティ♡ポイズンが使用したそれは、あまりにも劇的な効果を発揮した。それこそ、誰も予想できなかったような、あまりにも劇的な効果である。
怪人の左拳が紫色の毒々しい見た目のシールドに叩きつけられたかと思うと、瞬く間に左腕が肩の付け根までボコボコと脈打ち、次にブスブスと薄く煙を上げたかと思うと、何箇所かの皮膚がシャボン玉のように膨れ上がって破裂。その破裂した箇所から「ジュウウウッ」と音を立てて、血なのか溶けた肉なのか毒液なのかわからないような不気味でおぞましい、若干粘ついた液状の何かを噴出したのである。
なお、この光景は上空を漂っていたテレビの撮影用ヘリから撮影していた生中継カメラがしっかりと捉えており、テレビ局内や全国のお茶の間はそれを見て絶句していた。心があまり強くない人は、その場で卒倒し倒れ込むことすらあった。
「アギャアアアアアア!! ゴ、ゴレッ、ヤバッ、グルジッ…ゴギェエエエエエエエエ!? ユ、ユルジ、ユル、ジ、デ、ェ…アギャッ…ンゴオオオオオッ…」
「わ、わ、わああっ、ひぃぃ…!」
この状況は、怪人にとってはもちろんのこと、魔法を使用した当の本人であるキューティ♡ポイズンにとっても不幸な出来事であった。
確かに怪人化していたことはあるし、魔法少女としての高い素質と輝ける正義の心の強さで、並の人よりはずっと心が強い。
しかし、眼の前で、しかも自分の魔法が原因で、明らかに不必要なまでに相手を苦しめる…どころか普通にグロテスク&バイオレンスな状態にしてしまい、「怪人相手とは言えなんてことをしてしまったんだ」とか「この怪人さんが人間に戻せたとして、溶けた腕はどうなるの?」とか「私って本当に魔法少女なの?」とか、色々な不安や思考がごちゃまぜになって頭の中を飛び回り、完全にパニックを起こしていた。
実際、まだ能力をコントロールしきれていない状態の、魔法少女になりたてのこの頃のキューティ♡ポイズンには、こんな悲惨な状態になった怪人に対してどうすることもできなかった。
もう少し成長すると、自身の能力である「猛毒」を反転させて「解毒」が行える能力でもあるのだと気づくのだが、今はまだその気付きを得られていない。あと溶けてぐちゃぐちゃになった腕はそもそも元に戻せない。どうしようもないのである。
キューティ♡ポイズンは、よくよく思えば何かと不幸な少女である。
両親は怪しい宗教にドハマリしてしまうし、邪悪な環境に身を寄せていたことと魔法少女として高い素質を持っていたという最悪の噛み合い方をしたせいで非常に念入りに洗脳教育を施されて怪人化させられるし、なんとか救われて魔法少女として開花したかと思えば明らかに普通ではない能力に目覚めていた。
不幸はそれだけではない。今なお続くこの惨劇の舞台には、既に自らの求めで3人の仲間たちを呼び寄せているのだ。
そう、現場がどのような状況になっているか伝えられていない仲間たちが、今まさにこの場にたどり着いてしまったのである。
「はあっ、はあっ、やっと着いた…! ポイズンは初めての戦闘なのに、遅れてごめん! 怪人は…えっ」
「くそっ、よりによって実践経験のないポイズンの通ってる学校に現れるなんて! …えっ」
「ポイズンちゃん、私たちが来たからもう大丈夫よ! …えっ」
「…あっ、あっ、あっ、あのっ、フリーズさん、ボンバーさん、エレキさん、そのっ、こっ、これはっ」
「ゲ、ギ、ギ、ギ、ギ…」
現場に到着した3人の仲間たち、キューティ♡フリーズ、キューティ♡ボンバー、キューティ♡エレキは、眼前に広がる光景を目の当たりにして一様に時が止まったかのように停止した。
地面に仰向けに倒れ込んで、右手で左肩の付け根をツメが食い込むほどの力で握りしめ、凄まじい痛みと苦しみに表情を歪ませながら呻き声を上げる怪人。
握りしめられた左肩から先は、ぼこぼこと蠢き、ぶくぶくと泡立ち、ジュウジュウと音を立てて悪臭を伴う煙と溶けた血肉をピュウピュウと噴出する。
その位置にあるのだから元の形は左腕だったのだろうと想像できるが、しかしいまその左肩から先にくっついているのは、寄生虫に支配されたカタツムリみたいな、不気味に蠢く気色悪い肉袋である。最悪なことに、それはただ蠢くだけでなく悪臭と血肉を撒き散らしている。
ちなみに、キューティ組は全員が13才である。
もれなくピッチピチの女子中学生で、怪人相手に戦うことがあるとは言え、こんな裏社会の拷問よりドギツすぎるグロ映像を、よりによって生で見る機会なんてあるはずがないので、当然ながらこんな状況で平静を保てるわけがなかった。
あまりの光景に停止してしまっていた思考が徐々に氷解し、眼の前の光景を脳が処理してしまい、理解したくもない事を理解してしまう。
「な、なん、なの、これ…」
「か、怪人の左腕が…か、か、肩、から…溶けて、泡立っ、て…ウッ…オエエエエッ(ビチャチャチャ)」
「ヒッ、ヒィィ、イヤアーーーーーッ!!?」
「あっ、あっ、あっ、…」
到着したキューティ組の仲間たちは、途端にパニックを起こし、涙を流して震えたり嘔吐したり絶叫したり、とにかく恐怖に耐えかねたように生物的な意味での防御反応を示した。
この瞬間もお茶の間に生中継をお届けしていたカメラが映像として捉えてしまっており、パニックを起こした魔法少女の姿を見て「これは本物のグロ映像だ」とやっと正しく理解できたテレビ局の責任者たちは大慌てで中継映像を遮断。
そのまま一時的にとても綺麗な「ナイスボート」の映像を流すことで誤魔化そうとしたが、時既に遅くその数分後には尋常ではない数のクレームの電話がテレビ局に殺到した。
事態の把握が遅れた魔法少女連合・スマイルの本部サポーターたちは、周囲が大変なことになりすぎて逆に冷静になってきたところのキューティ♡ポイズンからの連絡を受けてやっと異常事態を認識し、事態の解決のために方々に飛び回ったり連絡したりなど大忙しとなった。
これこそが、キューティ♡ポイズンの初めての戦闘記録であり、「普通の防御魔法一発で敵の幹部級を討伐した」という、最初の伝説の記録である。
また、キューティ♡ポイズンはその後も、どれほど能力を加減しても相手をグロテスクなオブジェに変えてしまい、そのたびにキューティ♡フリーズが涙を流してガチガチと奥歯を鳴らして震え上がり顎関節症になったり、キューティ♡ボンバーは腹の中のものをゲエゲエと吐きまくったせいで万年食道炎になり、キューティ♡エレキは正体がメチャクチャ良いところのお嬢様ということもあってキューティ♡ポイズンとなるべく会わせないようにと魔法少女連合側が配慮するなど、様々なことが起こった。
歴代最強かもしれないという武闘派魔法少女であったキューティ組だが、なんとかその時代を象徴する邪悪な怪人集団であるゲラリアンの撃滅には成功したものの、そのメンバー全員が精神的に大きな傷と身体的にも障害を負ってしまった(原因については公的記録において秘匿されているが、当然ながらキューティ♡ポイズンが原因だぞ!)ことで、早々に魔法少女を引退していった。
…………キューティ♡ポイズンを除いて。
──時は流れ、15年後。
魔法少女連合・スマイルの真の本部、魔法大宮殿スマイルパレス。
全身に仄かに白く発光している美しい白布を纏い、薄地のヴェールで顔を隠した、荘厳な雰囲気を放つ妖艶な女性が、宮殿の最奥部に位置する玉座の間で憂いを帯びた様子で座っていた。
女性は、何か思い詰めたような様子でいたが、「ふぅ…」と小さく息を吐いたかと思うと、キラキラと輝くようなよく通る美しい声音で言葉を吐いた。
「…仕方がありません。 キューティ♡ポイズン、向かっていただけますか?」
そうして水を向けられたのは、同じく玉座の間にいるものの、玉座と相対するような、しかしそれなりに距離をおいた場所で姿勢正しく直立する、妙齢の美しい女性であった。
髪色は毒々し……いや、ちょっと派手すぎる色のピンク色で、インナーカラーが濃い紫というドギツ……ちょっと独特な色合いをしており、それを軽く編み込んで小さなポニーテールのような髪型にしている。
服装は、15年前のときのまま、フリフリでフワフワで、ヴァイオレットピンクとディープパープルを基調としたカラーリングで……本当に15年前のままの服装であるせいでただでさえ丈が短いのにもう半ケツどころか全ケツが出てる(流石にアンダースコートは着用している)し、大きく育ちすぎた胸が収まりきってなくてパッツンパッツンに布地が張りきっていて首元の隙間からI字の谷間がバッチリ見えてしまっている。
誰がどう見ても少女ではないが、しかしその特徴のすべてが、この妙齢の女性を「魔法少女キューティ♡ポイズン」だと示しているし、実際にそう呼ばれているところであった。
自分の魔法少女としての名前を呼ばれたその女性は、酷くげんなりとした表情を作りながらも、「……はぁい……」と非常に重い声音で返事をし、くるりと振り返って魔法大宮殿スマイルパレスの玉座の間を歩いて出ていく。
この女性こそが、「魔法少女キューティ♡ポイズン(28才)」であり、15年間現役を続けている歴代最凶の魔法少女であり、徐々に邪悪さと耐性を増していったことでどんどん手がつけられなくなっている邪悪な存在たちに対する最終兵器として運用されている、魔法少女連合の奥の手と呼べる存在である。
なお、男性経験無し、お付き合いしていた男性がいたこともあったが清い関係のままで、魔法少女を引退することができないままズルズルと関係を続けてしまったことで男性のほうが待てなくなってしまい、別れを告げられた(しかも他に好きになってしまった女性がいて、その子と結婚を考えているという話をされた)のがつい昨日のことである。
毎年4度更新される「人気ヒーローランキング(日本版)」では15年連続でブッチギリの最下位であり、「歩く癌細胞」とまで呼ばれた最悪のマスクファイターですら最下位にならなかったことでさらに伝説となった、本人はいたって善良で正義感が強くしっかりと日本社会の平和を守っているのだが、日本社会の平和のためにもあんまり表に出ちゃいけない悲しきヒーロー、それが「魔法少女キューティ♡ポイズン(28才)」なのである。
「……あの、取材するのは良いけど、あんまりその28才って強調するの、やめてくださいね」
ひえっ…は、はひ……。
「……はぁ……」
…その後、現場に急行したキューティ♡ポイズンは、敵味方から悲鳴を上げられ阿鼻叫喚の空間を作り上げながらも、その場にいた他の魔法少女や特殊戦隊やマスクファイターたちが全く太刀打ちできなかった大悪魔・魔王ザンギャックを、「そこまでやるか?」というくらいの苦しみを与えて撃滅した。
日本史上、いや世界中と比べてみても最凶最悪の残虐さを持つとされた魔王ザンギャックが絶叫を上げて苦しみぬくほどの残虐性を披露してみせたキューティ♡ポイズンは、また一つ(不名誉な)伝説を積み重ねたのである。
▼魔法少女キューティ組について
・キューティ組
年代ごとに結成される魔法少女たちのうち、キューティ組と呼ばれる魔法少女たち。
他の魔法少女組とは一線を画す戦闘能力を持ち、初代魔法少女たちにすら並ぶのではないかと噂されるほどの武闘派。…だった。
キューティ組の四人目となるキューティ♡ポイズンはいわゆる追加戦士枠であり、邪悪な怪人である「ゲラリアン」たちの謀略によって、長い間魔法少女の力が目覚めることができずにいた。
その時の悪い影響を受けたためか、それとも突然変異的に力が増幅・変異してしまったのか、キューティ♡ポイズンの能力はニチアサでは描写していけないようなガチの猛毒になってしまった。
・放送事故
魔法少女の活躍はよくテレビ中継されるのだが、キューティ♡ポイズンが登場すると映像が「ナイスボート」に変わるようになってしまった。
理由は、キューティ♡ポイズンを見るだけで泣き叫ぶなどしてしまう人が多くいるため。存在そのものがグロ指定されている。
・キューティ♡フリーズ
キューティ組の一人目。本名は「東野 ヒオリ」、パーソナルカラーはブルー+ホワイト。
その代の最初の魔法少女であり、冷静沈着で敵の罠や謀略を見抜いて意表を突くような作戦を即座に思いつく極めて優秀な魔法少女である。…だった。
冷気を用いた魔法や技を駆使する。最強技だと自分が凍えてしまうほどの冷気で相手を凍らせることもあるが、命までは奪わない。
名前の由来は、凍死。
・キューティ♡ボンバー
キューティ組の二人目。本名は「西川 ニチカ」、パーソナルカラーはレッド+ブラック。
どんなときでも全力全開な熱血寄りの元気な女の子で、ちょっと猪突猛進過ぎるおバカさん。それでも、みんなの心の支柱となるキューティ組のリーダーだ。…だった。
爆破を用いた魔法や技を駆使する。最強技だと自分までボロボロになるほどの大爆発を引き起こすが、命までは奪わない。
名前の由来は、爆死。
・キューティ♡エレキ
キューティ組の三人目。本名は「北小路 キリコ」、パーソナルカラーはイエロー+ライトグリーン。
穏やかな性格で、やや厳し目な性格のフリーズと勢い任せな性格すぎるボンバーの調整役みたいなことをよく行う、空気の読める良い子。…だった。
電気を用いた魔法や技を駆使する。最強技だと自分諸共相手を感電させて麻痺させることができるが、命までは奪わない。
名前の由来は、感電死。
・キューティ♡ポイズン
キューティ組の四人目。本名は「南 ミミ」、パーソナルカラーはヴァイオレットピンク+濃いめのパープル。
いわゆる追加戦士枠で、例に漏れず他の魔法少女よりも強力な才能を持つ。…が、あまりにも強力すぎた。
猛毒を用いた魔法や技を駆使する。どれほど加減をしても相手に致命傷を与えてしまう。最強技は自らの意思で封印しているが、そもそも使う必要がない。
名前の由来は、毒死。