陽乃中、雪乃下で、いろはすを片手に結いする、間違いつづけた彼女たちの青春は、フィナーレへと結する。完 作:mokahurapeto-no
間違え続けた彼女たちの物語が、また始まる
その夜、居酒屋には麗しい四人の美女と、一人の男が、一夜のうちに会合を果たしていた。
もはや、両手に花というより、両手両足に花という、ハーレム状態だった。
一人は、いつも笑顔を崩さない天真爛漫な少女
いや、少女というのは語弊がある。
あどけなさを残す顔立ちながら、芯がありそうな顔立ち。
高校時代からは、大きく変え合ったメイク。
言い表せないような、艶めく瞳、発色の良い紅色の唇、彼女から漂う色っぽい雰囲気。
あの頃の、あほの子の面影は何処に行ったのやら、、、
極めつけは、黒髪のショートヘアー。
訳を尋ねると「実は好きな人が最近婚約しちゃって、、、」と特定の人物の方向につぶやくと言う。
ちなみに陽乃談だ。
そして、二人目は黒髪のロングヘアー。
高校時代からは大きく変わったその髪型は、彼女曰く
「いやー、世界一の妹に先を越されちゃってさー、え?何を取られたって?それは、、、」
彼女は間を置くと、芝居がかった口調で迫真の演技をする。
「おれはっ!、、、本物が、、、っ、、、はっ、、、欲しいっ!ってね」
夕暮れ時、部室にて、赤裸々に彼女たちに語った場面が鮮明に浮かぶ。
彼女たちも例外ではないようで、目が泳ぎながら、耳のふちが段々朱に染まっている。
それがこそばゆいのか、一人は飲めもしない酒を頼み始め、もう一人は今はないお団子をクルクルと弄ろうとしたがないことに気づき、所在なさげに頬を赤くしながら俯いていた。
そんな時俺はというと、、、、死にたい、、はあ、もうばっかじゃねーの!ばっかじゃねーの!!バーカ!バーカ!
「いやー、お姉さん感激しちゃったよ」
胡散臭そうに、徐に両手を取り出し、顔を覆い隠す。
すると、誰にでもわかるようなウソ泣きを始める。
「うう、あの時の比企谷君は、こんな立派な八幡君になっちゃって、お姉さん嬉しい!」
そういうと、がばっとこちら側に飛び込んでくる。
そうすると、まぁ?その、当たるわけよ、はるのんの、はるのんが
やはりだ、やはりと言わざるを得ない。
妹は、あれから成長が滞っているというのに、方や姉は凶悪なものをさらに進化させていた。
そして、ほかの人は気づいていないが、微かに顔を火照らせていた。
気づかれてないと思っていたのか、顔を上げた瞬間目が合う。
すると、顔を腹にうずくめ、一人でうなり声をあげていた。
なんだよ、かわいいかよ。え、てか可愛すぎない?
俺に雪のんがいなかったら、真っ先にもらいに行ってたわ。
というか、ゆきのんさえ良ければ、姉妹どちらももらいたい!
是非とも、姉妹丼でいかせてほしい。
ついでに、使ってるシャンプーは違うのに、ゆきのんと同じ匂いがする。
頭がくらくらするような、卒倒しそうになるような、俺の好きなにおい。
雪ノ下家のフェロモンなのだろうか、それとも、俺が雪乃の虜にされているいるからだろうか。
そうとも知らず、雪乃ちゃんは冷ややかな目線を向けて来る。
やめて!ゆきのんっ!そんなごみを見るような目で俺を見ないで!
「あらっ、貴方そんなに鼻の下を伸ばしちゃって、愛している私よりも顔が同じで、尚且つ夢いっぱいおっぱいを持っている、姉さんのほうにご執心というわけね、ヒキガエル君は。全くもってふしだらな目線と視姦するような下卑た目だわ。」
マシンガンの様に侮蔑の言葉が飛んでくる。
ひどい。俺が何したってんだ。
「でも、そうね。私もその、いちおう、本当にいちおう!なのだけれど、、あなた専用のものを持っているのだから、も、もちろん姉さんほどは大きくないのだけれど、私も愛でてほしいわ、、、」
小動物の様な、庇護欲を掻き立てるような上目遣い。
クッと少し尖らせている唇。
少し潤みを尾びれいる愛らしい瞳。
血色の良い、水分を帯同させ、プルンとしている唇。
この子一色の才能があるな。
え、なに?かわいいか?可愛いなのかっ!?えまって、かわいい。
んで、あざとい。あざとすぎてアザトースだわ、もうこれ。
「できれば、その、、優しくね?」
一人もがき苦しんでいた俺に向けて、こう、言葉を続けた。
なんてことを言いだすんだろうか、この子は。
おかげで、ほかの二人の顔が真っ赤じゃないか。
ついでに、俺の顔まで真っ赤になってしまった。
言った本人も周りの状況を鑑みて、自分の失態を理解したらしい。
胸の前に両手を突き出し、顔が真っ赤に火照っている状況で
「や、やっぱり忘れて、お願い....」 とぽしゃぽしゃと呟いていた。
そして最後の一人は肩に髪を立て掛け、ピンク色のシュシュでその髪を束ねている女の子。
銀色の眼鏡をかけ、足の膝まであるコートに身を包んでいる。
極めつけは、左手の薬指に付けてある指輪。
聞くと「私のパートナーがくれたものよ。そ、そうね、私と釣り合う人間なんていないのかもしれないけれども、、、彼はいつだって対等にいてくれるわ、依存する関係ではなく、私のそばにいてくれる努力をしてくれるの。そんなところが、、、大好き。」
こんな風に、この世で最も幸せをかみしめるように言うものだから、彼女に寄り付こうとする男たちも諦めていく。
高校時代からは、随分棘が抜けた面持ちになり、いつの間にか彼女を比喩するあだ名もなくなっていった。
穏やかな表情を、常に、時には微笑むことも。
それに伴い、男が彼女とお近づきになろうと群がるようになっていった。
だが、彼女は大学入学と同時に交際をしていることを公言。
それでも近づく男には、他の女生徒から制裁が加えられるらしい。
雪のん、親衛隊だ。
「彼は右手の薬指に首輪をはめてるわ。わけを聞くと、同じ指に指環を填めるのは、なんか違うんだ、寄りかかってるっていうか。そんな依存的な関係じゃなく、雪乃とは対等でいたいっつーか。まあ、そんな感じ、、、みたいな、。」
って言ってたのよ。
そんなこと気にする人この世にいるのかしら。いえ、いたようだけれども。
本当にひねくれていて、其れでいて、本当にめんどくさくて、其れでいて本当に、、、
「一生を私と添い遂げさせたいと思ってしまうわ。」
ぞわっとする程トーンが落ちた声で、頭の後ろ側がぞわっとするようなことを口にする。
重い、重いよ!ゆきのん。
そして怖い、やめて!がちなトーンで言わないで!
内なるガハマさんがそう告げている。
そして、三人称俯瞰視点のナレーションに自我を出してしまった。
これはメタ的に良くない。
ということで、自我を消すことにしよう。
・・・深夜は十二時を過ぎ、良い子はもう熟睡をしてる時間。
悪い子はなにくそ精神で、夜更かしをしている時間。
無論、俺は後者だった。
親がトイレに行こうとリビングに入ってきても何食わぬ顔をしながら、コーラとポテトを貪っていた
無論怒られたが、、、
そして、今目の前には、出来上がってる三人がいる。
「せんぱーい、私酔っちゃいましたよー」
そして、何故か一人増えた。
いろはすが。
なんでも、今日中に終わらせられないほどの残業を、上司に任せてとんずらしたらしい。
そのため、一色は12時から参加ということになった。
「酔った女の子には優しくですよー?」
こんな風にあざとさ全開で話しかけてくる。
「いや、君は酔うことないでしょ」
「ぷー、偶には酔うことぐらいありますよー」
人を誑し込むような甘い言葉と誘惑をしてくるが、俺は知っている。
というか、見ていたから。
前に飲みに一色が引っ付いてきたときのことだった。
そこには、なんとかさきさんと、るみるみとけーちゃんが参戦していた。
因みにこの二人は来月成人なので、酒は飲ませないようにしている。
二人ともグッと女性らしくなり、大人っぽくなっていた。
特にるみるみは雪乃と並んでも遜色ない美貌だ。
けーちゃんは言わずもがな天使だ。異論は認めない。
この二人は見た目は大人になったが、意外なことに酒に弱いらしい。
るみるみはブランデーの香りで酔い、けーちゃんはふわふわーとしていた。
なんとかさきさんは、ほろ酔いを飲みながら、仕事での愚痴と弟への愛を語っていた。
相も変わらずブラコンを発揮している彼女の横でスンっ.....とした顔でウォッカをストレートで飲んでいたのだ。
るみるみの大学でナンパが多くて困るというぜいたくな悩みに相槌をしたり、天然のあざとさを持つけーちゃんに対抗意識を燃やしたりしていた。
その後も、生産性のない会話を駄弁ったりしていた。
結局帰る時に、酔いつぶれてなかったのは一色ただ一人だった。
こんなことがあったから確信を持って言える。
一色いろはは酔うことはないのだと。
「ねえーせんぱーい、聞いてます?」
「はいはい、聞いてますよー」
「むう、なんですかー、その相槌はー」
「だから聞いてるって」
不服そうな顔をした一色はぷくっと、ほほを膨らませ、へちゃむくれな顔をする。
しばらくそんな顔を続けていたが、突然何かを思いついたように顔を綻ばせた。
「あら比企谷君、腐っているのは目だけだと思っていたのだけれども、、、耳まで腐っていたのかしら?」
「ううん、ああ、、なんか、、、。いいな。」
そういうと、ごみを見るような冷笑されてるような視線が多方面から向けられる。
「先輩、、、」
「きもいですよっ!」
「ヒッキー、まじきも」
「お姉ちゃん、さすがにドン引きだよ」
「そうね、控えめに言って、産業廃棄物ね。国の恥だわ」
ひどい言われようだ。俺が一体何したってんだ。
いやね?俺だって、言うつもりじゃなかったんだよ?
「にしても、雪乃に似てるな」
「先輩話逸らそうとしてません?」
思わず話を逸らそうとしたところ、一色にグッとつかまれる。
ついでに、腕を抱え込まれている。
それはそれで、悪くはないんだが、、、前方にいる雪乃の目が怖い。
一式さん!大好きな雪乃先輩が嫉妬しちゃってるよ!
俺は思わず顔をそむけてしまった。
「あー。えっと、、、いろはちゃん他にも真似できるの?」
険悪な雰囲気を感じ取ったのか、場を取り持つように由比ヶ浜が話しかける。
「えー、お姉ちゃんも見てみたーい」
多分この人は自分が楽しみたいだけなのだろうと直感する。
「そうね、私の真似はしたのだから、他の人の真似もできるはずよね?」
ねっ?と同意を求める目線を一色に向ける。
一色はその目線を軽く受け流し、そうかもですねーとつぶやく。
デジャヴを感じるのは何故だろうか、、、と、思っていたら、ふと思い出した。
海浜総合高校との、合同イベントの時の一色だった。
あの時もこんな風に「そうですねー」botになっていたことを思い出し、ふっとうすら笑いを浮かべる。
それが、不審に映ったらしく、一色ははて?と首を傾げ、ぽけーと口を開く。
何だか、随分懐かしい気がする。
時期で言ったら、もう何十年も前の事と知り、驚く。
と、同時に何だかひどく郷愁を感じる気分になった。
感慨深いような、気が付いた時にはもうおじさんになっていることを知り切ないようなそんな気分だ。
まるで昨日の事にも思えるのに、ずいぶん昔だった気もする。
今目の前では、喧嘩が繰り広げられている。
違うなじゃれ合いだ。
右に由比ヶ浜、真ん中に雪乃、左に一色の並びだ。
ガハマさんの真似をした一色だったが、雪ノ下さんの合格点に届かず講習を受講させられているようだった。
いえ、そうじゃなっくて、、、と、由比ヶ浜の魅力を熱く語りだす雪乃だが、その熱量に若干引いている一色。
ゆきのん、もう、大丈夫だからあ、と顔を紅潮させ雪乃の腕を引っ張る由比ヶ浜。
それを保護者目線で見ている、陽乃さんと俺。
お互い言葉は交わさずとも、気持ちは同じだったと思う。
顔を綻ばせながらきっと見ていた。
ちらとしか、見なかったが、雪乃たちを見てる時の陽乃さんは随分色っぽく大人びていた。
彼女が見た光景はどんなのだっただろうか。
俺と同じレンズ越しの光景なのか、それとも彩色、足されている光景なのか。
彼女が思うことはわからない。自分にまで嘘をつく俺には人の気持ちなんてくみ取り切れない。
あなたの事なら何でもわかるなんて、そんな言葉はまやかしだ。
全て余すことなく知ろうとするなんて傲慢だ。
陽乃さんの事が理解できることなんてきっとない。
でも、それでも、いつかそんな日が来た時のために俺は知ろうとするんだろう。
言えるような関係性になっているために。
姦しく騒ぎ立てている彼女たちを尻目に、俺は陽乃さんとグラスを当て、祝杯をし、酒をたしなむのだった。
ーーーーーー
あれから、どれくらい飲んだのだろうか。
時刻を見ると深夜二時。
気が付けば、静まり返った家の中にいた。
横を見ると由比ヶ浜。
左を見ると一色。
ベットの上を見ると陽乃さん。
パンさん抱き枕には雪乃がいた。
.......なんで?
え、えっ、お持ち帰りしちゃった感じ?
ふっ、不倫?
いや、まて、冷静になるんだ比企谷八幡。
恋人同行なら....うん!だいじょぶ。
それに俺は理性の化け物らしいのだ。だから、大丈夫なはず。
なんていい免罪符なのだろうか。
それを言った当人は胸元をはだけさせながら、無防備な姿で寝ている。
理性の化け物解放するぞっ!
四人とも姿容姿だけで言えば、誰が見ても美女なのだ。
勿論、雪乃一筋だが、邪な考えがよぎらないわけではない。
人並なのだ。
全員に毛布を掛け、一人寝室から抜け出す。
その際、雪乃の額に口付け「おやすみ」と呟く別待遇だった。
まあ、このくらいの待遇はいいだろう。
彼女なのだから。
一人リビングのソファーに横になる。
静かに息を吸い込み、鼻から循環させる。
雨音が滴る音と、冷蔵庫の駆動音だけが耳に残る。
瞼を閉じる。
ひたすら無機質な静寂だった。
今日は騒がしかったからだろうか。
この静寂がひたすらに苦しくて、息を止める。
ひたすらに焦燥感を掻き立て、寂寥感を感じさせる。
いつもなら、揮発する考え事が、今日は出てこなかった。
すーっと、頭が空になる。
徐々に意識と体が融解していく。
自分という他者との境界線が無くなり、溶け込み、混ぜ合わされる。
ふと、陽乃さんの発言が頭をよぎり、意識は消えた。
ーーー
「でも、本当に大きくなったね君たちは。」
騒がしさは鳴りを潜め、各々酒のあてをつまんでいた時、ふと陽乃さんがそうつぶやいた。
「そりゃ、まあ、もう10年近く経ちましたからね。」
「貴方は十年たっても変わらないままね」
「それを言うなら君もね」
「あら、私は好意的に言ったのだけれど?」
「そうだな、相変わらずきれいだなと思って好意的に言ったんだがな」
「そ、そう........あ....の......私もっ...かっ..変わらない、あのっ..あ、あなっ、貴方が好き...なんて...思った...」
ぽしゃりとそう呟き、シャットダウンした。
最初のほうはあわあわしていたが、途中から髪を手櫛ですきはじめ、たどたどしくも、言葉を紡いでいた。
言い切った後は、髪で顔の前を覆い隠し、顎をくっと下に下げた。
茹蛸の様に真っ赤になった顔を必死に隠そうとしていたのだろう。
その場にいる全員の認識は一致していただろう。
「あざといなっ」と。
現に俺は、ニマニマしている口元と上がり切った口角が戻らなかった。
「はいはい、イチャイチャするのは家に帰ってからねー」
と陽乃さんにおちょくられた。
失敬な!家じゃなくてもイチャイチャしますとも!
「それに見てるこっちまで、妬いちゃうからさ」
見ると、一色はぷくーっと、リスの様に顔を膨らませ、由比ヶ浜は眉をひそめて、いいなあとぼそっと呟いていた。
そうすると一色が体をこすりつけて来て、色っぽく、艶めかしい唇を耳に当てる
「せーんぱいっ!今度どこか行きませんか?【二人きりで】」
こそばゆい耳元で、緊張が入り混じった吐息を発する。
すると、由比ヶ浜が今度は近づいてきて、
「私も...ヒッキーとどこか行きたいなぁ、いいよ...ね?」
こてんと首を傾げ、庇護欲を増幅させるようなあどけない動作で尋ねてきた。
だが肯定するわけにはいかない。
なぜならば、雪乃が先ほどから猫の様に瞳孔を光らせ、「泥棒猫...」と呟いているからだ。
自己保身に定評のある俺は、保身に走ることにした。
政治責任を追及される政治家のように。
それにここで肯定などしようものなら、帰ったときに何をされるか分かったもんじゃない。
「ん?んー、ああ、いけたらな」
これぞ、俺の高校三年間で培った奥義。
暗に行きたくないと主張するのではなく、「いや、行きたくないわけじゃないけれども、ちょっとね?」と相手に伝えることが出来る。
相手は、もしいけなくとも、気分を害すことなく納得ができるという訳だ。
「うわー、でたよ、いけたらいけると言いながら、いけないやつ」
「ヒッキー、来るかどうかわかんないから困るんだよね.....]
だというのに、気分を害していた。
後、本当にすいません。
そのやり取りを見ながら、陽乃さんはくすくす笑っていた。
一頻り笑い終わった後にポツリ。
「本当に大きくなったよ君たちは、その関係を作り上げたんだからさ。」
周りを見るとみんな、苦笑いを浮かべている。
全員分かってるのだ、一長一短で得られたものではないことを。
作り上げるために色んなものを捨ててきたことを。
そして、ようやく作り上げた関係は、壊したくないほどに心地のいいものだと。
皆が皆、無言で語り合っていた。
すると、陽乃さんが指を一本前に出す。
「それと最後に一つとっても大事なこと。とてもとてもね。」
陽乃さんはそう前置きする。
「私にとっても、私たちにとっても......ね?」
古めかしい記憶。
何かを捨てて行っても、其れだけはなくさないようにと大事に大事に胸に抱えていた宝物。
彼女が唯一欲しがっていた存在しているかわからない幻影を問うてきた。
「君たちは本物を見つけることが出来た?」
そう。問うてきた。
その時だけは、淀みのない目で、瞳の奥を見てきた。
...大きくなれたのだろうか。
果たして成長と呼べるのだろうか。
俺は、、、進めているのだろうか。
俺は、この関係は。
間違ってないのだろうか。
ふとした時に思う。俺だけあの場所に置いてかれてるんじゃないかと。
ふとした瞬間、命をつなぎとめるのが不安になる。
虚勢を張っている者程、メッキがはがれた時、声を出せぬまま溺れていく。
沈み切った後に浮かんでいるのは、はがれたメッキだけだ。
そこに生きたという証は、沈んだ後では何一つ意味を残さない。
誰かが見つけてくれなければ、いなくても変わらない存在として処理される。
其処にいたという証は誰かが見ていなければ、情報としても意味をなさなくなる。
そう。、誰かが。
誰か一人でもいいんだ。
多くは望まない。
ただ一人の、誰かでいい。
だから、、、
誰か、俺を見つけてほしい。
そして俺は、見つけてあげることが出来たのだろうか、、、
こうやってネガティブな考えしか浮かばなくなり、最終的に自己嫌悪に陥るのは、俺の悪癖だ。
蛇足なことしか考えられなくなり、どうしようもなく不安になる。
ふうっと、大きく息を吸い、鼻孔から吐き出す。
息がかすれる。
手が湿って、背中にじんわりと嫌な汗をかく。
頭の額の際にじっとり汗が湿る。
すると、突然
「大丈夫よ。私がいるもの」
そういって雪ノ下は手を握ってきた。
いつもと変わらずに。
隣で。
彼女といれば落ち着く。
そして、しっかり考えて向き合うんだ。
ふっ、、、そうだった忘れていた
いつだって俺たちの関係は歪んでいた。
解れて、途切れて、消えそうになって、それでも本物が欲しいと足掻いてきた。
その結果今がある。
この関係が本物かどうかなんてわからない。
正しいかどうかなんて、いつだって後世が決めることだ。俺たちが決めることじゃない。
俺は年を取った。
若白髪も薄っすらと出てきた。
手のしわも増えた。
顔もやつれた。
だが、それは彼女だってそうだ。
少し、色あせてきた髪。
未だに綺麗な所作。
それでも彼女も老いていく。
同じ時を生きているのだから。
それでも、彼女と肩をずっと並べていくんだと思う。
彼女がこんな風に手を握ってくれるから。
だからこそ、彼女と共に探して間違いつづけるんだ。
ならば、俺が言うべきはこうだ。
「本物を探し続けますよ。最期まで」
そういうと彼女は満足そうに笑った。
「そっか」
一言だけ、されど一言というべきだろうか。
だが、先ほどまでより心なしかすっきりしているように見えた。
「ですね~」
「だねー」
「そうね」
酒は嫌いだった。
酔えないから。
だが今日は不思議と気分がいい。
気持ちいい酒だった。
すっと目を閉じる。
明日はきっと晴れる。
何の確証もないのにそう思えた。
比企谷八幡は密かに、過去を振り返り、思いをはせた。