陽乃中、雪乃下で、いろはすを片手に結いする、間違いつづけた彼女たちの青春は、フィナーレへと結する。完 作:mokahurapeto-no
今日も今日とて奉仕部は騒がしい。
いえ、姦しいかしら。
一色さんと比企谷君が揉めて、勿論比企谷君が負けて敗者の端っこの隅の席に戻っていく。
由比ヶ浜さんがそんな二人をなだめつつ、比企谷君に怒る。
なんでも、この前遊びに誘ったのに「先約がいるから」と断られたと。
比企谷君は顔を背け、所在なさげに口をもごもごさせる。
対して、由比ヶ浜さんは顔をずいと近づけ、前かがみになる。
すると、由比ヶ浜さんの由比ヶ浜さんが主張してくるのだ。
サイズ感を例えるならば、そう大きめのメロンといったところか。
そんなメロンを鼻の下を伸ばして、視猥するような目線で眺めている。
ちょっとイラっと来る。
別に、、、私だってその気になり際すれば、、、。
...
「さっきの話だけれども、先約だったのは私よ。ごめんなさいね、由比ヶ浜さん。」
由比ヶ浜さんが、無機質な表情を比企谷君に向ける。
「なんでも、どうしても私と「デート」がしたいと言ってきかなくて、、、ね?」
決して腹いせなどではないのだけども、、、そう腹いせなどでは。
そうよね?ね?と同意を求めるように顔を向ける。
へー、そうなんだね。ヒッキー。と恐ろしく冷たい口調で言い放つ由比ヶ浜さん。
気まずくなり、顔をどちらからも背ける比企谷君。
まさに三者三様。
各々の思惑が交差していた。
そんな中、先ほどまで形態を弄っていた一色さんがふと、こちらに目を向ける。
助けをこうように目線を合わせる比企谷君。
「私が好きな人はこの程度じゃへこたれないので、頑張ってくださいね!せんぱい!」
爆弾発言を投下した。
「ヒッキー最低」
「ヒキガエル君、去勢しなさい」
「えぇ、酷い、、、」
ぼそっと呟くようにそう言った。
浮気者には罰を。
罪人には断罪を。
仕方ないじゃない。古来より続く鉄則だもの。
「挽回したいのなら、私とその、、デート?とか」
「ま、今度な」
「という事で由比ヶ浜さん。比企谷君は私とデートに行きたいそうよ」
「ヒッキー!酷い!私にあんなこと言っておいて!!」
そう言うと勢いよく立ち上がり、ぷんすかと部室から出て行ってしまった。
由比ヶ浜さんを追従するように、比企谷君も廊下に行ってしまった。
「雪乃先輩も悪い人ですよねぇ」
ぽつりと一色さんが呟く。
「あら、私の男を篭絡させようとした人に言われたくはないかしら。」
「しょうがないじゃないですか、好意って止められるものじゃないから、、、」
それについては同意ね。
しょうがないと思っているわ。
比企谷君、たらしだし。
「ま、そうね。」
今日も奉仕部は騒がしい。
ーーーー
いつも。
いつも同じ夢をみていた。
私が自分を異質だと自覚したのは小学一年生の時だった。
入学式に母親にべったりくっついている同級生を見て、そう感じた。
今になって思えば、それが世間一般で言う普通だったのだろう。
だが、長女である姉が母親に抱き着くと子なんて見たことがなかったし、私自身も抱きしめられた記憶なんてなかった。
それどころか、愛をもらった記憶すらない。
つまるところ、変わっていたのは自分だった。
それに気が付いた時、ある種の劣等感を深く感じた。
他の子は愛をもらっているというのに、自分だけがもらっていない。
幼いころから英才教育をうけていた成果、というべきだろうか。
それとも、弊害というべきか。
人格形成の礎となる、6歳にしてそのことに気づいてしまった。
その日から、私は人とかかわるのを避けるようになった。
その後もわたしは努力を重ね、学年で主席を取っていた。
当然だ。
なぜなら、姉は主席以外とったことがないのだから。
姉は天才だった。
私と違って、コミュニケーション能力も高く、なおかつ頭もいい。
完璧超人というのはこの人のためにあるのだろうと思った。
尊敬もしていたし、敬愛もしていた。
だからこそ、家族という関係かと聞かれると些か腑に落ちない。
尊敬している隣人というのがしっくりくる。
そんな彼女への劣等感は日に日に増していくばかりで、いつしか口数も減った。
ある日、姉さんがリビングで泣いているのを見つけた。
聞けば、生理が初めて起きたらしい。
戸惑いと、悲しみと、完璧じゃない自分の情けなさが入り混じった表情をしていた。
不安そうな顔で俯いていた。
「私はね。完璧じゃないとダメなんだよ。だから、血が出たくらいで動揺しちゃダメなんだ。」
姉はそういっていた。
とはいえ、母に言えば生理用品などは買ってきてくれるだろう。
だが、完璧でないといけない。という彼女のプライドが、其れを阻害させた。
いつしか、がんじがらめに姉さんを縛り付けていたのだろう。
姉さんも私とおんなじだった。
そんな私にも変化が訪れた。
六年生になり、今まで行われていたいじめがぴたりとなくなった。
それどころか、今までいじめていた子が私を見るたび、びくっと体を震わせ逃げ出す。
それどころか、顔色を窺うように生産性のない蛇足な話をしてくる子まで現れた。
姉さんがやったと気づくのに時間はかからなかった。
今まで起きてきたいじめはぱたりとなくなったが、誰からも腫物のように扱われるようになった。
当然だろう。
私の機嫌を損ねただけで、順風満帆な学校生活は送れなくなるのだから。
学校にいつも通り一人で登校して、
一人で席に座って、一人屋上で弁当を食べて、一人で帰る準備をして、一人で家で勉強して。
毎日、同じ作業、同じ動作を繰り返すだけの日々。
今覚えば、一週間のうちにしゃべった回数は数回だったと思う。
生きているのか、死んでいるのか分からなかった。
辛い。
只管つらい。
何故つらいのか分からないという事が自己嫌悪を増幅させる。
自分は何を迷っているのだろうか。
何処を目指していたんだろうか。
何処に向かって歩んでいたのか、、、
分からなくなっていた。
そんな日々に嫌気差し、放課後一人公園に向かった。
図書館が閉まる五時まで、一人で黙々と本を読み紙を摺り寄せ、ページを手繰る。
鐘が鳴った後。席から立ち、本をバックにしまい、公園へと向かった。
着いた時には五時半。
周りには人が誰もおらず、静寂と草の共鳴だけが公園に響いていた。
空は夕暮れで、私の長くつらい一日の終わりを告げてくれているようで、なんだかうれしかった。
...寒い
厚着をしてきたつもりだったが、秋空は想像上に寒かったらしい。
体が小刻みに震え、体温が足元から奪われていくようだった。
....でも、大丈夫
あの時のいじめに比べれば、
自ら命を絶とうとしていたあの時に比べれば。
そう思うと、不思議と辛くはなくなっていた。
痛みに慣れ過ぎてしまったのか、
それとも、世界に絶望しきってしまったのか。
今はただ、足元だけを見ていたい気分だった。
------
...あつっ!?
私が目を覚まして、左を向く。
そこにはコーヒーを片手に私に差し出している少年がいた。
「えっ?えっ?」
私が困惑していると、その少年は何も言わずに隣へ座り、缶コーヒーを私の真横に置いた。
ふと自分の服装を見てみる。
すると、体の上にコートの様なウール素材の上着が乗せられていた。
どうやら、この少年が掛けてくれたらしい。
「これあなたの?」
「いや、正確には今はお前の所有物だな」
なんていうひねくれ具合なの、、、
最初はそう思った。
けど、寒そうな私にわざわざ上着をかけてくれたのだ。
そう思うと、何だか胸がほっこりして、この少年がいとおしく見えた。
「ふふっ、捻くているのね。掛けてくれてありがとう。返すわ」
「いや、いい。俺は寒くないしな」
そういう彼の体は震えていて、顔は青ざめていた。
「だめよ。貴方が風邪をひいてしまうじゃない!いいから受け取って!」
「いいや。だめだ。第一お前の方が体調が悪そうに見える。だから受け取れない。」
なんて強情な、、
でも、なんて優しい子なんだろう。
胸の奥がキュウっと締め付けられて、動脈が沸騰する感覚になる。
「だって、貴方。こんなに冷たいじゃない。」
そういって、彼のほほに触れた。
何でだろうか。触れたいと思ってしまった。
他の子には一度も思わなかったというのに。
「お前の方が冷たいだろ?」
そう言って私の手にそっと触れる。
そっか。冷たかったのか。
私は。
気が付かなかった。
多分、この子が行ってくれなかったら気が付くことが出来なかった。
「じゃあ、こうしましょう」
そう言って、二人で...いえ、正確には私が半ば強引に彼に引っ付き、毛布を共有した。
「...ちょっと、近いんじゃないですかね」
「...そうかしら?」
共有してるのは毛布だけなのに、
互いの呼吸音とか、
緊張して湿っている手だとか、
お互いら被っている脈拍だとか、
彼のどうしようもない雄のにおいだとか、
まるで心臓を共有しているかのように感じられた。
なんだか、お互いの秘部をさらけ出しているみたいで、気恥ずかしさと高揚感が同時に襲ってきた。
「ふわっ」
ふと、頭の上に何かが落ちて来る感触。
上顎を引き上げ、首を伸ばし、上を向く。
「あ、雪だ」
「もうそんな季節なんだな...」
口にするつもりはなかったが、口に出ていたらしい。
「それにしても、綺麗だな。雪ってのは」
「ひきたに君はそう思うの?」
「そうだな。客観的に見てロマンチックな幻想だと思ってる。」
「そっか。私はあんまり雪好きじゃないの。」
「なんでだ?」
「周りを凍らせて、迷惑をかけて、すべてを零度に化して、人を冷え切らせる。」
「これじゃ、まるで私が祝福を受けずに生まれてきたみたいで報われないじゃない」
そういうと、ぽろぽろと涙が頬を伝った。
寒い雪の中、こぼれ落ちる涙だけが人肌を感じさせてくれていた。
今まで、胸の奥でつっかえて、取れなかった物が流れ出したような。
取り留めのない感情だとか、満たされない愛だとか、今はもうなくなってしまった夢だとか。
そんな抽象的で曖昧な言葉でしか許容できないものがこぼれていた。
大切なはずだったもの、失われてしまったあの時の気持ちだとか、なんでもない日々が何にも代えようがなかったあの時間とか。
今はもう形すら思い出せないというのに。
「お前、名前なんて言うんだ?」
「雪、雪乃。雪ノ下雪乃よ。」
「雪乃、俺は夏が嫌いなんだ。いつだって蝉の音が鳴り続け、茹だるような暑さが連日...
秋も嫌いだ。なんてったって食欲の秋だからな。小町に何回「デブ兄」ってばかにされたか...
あ、ちなみに小町は俺の妹だ。世界一可愛い。
ごほん。話を戻そう。
春も嫌いだ。入学式と卒業式。新たな門出。希望に輝いている新入生をみると..
どうにも自分に劣等感を感じる.だから嫌いだ。」
「まあ、見ての通り俺に好きな季節なんてあまりない。だから、俺にとって四季っていうのは等しく平等に迷惑なんだ。
俺は無差別主義者なもんでな。」
「....冬は?冬はどうなの?」
「ん?あぁ、嫌いだな。」
「、、、そう」
「お前と会うまではな」
「え?」
「冬なんてさみーし、眠たくなるし。馬鹿みたいに雪が降り積もる。冬好きとか何言ってんだ?て感じだった。」
「じゃあ、なんで?」
「お前のおかげだよ。初めて公園でお前...雪乃を見た時に初めて雪っていいなと思った。
初めて季節が好きになった。
美しいものを、さらに際立たせる。
そう思ったんだ。
だから、雪は....嫌いじゃない。悪くないな。」
そういうと、雪乃は下を向いて項垂れた。
「大丈夫か、寒かったか?」
そういいながら、雪乃の顔を覗き込もうとする。
すると姿勢そのままに、手を突き出して静止する。
「..いま、顔みないで...嬉しすぎて真っ赤だから」
ぽしょぽしょと、そう呟く。
「あと、、ユキって呼んで。」
「いいのか?」
「うん、いいの。そう呼んでほしいの」
「分かった。ユキ」
-------
「ユキ」
彼にそう呼ばれたとき、胸が熱くなった。
自然と横にすり寄って、肌を彼に擦る。
全て触れたい。手も肌も耳も。
そんな風に触れ合っているとき。
私は人生で初めて幸せだなと思った。
思えば、彼と会った日から救われていたのかもしれない。
もらってばかりだ。何も返せていない。
何を返そう。
返せない。返せないような大切なものばかりもらってばかりだ。
だから、せめて。
彼のそばにずっと。永遠に___
------
帰り、ひきたに君は私を家まで送ってくれた。
夜遅くは危ないからと。
私としても、彼と長く共にできるんだったら万々歳だ。
帰り道。
たわいのないことばかり語った。
将来の話。これからの生活への微かな不満。でも、二人いれば大丈夫だよねという同調。
明日の天気はなんだろう。今日体が冷えたから明日は風邪をひいてしまうかな?という疑問。
そんな中でも、彼は話を切り出す時「ユキはさ」と言ってくれた。
あ、好きだ。
次の言葉を発したら、思いを伝えよう。
「...あぁ、俺はどんな人生を歩んでいくのかな」
さっきとは雰囲気が違った。
儚さを纏ったような、悲しげな声色と瞳だった。
____ぁ、、、す....
喉の奥、あと一歩出れば伝えられる思いは引っ込んでしまった。
「急にどうしてかしら?」
「多分、、、俺は自分が今まで天才だと思っていたんだ。それなりに勉強をすればすぐ点数はよくなった。顔も絶世のイケメンではないが悪くはない。不便に思ったことなんてなかった。」
はあと彼は息を吐き、真上にある月へと顔を上げる。
その瞬間、何だか大人っぽいような。色っぽい雰囲気を醸し出していた。
月下、照らされた彼は人間の様に朧気で、死の様に儚かった。
「だから、努力が出来なかった。これからも多分ずっと変わらない。変われないままだ。」
「そんなことは、、、」
「そんなことあるんだよ。ユキ」
「何も成し遂げず、何もできず死んでゆく。多分それが運命ってやつだ。」
___っ!
言葉が出てこない。
何も言えない。
ぽんっと、頭を撫でられる。
「今日はありがとな。ユキのおかげで楽しかったよ。それと、最後に困らせるようなこと言ってごめんな。」
「ううん、いいの。」
「そっか。じゃあ、バイバイ」
そう言って彼は言ってしまった。
私は思いを伝えることが出来なかった。
明日こそ、、、そう思い決意を固めた。
彼の背中があんなにも小さくなっていることを知らずに。
_______
あの日から彼は公園に来なくなった。
まるで最初っから居なかったかのように、
忽然と姿を消してしまった。
三日、一週間、一か月と私は公園に通い続けた。
心の何処かで彼がまた現れてくれるんじゃないかという、淡い希望をもって。
こんな、、、
こんな終わり方なんて認められない。
まだ、彼への思いも伝えられていないのだから。
諦めきれなかった。
諦められなかった。
以前彼は自分が通っている小学校名を口にしていた。
そこに行けば何かがつかめる。
そう思い、彼の母校へと足を運んだ。
客室用の扉をたたき、用務員さんに通してもらう。
そして、すぐ前を通りかかった教員に声をかける。
「すいません、ひきたにという生徒は何処のクラスでしょうか?」と
すると、その教員は何だか悲しげな、
自分の無力感を顔の随所からにじませるような、
そんな表情をしたまま一つの書類を取り出す。
「ひきたに君は私が受け持っていた生徒です。彼から預かっていた書類をお渡しします。」
「受け持って【いた】とはどういうことですか?」
「...彼は転校しました。」
「え.......」
「....すいません。これ以上の情報は伝えられません。」
「そんな...彼は一体どこへ行ったんですか?」
「それは...私の口からは。」
「では、これで失礼します」
そう言って、踵を返し行ってしまう。
「ごめん」
彼から微かにそんな言葉が聞こえたような気がした。
私は泣いた。
人目もはばからず、生まれて初めて喪失感を感じた。
でも、それ以上に今まで彼の事を何も理解できてなかった自分の不甲斐なさを憎んだ。
------
家に帰り、自室に倒れこむようにドアを開ける。
体が重く、自分の体が腐敗していくような感覚。
力が入らず無気力感だけがただそこにあった。
ふと、さっきもらった書類を手に取る。
木材のにおいと涙の跡が痕跡として残っていた。
中身を取る。
すると、一枚の手紙が入っていた。
中身を空ける。
こうつづられていた。
「ユキへ。この手紙を取ったという事はもう俺はこの世にいないという事だろう。」
____そ、そんな...
「悪い、ウソだ。一度はやってみたかったんだ。」
__こいつ...
「さて、何かをつづろうと思っていたが生憎手紙を書くような中になった友達はいなかった。
だから、短い言葉だけでまとめる。
雪乃、君は俺に救われていると言っていた。
もらってばっかりで、何かを返したいと。
実際は逆なんだ。
俺は君に救われていた。
どんな嫌なことがあった日でも、君と会えば明日に希望を持てた。
返さなきゃいけないのは、俺だったんだ。
だから、ありがとう。
今まであってきた中で、一番きれいだった。
そして、一番好きだった。
誇張じゃない。自信持てよ。
雪を見るたびユキの事思い出す。忘れない。
だから、さようなら。」
そうつづられていた。
気付けば、涙は止まっていた。
彼を救うことが出来ていた。
それだけでも救われた気がした。
だから、次会う時までに変わろう。
変わって居よう。
____彼に好きっていってもらえるように
彼がいじめで転校したことを知り合いから聞いたのは、この時から一か月後の事だった。
_______
懐かしい夢をみた。
大切だった少年の夢だった。
大切だった、という感情だけが残影としてかすかに残っていた。
なんで彼と別れて違う道に行ったのか。
どんな別れ方だったのか。
彼と過ごした時間はどんなものだったのか。
十年以上経ってしまった今では、ぼんやりと輪郭だけが残っているように。
キャンパスの上で塗りつぶされた絵具みたいに、曖昧であやふやなものになっていた。
でも、彼が大切で好きだったという記憶だけが鮮明に残っている。
雪が降る日、その景色と共に情景が浮かび上がってくるのだ。
今はもう彼の名前すらも思い出せないけれど。
それでも、彼が幸せに生きていることだけを心の中で願った。
祈りを込めて。
______
高校生活初日から、はや一年。
私は二年生に進級していた。
思い返すとあわただしい日常だった。
登校初日に乗っていた車が飛び足してきた少年と衝突したのだ。
外に出てみてみると、倒れた少年がうずくまっている中に犬を抱えていた。
この少年は犬を助けようとしていたんだと。すぐに分かった。
そこから、遅刻しそうだった私は運転手の松尾さんに現場を任せ徒歩で学校に向かった。
私もこの場に居たかったが仮にも主席。
主席が登校初日に遅刻なのはまずい。
幸いにも時間には余裕がある。
どっちみち新入生挨拶があるので私は早めについてなければいけないのだ。
そんなことを考えていると後ろから
「サブレっ!!」
「あ、あと君大丈夫!?」
そんな声が聞こえてきた。
______
そんな懐かしいような出来事をこの誰もいない空き教室で思い出す。
窓を開けているので、時たま入ってくる桜と新緑をまとった風が春の訪れを感じさせる。
そういえば今日、顧問の平塚先生が新入部員を連れて来ると言っていたような...
どんな生徒なのかしら。
一抹の不安は感じる。
みんなそうなんだと思う。
ただ口にしていないというだけだ。
私だってそう。
いつだったって、不安でいっぱいだ。
ただ、この出会いは悪い者じゃないことはわかっている。
言葉を交わして、お互いを知って、信頼して、、、
あの時の少年がそれを証明してくれているのだから。
彼の様な人もこの世にはいるという事を。
いつかきっと離れていくものだけれども、
私は探し続けるのだろう。
「ガラっ」
「雪ノ下-、新入生を連れてきたー」
「...どうも、比企谷八幡です。」
また出会ってしまうのだから。