呼ばれてますよ、魔王様   作:英雄祈願侍

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エルフが逆境で頑張るってだけの話。


序章 非現実な揺り籠
原初の魔族


 

 

瞼を開き、周囲の状況を探る。

そこには、見渡す限りの虚空

それを認識し、暫く呆然とした後、光が満ちた。

 

太陽が出来た、惑星が出来た、空が出来た、海が出来た、大地が出来た。

この摩訶不思議な状況を認識し、すぐさま自意識が開花した。

 

そうするとどうだ。概念を理解した、生というものを理解した。言語を、技能を習得し、最後には全てを理解していた。

 

そして知恵を授けたやつは、

神話の時代、遥か未来では伝説になる女神は、

 

そこに(おれ)を産み落とした。

 

まだ、生を紡ぐものはごく僅かで、人類ですら数人程度しかおらぬ。

その誕生の日の少し後に、一つの命は産み落とされた。

 

原初の魔族が、その日、産声を上げる。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

高揚感、気持ちの昂ぶり

先程の漠然とした感覚は消え去り、それらが頭を支配した。

 

輪郭が定まり、揺り籠の中のような温かさを感じた。

五感が、身体の部位が次々に使えるようになり始める。

雲は悠々自適に流れて空を飾りつけ、その生に感覚(機能)を教える。

風は飄飄と自らで地を撫で回し、その生に感覚(機能)を教える。

太陽はさんさんと輝き地に光を届かせて、その生に感覚(機能)を教える。

 

「はぁ…」

 

呼吸を開始する。

 

その時、この星が動き始めた。先ほどとは違った形で。

不規則に動いていたものは、取り囲むように自らの存在を主張する。

世界は、誕生を喜んでいた。

自らの中に、新しき流れが出来る事を、渦が出来る事を。

 

その間に、産まれたものは、何も感じず、自己を認識し始めていた。

(おれ)は自らの意識を、授かった知恵を整理するために、取捨選択を開始する。

 

 

── 生を授かった時、お前はどうする。

乾いた喉を潤す為に、川を探し、水を枯らすのか

暖を取るために、火を起こし、その熱を奪い取るのか

 

営みを造り上げるため、文明を創造するのか

種を繫栄させるため、異性を捜し歩くのか

 

自らにとって好ましいもの

それが自分に備わっているのかを確認していく。

 

だが(おれ)には無い。

空腹にはならぬ。嗜眠(しみん)にはならぬ。情欲も湧かぬ。

生物として備わるべきものが欠落してるのだ。

とにかくこの身体は願望が無い。

 

自らの欲求を再認識した。

この身体は無欲だと、改めて理解した。

しかし一つの不可解な部分が浮上する。

 

魔法だ。

これだけは身体が求めている、そう我は気が付いた。

この無欲な体が、魔法だけは強欲に求め続けている。

 

それに叫び続けている。『これを使え、早く早く、俺を見ろ』とな。

なぜ使わぬ、これがお前の本能だ。これがお前の持つべきもので、行使を許されたものだ。

俺は裏切らない。俺は裏切れない。そしてお前は俺を捨てられない。

お前と俺は一つの生であり、共に歩むしか認められないものだ。

心とは俺で、心はお前だ。意識とは俺で、意識とはお前だ。

 

── なぁ?我が半身。

 

まるで自分じゃない何かが、外的要因の何かが思考を邪魔しているかのような。

そんな感覚だった。

 

我は、その気持ち悪さに吐き気を催して、元凶たる声に怒鳴りつける。

 

「黙れッ!!」

 

なんども騒がしい奴めが。己の物に反抗されるなどなんたる屈辱か、と。

生を理解し、楽しもうと意気込んだ。何もない我はその穴を埋める何かを捜す門出を迎えようと決意した。

しかし、その時に声が聞こえてきた。

 

甘言だ、誘惑であった。

 

それに我は、

拒絶する、嫌悪する、唾棄をする。

(おれ)は我だ。その生き様を指図されるなど許さぬ、と感情を顕にする。

 

この命を授けたものには感謝しよう。

この思考を与えたものには万謝しよう。

この感覚を作ったものには深謝しよう。

 

 

しかし我に指図はするなッッ!!!!

 

 

黙れ、黙れ、黙れ!!!

この命運は我の物だ、この世界を遊ぶ権利は我のものだ。

誰にも呉れてなるものか。

全てのものを生かすのは我だ、殺すのも我だ。

今より先、今より前、ここは我の箱庭であるッ!!

 

── それが我の原初だ。

 

「はぁ、はぁ…」

 

この大きな声に、気圧されたのか声は聞こえなくなっていた。

やっと落ち着ける、と安心感を覚える。その平穏を噛みしめて辺りを見回す。

時間は幾程経ったのか、何も分からん。何せここは木々生い茂る森である。

この良く分からん場所で日が暮れるのは耐えれん。場所は、見渡しが悪すぎて分からんのだ。

取り合えず、ここを離れるとするか。

 

「……」

 

…しかしいい加減、気になっていたものに触れるか。

良く分からん生を生きるものが、我の周りを囲んでいた。

胴体が長いのも居れば、首が長いのも居る。

手が細いものも居れば、翼があるものも居る。

 

姿は違う、だがそいつらは皆、俺を見ていた。

 

凡そ大きな音をたてていた我の様子でも見に来ていたのだろう。

そしてその中心に居たのが、知性を持つ生命であり、その自らが持たない機能に惹かれてこの場に居座っているのだろう。

 

しかし、声に翻弄されていた我はその時冷静では無かった。

 

「気持ち悪い目で、見た目で我を見るな、虫唾が走るッ」

 

そう、ヒステリックな叫びを上げる情けない有様だった。

なんなんだ、この者どもは、何を求む!?

何もせず、ただこちらを見て佇むそ奴らに、嫌悪感を滲ませた我は、脚を動かした。

離れ、離れ、どれ程の距離を歩こうとも、そいつらは後ろを見れば付いてくるのだ。

 

遂に激情に呑まれ声を震わせた。

 

そうするとどうだしたことか、一斉に顔を伏せる。

(おれ)が止まれば止まる。睨めば止まる。

「ほう…、成程な」と何かを掴み、嬉しさが込み上げてきた。

 

「なんだ、お前達。我を崇めているのか?慕っているのか?」

 

それを知った時より、それまでの不快感など遥か彼方へ忘却した。

この我の才覚に恐れを、この我の麗しさに惚れてしまったか?

より一層の羨望を受け、この身を誇りで輝かせる。

 

「フハハッ、これが我だ。言葉も話せぬ劣等種に相応しい態度だ」

 

見た目こそ我に劣るが、その態度だけは尊重するぞ?

お前たちは眼だけは良いな、眼だけはな。

 

そんな時だ、我と似た姿を持つ生を紡ぐものが現れた。

良く分からん音を出し、顔を合わせ、何かを鳴く。目を輝かせて意志を伝えようとするが、威嚇か、意味のない行動かは全く以て知る術はなかった。

 

「  ──!?」

「 ──   」

 

その行為に疲れ果てたのか、周りに居る劣等種を見てより一層音を強くした。

そして遂には鋭利な棒で突き刺し始めた。

悲鳴が聞こえる始めた、哀願が聞こえた。

突発的行動に、我は何をすることもなくただ困惑していただけだった。

しかし、呼んでいる、眼を向けてくる。身体を揺らし懸命に伝えようとしている。

 

この争いは止めなければと身体が動いた。

出来たばかりの下僕が、為す術もなく命を閉ざすのは耐えれなかった。

だが、我の口から出た言葉は仲裁ではなく激しい怒声であった。

 

「我の(しもべ)にッ!!」

 

あの時の声が強まる。それに一瞬にして飲み込まれて深い沼に半身を浸からされた。その声に耳を傾け、その唯一の欲望に身を任せるしか出来ない。

己が封じてきた、蓋をしてきたものが放たれる。

耳を塞ぎ、居ない者としたそれを受け入れさせられる。

 

まるで予定調和だと、天が笑った気がした。

その拘束に抗う事に夢中だった我は、気が付けなかった。

 

(おご)りでこやつらを喪失するなど、到底許せん事だと。

そう外付けの思考に飲まれ、正常な判断が出来なくなった。

この溢れ出る力が、身体の使い方を無理やりに教えてくれる。

 

「何をするのかッ!!!」

 

心が裂ける。同種を絶つ。草は枯れる。水は蒸発する。空気は震える。地は断絶する。日は消える。喜びが消える。悲しみが消える。怒りが消える。傲慢も憐憫も、どこかに消える。

 

残ったのは我の(しもべ)だけで周りはもう何もなかった。

草は活力を無くし、木はその荘厳(そうごん)たる様を踏みつける。

水は勢いを無くし、川はその儼乎(げんこ)たる様を嘲笑う。

 

「  ──ッ!」

「  ──ッ!!」

 

そして我は誕生した。

声の思惑通りに、一身一体になってしまった。

そしてこの周りに屯っている生命の頂点としての矜持が芽生えた。

こ奴らの意志を、その祈願を受けるのは我しか居ないのだからと。

導こう、それが原初であるお前の役目なのだぞ?

── なぁ我が半身よ

 

「  ──ッ!! ──ッ!!」

 

だがそうだな、悪魔の声かもしれぬ。

我が受け入れてしまった事を嘲笑っているのかもしれぬ。

この殺戮を、甚振りに感激しているのかもしれぬ。

 

── 結論は出ない。

 

しかしこの目の前にいる下僕たちは我が護ったという事実はある。

必死になって身振り手振りで自らの意思を表現する哀れさに、何かしたいと思ったのは真実だ。

だからこそその目的の為に(おれ)はこの身体が訴える魔法を磨いた。

鍛え、鍛え、鍛え、我の限界のその先まで自らの術を錬磨した。

魔法を使い始めたお蔭か、自らの感情は不要となり、徐々に消え去っていった。

 

…しかし長い月日を過ごしてくると、この(しもべ)どもにも、随分と愛着が湧いてくるではないか。

故に試しに名前を付ける事とした。

個体を呼ぶときにお前達では一斉に反応してしまうのでな。

 

そうするとどうだ?

この者たちの羨望の眼差しが、この者たちの求む願望が、それに応えるように力が強まるのも感じた。

故に応えよう、我は慈悲深いのだ。無様なお前達の身体を磨こう、その気色の悪い口に水を注ごう。その不釣り合いな頭を使う術を授けよう。その不相応な力に方向性を授けよう。

 

故に傅け、跪け、崇めよ。より強い想いを我に向けよ。

さすれば、お前たちを護り、庇護し、平穏を約束しよう。

それがお前達への御恩であり、お前たちの奉公への褒美だ。

 

「だあれ?」

「なんだ、お前は」

 

我は旅をしていた。

まだ見ぬ(しもべ)を捜し、それを庇護下に入れるためこの大陸を横断している。ちょっとした国程度の数の(しもべ)を連れるほどの一団となったそれに、自らの行いを褒め称えていた。

そんな日々の中、(おれ)と同じ姿の者に再び出会った。

奇妙な奴だ。白い布を身に纏い、黄金色の眼と髪も幼き命。

耳は尖っており、性別は異なるのかもしれん。

我の足の関節程度しか、背が無い。そんなちんけな存在をまじまじと観察する。

そうすると揺らめく影が見えた。

 

ほぉ、こ奴も生まれながらにして言葉が使え、魔力の質も純粋なものだ。

 

その間にも、そ奴は敵対心が無く、こちらを不思議そうに眺めるだけであった。

指を弄り、こちらをちらちらと伺っている。

物珍しさを覚えたのか逃げようとはしなかった。

いくら我が麗しい見た目をしていようともこの大きさだ。恐れられて当然だと思うのだが…珍妙だな。

 

その純粋な眼を向けられ続けた我は、遂に折れて膝を折りその者と成るべく見える世界を合わせる事にした。手ゆっくりと前に出し、その幼き命の少し手前で止める。

流石の我も、その態度には迂闊に手を出せなかった。

前の者達とは、我の(しもべ)に手を出す輩とは別種だと直感が訴えてきたのだ。

 

害意が、悪意がない。

 

我の(しもべ)となんら変わらん、ものを感じた。

若木に並び立つ背丈の我に何も恐れを成さんとは、珍妙な存在も居たものだな。

 

その手と我の眼をちらちらと交互に見て、決心したかのようにそれに足を乗せ身体を預ける。その姿を見て、口角が若干上がったのに気が付かないままに、折った膝を伸ばし、元の高さへと戻る。

 

気まぐれだ、お前を我の(しもべ)に加えてやろう。

姿かたちが似ている生命だ、これを逃せばいつ会えるか分からん。

それに拙いが言葉を話せるというのも大きい。他の(しもべ)たちの鳴き声を理解する術は未だに見つかっていない。

その一歩の足掛かりが、こ奴にあるやもしれん。期待はしていないが。

 

見た目が似ている程度で贔屓をするわけは無いが、眼を掛けて育てる事とした。

魔力を操る術を教え、それに指向性を持たす魔法を教え、社会を築くうえで必須な言葉を教え、生命としての精神性を確立させた。

すると、どうした。我と並び立つ程度の才をこいつから感じ始めた。

我が教えたものを全て吸収し、雨降る後の土の如く、無限の可能性を魅せた。

 

楽しかったのかもしれん。自らは孤高であってこ奴らの長だ。

それを鬱陶しいと思ったことは一度も無い。それが我の全てであると理解している。

だがなんだ、自らが手塩に掛けた命がこうも輝くと、やりがいを感じるというものだ。

 

これは予感だった、良い拾い物だと。

 

そしてそんな日々を過ごす中、ふと思い出したかのように疑問が浮かんだ。

こ奴の事を何一つ知らんと。話す内容は我の教示に対する疑問であり、自らについて触れた事は無かった。それはならん、我が(しもべ)について知らんとは己が許せんかった。

 

「お前は何処から来た」

「?」

「…ではいつ生まれたのだ」

「…」

「言葉が分からんのか?」

「…何も覚えてない」

 

そう言う事か。我が特別な存在だと忘れていた。

生まれた時より知識を授かる者は今後を観測しても居ないだろう。そんな事は当たり前で、失念する事では無かった。この星もものの名前も知り、自らの意義を理解する生命体は今我だけかもしれん。

だがこの時代に同じ形をしているのだから、相応の格はあるのやもしれん。

その期待を言葉にしてやろう。

 

お前にも与えよう。この時間を祝福しよう。

この愉快であった時間が永遠のものであれば良い、その意味をこの命に口授してやろう。

 

「お前の名はゼーリエだ。喜べ、平伏しろ。精々感涙を流せ」

「ぜーりえ?なまえ…うれしい」

「幼き命にはまだ理解出来ぬか。まぁ今はそれで()い」

「ありがと、ね」

 

まぁ、気まぐれで目を向けたにしては良いものだったな。

 

そうして暫くの日数が経つと、予感は的中した。

自信が無いわけではない、期待を持てないわけではない。

だが、自らの手で芽吹く姿は…良いものであった。

遂には我の期待を上回る程に強くなり、あと僅かな時間で超える事があるかもしれぬと考え始めるほどに頭角を現した。

 

そして吉報(きっぽう)はそれだけに収まらず、これを境に周りの魑魅魍魎も姿を変えていったのだ。

この幼き命に触発されたのか、我により近い姿へと自らの進化を定め、成長する。

外見を、内面を。より強く、より賢く、より洗練されたものへと。

自らの構造を変え始める。

 

そうして少しの時が経った後、その変形は収まった。

 

改めてこ奴らに目を向ける。

背はバラバラだ。髪はバラバラだ。眼の、肌の色はバラバラだ。姿はそれぞれに特徴があり、個性がある。

 

皆一様に角が生えていた。

我ほど逞しくも、美しいものはない。

我ほど天を睨む事も無く、地を見下す事は無い。

 

だが、だが!!それは成長であった。

可能性であった、芽吹きであった。この同種たちの歴史が動く第一歩を我は自らの手で…

いや、こ奴ら自身の手で掴み取るところを目の当たりにしたのだ。

我の手を掛けた意味が、見えてきたのだ。それが歓喜だったのか、報われた達成感だったのかは分からん。

 

ただそうだな、これは良いものだ。

そう快楽に溺れていると、そ奴らは口を開き空気を吐き出し続けていた。

 

「どうした、まだ進化の余地があるのか?」

 

期待して待っている。火でも出すのだろうか、若しくは光線などか?

攻撃性のあるものであれば良いな。我が庇護しているとはいえ、ここまでの数を全て管理は出来ん。

 

「   ─う!!」

「  ま──ま!!」

 

……ッ!?

今なんと言ったんだ?こ奴らの声が聞こえる。

 

愉悦に浸っていた我の耳が聞き覚えのある音を拾った。自らが発する言葉に近しい音程の色を。音階は拙い。ただの鳴き声が、そう聞こえただけだ。

いつも通りだ、そう最初は勘違いした自分を嘲笑した。

だがなんだ、意味が分かる気がする。今までの努力が実る音が聞こえる。

今日こそは、この(しもべ)たちの産声を聞ける気がするのだ。

 

「「おうさま!!」」

 

「ありがとう!!」

「たすけて、くれて」

「いつもみて、くれて」

「わらいかけてくれて」

「いっしょに」

 

「「歩んでくれて」」

 

「「有難う御座います!!」」

 

「……そうか」

 

なんだ、なんだこれは。一体何なのだ、この気持ちは。

お前たちは(しもべ)だ。敬うなど、礼を言うなど当然であり、我はそれを当たり前に受ける事が妥当なのだ。

 

しかしそうだな。これが、可能性か。

 

成長の過程を見るのは、良いものだな。

粋がっていた己を、舐めていたこ奴らの才を。見誤っていたのは我だ。

腹を抱えて自らの過ちを笑い続けた。

この我が、自らの蛮行を認めるだけでも奇異な事にも拘わらず、反省までする事など未来永劫これしかないだろう。

 

周囲から歔欷(きょき)の声が聞こえた。こ奴らも喜んでいるのか、やっと想いを伝えられて喜んでいるのか。その涙はきっと暖かいのだろう。それこそが前進であり、苦痛なき一歩は軽く、波乱ある道は進むだけで身を削る。

だからこそ、ここまでの大きな響きを(もたら)すのだ。

 

ちらりと、この騒動の蚊帳の外にいる者を見る。

…ゼーリエ、お前は困惑しているな。そうだろう、お前は知らないのだろうな。

想いが通じない辛さを、お前は知らぬのだろう。

何気なく使う言葉の大事さを、お前は知らぬのだろう。

当然だ、まだ幼いのだから。我こそが、こ奴らが異常で、異端である。

 

── 愛いものだ。

 

なぜ我が最初から言葉を話し、魔法を使え、成長しているのかは知らぬ。

二足歩行も、この身体も、物を握れる手も何故この形であるのかは知らぬ。

しかし分かった事がある。

 

我はこやつらを束ねるべきだという事だ。

この瞬間を忘却してはならぬ。我は恐らく死なん。()()()()が無い限り不死だ。

だからこそ、この時間を永遠に覚えると誓おう。女神でも、空でも、地でも無く。

自らが唯一信じる、我と契ろう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

遥か未来、大陸の北部にある場所にて。

そこに(そび)え立つ尊大な城は、闇に包まれていた。

ここは今、魔族の住む場所であり、堅牢な砦である。

だからこそ、ここは人類が侵入する事など無く、魔族の楽園であった。

 

 

「…あぁ」

 

随分と昔を思い出したな。何千年前だろうか?それを思い出す事は出来ない。

瞑っていた目を見開き、ゆったりと目頭を指で摘まむ。暫しの時間を意識の覚醒に費やし、

王座により深く、座り込みこの広間を見渡す。

 

目の前には同族が傅いている。この長い時間も一言も喋らず、我の言葉を待ち続けていた。

数は少ない。が、精鋭だ。あの日より見違えるほどのオーラを全身から放ち、その存在の格で空気を震わせる。

皆、(ふる)き仲だ。出会いは森であった、お互いに言葉は理解出来ぬ関係だった。

幼稚で、我の小指一つで(ぎょ)せる程度のか弱き命であった。

 

しかし結ばれた縁により、ここまで実ったのだ。

あの時より、遥かに逞しく、頼りになる者達になったものだ。

感傷に浸りたくなるほどに、楽しい日々であった。こ奴らが生きている、それだけで喜ぶべきではないか。

 

「グラオザーム、ベーゼ、マハト、アウラ、クヴァール、トート、リヴァーレ、ソリテール、この場にいない者たちも」

 

最後に自らに最も近い場所で侍る男の名前を上げる。

こ奴が一番の功労者であったからな。

 

「そしてシュラハトよ」

 

自らが付けた名前をゆっくりと噛みしめるように、呼ぶ。その声にあるものは声で返し、あるものは眼で返した。

その面々(めんめん)の顔を一通り眺めて、前へ姿勢を倒す。

手を組み、顎に当てこれからの方針を通達する。

 

「お前たちの今までの行い大儀であった。今まで我らは人類を貪ってきた、当然だ。

吾奴らから仕掛けてきたことだ、報いというものは受けるべきである」

 

あの時の想いを忘れた事など無い。今まではそれを、恨みを晴らすがために率先して行えと言い触れておいた。異形というだけで襲う人類だ、当然の復讐劇である。

 

喜々として襲う者も居れば、嫌々と襲う者も居た。

 

だが何方にしろだ、我の言葉には従うしかない。

この暫し続いた大戦争によって、魔族の恐ろしさなど身に染みて分かった事だろう。

どんなに拒絶しようとも、欲求には勝てないのと同じく。本能に生物が抗えないのと同じくな。

 

しかし、ここに居る面々はそれを跳ね除ける意志の強さを保持している。

故に集め、我の声で言わねばならぬ。

それ程までに生意気に、活発に動くように育ってしまった。

自らの意志というものを持ち始めた時に、踊るぐらいに夜通し喜んだ日も懐かしいものだ。

最初はすべて指示を出していたが、今はもう自らの意思で考え、行動する。

木偶の坊みたいで、気味の悪かった連中は今存在しない。ここにいるのは個々として活動する独立した生命体だ。

 

これは、親の気持ちであった。我には居ない親愛を知らず知らずに与えるぐらいには愛玩している。昔より、ずっと見てきたそ奴らを己の時のように嬉しく思う。

お前たちは、大切である。本来集団では暮らせず、社会性など置き去りにして、道徳や良識は吐き捨てる筈だ。このような街を作り、我を長にし、一塊として動くなどあり得ない。

 

だからこれは異常な事態であり、予期せぬ展開であった。

この者達は感情を、精神性を理解できない獣だ。そのように我が魔法を極める際になってしまった。

それを力で支配する方が容易のは事実だ。だが我はそれを好まない。

王は民を信じなければならぬ。暴君では、いつしかこの地位は崩れ落ちる。

 

言葉、これを我は重視する。

それを信じ続け、自らの命運をこの者達に託す。

 

「しかし、しかしだ。それでは限界が来てしまった。人類は遂に魔法を流通させ、我が同族を返り討ちにし始めた。嘆かわしい、嘆かわしい。家族が消える事は、友人が消える事は哀しいものだ」

 

弱いものが、強いものに食われる?自然の摂理だな。我自身もそれを行ってきた。

だが理解と認める事は同義ではない。

 

「故にだ、共存を目指そうと思う」

 

妥協案だ。一時の和平だ。人類にも魔族にも遺恨が残る。

いつしかそれが芽を出し、花咲かす時が来るやもしれん。若しくは木の芽だったら、それはそれは大きい火種であるかもな。

 

しかし、今はどちらも疲弊している。

 

「当然疑問は出る、何故我々魔族が人類などという劣等種に歩み寄るなど好き好んでやるものは…まぁ少し居るが稀であろうな」

 

傲慢に育った、昔の我のように。

親を見習う事は否定しない。だが良い悪いの区別ぐらいしてはどうだ?

闇雲に模倣することは成長にはならぬぞ。

言っても聞かぬのだろうな、こ奴らは我を態度では示さずとも、心では慕っている。

 

「それは我が直々に、出向いて是正してやろう。光栄だろう?感涙に咽び泣け(しもべ)たちよ」

 

だが、放ってはおかぬ。それは癌であり、人類との和平に不必要なものだ。

身内だからと甘えたことはせぬ。それこそ真の意味での虐待であり、罰にしかならぬ。

成長を、進化を我が止めるなど、無視など出来る筈もない。

 

「今より、我らは迎えるのだ。真の時代を、人魔一体の世界を造り上げるのだ」

 

 

その日、世界の生きとし生きるものは声を聞いた。

 

それは歴史の転換点であり、新しい時代の幕開けである。

 

『これより宣言しよう。

人類諸君、(おれ)はお前達を許容しよう。先祖が行った行動を許してやろう。

寛大であろう?我らが苦しんだ日々を無きものとするのだ。喜べ、そうするのが最善だ』

 

 

『我の名はアルケー』

 

 

『この惑星の全ての魔族の原初にして、終焉の存在だ。

故に最も強く、人類では到底なすすべもなく生を終えるだろう。

そこでだ、慈悲深い我はお前たちに機会をくれてやろう。

これを受け入れれば、今までの脅威は一切消え去り、

平穏の日々を、怯える時はもう来なくなる』

 

 

『さぁ手を取ろう、我ら魔族とお前達人類が歩を合わせて進む時だ』

 

 

 

 

 

── その日より、魔族は人類を襲わなくなった。

 

欺く事をしなくなり、人に寄り添う生き方をするようになった。

人類は大層困惑し、しかし争いを好まない者に窘められ、畢竟(ひっきょう)友好を結ぶこととなった。

 

いつしか人の領域には、魔族の姿が現れ始め、暫くすれば違和感ないほどに溢れるようになった。

 

それがどれだけ続くのか、魔王様の気分次第だが。

 





魔王 アルケー
原初の魔族、女神が産んだ魔法使いの始祖でもある。
最初は純粋な傲慢野郎だったが、半身(魔王としての側面)と融合し、感情や精神が少し大人びた。
これにより、正史では不可能だった人類、魔族の共存が可能となり
世界に平穏は訪れた(暫定)

下僕の魔物たち(後の魔族)
最初はただの獣で、言語は勿論、思考など出来るはずもなかった。
しかしこの魔王の魔力により、進化する事を余儀なくされ、
遂には人型の魔族へと姿形を変容させた。
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