呼ばれてますよ、魔王様   作:英雄祈願侍

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第ⅲ章 成約な清算
遺物


 

 

 

「やっぱり、朝早くからの旅は良い…」

「思ってもない事を言うのではない、刻下(こっか)も頻りに目を擦る程眠いのであろう」

「う…、でも魔王様が居るから楽しいよ」

「ほほう、それは嬉しい事を言うではないか」

 

我たちは今、空を飛び次の街へと向かっている。

あの祭りごとの後、もう少し滞在するように懇願されたが、あの環境に長く身を置くと気が狂いそうだった。

…あれを援助しているらしいソリテールを問い質したいな。

お前は何を考えているのかと、まるで宗教では無いか?

我は人類と和平を結んだが、()()()()()()をしろと言った覚えは無いぞ

 

「しかし、ここまで何も起きんと退屈で眠たくもなるな」

「魔王様もねむい?」

「例え話だ、あまり真に受けるな」

 

「あれ、おーい」

 

空の旅に若干飽き始めてきたところで、下の方から声がした。

見れば、誰かがこちらに気が付き、声を掛けられたのだと理解した。

徐々に高度を下げると、その輪郭すら曖昧だった形は明瞭(めいりょう)になっていき、誰が声を掛けたのか認識する。

その人物は褐色肌で、真っ白な髪をおさげにしている。白い神秘的な衣服を纏った魔族がこちらに手を振っており、その首には赤く光る宝石が特徴的な首飾りが付けられていた。

 

「お、やっほ。久しぶりだね」

「トートではないか」

「うん、マオちゃんも元気そうで何より」

「稀有な事もあるものだな、このような辺境の地で逢うとは」

「ふふっ、運命なんじゃない?そう考えた方が良いんだよね」

「あぁ、我が昔言った事を覚えていたのか」

「うん、私には理解できないけどマオちゃんが言う言葉は覚えてるよ」

「じー」

「ん?あれ、なんだか視線を向けられている気が…」

 

「あ」と声を零し、我の後ろにいるせいか気が付かなかったのだろうリーニエにも挨拶をする。

 

「リーちゃんも居たんだ?居るなら言ってくれれば良かったのに」

「気が付いてたくせに…、相変わらず化けの皮が厚い奴」

「ふふっ、そりゃ君もそうでしょ。マオちゃんの前でだけいい子ぶってさ」

「うるさい、お前の面の方がけばいよ」

「「……」」

 

何か2人が話してはいるが、小声とそして丁度暴風が吹くという悪運もあり、音が掻き消されて我の耳には届かなかった。

随分と間が悪い風もあるものだな、と心でぼやきつつも一つの疑問が浮かんだ。

 

「して、何故ここに居る」

「あー、この近くに野暮用があってね」

 

トートは「そうだ、名案思いついた」とぱんと手を叩き、にこりとした笑顔を浮かべた。

 

「マオちゃん、少し手伝ってよ。どうせ暇でしょ」

「…暇ではあるな。うむ、分かった受けよう」

「よし、リーちゃんもそれで良いね?」

 

念のためにとリーニエにも応答を伺うが、魔王が受ける以上断るといった選択肢はリーニエの中に無かった。

 

「うん。それで何をするの」

「んー。その前にもう1人仲間が要るんだよね、ちょっと呼んでくるから待ってて」

 

トートはこちらを向いていた身体をぐるりと一回転させると、大きな声で名前を呼び始めた。

 

「おーい、ベーちゃん?」

 

ほう、ベーちゃんとな?誰だそれは。

トートの付ける渾名は、我のような古き魔族には分からん。これが現代語という奴かもしれん。しかし、なんだったか。ベーと着く魔族…、あぁベーゼか。成程吾奴がここに居るのか。

それにしても久しぶりにその名を聞いた気がする。

最後にあったのはいつだったか、人類と和平を結んだ以来かもしれん。吾奴の魔法は融通が利くので多用してしまっている。

 

そう考え事に深けていると、森の中から銀色に輝く鎧を着た魔族が出てきた。

我と並び立つ程度には大きい図体と、それに見合わないほど慎重派である懐かしき魔族。

素顔は親しい人間にしか見せない、卓越した魔法と同じ、心にも壁を持っており

表情は兜により窺えないが、僅かに見える瞳からは喜の色が映っていた。

 

「おぉ、魔王様では無いか。久方ぶりだ」

「お前も息災か?それにしても逞しくなったものだな」

「嬉しい事をおっしゃられる。俺も七崩賢という立場に胡坐をかかず、日々の鍛錬に励んでいるのだ」

「フハハッ、それは良い心構えだ。我もそれを見込んでお前たちに役職を与えたのだからな。

未だ、我の眼が曇っていると思わなくて済んだ」

「そのような事を言われると慢心できなくなるな」

 

そうかそうか。こ奴もまた魔族らしいものだ。

魔法という生命活動に必需である機能を高みに伸し上げる事は、生きる娯楽であるからな。

結界魔法でこの大陸史上一の熟練者であるのにも拘らず、驕らないのはよい事だ。

思わず、笑ってしまった。

 

「2人とも?世間話はそれぐらいにして、仕事しようよ」

「そうだそうだ、私暇だよ」

 

会話から弾き出された2人は、いつの間にか肩を組み、我らに向かって揶揄していた。

戸惑いつつもその様子に我は、心のどこかが熱くなるような感覚になり、クスリと笑みが零れた。

 

「お前たちいつからそこまで仲良くなったのか?」

「秘密だよ、乙女のね?ねー、リーちゃん」

「うん、トート。私たちの秘密」

 

「まぁ仲が良い事を邪魔する気は無いが…」

 

と言い淀んだところで、黙していたベーゼが口を挟んだ。

 

「トート、ここで道草を食うのは無駄だ。折角魔王様がいらっしゃる、早く行くべきだ」

「んー。それもそっか」

 

人差し指を口に当て、数秒考えた後。意見を否定する要素が見つからなかったのか勿体ぶった態度を変えて、目的を話した。

 

「私たちがここに居る理由、それは神話時代の遺跡だよ」

「…なるほどな」

「やっぱり、マオちゃん気になる?」

「あぁ。我の()()()をお前たちにさせているのだからな」

「いいのいいの気にしないで。ね、ベーちゃんもそう思うでしょ」

「あぁ。魔王様、俺たちは気にしていない。寧ろ今まで受けた恩を返すと思えば、気が楽になる」

「ほらね?皆不満を言うどころか、喜んでるんだから。完全無欠の魔王様が、唯一見せる弱みみたいな」

「そういうものか」

「うん。そんなもんだよ」

 

申し訳ないな。我があの時代で築いてしまったそれを、愛い子供たちが処理をするというのは。

魔族という枠組みに収まらない大惨事ゆえ、後回しには出来ないのが実情だが。

それでも後ろめたさが残る問題よ、な。

 

「ほらほら、浮かない顔しないで?さっさと問題解決して久しぶりに宴でもしようよ。大魔族の皆を集めてさ」

「それは良いな。会えてない配下も居る事だ。一度集めるのも一興であるな」

「でしょ?じゃ、善は急げって事でぱっぱと行こうか」

 

 

 

案内されつつも、森の奥へと進んでいくと草木で半分以上を覆い隠された遺跡があった。

大きな石柱が規則性を以て配置されている。そして街中でも見ないような昔の権力者が自らを誇示するための大きな石畳。そして台座に載せられた苔むした対を成した女神像ら。

視線を動かし入り口を見れば、そこは暗がりに包まれて、先が何も見えなかった。

 

「我でも入れる大きさの入り口か。随分と無駄な造りだな」

「そうかな。魔王様基準で造らない馬鹿は居ないと思うけど」

「通念上は、相対度数の多いものに合わせるものだ」

「ふーん、人類は面倒だね。魔族には魔王様みたいな人型だけど大きいのも居るから小さく作らないし」

「フハハッ、それが人類と魔族の違いよ。して、どうする」

「うーん。ベーちゃん前を願い」

「妥当だな」

「次、リーちゃん。その後ろに魔王様で、最後尾に私。これでどう」

「異議なし」

 

一瞬受け入れかけたが、その陣形に一つ疑問を抱えた。

 

「我が最後でなくて良いのか?」

「良いの良いの、マオちゃんがこの中で一番命が重いんだし」

「そうか…、まぁ良い。最悪の場合我の魔法を使おう」

「お、頼もしいね」

 

以前邂逅した時と同じく軽い口調で返答をするトートに何とも言えない感想を抱きつつも、我はこの先の探索へと気持ちを入れ替えた。

 

「それじゃ、ぱっぱと行こうか」

 

 

 

 

 

■■■

 

 

階段を下りる。

僅かな光を放つランタンを持ち、この先の見えない階段を進んでいく。

我らを時折、凍り付いたような空気が出迎えながら、寒さが段々と増す空間を下る。

空気が緊張したかのような密度を持ち、反射的に身体が強張る。

 

「長い階段だ」

「うん。これは長期戦になりそうだね」

「…ねむい」

「お前は気ままだな」

「あんまし寝れてない…」

 

欠伸をするリーニエにベーゼは苦言を呈しながら、ぼんやりと鈍い光を頼りに靴音を鳴らす。静寂を忌避して雑談をしつつ、この無益な時間を過ごしながら我は状況を整理する。

 

魔法で近道をするのも良いが、何があるか分からない以上魔力は温存しておきたい。

しかし随分と地下深くに向かわされているな。これの最深部には何があるやら。

女神、お前は何をしたいのだ。増えすぎた生命を減らしたいのかもしれんが、今までの迷宮では焼け石に水だ。

無駄な行為だとお前が気づけぬ筈も無い。故に他の意図があるのは確かだ。

── だが、分からぬ。お前が何を見ているのかを、我には分からぬのだ。

 

「── 様?」

「お ──」

「マオちゃーん?」

「ん、?」

 

「どうしたのぼーっとして。何か見つけたの」

「あぁ、少し物思いに耽っていただけだ。気にするな」

「ふーん。あんまり無理しないでよ。心配だからね」

「善処はする」

 

少し、考え過ぎていたようだ。

我とした事が、腑抜けていたな。反省だ。

そう意識を切りかえて、再び階段を下ることに注力する。

時間がどれ程経過したのか、分からぬ代り映えのしない時間が経った後。

急に視界が広がった。

 

「ま、眩し」

 

その突然の明度変化に瞳が対応出来ていないのか、ちかちかと点滅する。それを手で光源への道を遮りつつ防ぎ、周りへと目を凝らせば四本の柱と、石のテーブルなどの上に乱雑に置かれた雑貨があるの事を認識できた。

そして光の正体は魔法による光源で、普段街中にある街灯と同じ手法だと慧眼により把握した。

 

「ほお、これはまた広い空間だ」

「地下にこんな場所を作るなんて女神様は暇だったのかな」

「吾奴の魔法で一瞬だろう。それよりも早く探索をするぞ、ここに長居はしたくないからな」

 

顎を引いて頷きつつ、分散してこの広い空間に何か女神の痕跡が無いかと探し始める。

黙々と手を動かし、暫くの時間が経ったところで「疲れた」と声を上げリーニエがダウンした。

 

「寝てれば、何とかならないかな…」

 

この単純作業にほとほと飽きたのだろう。

そう言いながらリーニエは壁に寄り掛かり公然とサボりをしようとする為、それを是正するため少し感情を載せた叱咤をする。気持ちは分からんでも無いが、堂々と手を抜くことを長たる我が見逃すわけにはいくまい。

 

「眠れば解決するとでも?あまり楽観的な事をいうものではない」

「ごめん、魔王様」

「反省するのならばよい。お前も手を動かせ、それにて赦そう」

 

叱られたことが応えたのか、がくりと項垂れつつもゆっくりと動き出すリーニエの姿を見て、我も再び捜索へと戻った。

 

探し始めて数刻が経ったとき。あっ、という声と共にトートが何かを持ち、駆け寄ってきた。

 

「なんか手掛かりっぽいのあったよ」

「それって石板…かな?」

「どれ俺にも見せてみろ」

 

ベーゼはじっとそこに書かれている何かを凝視した後、お手上げだと手振りで表現した。

 

「…分からんな」

「それはそうでしょ。だってベーちゃんって考古学からっきしじゃん」

「過去を振り返るたちではない」

「はいはい、言い訳ありがとね」

 

我もその石板を覗く。

すると、神話時代で使われていた絵文字に知見があるにも関わらすその記憶の本棚に掠りもしないものが使われていた。

吾奴が好きそうな暗号だ。単純な置き換え文だと我が解読出来るから婉曲した手段を用いるようになった。

「相変らず小賢しい奴め」と、口の中で悪態を付きつつ、表面上はその気分の下がる言葉を出さぬよう偽りの回答を出す。

 

「我の記憶にもない程、使われていない文字か」

「え、マオちゃんでも知らないの?これはめんどくさいなぁ…」

「クヴァールであれば何か分かるやもしれん。持って帰るぞ」

 

我は指先で空間を開き、そこに石板を収納した。

 

「今回も大した収穫なさそうだね」

「石板次第ではあるがな」

「あんまり期待できないなぁ…」

 

がくりと落胆するトートを傍目に、我は何かがこちらへと凄まじい速度で向かっている事に気が付いた。

地面が揺れる。この空間ごと押しつぶそうとするそれを我は鼻で笑い、配下たちが押しつぶされないように空間を魔法で補強しておく。

その魔法の残滓を嗅ぎ取ったのか、ちらりとベーゼがこちらを向いていた。

やはり結界魔法に類するものを使うと、こ奴は気が付くか。流石だなと心の中で褒め称える。

 

「ん?何の音」

 

最奥の壁に亀裂が入る。

天井より、細かな破片が振り落ちるが魔法により粉砕して、この迷惑なものの登場を待つ。

危機感が頭から欠落していたな。迷宮は主が配置されている、それが常識であろう。

…今は反省をする刻では無いか。そんなもの後で永久に出来る事だ。

今は前を見る事とする。

 

『魔物』我ら魔族の近縁種。魔族が理性を持つ魔物だというのが通説だ。

神話の時代より、魔物の命令権は我の手中にあり、余程の難敵で無ければ我の姿を見るだけで跪くものだった。

然し近頃、それが通じなくなった。

何らかの干渉により、命令権を剥奪されている。

『女神の迷宮』ではそれがより顕著に現れ、このモノ達は我ですら手が掛かる魔法を駆使する。

 

古き時代より存する遺跡。数多の冒険者が挑み、敗れる場所。だが夢を見れる場所であり、人類と魔族がパーティを組み、踏破する事も度々耳にする程には友好の架け橋となりうる場所。

それにきな臭さがあるのならば、我が打ち砕くしかない。

 

故にだ、劣等種よ。

お前はここで潰えろ。この先の未来にお前たちは要らん。

 

「この迷宮の主のお出まし」

「随分と手荒い歓迎だな」

 

目が無数にあり、どれもこちらを見ていない。焦点の定まっていない眼球をギョロリギョロリと頻りに動かす醜き化け物。

大きく開かれた口には、緑がかった唾液が溢れんばかりに溜まっていた。

 

「ほう、無様な醜態よ。お前が魔物であること自体が恥に思える」

「マオちゃん辛辣だね。でも分かるかも、私が魔物の時ですらこんな見た目じゃなかったよ」

「トートよ、記憶を塗り替えるのは…」

「んー。何言ってるのか聴こえないな」

 

余程、魔物の時の姿が黒歴史らしい。

我はいいとは思うが、今の身体と真逆とも言える姿は嫌なのだろう。

「さて、もう良いだろう」そう言いながら、我は戦おうと手を前に出し、魔法を放とうとする。

しかし、それを遮るように二人の影が、前へ出た。

 

「魔王様、ここは私が」

「リーニエ、俺も行こう。早々に蹴りを付けるべきだ」

「…しょうがない」

 

ふむ。我が早々に片付けようとしたが、配下はやる気があるらしい。

どうするべきか…。いや、もしもの場合は手を出せば良いだけか。成長の機会を我が摘み取るというのも頂けぬ。

我が見守る事の出来る状況で、成長の機会を与えられる。これ程好都合な事もあるまい。

 

「ほう、その心意気乗った。お前たちに我の命を預けよう、精々頑張るのだな」

「魔王様…」

「もはや我の庇護など要らず、この広大な大地を一人で歩き切れる事をこの場で証明してみせよ」

 

「了解した」

「うん」

 

2人は魔力を武器の形に具現化して、構えた。

リーニエは大剣に。ベーゼは槍に。

両者ともに、最近ハマっている武具を持った。

トートはその2人の決意の籠った返事に、態度にぱちぱちと拍手をして健闘を祈った。

 

「おー、2人とも気合充分だね」

「トート、お前は」

「あ、私?戦いは得意じゃないから見学かな」

「…そうであったな。我としたことが、記憶から抜け落ちていた」

「いいのいいの、マオちゃんの前であんましこんな風に戦わなきゃ死ぬーってシーン無かったし」

「このような状況が多発しない事が望ましいのだがな」

 

ふふっ、とこんな状況で冗談を言う魔王を笑いながら、トートは手を振る。

 

「頑張れー、2人とも。応援してるよ」

 

 

 





トートは口調分かるけど、ベーゼってどんな喋り方なんだろう。
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