呼ばれてますよ、魔王様   作:英雄祈願侍

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終結

 

 

 

まずは小手調べとリーニエが大きく振りかぶり、その華奢な体格からは考えられない速度の一撃を放つ。でっぷりと膨らんだ腹目掛けて、一薙ぎ。常人では目に見えぬ速度のそれを、化け物はそれを腕に生えた刺により受けた。

 

「堅ったい、なぁ」

 

これぐらい当然だと、攻撃を受け止められたのにも拘らずどうでも良さそうに呟く。

その声の後。体格差故の重さからか、振られた腕により縮めた距離を離された。

大剣の届く間合いから大きく離され、早速闘いの主導権は奪い取られる。

化け物はお返しだ、と口腔に冷気を溜め始める。

準備段階ですら、じりじりと肌を突き刺すような冷気を伴う。

空間の熱という熱を吸収し、壁にぶら下がった灯りは命を落とした。

 

頭の中では数刻、しかし現実では瞬で溜めを完了したそれを、放つ。

 

 

一撃必殺。

並大抵の生命では、成す術もない一撃を

 

 

白き壁が受ける。

 

この薄暗き空間に似つかわしくない神聖さを秘めているような、光を纏い才色豊かな模様も浮き上がっている。

 

「お前程度の魔法、容易い」

 

これこそベーゼの使う魔法。

『結界魔法』これにより、その程度の魔法など塵芥に等しい。

これこそ、彼の強み。結界を作り出す障壁を盾として使い、自らの手に作り出した槍を交え、鉄壁の布陣を織りなす。

 

いつの日か、魔王より言われていた。

この結界魔法を他の使い方について、何か考えてはみないかと。

防御こそ魔法で何とでもなったが、攻撃は物足りない魔法しか持ち得ていなかった。

不死という名を冠する魔法だけでは、最も強いとは断言できない。

 

無敵ではあっても、完璧ではない。

その悩みの回答がこれだ。

 

魔法を放つ隙は槍で補えば良い。槍で出来た隙は魔法で防げば良い。

思いついた時より長きに渡り鍛錬を熟してきた。

優れた俊敏性も巧みとしか言えない身体捌きもこの日の為なのかもしれん、と笑みを浮かべ全力でこの時に向き合う。

 

お前の手番は終わりだと、手に持つ槍を肩に担いでいたベーゼは走り出す。

防戦一方な現状を打破すべきだと思ったのか、化け物は口内から垂れ落ちる緑の液体を撒き散らす。

 

「あれは、危なそうだな」

 

未だに正体の分からない液を無抵抗で受ける訳もなく自らが絶対の自信を持つ盾を構える。

白き壁により防ぎ、驀進(ばくしん)を続ける。事実その液は地表を溶かしており、肉体で受けていたならば見るも無残な姿が一つ、出来上がるだけであっただろう。

鎧の下に隠された筋力が猛威を見せ、ベーゼの勢いをそのままに顎をしたから打ち上げた。

怯んだ化け物は、通常も焦点が合わない目を余計にぐるぐると回転させ、目を回す。

 

「この勝機、活かすぞ」

「うん」

 

そして突く。突く。突く。

目に見えぬ速度の連撃。瞬きをする間に、五十以上の刺突を行う。

誇張ではない、(まやか)しではない。現に化け物の肌には無数の跡が残っている。

魔法だけでは、いけない高みへの架け橋としてベーゼは槍術を学んでいた。

 

その武の境地に目を揺らしながら、リーニエはきつく自らが持つ大剣を握りしめる。

今の私では、出来ない。過去見た挫折、それをひしひしと感じる。

しかしあの時は違う。あれに負けるわけにはいかない、そう心の中で誓い、自らが再現できる最高の武をこの場で披露する。

 

「はぁッ!」

 

自らを鼓舞する雄たけびを上げて、渾身の一撃を放つ。

その鋭い一撃、残る鈍い音。

四つ足で地を這うそれの一つを捥ぎ取る。ドス黒い血のようなものが空を舞う。血飛沫の中を滑りつつ、もう一撃。

今度は後ろ脚を亡きモノにした。

バランスを保てなくなった化け物は呻き声を上げて、地へと堕ちる。

 

リーニエも分かっていた。

自らでは所詮劣化にしかなれないと。しかし自らの強みとは択の多さだ。

模倣で得た選択肢は必ず自らを救うと、過去大陸中の武人の技を盗み見てきた。

 

その自己評価は間違いでは無かった。

この化け物の大木よりも太く、黒曜石よりも牢固な肢体を切り離せるのだから。

 

「── ッ!」

 

ベーゼはとどめだと謂わんばかりに振りかぶった槍を投げ、眉間を貫く。

呻き声を上げて、化け物は地に顔を伏せた。

 

「呆気ないな」

「うん、弱かったね」

 

2人は持っていた武器を霧散させ、お互いを見て労る。

 

「リーニエ、お前強くなったな」

「…そっちこそ、強すぎ」

「当然だ、俺は七崩賢だからな」

「私がいつかその立場を奪う」

「では、抜かされないよう更なる高みへいくとしようか」

「黙って私に負けて」

 

戦いの高揚感からか湯気が出ているかのような熱気を放ち、この戦いの総評を魔王から受けようと視線を逸らした。

 

── 刹那

 

ベーゼの肩を理由なき寒気が包んだ。

こんなにも熱い(もや)の中で、悪寒がした。

耐えきれず、目を伏せようとしたところでドンと大きな音が隣から聞こえた。

溜まらず視線を向ければ、隣に立っていたはずのリーニエの姿がそこには無かった。

左後ろを見れば壁が崩れ落ち、そこに叩き付けられたのだと否応でも察せられる。

 

「おい!大丈夫か」

 

ベーゼが瓦礫の方へと声を掛けるが、返事が無い。

どうやら気を失っているらしい。

残った手足をじたばたと動かし、地を揺らす。

時折、そのやけくそしか思えない攻撃が降りかかり、ベーゼは魔法を権限させ、この猛攻を防ぐしか無かった。

防戦一方、これを好機と思ったのか化け物の攻撃がより一層激しいものとなる。

ベーゼは思わず、驚愕して身体を一歩後ろへと退いてしまう。

 

じわり、音が鳴る。

 

── 熱気だ。

奥の方から湯気が立ち込め、頬を撫でる。それは息苦しくなるほど熱いものだった。

只事ではないという予感があり、ベーゼは自らの出来る最大の魔法を行使する。

 

 

瞬間。溢れんばかりの光を纏う光線が放たれた。

 

 

音が消えた。

化け物は白くなった鼻息を吹き出し、もう終わりだと戦いの傷を癒す為か睡眠を取ろうとする。

そんな全てが暗く化け物以外の生命が静まり返る中、ぽつりと光っているモノがあった。

一帯に立ち込める砂埃が徐々に収まるとき、益々その光を強めて、眩しいほどの輝きを放っていた。

 

「相変わらず、詰めが甘いな」

 

そんな声が聞こえて、ベーゼが思わず顔を上げれば魔王が防御魔法を使い、護ってくれていた。

 

「お前は毎回、勝ちを確信すると油断する。慎重さを備えるが、慢心を捨てきれていない」

「申し訳ない…、俺は」

「良い、この場には我が居る。お前のその弱みを、我ならば護れる」

「それは…」

「後悔をするぐらいならば次を見ろ。次の戦では無様を晒すな」

「…了解した」

「フハハッ、良い返事だ」

 

さて、とぼやき魔王はこれ程までの力を温存していた魔物へと視線を向ける。

 

「お前はとことん醜悪だ。まるで魔族のような魔法を使い、その上で我の声を聞かん

()()のせいで理性を溶かされているのだろうが、それとこれとは話が別だ」

 

まるで知性があるかのように死んだふりをしていた。

2人が感じ取れないように偽りの情報を与えて、死を偽装していた。

畜生風情が、だ。それの異常さを魔王は理解していた。

 

「よって、お前はここで終いだ」

 

空気を操る魔法(ファル・ラゼム)

 

手を前に翳し、名を唱える。

ベーゼがやった数倍以上に密度を持った障壁が展開される。

 

化け物を取り囲むように、ベーゼの使う魔法とは異なるようにも、同種にも見えるモノを顕現させる。

 

「お前のような異物、塵すら残さん」

 

広げた手を握りしめるのと同時に、四方の壁が圧縮されて

 

パキりという音を最後に、目に見えぬほどの大きさへと姿を変えた。

そしてその魔法を解除した時には、何も残っていなかった。

 

 

 

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎

 

 

「ん…?ここは」

「お、やっと起きたんだね」

 

リーニエが顔を上げると、魔王とトートとベーゼがこちらを見ている事に気がついた。

身体を見回すと所々に切り傷があり、砂が体中に纏わりついていた。

 

「油断したな、リーニエよ」

 

私は、確か。リーニエが記憶を探れば最後に見た光景は、自らに迫る化け物の尻尾であった。

 

「そっか。私倒したと思って、油断して…」

「俺も油断した、お前だけが悪い訳ではない」

 

ベーゼはそう、気遣いのような言葉を掛ける。実際は己の方がリーニエよりも強く、弱き魔族であるお前は守られるだけで良いという傲慢さが隠れているが、傍から見れば良き上司であった。

 

「まぁまぁ辛気臭い顔しないでさ。生き残れたんだからもう良いでしょ?」

「トート、お前は最初から最後まで観戦気分であったな」

「え?だって私か弱い魔族だし、戦いは血気盛んな奴らに任せるよ」

 

からからとトートは笑顔を浮かべる。この激戦の最中もトートは瓦礫に腰を掛けて『おーそこだ』やら『うわぁ痛そう』など他人事としか捉えられない野次を飛ばしていただけだった。

口では弱いとのたまっているが、実際は戦えるはず、そう疑惑の視線が向けられた。

それに気が付いたトートは、風向きを逸らすべく話を変える。

 

「それにしてもあれだけの傷を受けていたのに、僅か数十分で完治するなんて。リーちゃんの魔法?」

「違う、生まれた時から治癒能力が高いだけ」

「魔族では無いのか?もしかしてあれと同じ化け物の類の…」

「確かにリーちゃんはお転婆で、野蛮ではあるけど。化け物はさすがに言いすぎかなぁ」

「トートよ、それは擁護になっているのか?」

 

そう会話の応酬をしつつも、リーニエが自分の身体を見回してみると、先程まで身体中に入っていた傷跡はもう塞がり掛けている。

所々に見受けられた掠り傷も当然のようにない。

確かに化け物という言葉は、強ち間違ってはいないのかもしれない。

 

その事実に気が付き表情を歪め、顔を項垂れるリーニエ。

笑顔という仮面の奥を緩めその様を心底楽しそうに笑うトート。

やれやれと方を竦ませ、そのじゃれあいを眺めるだけのベーゼ。

 

魔王はこの光景を改めて、良く全員生き残れたと、どこか俯瞰した視点で見ていた。

魔物でありながら、対をなす魔法を使いこなす。そんなものが未だにこの世に居るとは。

あの時の出来事で全て滅ぼしたと思っていたが…

これは不味い事になっているやもしれん、と思考を動かす。

が、わーわーと話が盛り上がっていることに気が付き、今すべき考察では無かったと浮かんでいた(もや)を霧散させた。

 

「先ほど入れた傷がもう無いぞ。やはり化生であろう」

「うっさい。生まれてから何故か治癒能力が秀でてるって言ってる」

「面白い身体だ、闘いに適しているではないか」

「へー、面白い身体だね。ソーちゃんが好きそう」

「確かにあれならば研究のしがいがあると言い、手をワキワキとさせるだろうな」

「それって褒め言葉?」

「…なぜその感想になる」

「うん、そのままの純粋な君で居てね」

 

ふむ、やはり世間知らずであることは汲み取れる。普段は普通ではあるが、手癖や立ち振る舞いの端々から無知である事が垣間見える。

 

「やっぱり私負けた。鍛錬を見直さなきゃ」

「あぁ、俺もだ」

「随分楽しそうだね。私は今日の予定が頓挫(とんざ)して散々な気分なのに…」

 

ベーゼとリーニエは言葉上で悔しげに語りつつも、表情は憑き物が落ちたような清々しい様子だ。対するトートも口では愚痴を吐き捨てつつも、表情は同様に面白いものを見る目をしている。

 

この戦いで世界の歯車が動き出している。

だがそれは悪い事だけでは無かった。得られたものに差異はあれど、やはり戦いに並々ならぬ感情を抱いている事が、大きく関係しているのかもしれない。

 

魔王は思う。

魔族の中で戦いを楽しみ、それに身を投じることが出来る者は多くはない。

しかしだ、その強さへの執念こそ魔王が望むものだ。多くの魔族がもっと強さに拘るようになれば良いのだが、と。

 

闘争への探求心、その精神性を持っているものは多くない。

確かに魔族は魔法を研究する事を生き甲斐にしている者が多い。

しかし、それは安全圏内で行う学びとしての研鑽で、危険な領域に自分が含まれていないという条件下のみでのことだ。

自らより格上と会うだけで、身体が竦み上がり、情けなく逃げ出す。若しくはその場で恐怖のあまり無様な姿を見せるだけの存在だ。所詮は生命である。

 

故に闘いの場に立ちそれを心の底から楽しむのもまた異端で、数少ない二足歩行の身体を纏っているだけの獣だけだろう。

 

一つしか違わない両者ではあるが、在り方は全く持って違う。

多くの生命にある死への恐怖を、生への執着を誕生してから薄くしか持たぬ者。

それは欠陥者(壊れたもの)なのだろう。

この2人も最初はそうでは無かった。誰かとの出会いにより在り方が変わってしまった。しかしそのお蔭か、同類を見つけた時の理解する速度は凄まじいとも言える。

 

孤高である魔王、それを慕う魔族も居ることは当然である。

 

「二人とも何だか闘いの前とは違うね」

「「そうかも」」

「ふふっ、息もぴったりになってる」

「ん、早速反省を活かして戦いたい」

「幾許か時を掛けぬと同じ結果になるぞ」

「…正論は駄目だよ」

「いや。やる意味はあるぞ」

「それは否定しない。だが刻下では無い」

 

魔王はその威勢に、少しだけ顔を緩ませつつも言葉を零す。

確かに実りだけを見るならそうだが、時をかけ熟させるのがこ奴らには合っている。

早熟は好みではあるが、時を置くのもまた一興である。

 

「取り合えずだ、外に出るぞ。このような場所にもう用はない」

 





最終回?ってぐらい戦闘が盛り上がってる。
そしてベーゼが主人公かな?ってぐらい魅せプしてる。
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