「ではな」
「うん、またね」
「魔王様、此度の件は感謝する」
「ばいばーい」
そう言い去っていくトートとベーゼを見送りながら、我らは魔王城へと向かう。
あの後、崩壊しかけた遺跡を過去にして、取り敢えず今回出会った魔物についての研究と見つけた石版の解読が責務だと状況を整理した。
幸い魔物から剥がれ落ちた角の破片や僅かに残った粘液は採取出来た為、何かしらの糸口は掴めるといった状況だ。
それにより、2人は魔物と戦ったレポートを纏め、今後の対策を練るらしい。
「行っちゃったね」
「出会いがある以上、別れとは表裏一体よ」
「そう、だよね」
「なんだ悲しいのか」
「そうかも」
頷いたリーニエの表情は、相変わらず無表情で何を考えているのか分からなかった。
実際は魔王がこう言えば喜ぶと理解した上での計画的犯行なのだが気がつくはずも無くこの話は有耶無耶になった。
「しかし、随分とこの地が懐かしく感じる」
「…魔王様惚けた?」
「失礼な、我はまだ健在だ」
「え、でも旅立ちから半年も経ってないよ」
「人類の感性からすればそれは長い間と言えるのだ、ならば我もそれに倣うべきだろう」
「和平を結んだから?」
「それもある。が、何故か我は人類に愛着が湧いている」
今心は、凪いでいる。
配下を殺されかけたあの日は激情に飲まれ、無差別な攻撃を行った。
当時はそれに疑問も覚えず、蛮行だと断じて糾弾をし、戦争を起こした。
しかし、今考えれば不自然だ。あの日、人型で野蛮であった彼らの目は一様に緑色に輝いていたのだから。そしてだ、此度相見えた魔物も目は緑であった。
我は、
あの傲慢で、我らを玩具としか見ていない奴と同じである。
そんな奴の色と同じなのだ、やはり関与は疑いのない事実だと推察できる。
あれは何らかの意思が混ざった出来事では無いのか、そう今にして考え直している。
数百年前の戦争も、
人類と魔族の長きに渡る戦争は、当人たちは目の前の敵しか見えていなかったが、何らかの思惑が入り混じる政戦だったのでは無いかと。
「確証は無い。しかし、吾奴ならばやりかねん」
「魔王様?」
「なんでもないぞ、リーニエ。この惑星の未来は我が護ると誓っただけだ」
「…そう」
少し困惑した様子のまま、ゆっくりと頷くリーニエを傍目に道を進めばもう城門へと辿り着いた。懐かしきその光景に、感慨深さを覚えつつも門を潜る。
脇に立つ衛兵に手を挙げ挨拶をし、石で作られた階段を上り、東の塔に住む魔法に知見のある魔族の元へと向かった。
「クヴァールよ、今暇か?」
薬の香りが充満する部屋で大柄な身体を持ち、縫い目が所々に散見される姿の魔族に声をかける。
名は、クヴァール。この世界において一二を争う研究者、賢老と呼ばれるだけの実力は我も信頼を置いている。
彼の使う魔法、「人を殺す魔法」は大戦でも多大な貢献を齎した。
武と学を兼ね備える実力者である。
「おぉ、魔王様では無いか。たった今、暇になったぞ」
嗄れた声で挨拶をしつつ、こちらを振り向いている。
手元を見れば山積みにされた紙束があり、内容はどれも魔法についてだった。
それをドサリと机の端によせ、こちらを見て嬉しそうな顔をする。
「相も変わらず、魔法好きよな」
「儂にとっての生き甲斐だからのう」
だからこそ、これを任せられるというものだ。
そう思いつつ、我は収納していた石版を出しクヴァールへと受け渡した。
「今回の迷宮により手に入れた女神の遺物だ」
「これは、これは。また如何ともせん難解な暗号かの」
「分かるか?」
「ふむ、確か見当する文献が…」
クヴァールは心当たりがあるのか、それを手に持ったまま部屋に鎮座している本棚の中から何かを探し始める。
部屋の隅に寄せられた本棚には分厚い本がぎっしりと詰め込まれていて、背表紙を見ればどれも魔法に関する本、魔導書であると分かった。
「おお、これだ」
その中からクヴァールは1冊の本を取り出す。
その中身を指でなぞりつつ、ページを何枚か捲ると目的の文章があったのか、顔に喜彩を見せる。そして手に持つ本をこちらに見せながら説明をしだす。
「多重に魔法を掛け、観測者によって見える文字を変化させておる。複雑な術式じゃのう」
サッと指さした項目を見れば、魔法の重ねがけにより魔力探知でも計れない複雑さを持たせられると書かれている。その後文にある「人類には到達出来ない領域」を何度か示し強調して、クヴァールは面白そうだと呟いた。
「だが、儂ならば解明できる。所詮は時間稼ぎにしかならぬ手法、その程度ならば片手間で出来よう」
その余裕を持った態度は、なんとも頼もしかった。
実際彼の手腕により、人類が使う脅威的魔法の殆どは無力化出来ていた。実績の伴った力説は、その言葉を確固たる事実にするだろう。
「お前にしか頼めん、期待しているぞ」
「カカ、それはなんとも嬉しい事か。儂の腕が鳴りおるわい」
顎に手を当てて、しばらくの間その気持ちを享受した後。
クヴァールは手を打ち鳴らし、何かを思い出したのか話を切り出した。
「そうだ、魔王様よ」
「まだ何かあるのか」
「儂が作り出した魔法、それに意見が欲しくてのう」
「ほう、また新たなものを作り出したのか?流石であるな」
「カカ、まだ試作段階。これからが本番よ」
カリカリと備え付けの黒板に、何らかの術式を書きながらクヴァールは試作段階のそれの構想を展開する。
「して、その魔法の詳細はなんだ」
「急かさんでも、これは逃げぬよ。魔王様も目を輝かかせておるご様子、随分と楽しそうじゃのう」
「当然だ。我も魔王という魔を冠するものだ、その根源である魔法に探究心が無いわけなかろう」
「然り、愚問であった」
カッ、と書ききったのかチョークを黒板に打ち付けて区切りとしたクヴァールは、我の方へと振り返り、この世界が変わる革命的な魔法を公言する。
「この魔法は、死という概念を変える」
クヴァールは大きく腕を広げ、天を仰いだ。
「名は
「それは…、いや待て。まさか!」
我が従来より望んだあれについてか。思わず、そんな考えが頭を掠めた。
「魔王様が長年追い求めた、死者の国への道筋だ」
漸くかと我は心の奥底で歓喜する。長かった、これを待ち望んでいたのだと。
我の目的に必需品であったその魔法は、我1人の力では不可能だった。
知見が足りぬ訳では無い、魔力が足りぬ訳では無い。
この
我という生命が死という概念を理解出来ぬという事が全てである。
この世界が誕生した日より生きてきた、故に死が分からぬ。
我はあの日より奪う側であった。
だからこそ、闇雲な略奪は控え、我は命を潰すことを忌避した。
理解出来ぬものを遠ざける、なんとも生命らしき葛藤よ。
その感覚を忘れぬ為に、我は死者との対話を心待ちにしていた。
あぁ、本当だとも。
この言葉に偽りは……、無い。
今は、この日を祝福しよう。それが賢明だ。
「良くやった、クヴァールよ。これは生命史上最高の進歩だ」
「カカ、光栄だ」
「して、その楽園の名はなんと付ける」
「どうしようかのう…、あぁ1つ素晴らしい名前を思い付いた」
悩ましげな声を上げて、暫くの間、コツコツと机の端を叩きながら熟考していたが名案を思いついたのかそれを打ち止めにした。
そしてクヴァールはニィと笑い、我の眼を真っ直ぐに見つめてこう言ったのだ。
「エンデ」
終わり。その名前は、何を考えているのか。
我にも、この世界に生きる生命の誰も分からない。知っているのはクヴァールだけだ。
だが、何らかのの思惑を持ち付けた名前。意味はいつか分かるのだろう。
そうこの時の我は話を括って、クヴァールの次の言葉を待ち望んだ。
「そう呼ぶ事にしようかのう」
◆◆◆
中央諸国。その名の通り大陸の中心部にある国々の総称。
その中でも王都に次いで有名なのが聖都シュトラールだ。そこはオレンジ屋根の建物群が周囲に存在し、中央には大きな大聖堂が座している。
周りの建物の数倍は大きい外観で、何百年前からその姿を保ち続ける歴史上でも古い、文明の証明。
その場所にある街道にて、フリーレンとアイゼンは馬車から丁度降りたところだった。
「やっと着いた…」
「ここが聖都か、変わらぬだな」
「女神教の総本山だからね、女神様が好きな不変を基本とするのは当然と言えば当然だよ」
「そうなのか」
微笑ましいものを見る生暖かい視線を向けられて、アイゼンは困惑する。
しかし、女神教に対する知識があるフリーレンは出来の悪い生徒に教えるみたいに教鞭を振るう。
「女神は神話の時代に、この大陸に姿を現したんだ。そして人類に知恵を与えてくれた。
彼女は変革を望んだが、それと同時に不変も重視した。多分、変わり続ける世界で変わらない物もあるんだぞって事だと思う」
「成程な、だからこその代り映えのしない…か」
「うん」
一言返答をしてその街並みを眺めていた二人だったが、ふとアイゼンは何かに気が付いたのか首を少し傾けた。
「…?どうしたのアイゼン」
「そう言えば俺たち、目的の人物の所在を訊いていないぞ」
「え」
「分かる事と言えば見てくれぐらいだ」
「た、確かに。ゼーリエの奴、肝心の事を言ってない…」
「勘弁してくれ…」
「ど、どうしよう」
そうお先真っ暗な2人はこの状況を打破すべく思考を回転させるが、全く名案は思い付かなかった。道端で踞る不審者を街の人々は、くすくすと揶揄うような笑顔を向ける。
善良で、平和なこの国では事件など早々起きない。治安が良いのは兵士たちの努力のたまものだろう。
「あの、お困りでしょうか?」
だからこそ、そんな風に困り果てている人間は目立つのだ。
「なんなの、私たちは今頭を悩ませ──」
そう言葉を詰まらせたフリーレン。アイゼンが怪訝に思いその視線の先を見れば。
眼鏡をかけた、如何にも司教ですよと物語っている衣服に身を包んだ青年が立っていた。
見た目で通りの張りを持つ声で呼びかけられて、少し反応が遅れた。
「お、おいフリーレン」
「うん、この人かもしれないね」
「お二人、どうかしましたか?」
「あのさ、一つ話を聞いて欲しんだけど…」
申し訳なさそうに立ち上がり、その青年に頼みごとを申してみる。
するとあぁ、と何かと勘違いしたのか何度か頷いて了承する。近頃は無かった懺悔かなと当たりを付けているらしい。
「何か分からないですけど良いですよ」
「よし」
「ただ、こんな場所でするのもなんですからあそこでしませんか」
そう言い指をさした。その場所は大聖堂、街の中心にあるそこにフリーレンたちは足を踏み入れる事になってしまった。
中には居れば過度な外観と打って変わって、内観には装飾は見当たらず清潔に手入れのされている様子だった。
身廊に並ぶ長椅子に青年は腰を掛けて、とんとんと隣に座るよう催促する。
「いいの、こんな場所で?」
「えぇ、私はこの場所でもそこそこ階級が上ですから。この場所を多少占有する事ぐらい許されるでしょう」
確かに物腰柔らかく、口調も優しさを感じ取れた。信仰に捧げてきた時間を表すかのような態度と、信念深さを感じさせる雰囲気にフリーレンたちは納得した。
「あぁそう言えば名前を言っていませんでした。私の名前はハイターって言います」
「私はフリーレン、こっちは」
「アイゼンだ」
宜しくお願いします、と一礼をしつつハイターは重ねた手をすりすりと擦りながら本題へと入ろうとする。
「それで、何の御用だったのでしょうか」
「実は…、私たちは今旅をしているんだ」
「成程、若いながらも立派ですね」
「いや、私は君よりもお姉さんなんだけど」
え、と青年は驚き、じろじろとフリーレンの外観を凝視する。しかしどう見ても若い少女にしか見えなかった。
「エルフだから見た目が変わらないんだよ」
「あぁそうでしたね。エルフなんて聖典に僅かに出てくる本の中の存在でしたので」
「見たこと無いの?」
「はい、まだ十歳を少し過ぎた程度なので」
「え、じゃあその年齢で司教?」
「お恥ずかしながら、はい」
記憶を探れば、歴代の司教はどれも年老いた男性か女性しか見当しない。
それ程までに稀有な事例だろう。もしかしたら歴代最年少かもしれない。
「凄いね」
「有難うございます」
称賛の流れから、未だに離れる雰囲気の無い2人に痺れを切らしたアイゼンはダンと立ち上がり青年を見下げた。
「話が脱線しかけているぞ」
「あぁすみません」
「どうしたの、アイゼン」
「もう前置きはなしだ。俺は、魔族に家族を、友を奪われている」
アイゼンの顔は心持ち下に俯いた、ハイターが黙っていると彼は重ねて言った。
「だから、この世界が好きじゃない」
あまりにも言葉足らず、そしてこの世界において魔族を嫌いだと遠まわしでも言う事の愚かさなんて言わずもがなである。そして教会など人々の安然を重視する組織、それがそんな平和を乱す輩を許す訳も無い筈だ。
だからこそフリーレンは、汗を滝のように流し何とか言い訳をしなくてはと必死に言葉を考え始めた。
しかし、青年から出る言葉は予想外のものであった。
「私も、そうですよ」
「ほ、本当に、?」
ハイターに問いかけるその声が掠れている。
緊張状態から、解放される、感情のジェットコースターを乗り越えたフリーレンはもう頭の中がぐちゃぐちゃだった。
アイゼンが違和感を覚え、横顔見る。すると、今にも泣きだしそうな引き攣り方をしていた。
「はい、私はこの世界を変えたい」
「まさか、人間で気が付く人が居るなんて」
「気が付く、というのは遠からずと言ったところです」
「なぞなぞか…?」
「いえ、私はただ疑問を覚えているのです。女神様への信仰を幼少期より続けて参りました。今でもその心は根深く残っております、しかしだからこそ疑惑の視線を辞められないのです」
そう捲し立てるハイターに、二つの視線が向けられる。
では、なんだと言うのか。まさか、その地位に昇りつめておいてそれを捨てるとでも──
或いは、他の気の迷いでもあるのだろうか。推察が迷走し始めたところでハイターは先程よりも声量を落とした声で疑問を呟く。
「女神様が本当に、善意で魔族への対抗策を人類に与えたのかを」
「それは、どういう?」
「はい。私は魔王の声明を訊いた時、違和感を覚えました。何故なら聖典には魔王とは暴虐の限りを尽くす悪逆非道の大悪党であり、そんな平和を望むような性格に思えなかったのです」
「いやでも魔王は私たちエルフを皆殺しにしろって命令を出してたよ」
「そうなんですね。私はそれに対する考えを持ち合わせていません。ですのでこれは憶測で、突拍子もない自論です」
「な、何を」
不穏な空気を感じて、言葉がどもる。
まるで、高く積み上げた積み木を通りすがりの人間に壊される。それぐらいの気持ち悪さを感じ始めた。
「私はこう考えました。魔王が今まで出していた命令は、誰かが捏造したものである。善人よりの思考である彼を誰かが疎んだのか分かりませんが好ましくは思わなかったのでしょう。だから、歪め人類の敵へと昇華させたのではないかと」
「そんな訳ない、だって魔族は実力主義で…魔王はその中で最も優れた強さを持つから従っているんだよ。彼らの強さを絶対視する考えは曲げられない筈だよ」
だがフリーレンは否定する。そんな訳ないと、だってそれを肯定する事は長年持っていた認識が誤りだと認める事になるのだから。
椅子の
「確かにそうです。ただ、そうでもしないと説明が出来ないのです」
「どういう事だ」
「私は幼少期、野盗に襲われたことがありました。あれは当時の私からして恐怖しか感じない事件であり、ぶるぶると隅で縮こまる事しか出来なかった私を助けてくれたのです」
「それはいったい誰が…」
「魔王ですよ」
え、と弱々しい声で誰かが声を洩らした。青年はその声の主へと視線を向け、言葉を続ける。
「当時の私は魔王の姿を知らず、背の大きな魔族としか認識していませんでした。しかし、今魔王と和平を結んだので魔王の姿は人類全体に知れ渡りました。それと幼少期出会った魔族は特徴が瓜二つなんです」
「そ、うなんだ」
「はい、だから私は真実を聞きたい。この世界の違和感を解明したいんです。その為にこの国から出て、再び魔王に会う必要があるとは既に考えていました」
無垢な眼を向けられ、今度こそフリーレンは沈黙した。
瞳は心を反映したのか仄暗い。そんなエルフをハイターは心配していたが言葉が届くことは無かった。
何の進展も無かったのに、今日一日でその全てが引っ繰り返る収穫があった。
この数か月は一体何だったのか、そう悪態も付きたくなる。
ただ、このままではいけないと思ったのかフリーレンは、アイゼンの方へと視線をやり独白をする。
「魔族に支配された世界を、私は今まで絶望的に捉えてきた」
「俺もだ」
「今までの全てが間違いだって突き付けられた気分だよ」
「強ち間違いでは無いだろう」
「…そうだね」
唇を引き締めていた彼女は、皺を無くしてぱっと顔を上げた。
「早速勧誘しよう」
アイゼンとフリーレンが話している最中もハイターは笑顔を向けてこちらを眺めていた。
無視をされたのに、気を悪くした様子も無い司教にアイゼンは感心した。
「ねぇハイター」
「はい、なんでしょう」
「貴方は私たちについてくる気、ある?」
「フリーレン、流石にそれでは言葉足らずだと思うが…」
「良いですよ」
「「え」」
「私もこの世界に疑問を覚えていました」
「そうなんだ、良かった…」
「あぁ、そうだな」
「ただ」
歓び一色であった空気に水を差すように、人差し指を立てて条件を付け加える。
「少し野暮用があって、それを解決する手助けをしてくれませんか?」
「因みにどんな事なの」
「そうですね、私の友人が少し前から行方不明になっているんです」
「つまり、それを見つけ出したいと」
「はい、それさえ終われば私も同行しましょう」
ハイターの話にしんと静まり返った空間の中、最初に言葉を話したのはアイゼンだった。
髭で隠された口をもぞもぞと動かす。
「…一つ疑問がある」
「なんでしょう」
「人が居なくなるなんて事件、この場所が動かない筈がない。並大抵の事案ならば苦も無く出来るだろう」
「はい、出来る物ならばそうですね」
「その言い方から察するに、出来ないと」
「それは忽然と消えるんです。私の友人が昨日までは居た部屋も夜が明けたらもぬけの殻でした」
「なるほど、それは面倒くさい案件だね」
低い声音でフリーレンは答える。魔族の仕業かと思いつつも、先程の話の後に魔族に疑惑を向ける事の愚かさなど言うまでも無いため、頭を振りその思考を振り払った。
「でも、私たちでも解決できるとは限らないけど」
「私には分かります、貴方たちの強さが。私の五分の一程度の魔力を持つエルフ。そして佇まいからして熟練の猛者であるドワーフ。
この聖都に拠点を置く神聖団にも張り合うどころか上回る可能性を秘めた逸材でしょう」
「成程な…」
自らの膝を抱えて話を聞いていたフリーレンは、首を傾げる。
「さらっと下げられなかった?私」
「フリーレン、今はおふざけをする時間じゃないぞ」
「…これって私が悪いのかなぁ」
愛嬌のある顔で無言になったフリーレンを置き去りにハイターとアイゼンは話を続ける。
「すみません、ですが」
「良い、別に急ぎの旅じゃない」
「本当ですか?」
「あぁ」
それに、と口をきつく結んでいたフリーレンは話に入ってくる。
「大切な友人なら、私からすれば一瞬でも人間なら長い筈。なら気持ちは分かるよ」
「フリーレン、お前は…」
「アイゼン、私だって長い間生きてるんだ。人間は一つの出会いを大切にするんだって分かるよ」
始めてエルフと会った時をアイゼンは振り返りながら、こいつも成長するのだと思い、なんだか嬉しくなってフリーレンの背中をばんばんと叩いた。
「い、痛いっ、なんなの…?」
「何でもないぞ」
「何かあるから叩いてるんじゃないの」
フリーレンの疑問の声を無視して、未だに叩こうとするアイゼン。
その人幕をハイターは苦笑して眺め、取り合えずと今後の予定を計画する。
「一先ず、明日から開始にしましょう。私も今日は用事がありまして」
「そっか、じゃあまた明日ここに来るね」
「えぇ、お待ちしてます」
世界は欺瞞に満ちているって感じ。