呼ばれてますよ、魔王様   作:英雄祈願侍

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魂胆

 

 

 

「おい、花冠ってどう作るんだ?」

「意外と乙女チックなんですね、あははっ」

 

子供みたいな無邪気な笑いを浮かべたハイターは、しゃがみ込み花を集め出した。

 

「しょうがないので私が作り方をお教えしましょう」

「助かる」

 

アイゼンとハイターがせっせと花を編み、自然が織り込まれた冠を作る中。フリーレンとヒンメルはなんだか可笑しくなって笑った。

見た目どおりの年齢であるハイターは兎も角、アイゼンがそんな繊細なものに関心があるなんて予想外だったからだ。

 

── 確か、アイゼンは文通もするマメな奴だったと遠い過去の記憶をフリーレンは思いだした。あれ?いつ頃の記憶だっけ、忘れちゃったと自分の素っ気なさに苦笑しつつも、でも覚えてるだけマシだよね?なんて開き直ってみる。

 

「どうだ」

「おー、良いです──あれ?その冠、左側が歪んでませんか」

「ん?あぁ確かにな」

「私の言う通り作っていましたよね?」

「…そうだ」

「あの、私の目を見て話してくれませんか」

「目にゴミが入ってな、少し前を向けなくなった」

「都合の言い訳を言わないでください、途中でアドリブでもしたんでしょう?」

「……」

 

ハイターは「全くもう」と黙ってしらを切るアイゼンの手から花冠をひったくり、その歪だった姿を器用にも直してみせた。

 

「ほら、これで完璧でしょう?」

「おぉ、ありがとうな」

「これくらいお安い御用です」

 

朗らかな笑顔に一行も笑みを浮かべる。

そんな風に、フリーレンの作り出した花畑で遊んでいる時、事態は動いた。

 

「な、なに?」

 

遠くで轟音が聞こえた。

建物に停まっていた鳥たちは慌てて空へと飛び立ち、ベンチの上で昼寝を謳歌していた野良猫は驚き、飛び起きた。

 

「どうやら事件が起きているらしいね」

 

音の聞こえた方を見れば、周りよりも明るくなっていた。

色とりどりなライトがライトアップされたような、昼であれば見ることのない光景に異常事態だと察せられる。

そんな突如訪れた不穏な空気に、長閑な場所で平和に暮らす民衆は不安になる。

不安げに隣の人と身を寄せ合い、ただ縮こまる事しか出来なかった。

 

── それを水色の髪を持つ青年は見逃すわけは無かった。

ヒンメルは白いマントの中、腰に携えた剣の(つか)を手で固く握り締める。

数え切れないほどの想いを乗せてきた剣はきっと、この世の中で上から数えた方が早いほどの重さを誇るだろう。平和な時代において、街中で抜く事なんて無いと思っていたそれを抜く事は覚悟ある行為だと、誰もが知っている。

 

「行こう、事と次第では武力行使も辞さないよ」

 

自らの手で時代を閉幕させる事を人類は怖がる、故に動かない。

守ってくれる英雄を待ち望む事こそ自らの役割だと無様にも言い張るのだから。

だからこそ英雄とは壊れた者でなければならない。常人で容易なものは評価されない世界で、憧れる存在とは異なる視点を持っていなければ目立たないのだから。

故にヒンメルのその言葉にパーティーを組んだばかりである筈のアイゼンは、ハイターは、フリーレンは無意識の信頼を寄せる。

 

取り敢えずとハイターは振動でずれ落ちていた眼鏡を人差し指で戻しつつ、冷静に状況を精査する。

 

「恐らくいざこざでしょう。大きな魔力が2つ、あちらに確認出来ました」

 

その言葉にフリーレンも魔力の正確な位置を認識しておこうと、魔力探知を行う。

杖を掲げて魔法を使った。

 

「…あのね」

「どうしましたフリーレン?」

 

問題なく終わる動作だったが、少し問題が起きたようだ。

胸の前にまで上げていた杖を力無く下ろして、フリーレンは心底気まずそうにしていた。

 

「多分1人はゼーリエだよ、あのオーラに見覚えあるから」

「なるほど。有名な方なので姿ぐらいは知っていましたが…、随分と好戦的なお方なんですね」

「……ごめん」

「貴女が謝る事ではありませんよ」

 

言い方より親しい仲だと察したヒンメル達はそれ以上言わず、身支度を整えた。

旧知の仲がこの問題を起こしているとなれば、それはそれは居心地が悪いものだろうとヒンメル達は分かっていた。だから必要以上に気遣うことはせず、早急に解決する事が重要だと優先順位を付けた。

一先ず何故ゼーリエがこの街に居るのかは考えないようにして、走り出す。

 

石畳を踏み締める音が響く。

そちらから逃げてくる民衆の様子を見ながら、今出来る最大限の速度をもって現場へと急行する。

 

「あれ今頃来たのかい?」

「ソリテール」

「戦いはもう佳境だよ」

 

到着すると、今まで姿が見えなかったソリテールが居た。ぶらぶらと足を揺らしながら花壇の縁に腰掛けて、観客気分みたいだ。

その視線の先を見ると黄金があった。草花や建物が黄金に染まる中、赤と金の二つが象徴的だった。

魔力の奔流によって、マハトのワインレッドの髪が激しく揺れる。

相対しているのはフリーレンの言葉通り、ゼーリエであった。

いつもの気だるげな眼ではない、彼女らしからぬ感情を見せる眼でマハトを見ていた。

 

「街への被害は考えないことにしたのか」

「手を抜いて御せる相手では無い」

「そうか、目は曇っていないらしいな」

 

ははっと笑い声を上げ、何かに気が付いたのかマハトから目を逸らした。

その動きによって、太陽のような輝きを放つ金色の髪は大きく広がった。

 

「なんだ、フリーレンも来たのか」

 

彼女はフリーレンの方を向き、いつも通りの感情の薄い顔をしながら話しかけた。

 

「なんでこんな場所に居る?」

「旅の道中で色々あったから」

「そうか」

 

多くを語らないエルフにゼーリエは深く切り込む気はないらしい。

話は終わったと再びマハトの方を向き直そうとしたところで、眼鏡を掛けた青年の姿に気が付いた。

 

「ほう、目的の人物は無事見つけられたのか」

「私の事ですか?」

「あぁ。私がフリーレンにお前の事を見つけるように指示を出したからな」

「そうなんですか、それは有難うございます」

「ん?どういう事だ」

「こんな愉快な人たちとの縁を作って頂いたので」

「面白い奴だな」

 

面白いものを見た性なのか、目にぱっと光を灯した。そしてまだ雑談を継続する──かと思いきや後ろを振り向き、手のひらを前に向けて純粋な魔法の弾丸を放った。

もう部外者との対話に現を抜かす事を辞めにするらしい。

 

「──ッ」

「どうした?油断していたのか」

 

彼女を中心に風が巻き起こる。

波動が空気を震わせ、太陽のような輝きを魅せる。そんな神のような御業を、息をするように行う。涼し気な瞳で、冷徹な美しさを持っていた。

向日葵畑を彷彿とさせる長い髪を緩やかに揺らして、彼女は目の前の魔族と対峙する。

距離がある筈の場所に居るのにも拘らず、魔力のうねりを感じ取れる。今までのゼーリエは魔力を制限していたの?とフリーレンが驚きを隠せないほどの強烈なものだった。

 

「その程度か?」

 

失望の滲んだ言葉に呼応したのか魔力が溢れ、周りを裂いていく。

この世全ての色彩を持っているのではないかと錯覚する。流星の奔流、虹色の煌めき。

多くの魔法陣が重ねられて、一つ一つの魔法は何かなど見当もつかない高等技術。

街の住民など知ったことか、そう思って無ければ説明できない行動をゼーリエは淡々とする。並大抵の魔族ならば、それでお陀仏になるだろう魔法。

 

──ただ、その攻撃すらもマハトは当然のように防御する。

肩に乗せたマントを使い、その全てを防ぎ切る。お互いに余裕がある戯れのような戦いだったが、ゼーリエは不服そうにしていた。

 

「はぁ、仕切り直しだ」

 

ここで本気を出すというのも大人げないと、もう現状を見るに手遅れな考えを持つゼーリエは凝り固まった肩を解しながら息を整えた。

 

「…次の機会にしないか?今はすべき事がある」

「お前に次は無い」

 

マハトはゼーリエに提案を行う。落ち着いた様子の彼女ならば受け入れる可能性があるという細いものだった。だが期待空しく、予想通りゼーリエは拒否を即答した。

話を聞く気の無いゼーリエは再び攻撃を繰り出す。

 

──静寂

 

掌を上に向けて、まるで惑星のような引力を持つ熱体を作り出した。

周りの崩壊した建物を飲み込んでいく、暴風が巻き起こる。

ゼーリエは特定の魔法に拘ることは無い。属性を持った魔法は確かに場面によっては凄まじい効果を発揮する。しかし、それよりも単純に強い方法がある、収束された魔力による爆発だ。極限まで圧縮したそれを、膨らみ切った風船を針で突き刺して中を満たしていたものを外に噴出させるもの。

全てを破壊する一撃をゼーリエは行おうとしていた。

 

それにマハトははぁと溜息を吐き、黄金で造られた城壁を作る。

せめて周りの民へ影響を与えないようにせねば、今までの苦労は水の泡と化すからだ。

 

「──消えろ」

 

その声は、静かなこの場所に木霊した。

破壊の光が全方位へと広がっていく。光槍は爆発することは無く、ただその鋭さを以てして突き進んだ。瓦礫を融解させ、並大抵の物質ならば止められない質量を持ったまま直進する。

 

しかし、その熱線はあっさりとマハトによって霧散させられた。

自らへの攻撃は防御魔法により防ぎつつ、作り出した黄金によって地面以外に被害を出すことは無かった。

 

「やはり通用しないか」

 

マハトの対処にゼーリエはそう判断を下した。

この力を制限した状態で出来る事は行ったが、マハトに通用することは無かった。自らが成長するたびに他も伸びる、それを突き付けられた気持ちになった。

 

「この程度の攻撃で次は無いと?笑わせるな」

「お前では私に勝つ事は永遠に出来ない」

「それはやってみなければ分からないだろう」

「イメージが足らん、お前は私に勝てる未来を思い描けない」

 

魔法というものがイメージの世界という事はこの世界では常識だった。

不可能だと、自らの可能性の芽を潰す事はご法度であり、無限の選択肢から輝かしい未来を泥臭くも掴み取る事こそ魔法使いとして目指すべき姿勢だ。

 

燃えるような野心を魔族は持てない。

確かに魔法を探求する知性を持ち、それに対して活力はある。だがそれを以てして他者を上回ろうとするかは個体差があるのだ。

マハトはその例外に当て嵌まる。黄金に変化させるという魔法の中で頂点に立つであろう強さを誇る能力を持つが故に、他者に勝つことが当然になってしまった。

だからこそ、他者に実力は負けている場合の手段が、思考が備わっていなかった。

だが当たり前なのかもしれない。この世でマハトを上回る存在など片手で足りるのだから。

 

しかしその片手に入れられている人物たるゼーリエはその軟弱な態度を受け入れられない。

気だるげな眼差しはそのままに、目の前の魔族に告げた。

 

「──アルケーの言葉が染み付いてるのか?」

 

マハトは動揺をした。

その言葉になんらかの記憶が呼び起こされたのか、手で目を覆った。

その手の裏には夜空が広がっていて、長い影がゆらゆらと蠢いている。

 

「『何故、魔族という種族が生まれながらにして魔法を使う事が出来るのか』、この言葉を言われて躊躇しているのか?自らが化け物でしかないと思い悩んでいるのか?」

「…黙れ」

「お前たちは所詮化け物だ、分かり切った結論だろう?」

「…」

 

黙り込んだマハトの姿に失笑しながら、ゼーリエは慈悲深い一手を下してやると上から目線で言葉を告げる。

 

「故に化け物という言葉を毛嫌いするその姿勢は愚かだ。お前は受け入れ、前を向くべきであった」

「…分かっている」

「そうか?お前は元にアルケーから気にするなと言われているにも拘らず迷いを持ち続けてしまっている」

 

ゼーリエの視線がマハトを射抜いた。

その眼には、憐れみ、怒り、──そして悲しみのようなものが含まれていた。

 

「神話の時代を共に過ごしたお前をこの私が葬り去ってやろう」

「…俺を制すると(のたま)うのか」

「ああ。なんたって私は神話時代の大魔法使いだ」

 

その尊大な態度に黙して観客に徹していたソリテールは思わず突っ込みを入れた。

「昔の栄光に今も縋る老害かな?」と、独り言を言う。

 

「…おい聞こえてるぞ」

「相変らず地獄耳だね」

「お前は黙っていろ」

 

が、聞こえていたらしいゼーリエの鋭い目で釘を刺されて、お手上げだと謂わんばかりに観客に相応しい振る舞いをする事にした。

 

「それにしてもどうした?もう、お得意の魔法は使わないのか」

 

不思議そうにゼーリエは訊いた。マハトは最初の衝突以来防戦一方で自らの得意とする魔法を、『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』を使っていなかった。

 

「お前が呪い返しの魔法(ミステイルジーラ)を持っていることを知っている。先ほどは不本意に使ったが、昔を思い起こしたお蔭で思いだした」

「あぁそうだったか?お前と共に過ごしたのも如何せん前の事だ、忘れてしまったな」

「本当にボケたらしい。早く墓に入ったらどうだ?」

「…減らず口を叩く奴め」

 

「まぁいい、次はどうするつもりだ?お前の全てを私に見せてみろ」

 

再び数多の魔法陣を展開して、先の光景を作り出そうとする。

その魔力に民衆はか細い悲鳴を上げた。もう自分たちの街は終わるのかと、そう悟ってしまうのも無理は無いだろう。

この世界で頂点に立つ魔法使いの魔法など、只の一般人からしたら化け物よりも怖いのだ。無意識の感じる恐怖こそ、己で理解できない感情こそ真に恐れるべきなのだから。

 

宣戦をしようとするゼーリエ。

そこに待ったを掛ける者が現れた。

 

「2人ともそこまでしないか?」

 

ヒンメルはもう戦いを続けさせてはならないと鞘に納めていた剣を抜き、その戦いの場へと参戦した。

その邪魔者にゼーリエは不愉快そうに口元を歪め、眉間に深い皺を作った。

だが、そんな様子が見えていないのか真っすぐにヒンメルは正論を言う。

 

「今この場で争う事はまともじゃないよ、優先順位を考えて欲しい」

 

端麗で幼さの中に理性を持つ顔は今の今まで好戦的な心によって人に恐怖心を与える威圧的な意味を持っていた。しかしヒンメルの清廉な心に浄化されて、その毒気が抜かれた。

 

「…邪魔が入ったな」

「……」

 

お互いに一歩も譲らない無言の攻防。

永遠にこの時間が続くのではないか?とフリーレン達が思い始めたところで場は動いた。

 

「…白けたな、勝手にしろ」

 

先に折れたのはゼーリエだった。口を一文字に結び、面白くなさそうにしながらも、ヒンメルの言葉に反論出来なかったのか上げていた手を下げた。

捨て台詞を言い残し、去っていくゼーリエの姿を見てマハトは無表情ながらも疲れたような色を見せた。

 

「…礼は言わない」

「うん、僕が勝手にやった事だ。要らないよ」

 

ヒンメルは不躾な態度を気にした様子もなく、爽やかな笑顔を浮かべた。

取り敢えずは事件が収まったということで、フリーレンは疑問を話す。

 

「それにしてもなんでゼーリエと戦っていたの?」

「それは──」

「あぁ、それなら私が説明するわ」

 

マハトが話そうとしたところで翡翠色の髪がばっと割り込んできた。その髪の持ち主であるソリテールは、やっと私の出番ねと心無しか嬉しそうに、説明をしだした。

 

「最初は私も交えた3人で昔話に花咲かせてたの。魔王様のところで過ごしてたって話は聞いた事ある?」

「それはゼーリエの口から何度か。でも魔族とも暮らしていたって事は初めて聞いた」

「そうなのね、でも納得出来るわ。彼女は魔族との繋がりを極力消したがっていた、戦争をしていたのだから当然ね」

「数十年前までは魔族も人類は決して交わらないもの同士でしたね」

「それが魔王の手によって変えられた」

 

「そうね」と相槌を打ち、話の続きをしていいかと目配せする。そんなソリテールの合図にフリーレン達は小さく頷いて、肯定した。

 

「それでそこから国の統治の話になった、マハトとゼーリエはお互い一国の中枢を担う身、お互いに持論があるの」

「なんだか察しが着いたね」

「あれ?君は…」

「あぁそういえば名乗っていなかったな、僕とした事がうっかりしていたよ」

 

まぁイケメンにと欠点があった方が長所が映えるというものだ、と呟きつつ大袈裟にマントを靡かせた。

 

「僕はヒンメル、しがない旅人さ」

 

あと私たちのパーティーに加わりましたと、ハイターがそれに補足した。

ソリテールはへぇ、と興味が湧いたのか目を少し広げた。

 

「宜しくね?1つ気になったんだけどしがないと言う割には演劇染みた自己紹介だったわね」

「ははっ、かっこいい僕を際立たせる努力は怠りたくないんだ」

「…変わった人ね」

 

これ以上話を切り込むとまた話が脱線しそうだと言われなくても察したソリテールはパンと手を1度叩き、打ち止めとした。

 

「話を戻すわ。それでお互いの考えに相違があってああなったの」

「…俺からは手を出してない」

「そうね、マハトは認める事は無くても暴力で折ろうなんて事はしなかった。全てはあのエルフのせい」

「…ゼーリエならしても可笑しくないね」

「そうなのフリーレン?」

「だってあの人は大の戦闘好きで事ある事に戦おうとする人だったんだ。昔と比べれば今は落ち着いたけどね」

 

「ただ、あそこまで周りの事を気にしないのは不思議に感じたけど」

「確かにな。俺とフリーレンが会った時はもう少し理性的な奴だと思っていた」

「うん、昔も好戦的って言っても時と場合は考える人だったんだけど…ね」

 

うーんと首を傾げる一行に、マハトは要件があるのだろう?とこの街に来た目的を問いただす。

 

「そうそう、魔王様に支持されてここに来たんだわ」

「…俺に何かすべき事があるということか」

「そうみたいね。マハト、何か思い当たる節あるかしら?」

 

マハトは頭の中を捜索する。

暫くを目を瞑り、考え込んでいたが思いの外早く見当が付いたのか話しだした。

 

「…お前たちにして欲しいことがある。この地から少し西にある迷宮、そこの最深部にある何かを取ってきて欲しい」

 

「そこ何かの具体的な形とか、詳細はないの?」

 

持ってくるべき物の詳細が無ければ、だだっ広い迷宮を無駄に彷徨う事になってしまう。だからこそ、その質問は正しいかった。

 

「無い。ある情報はそこに重要な何かがあるというものだけだ」

 

だが、マハトは無慈悲にも告げる。分かっていないのだと、それが何なのかは分からない。ただ、その最深部に眠るそれこそが欲しいのだと。

 

「……そんな曖昧な情報の為に行けって?申し訳ないけどパスしたい」

 

フリーレンは仲間の身を案じて、今回の話は無かったことにしない?と提案する。

ハイターとアイゼンはその言葉に同意した。確かに魔王の言葉に意味はあるのだろう、しかし命あってこそで、謎多い場所に行くなど自殺と何ら変わりなかった。

だが、魔族であるソリテールはそれを許さない。魔王の支持こそ絶対的なものであり、破るなどあってはならない事だからだ。

ただそれを察せられないように、あくまでも穏和な態度で提案する。

 

「まぁそう言わないで、私も着いていくから安心して?」

「安心できる要素が無い」

「まぁまぁ」

 

毒づいたアイゼンをヒンメルは窘める。

そして先の見えない未来に曇った表情をする一行に、

 

「良いじゃないか?迷宮は楽しんでこそさ」とヒンメルは楽しげな顔で言った。「冒険には多くの仲間が居た方がより賑わう」

 

そんな風に皆の意識を陰から陽へと持っていったヒンメルにやれやれと肩を竦めつつも、話に乗る事にした。

その中でも一際いつもと違った様子なのはフリーレンだった。彼女は「なんだか面白そう、スパイみたい」と悪戯っぽい顔をしていた。

 

「変わったな。お前はそんな寄り道が好きなタイプだったか?」

「そうだっけ」

「ああ。昔、俺と旅をしていた時は難色を示していた」

「全く覚えてないや」

「そうか。まぁ俺よりも長い時間を生きるお前ならば仕方の無いことだろう」

 

自らの発言に責任なんて持つわけも無いエルフに、アイゼンは呆れた目を向けつつも納得した。

 

「それよりもヒンメルはどうなんだ」

「どうとはなにかな?」

「旅には目的がある。それを満たすのは早い方が良いはずだ」

「そうだね。でも楽しく冒険して、それで目的を果たせた方が良いに決まってる」

 

完全には否定しきれない自らの論が完璧では無い事を彼は知っていた。でも夢を見ることを辞めない、その時の自分に足りないものがあるのならばそれを満たすまで進化するまでだ。ヒンメルはそういう男で、彼をよく知るハイターは感慨深そうに頷いていた。

 

「僕は最後まで楽しむよ」

 

そう言ったヒンメルはいつもの余裕のある笑みでは無い、儚げな顔をしていた。

 





民を守るマハトと、民を怖がらせるゼーリエ。
うん、ゼーリエさんの方が魔族らしいね。
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