とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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気付いたら幻想猛獣が大分強くなってしまっていた。そしてご都合展開も結構多い……。
というよりこの回は作者の趣味全開です(汗
結局白井を関わらせることができなかった……orz

2014/12/08追記:一部世界一有名なマスコットキャラみたいな台詞があることに気付いたので修正しました。何故書いているときに気付かない……orz。


10. AIMburst

 暴走する意識の塊に、能力の化身であるソレに限界・際限など存在しない。

 

 

 

 

■AIMburst■

 

 

 

 巨大な触腕が大地を抉る。直径1mほど、全長10m以上のそれらは雨に湿気った地面に深く爪跡を残していく。

 左から薙ぎ払いのように向かってくる触腕を電撃で弾き飛ばし、さらに接近。懐に潜り込んで砂鉄の刃を胴体に叩き込む。戦車の装甲すら容易く切り裂く刃を受けて、しかし『猛獣』は傷一つなく目の前に存在している。磁力で纏めていた砂鉄は形を保てなくなり文字通り霧散した。

 

 

「ちィ――ッ」

 

 

 目晦ましのように電撃を地面に叩きつけて、即座に離脱する。直後、一瞬前にいた位置に岩盤が突き出してきた。

 

 突如として木山春生の背中から吹き出るように出現した胎児は、ぶくぶくと腫れ上がっていくように肥大化しながら、原子力実験炉へと向かって浮遊している。

 あれが何なのかはわからない。初春さんの話では、唯一の対抗策だったデータも記憶媒体ごと大破してしまっているらしい。木山春生との戦闘で警備員部隊も壊滅してる。増援は期待できない。超能力者である私の攻撃なぞ足止めにしかならない。いや、本当に足止めになっているのかさえ状況を鑑みれば甚だ疑問だ。

 でも、ここで放っておくわけにはいかない。このままアレが原子力実験炉に到達してしまえば、先日の爆弾事件なんて比にならないほどの被害が学園都市を襲う。炉心融解どころか核爆発だ。学園都市が地図から姿を消すかもしれないし、少なくとも都市の半壊は覚悟しなければならないだろう。

 

 一歩間違えれば即死するような状況で、遊びでもなんでもない本当の危険に冷や汗が体中から吹き出した。

 本物の化け物が目の前に、その血走ったような眼でこちらを見下ろしている。人などいくらでも殺してしまえるような、それこそ災害その物のような存在が目の前にいるのだ。

 それでも、

 

「こんなところで終わってたまるかぁあああああああ!」

 

 

 

 まだアイツに、いつでも気だるそうなあの男に一矢すら報いていないというのに……!

 

 

■□■□■□

 

 

 震える体を抑え付けるように気炎を吐きながら、砂鉄を防御壁として纏って御坂美琴は赤子へと突撃し続ける。

 

 

 御坂の遥か後方、平地のど真ん中で佐天涙子がそれを眺めていた。

 化物と超能力者の戦い。非現実的な現象を前に、彼女は歯噛みした。

 幻想御手を使って能力者になった。でも、それでも、届かない領域がある。たとえ能力者であろうと、あんな中に放り込まれれば一分と持たず命を失うだろう。

 

(だけど――、)

 

 つい最近まで無能力者だった自分にもわかるほど。御坂美琴が追い詰められているのが、嫌というほど理解できたから。だから、こんなところでただ観戦していたくはなかった。能力者である上条先輩が、離れた位置にある車の中で気絶していて未だに目を覚まさない以上、私がやるしかないのだと。

 先ほど木山春生がやったように、両手を前に翳す。風を集める。

 

「佐天さん――?」

 

 後ろで木山春生と打ち止めの手当てをしていた初春飾利が怪訝そうに呟く。そんなまさか、と彼女も佐天涙子の現状に理解が及んだ。初春飾利が慌てて静止を掛けるも、佐天涙子はそれを無視して集めた風を手で掴む。それを持って、そのまま猛獣に向かって叫ぶ。

 

「今は私だって能力者なんだから――!」

 

 瞬間、何かが砕けた音が佐天涙子の耳を内部から震わせた。

 意識に亀裂が走る。友を助けたいと鼓舞した意気込みはあっさりと瓦解した。なんの抵抗もできずに力が抜ける体は、走り出そうとした姿勢のまま地面に倒れ込んだ。

 

「佐天さんっ!?」

 

 初春の声が遠くから聞こえる。

 横に映った大地を、赤い何かが煙を吐き出しながら駆け抜けていくのを眺めて、佐天涙子は意識を手放した。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 交戦中、肉塊から何かが突出した。

 頭のように見える部位の左右、人体でいう肩の部分の左右から一つずつ。

 一対となる角のような円錐形の先端、その間を中心にして中空に何かが集まっていく。空間に穴が開いたようにも見える黒々としたそれは、大気を根こそぎ吸い込むブラックホールそのもので。

 

(ヤバイ――)

 

 あれが何なのかはわからないが、あれはまずい。あれの解放はそのまま敗北に直結する。

 正体不明の攻撃を阻止すべく電撃を飛ばすが、それも直前で電磁波に弾かれる。砂鉄で作った刃さえ風に打ち落とされ、レールガンすらも分厚い岩盤を盾にされ届かない。

 

(くそっ……!)

 

 絶望しかけたところに、後方から凄まじい勢いで六つの影が飛来した。ナイフに似たその影は電磁波の壁を突き抜けて左の砲台に突き刺さる。それは着弾と共に爆発し、左の角が炎上し崩れ落ちる。制御を失った圧縮砲弾が猛獣の眼前で暴発。前面に展開している砂鉄の壁が吹き飛ばされ、殺しきれなかった衝撃波が御坂美琴を襲う。

 

「きゃああああああああああーー!」

 

 明暗転を繰り返す視界の中、背後から悲鳴が聞こえた。初春さんのものだ。余波を受け、気絶していた三人ごと吹き飛ばされた。その衝撃は凄まじく、障害となるものが一切無かったそれは、砂鉄を壁を張っていた私以上の威力で彼女たちを襲ったのだ。運が良かったのが直撃だったとは言え余波であり、吹き飛ばされた場合に凶器になるものが無かったこと。衝撃が地面を這うように吹き付けて掬い上げられるように打ち上げられたことだ。下手をしたら即死していた。だが、問題はそこではない。嵐に吹き飛ばされ四人が、高さにしておおよそ5m、距離にして10m以上も後方に吹き飛ばされたのだ。

 しまったと思い、彼女たちを拾おうと駆け出そうとする私の前で落下が始まる。

 間に合わない。数秒と掛からずに彼らは地面へと叩きつけられる。今の、それこそ傷だらけで満身創痍な自分ではもうどうしようもない。

 何もできない自分に歯噛みしながらも、ボロボロの足を動かし続けていると、

 

「…………え?」

 

 落下点に誰かがいることに気付いた。立ち止まる。

 

 そいつは落ちてくる四人を器用に、一般的に見れば細い部類に入る体で同時に全員受け止める。何故だかシャツの上からブラウンのトレンチコートを羽織っているが、相変わらずの完璧超人ぶりだ。結局、また彼に助けられた。自分の無力に対する悔しさと、全員助かった安心感が頭の中でごちゃ混ぜになり、傷だらけの体から力が抜けてその場でへたり込んでしまう。彼が全員を優しく地面に下ろしているのをただ眺めていることしかできなかった。

 

「あんた、なんで……」

 

 そんな事しかいえない私の横を、コートをはためかせながら彼は走り抜けていった。

 

 

 

■□■□■□

 

 

 彼は、上条当麻は、一瞥だけくれて御坂美琴の横を抜けて、化け物へと駆けていく。

 左手に携えていた白鞘から直刀を抜き放つ。鍔も反りも無い刀身が、きぃ、と甲高い音を立てながら振動する。二尺ほどの刀身が彼の左下から振り上げられ、頭上から振り下ろされた触腕を難なく輪切りに切り落とした。

 彼を認識した赤子が攻勢に移る。空気中の水分を一瞬で自分の周囲に手繰り、拳大程度に集めて凍らせ、おおよそ三百の弾丸を乱射する。嵐のように飛来する氷塊を振動刃で斬り裂いて、受け流し、時に蹴り飛ばしながらも速度を落とさずに彼は猛進する。

 地面に叩きつけられた触腕を足場に右手で障壁を打ち消しながら、家屋ほどに膨れ上がった巨体を上条当麻は縦横無尽に駆け上がっていく。ナイフで巨木の皮を剥いでいくように、彼は刀を振り続ける。

 

 

 

 

 上条当麻が赤子相手に剣舞を演じている下方、いたるところで触腕がのたうつ。そんな中を凄まじい排気音と共に何かが駆け抜けていく。

 単眼。剥き出しの原動機関。赤色のクラシックな車体。V型8気筒のエンジンが唸りを上げ、車体の左右の前後に一機ずつ、装備された小型スラスター計四機が青白い炎を吐き出し続ける。泥を巻き上げ、スラスターによって地面を滑るようにして、死角へと回り込みながら触腕の中を走り回る。

 

 pierrotSC-13BH。

 

 総排気量8800cc、車重700kgの規格外なモンスターバイクを駆り、紅蓮の髪と黒いジャケットを靡かせて切削深嗣が疾走する。ゴーグルの奥、双眸に凄惨な色が宿った。

 長身の銃を左手で構える。コルト・ワーウルフ=ロングバレル。50口径の回転弾倉式。200mm強の銃身を持つ長大な得物が猛獣へと向けられる。

 マズルフラッシュがたて続けに六回発生し、上条当麻を背後から狙っていた触腕の付け根に全ての弾丸が命中。表面を突き破って内部に進入する。直後着弾の衝撃によって信管が起動し、弾丸中心部に詰まれた火薬が炸裂。内部に積まれた0.5m程度の鉄球の群れが弾け飛び、効果範囲半径2m円内を粒子金属とともに蹂躙する。クレイモア地雷を無理やり弾丸型にしたようなその弾丸の威力は凄まじく、それが集弾した付け根が紙くずのように崩れ落ち、そのまま触腕全体が消滅していく。

 そんなふざけた威力の50口径弾は学園都市内にさえ存在しない。というよりも、彼は市販の実弾そのものを使用しない。能力によって生み出した弾丸を細工して、危険物のリスクをコントロールした上で、銃のスペック以上の威力を引き出して攻撃することが彼の戦い方だった。

 大能力の『鋼鉄精製〈ディザスター・ペイン〉』。彼は鉱物を生み出し加工することができる。

 

「当たるかっての……!」

 

 嗤いながら上から振り下ろされる触腕を潜り抜け、すれ違いざまにさらに発砲。先ほどと同様に触腕が50マグナム炸裂弾六発によって吹き飛ばされる。赤子の頭頂を切り刻んでいた当麻の背後、鬱陶しそうに、それそこ目の上の瘤を払うように当麻目掛けて再び振り下ろされる触腕を弾丸で吹き飛ばす。

 何かに気付いたように攻撃を止めた当麻が、即座に猛獣の頭を蹴り飛ばすように跳躍。一瞬前まで自分がいた空間に四方八方から杭が突き刺さるのを一瞥して、彼は下を走っていたバイクの後部シートに後ろ向きで着地した。

 

「一旦離れるぞ」

「りょーかい」

 

 車体下部に取り付けられていた左右二対の小型スラスターをそれぞれ逆方向に吹かし、車体を急旋回させて御坂たちの方向にバイクを向けた。背後から襲う触腕を深嗣が避け、雨のように降り注ぐ石の弾丸を当麻が弾いていく。

 

 そのまま効果範囲を突っ切って、御坂たちの眼前に着いたところでバイクをスラスターを吹かしながら反転させ、泥を撒き散らしながら停止する。飛び跳ねた泥が少々掛かったのか、「ちょっと……!」と非難を向けてきた御坂は無視した。

 

 

 

「君たちは……」

 

 先ほどの衝撃で目を覚まし、合流した御坂の背後に座り込んでいた木山春生が呆然と呟いた。

 その声に二人して振り返る。深嗣は相変わらず笑みを浮かべていた。先ほどとは別の、どちらかと言えば普通の表情だった。単車から降りた当麻の表情も普段よりかは幾分か柔らかい。

 

「よぉ、木山センセー。隈酷くなってるぜ、新しいフェイスペイントかよそれ、――っ痛ってぇぞ当麻」

 

 悪態をついた深嗣の側頭部を軽く小突いて、どことなく心配そうな表情をした上条当麻も、お久しぶり、と声をかけた。

 

「お元気そうで何より。ただ、徹夜は身体によくない。気をつけたほうがいいと思う」

 

 少しだけ呆れるように言って、木山の背後に倒れている三人―初春、佐天、打ち止めーと傷だらけで座り込んで休憩している御坂を一瞥して彼は目を細めた。御坂以外は目立った外傷はない。御坂も傷だらけだが、命に関わるような怪我はしていないようだった。

 

「お前も少し休んでいろ。そんな体で動こうとするなよ」

「っ……わかってるわよ。今は充電中」

 

 釘を刺すと御坂は案外強気に返答してくる。見た目の割りに元気そうだ。

 

「それで、アレはなんだ?」

「そんなの、私が知るわけないでしょ」

 

 それはこの先生のほうが知ってるんじゃないの、と御坂は木山春生をじと目で促す。木山春生が頷いて掻い摘んで説明した。

 

「アレはAIM拡散力場の塊だ。幻想御手を使った学生たちの能力の集合体。そしておそらく受けた能力や周囲のAIM拡散力場を吸収して肥大化している」

「対抗策はないんですか」

「幻想御手のネットワークを破壊するワクチンソフトがあったんだが、この通り媒体ごと破損してしまった」

 

 彼女が自嘲気味に笑いながら懐から出したのは割れたフラッシュメモリだ。バックアップを取っておけばよかった、と彼女は呟いた。

 

「ならアレが原子力実験炉を狙っている理由は?」

 

 無い物は仕方が無い、と上条当麻は続きを促すが、木山春生は肩を竦めるばかりだ。

 

「わからない。わからないが、もしかしたら核融合炉内のプラズマに誘き寄せられているのかもしれない。なんにしても、アレが到達してしまえばメルトダウン程度では済まないのだろう」

 

 今現在攻撃も妨害もないとういうのに、離れた位置にいる件の化け物は当麻たちを眺めているだけだ。赤く腫れ上がったような眼球を、まるでこちらを観察するように細かく動かしている。

 先ほど御坂美琴が必死に与えたダメージも、それどころか上条当麻と切削深嗣の二人掛りで削った部分もすでに回復している。圧倒的に火力が足りていないらしいが、これ以上の火力は望むべくもない。

 

「現状足止めが最優先、か」

「足止め、ねぇ……。ま、アレの意識はこっち向いてるみたいだし、それについては問題無ぇだろ。それよりも今最も問題なのが――」

「持久戦になった場合、どれだけ粘れるか」

「だな。あんなもん相手に体力勝負で勝てるとは思えねぇ」

 

 あんな常識の埒外なものに対して、人間の範疇でいくら考えたところで結局意味はないのだろう。だがそれでも今は考え続けなければならない。少しでもミスを犯せばそれこそ取り返しは付かない。

 どうしたものかと考えていると、見かねた御坂が口を挟んできた。

 

「じゃあどうするのよ? 自慢じゃないけど私はしばらく動けないわよ」

「本当に自慢じゃないな。――今は俺たちに集中してるとは言え、いつ原子炉に興味が戻るかもわからない。だからできる限り攻撃して注意を引き付け続ける」

 

 上手く原子炉から引き離せれば行幸なのだろうが、今は長期戦覚悟でアレの侵攻を止めるしかないだろう。

 情報もなく打開策も皆無。こんな負け戦、博打にもなっていないがそれでもやるしかない。

 

「センセーらは念のため離れててくれ。さっきみたいなことがまた起きた場合、今度は助けられるかわかんねぇ」

 

 深嗣の言葉に木山春生が頷いた。これである程度の指針が決まったことを確認して、当麻がようやくといった感じに今まで気がかりだった妹のことに口にする。

 

「柚姫は、車の中ですか?」

 

 内心、彼女のことでかなり心配していたのだが、それで状況が変わることもないから今まで黙っていたのだ。

 彼を安心させるように、木山春生は微笑を浮かべながら頷いた。

 

「ああ。まだ目が醒めないし、原因もわからないが気絶しているだけだ。少なくとも命に別状はない。車にも被害は――」

 

 木山春生が言い終える前に、会話の途中で背後から衝撃派染みた爆音が届く。

 

「――――――――!!!」

 

 無粋なやつ、と吐き棄てながら当麻は猛獣に向き直る。見ると、もがき苦しむように身じろぎしながら、そいつはぼこぼこと肉塊をさらに膨張していった。先ほどまでは家屋一件分程度だったが、すでに全高は30mを超えているように見える。

 

「ったく気色悪ぃ天使様だなぁ、オイ。もう我慢できねぇってか」

「まあ、よく待ってくれたものだろ」

 

 どちらとも無く得物を構え直す。

 

「それじゃあ、行きますかね」

「さっさと終わらせるぞ」

 

 方や銃を回転させて遊びながら、方や長ドスを逆手に持ち替えて。

 

「drktk助dtr苦shi嫌drshntkn、ィ阿啞a■aAAAAAA―――――!!!」

 

 空を震わす咆哮を前に、駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回出てきた武器について軽く説明。
当麻が使った長ドスはロボモノの作品によく登場する振動する剣みたいなもの。いわゆる超音波振動をすることで切れ味が格段に上昇する、みたいな。ちなみに超音波振動するメスは実際に医療現場とかで使われているらしいですよ。
幻想猛獣の角に投げつけられて爆発したのはナイフ形の爆弾。
コルト・ワーウルフはコルト社が50口径の拳銃を発売し、深嗣がその銃を改造したという設定。
超大型バイクpierrotSC-13BHのほうは元ネタがあって、知っている人は知っているというもの。ヒントは名前の最後二文字。
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