とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine- 作:独楽と布団中の図書館
相変わらず戦闘以外文字数が大分少なくなってしまう(戦闘の描写も多いとはいえませんが)。
※この回は本来ならばキャラクター紹介と捏造設定の紹介と共に投稿しようとしていましたが、やはりそういうのに頼らずに本編で捕捉していく方向にします。
以前の前書きでキャラクター紹介と捏造設定の紹介を載せようと書きましたが、発言を反故にすることをお許しください。
不都合な邂逅。
■Encounter –Inconvenient-■
七月十九日、深夜。
結局、あの後パーティは中止となってしまった。
俺はその場で気を失い、気付いたら入院することになっていたのだから当然と言えば当然だ。
右の脇腹と左の脇が大きく抉れていて、いくつもの臓器に欠損があった。あの蛙顔の医者――冥土返しが『もしも君が普通の人間ならば』と仮定した俺の傷の度合いは致死量。真っ当な人間なら生きているのが不思議な状態だったそうだが、すでに体の傷は表面以外ほとんど治癒してしまっている。
化物染みた回復力に、致命傷でも死なない異常な体。
こういったことが初めてというわけではないから、俺も医者も驚きはしていなかった。
それに先ほどの戦いは、俺がそんなおかしな体だったから解決できたとも思っている。酷使するだけで学園都市への被害を未然に防げるなら、俺の体など安いものだ。
一方、深嗣はといえば能力の過剰使用による肉体疲労によって倒れただけだから、あの場にいたほかの面々と同じく(ネットワークが崩壊してすぐに目を覚ました佐天涙子も含め)、検査と軽い治療だけ受けて帰っていった。傷だらけだった御坂美琴も顔や腕を包帯でぐるぐるに巻かれてはいたが、深い傷が無かったことが幸いしたのか入院することはなかった。
そして今回の事件の主犯である木山春生は、その場で警備員に拘束されたらしい。……こっちで確保するどころか、最後に顔を見ることすらできなかった。こんな様では任務完了とは言いがたいものの、暗部にとっては木山春生よりも、あの『天使』の情報のほうが有益だったらしい。天使に関するレポートを要求されはしたが、特にペナルティはなかった。
今回の事件では、結局俺は最後まで外様だったな。そう呟いていると、子供をあやすような優しい夜風が撫ぜるように頬を流れていった。
どうやら、面会時間終了間際までこの部屋にいた奴らが、窓を開けたままにして帰ってしまったらしい。
月明かりに照らされて、白いカーテンが靡いていた。
そして、その手前。夜空とカーテンを背後に、それとは別の布が室内で揺れていた。
「やぁ、久しぶり。――いや、この姿での接触は初めてだったか」
不思議な声だった。男の声のようであり女の声のようでもある。いや、単なる『人間の声』と例えることしかできない声だ。
その声の発生源は中性的な人の形をした『何か』だった。長い金の髪、僅かばかりの幼さが残る男にも女にも見えるフラットな顔立ち。どこかで見たような顔だ。窓から入る風に揺れているのは、病人着のような白色の装束。
そいつを人間と仮定するならば年齢は二十歳に届いていないように見える。そんな中立的な外見で、しかし表情も雰囲気も子供のそれではない。否、その気配はそもそも生物のものではなかった。人間が決して纏うことが出来ない無機質を感じさせるのだ。まず間違いなく、存在として生き物とはまったく別のモノだ。
そいつは宙に浮かびながら観察するように、俺を見下ろしていた。
そんな現実味の無い存在を前に、俺は望郷にも似た懐かしさを抱いていた。
――ああそうだ。俺は、コレを知っている。
『曇天の空だった。降り注ぐ黒い礫が世界を赤色に染めていく。
塵に煤けた体を雨が洗い流しいくのも、何かに浸かった体がずぶ濡れになるのも構わず、ただ空を見上げていた』
そう、覚えている。
忌まわしい、あの日。
集落一つが『こいつのせいで』丸々消し飛び、そんな中死んでいた子供を媒体にして。俺が、俺(カミジョウトウマ)として生れ落ちた瞬間。
「覚えてるよ、『エイワス』」
確かあの時、コイツはそういう名前だと言っていたはずだ。
それが一体どういうものなのかはわからないが、揺らぐ金髪の下、整った唇が笑みを象るのが見えた。
「ならば良し。しばらくは君の身体に居座る身だ、我が宿主よ。挨拶がてら顔見せをしようと思っていたが、必要はないか」
「居座るも何も、お前はずっと居ただろう」
コイツはずっと俺の傍にいた。物理的にも概念的にも俺の体を形作っているのだから、今更何が変わるわけでもない。
「『知識』への順応も早い。いや程よい侵食と見るべきか、どちらだと思う?」
「そんなことはどうでもいい」
恐らくコイツが言っているのは、あの猛獣に触れてから意識に辞書や図書のように書き加えられた、脳に増設された『知識』とされる記憶域(データバンク)のことだろう。記録・伝承ともいえるそれは、俺を科学側から外れさせるのに十分過ぎるほどの情報だった。
科学以外の超能力の存在を、コレは否応無く俺の目の前に叩きつけてくれた。魔術という存在。それに付属する我執の塊。未だに頭蓋の中で乱反射する膨大な言葉から意識を切り離して、右手に視線を落とす。
「ただ、『こっち』のは侵食っていえなくもない」
『幻想殺し』の変化。
効力が右手首から先までだったそれは、今や右腕の肘まで効果範囲を広めていた。
それが何を意味しているのかはわからない。ただ、良い予感だけはしない。
いずれ『知識』が教えてくれるのか、エイワス自身から聞けるのか。
「さぁ、どうだろうね」
見れば、食えない笑みを湛えたソイツが目の前にいた。俺のベッドの上で、浮遊しながら俺を見下ろしている。
そいつの右手が俺に向けて伸びてきて、俺の左頬を撫でる。初めてそいつが観察以外の目的を俺に見出したようだった。
「しばらくは楽しませてもらうよ。カミジョウトウマ」
そんな言葉を残して。
風に崩れるように、その姿は消えていった。
「結局、何がしたいんだよ……」
右腕を持ち上げて、目の前に翳す。
いつも以上に重たくなったそれは、疲れのせいだろうか。
否。
きっと、そこにいる何かの重さなのだろうな、なんてどうしようもないことを考える。
腕の中にいるその存在がエイワスなのか、それともまた別の何かなのか。今の俺には判断する術はない。だが、必要になれば自ずと答えは見つかるはずだ。
だから今は、それでいい。
「――――……、」
そして、俺も。
頬を撫でる風に甘えるように意識を手放した。
学園都市第七学区に、その建造物は存在していた。
窓の存在しないビル。外との繋がりを完全に絶っているその内部。
モニターの光だけが照らす空間に、二つの影が対峙していた。
一方は生命維持槽のビーカーの中で逆さに浮遊し、一方はそれをビーカーの外から見上げて。
「やぁ、上条示道」
「久しいな。アレイスター」
学園都市統括理事長であり、最大の魔術師。
アレイスター=クロウリーは、目の前の男を見て、口を『笑み』と呼ばれる形に歪めていた。
幻想御手編はプロローグのつもりで書いたものですが、まあ文字数が安定してない上に少ないですね(汗
その上登場する意義が薄いキャラクターもいたり、とか……。
しかも誤字脱字が大分ありますし、投稿してから気付くということも多々ありました。これから誤字が極力出ないようにしようとは思いますが、出てしまったときは生暖かい目で見てやってください。