とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

15 / 31
※注意:この回では原作の性格とは乖離している性格のキャラクターが出てきます。いわゆるキャラ崩壊というやつです。ご注意ください。


02. Bad luck in Bad day

 上条当麻は神を信じていない。

 むしろ信じてもいない神を恨んでさえいた。

 

 

■Bad luck in Bad day■

 

 

 

 退院後、茹だるような暑さの中、俺は帰宅もせずに普段はあまり寄らない通学路脇の公園に訪れていた。

 

「今日は一段と派手だったな……」

 

 ぼやきながら自販機前のベンチに腰を下ろす。

 本来ならばこんな蒸し暑い外に出ていたくはないのだが、それ以上に今は人の多い場所には向かいたくなかった。

 先ほどのことだ。近道をするために裏道を歩いていると、クレーンの故障なのか置いた場所が悪かったのかは知らないが、横の工事現場から鉄骨が束になって降ってきたのだ。幸い怪我は無かったものの、正直死ぬかと思った。

 普段ならば、買い物中に他の客にぶつかられて卵が割れるだとか、買い物帰りにいきなり御坂に襲われて買ったものを紛失するとか。変わったところでは不用意に柚姫の部屋に入って、着替え中だった柚姫に殴られたり。そういった軽い災難が多い中(それだって避けれるものなら避けたいが)、今日のは混じり気無い危険だった。昨日の今日で完全に気を抜いていた。……それで俺が死ぬのかと言われれば疑問が残るが、なんにしても大事になるのは避けたかった。

 他の奴らはどうだか知らないが、『運悪く』と前につくような事柄が俺の周りでは良く起こる。もしこの世に神が在しているのなら、そいつは俺のことを恨んでいるんじゃないかと思うくらいに。……不注意だ、と言われたらそれまでだが。

 

 

「……でも、まあ。それも当然か」

 

 

 暗部に生まれて、周りを蹴落とし斬り捨てながら生きてきた。

 俺が奪った命はそれこそ数え切れない。ならば俺の不幸は――――、

 

 

――神罰、とでも?

  もし神がいるとして、そのような存在が我が宿主一人を見ていると?

 

 

 思考に耽っていると頭の内側から声が届いた。性別を判断できないような、フラットな声の主の名はエイワスだ。昨夜、おおよそ10年ぶりに再会を果たした性別不明でよくわからない、人間の形をした何か。……もっとも、その姿を見たところで男女の判断が出来るといえばそうでもないが。

 俺が今朝目を覚ましてから、エイワスは何度か俺の思考に割って入ってきている。

 どうやらエイワスは魔術(データバンク)以外の知識や記憶を失っているらしい。思考や意識の一部も俺とリンクしているため、人間で言う人格や思考回路以外は俺とほとんど同じ、なんていう状態になってしまっていた。

 その上、俺と同じ記憶を持っていても、記憶は記憶であって体感ではないため、俺の目に映るものが全部新鮮に見えるらしい。だから俺が何かするたびに一々反応していたり、時には口を挿んできたりしているのだ。

 

 

 

(……何か含んだような言い方だな)

 

 

――仮定の話さ。もし神がいるなら、というね。

  他意はないよ。

 

 

(……ああ、そう)

 

 言葉通りの意味なのか、そうでないのか。結局わからなかったが、エイワスに付き合うのが面倒になった俺は会話を打ち切った。

 俺とエイワスは意識も混ざっているのか、お互い口を開かずに会話することができていた。未だ慣れることはできていないが、落ち着いて思考の中での会話をすることはなんとか出来るようになっていた。

 今朝の話だ。突然頭に響いたエイワスの声に驚いて、寝起きだったこともあって一人で声を上げてしまった。それを看護婦に見られてしまい、彼女に妙な目で見られてしまった。フォローはしておいたが、ただ出さえ怪我する度にあの病院の世話になっているのだ。自分から好き好んで行きたい場所ではないが、また何かあったときに精神異常者と思われながら入院するつもりはない。

 溜息混じりに呟いていた。

 

「面倒なことになったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が『面倒』なンだよ。何一人で意味わかんねェこと口走ってんだァ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……?」

――む……?

 

 

 

 不意に背後からかかった声に振り返る。見れば、ベンチ裏の土手の上にそいつはいた。

 白髪、白い肌。性別が判断できない容姿に、爛々と輝く赤い瞳。右手で松葉杖を付いていて、その出で立ちが夏の陽炎のなか幽鬼のように佇んでいた。

 邪魔をするつもりは無いのか、俺の意識からエイワスが離れた気配がした。どうやら静観するつもりらしい。

 

「よォ三下」

 

 松葉杖をつきながらゆっくりと、友人にあったような気軽さでそいつは階段を下りてくる。

 

 物騒なのか平穏なのか判断し難いそいつは『一方通行』。

 学園都市の頂点であり、核攻撃すらも防ぎ得る超能力者だ。その能力は『ベクトル操作』。大気だろうが体内の血流だろうが、触れればすべてが思いのまま。

 生物が物理法則に則って生きている以上、それを捻じ曲げることが出来る一方通行に手出しできる存在など(俺を含めた一部の例外を除いて)科学側には存在しない。

 そんな化物染みた超能力者は階段を下りて、当たり前のように俺の座っているベンチを目指しながら、出会った当初より幾分柔らかくなった表情で笑っていた。

 

「テメェこんなとこで何してんだァ?」

「――特に何も」

 

 答えてやるとそいつは「へェ」と呟きつつ、コーヒー缶が山ほど入ったビニール袋を地面に置いて、俺の右隣に座ってくる。……こいつもそうなんだが、なんで御坂や麦野といった超能力者どもは俺に関わりたがるんだ。何が面白い。

 

「今日は一人なのか」

「あン? 俺がいつもは一人じゃねェみたいな言い方だなァ」

「そうだろうが」

 

 おおよそ半年前の話だ。

 『妹達』と『量産能力者計画』。それと『絶対能力進化計画』。

 一方通行を『絶対能力者』へと昇化させるための実験で、こいつは五千人弱の『妹達』を殺している。

 そのことに対しての償いとでも考えているのか、一方通行は能力の使用に必要不可欠な演算領域や私生活に必要な言語能力を損失してまで、妹達のラストナンバーである『打ち止め』を暴走した研究員から助け出した。

 詳しい経緯はわからないが、首のチョーカーに経由で妹達のネットワークの演算能力を借り受けることで、今は実生活に支障がない程度には回復しているらしい。

 今では打ち止めと共に黄泉川愛穂のアパートで暮らしているそうだ。ちなみに黄泉川愛穂とはうちの高校の担任教諭でもある。

 

「昨日は打ち止めが世話になったそうだからなァ――」

 

 礼だと言ってコーヒー缶の一つを投げてくる。……随分と安い感謝の気持ちだ。

 缶を開いて口にすれば、ブラック特有の苦味が口の中に広がる。買ってきたばかりらしく、未だ冷たさの残っているアイスコーヒーはこの炎天下の中では有り難い。

 まあ受け取っておくか、と呟いて頷く。そんな俺を見て何を思ったのか、出会った当初と比べると随分と衒いのなくなった顔で一方通行は笑う。

 

「ちゃんとした礼を用意したところで、どォせ三下は『いらねぇ』って言うだろォからな。これぐらいで十分だろ」

「――否定はしない」

 

 指定された依頼の領分を越えて勝手に首突っ込んで、ペナルティを無視して勝手に計画を破綻させただけだ。「礼だ」と言われても、そう答えるだけだろう。そこに「そんなものいらん」と言い加えるかもしれない。

 

「まァ、てめェのお陰で普通に生活できるのは確かだ。感謝してるのはホントだぜェ?」

「……そうか」

 

 あの事件以降、こいつが暗部に関わっているという話は聞かない。……これ以上関わられても面倒ごとが増えるだけなので、有難いと言えば有難かった。一度殺り合って死に掛けたのだ。本当に勘弁してほしい。

 内心冷や汗をかいていれば、そいつは「お前は……」とうわ言の様に呟いた。

 

「いつまで暗部にいるつもりだ?」

「――――。……さぁ、な」

 

 その言葉に返せる答えなど、俺は持ち合わせちゃいない。

 カミジョウトウマとして生まれた瞬間から居座っている場所に、今でも惰性で立ち続けているだけなのだ。独占欲にも似た決意に引き摺られ、関わった連中の中で、追い出せそうな奴を暗部から追い出していく。

 そんなことを繰り返して、もう何年経つだろう――?

 

「流石『ヒーロー』様ですねェ」

「俺はそんな大層なものじゃない。俺みたいな人殺しが正義の味方なわけないだろ。……ただ身勝手なだけだ」

「そォかよ……」

 

 自暴自棄に答えた途端、右上腿に痛みが走った。見下ろすと、一歩通行の左手が布越しに俺の足の肉を摘んでいる。全力で抓っているらしく、洒落にならないくらい痛い。というより、微妙に能力で握力底上げしてはいまいか。チョーカーを起動してまで何をしてやがるんだコイツは。

 

「――お前、俺の脚を引き千切るつもりか?」

「おォよ。なんならミンチにでもしてやるぜェ?」

「何怒ってんだ、お前」

「テメェのせいだボケェ」

 

 今度は肘が腹に食い込んできた。当然のごとく痛い。……俺、何かしたのかな。

 

「なに、し、やがる……」

「じゃあなァ三下」

 

 横隔膜あたりを打ち抜かれたせいで半分呼吸困難になりながら睨みつければ、当たり前のように一方通行は立ち上がってさっさと帰っていく。一度だけ振り返って「当たり前だ」と言わんばかりに鼻を鳴らしたあたり、俺は何か恨みでも買ってしまったらしい。軽く死ねそうだ。本当、勘弁してほしい。

 

 

 一方通行の後姿が見えなくなったのを確認して、腹部の痛みに耐え切れずベンチに横になれば、ジーンズのポケットから聞き慣れた着信音が聞こえた。元から入っていた音声をそのまま使っていた。

 ズボンから取り出だして着信画面を確認する。月詠教諭からだった。嫌な予感がする。

 

 

 恐る恐る携帯を耳に当てて通話ボタンを押す。

 

 

「上条ちゃん! あれだけ言ったのに補修をサボるとはいい度胸ですね!」

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぁ」

「あ、じゃないです! 今すぐ来てください! 来ないと問答無用で留年にしますからね!!」

 

 

 そして問答無用でぶつんと通話が途切れる。

 

 

「…………」

 

 補修のことを、完全に忘れていた。というより高校に連絡を入れておくのを忘れていた。

 

 呼吸困難な体で見上げれば、眩しいほどに澄み渡る快晴の空。清々しいくらいの青空が、自業自得だと俺に言っているようで、まったくもって、ああそうだ、そうだとも。

 

 

 

 

「不幸だ畜生がァッ……!」

 

 

 

 久々に、というより生まれて初めてかもしれない心からの遠吠えは、虚しく晴天に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、慌てて私服に包帯姿のまま登校して月詠教諭に半泣きされながら怒られたのは、当然といえば当然の結果だった。

 

 

 

「あ、上条君の私服初めて見た」

「あんたはまた『上条君』ですか。ていうか、真っ先に包帯に突っ込むべきだと思うんだけど。痛々しい……」

「あいつまた何かやらかしたのか。包帯するほどの怪我って、何やってんだ」

「いくら慌ててたとは言え私服姿で登校してくるとは。上条の謎は健在、と」

「にしてもカミやん、灰色のシャツに黒ジーンズて。遊び心無さ過ぎやろ地味すぎるやろ。せめてネクタイはするべきやな」

「なんか目立たないホストみたいだにゃー」

 

 

――なるほど。

  我が宿主の格好をどう表現したものかと悩んでいたが、『ほすとみたいなもの』と例えればよかったのだな。

 

 

 

 教諭に説教される横で、割と心外な会話が内外問わずに聞こえてくる。

 

 

 

 ……補修受けてる生徒がやけに多くないか?

 それとエイワス、頼むからお前もう喋るな。

 

 

 

 




エイワスも完全に誰コレ状態。
いやもう、これ大丈夫なのかこれ?
原作で清々しいくらいの絶望感を感じさせてくれたエイワスをこんな風にしちまっていいのだろうか? だが何と言われようとやり通す。

今年の投稿はコレで最後となります。ここまで見てくださった方々、本当にありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします。
そしてちょっと早いですがよいお年を!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。