とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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そろそろ更新間隔が長くなってしまいそうな今日この頃。必死に書いていこうと思います。


04. Where is the Mirage Girl now?

 ここから向こうまで。

 約730km²が俺の領土。

 

 

■Where is the Mirage Girl now?■

 

 

 

 補修を終え、日の沈みかけた第七学区を徘徊する。

 下校際、月詠教諭から人を探すように頼まれたからだ。

 

 

『上条ちゃんを探すよう頼んだのですが、連絡できなくて困っているのです。

 機械が苦手そうなメリアちゃんのことですから、きっと携帯電話の使い方がわからないのだと思います。先生の部屋の場所はわかりますね? もしかしたら先に戻っているかもしれないので先に確認してもらってもらいたいのですよ』

 

 

 最悪迷っているかもしれない、とのことだ。

 

 

 『メリアちゃん』とやらは月詠教諭の同居人らしい。横で話を聞いていた黄泉川教諭に、また学生を拾ったのか、と呆れられていた。月詠教諭は困っている学生がいたらとりあえず自宅に招待して面倒を見る、という噂は本当だったらしい。

 

 先ほど寄った月詠宅――随分と年季の入ったアパート――を初めて訪れたのだが、そのメリアちゃんとやらはいなかった。それを月詠教諭に電話で伝えたら、あとは先生がやるから帰ってもいい、と言われたのだが、なんにしても乗りかかった船を下りるのは後味が悪い。

 

 だから月詠教諭に最後まで手伝うとだけ伝えて、こうして帰途に着かずに宛も無く第七学区を歩き回っているのだ。

 

 

 

 学園都市の路地は知らない人間からすれば迷路同然に複雑だ。迷っているのならばどこかの裏路地にいる可能性が高いだろうとアタリをつけて、大通りから横の路地に足を踏み入れた時。背後から小走りでこちらに向かってくる足音が聞こえた。

 

 

 

「いたいた、そこの包帯男! ちょっと待ちなさいっ!」

 

 

 

 そして声の主の気性が滲み出たような強気な声が届いた。実に不本意ながら聞きなれた声だった。

 

 振り返ると案の定、知人の中学生がそこにいた。

 

 

「お前、そんな格好でまた獲物探しでもしてんのか」

「そんな物騒なことしとらんわ! というよりアンタだって包帯だらけじゃないのよ!」

 

 

 右頬にガーゼを貼った顔を真っ赤にしながら、制服姿の御坂美琴は地団駄を踏む。昨日の今日で随分と回復したようだ。それはもう元気が有り余るほどに。今朝会った一方通行同様、今はあまり会いたくない手合いだった。話していると異様に疲れる上に、面倒事を持ってくる可能性が非常に高い。

 

 人捜しをしてる中で知人に会えたのは行幸ではあったが、彼女が背後に何か隠しているのが不自然というか、なんとなく気になった。……こいつのこんな仕草、どこかで見たことがあるような気がする。

 

 

「丁度いい。お前、この辺りで灰色の髪をしてワンピース来た奴を見なかったか?」

「は? 誰それ?」

「人を捜してる。高校の教師から頼まれてな」

 

 

 再度、見なかったかと聞くと、彼女は右の人差し指を頭に当てて、うーん、と唸り始める。そんな仕草をしていても左手は背中に隠していた。

 そうやってしばらく記憶の中を探していたようだったが、どうやら結果は芳しくないようだった。

 

「ワンピースってことは女の子よね……。ごめん、そんな目立ちそうな灰色の髪の子は見てないわ。……私も探すの手伝おうか?」

「いや、いい。お前の手を煩わせるほどじゃないさ」

「そっか。何か力になれることがあったら言ってね」

 

 それだけ言って、互いに用は済んだと反対方向に歩いていく。

 御坂が何故俺に声をかけたのかはわからないが、こういう普通の会話を出来るやつなのかと認識を改めた。

 

「…………?」

 

 ふと頭に引っかかるものがあった。以前も御坂と普通の会話をして、普通の会話なんて珍しいなと、今と全く同じようなことを思ったことがあるような気がする。

 そしてその後の展開は、

 

 

 

 

 

 

「――――って、待てやコラァッ!」

 

 

 

 

 

 

 俺が思い出した光景を再現するかのように、背後から電撃が飛んできた。慌てて振り返って右手で打ち消せば、顔を再び真っ赤に染めた御坂が何か吠えている。

 

「こちとらプール掃除を早めに終わらせてまで来てるのよ! それなのに自分の用件だけ済ませてさっさと帰るとはどういう了見だアンタはっ!」

「…………」

 

 なんというか、その台詞も以前を彷彿とさせるものだった。

 半年前に起きた『妹達』の一件で入院した直後、御坂美琴は今日みたいに俺に会いに来ていた。確かあの時は有無を言わさず紙袋を渡されたはずだ。中身はクッキーだった。肝心のクッキーも、ところどころ黒く焦げていたり形が崩れていたりと、作り手の苦労がひしひしと伝わってくるような出来だった。そんな手作りのクッキーを見て微笑ましいと思わないと言えば、まあ嘘になるのだが。

 

 この後の展開が読めてしまって、相変わらず物渡すくらい普通にできないのか、という言葉が口から出そうになるが、そんなことを言った日には余計に話しがややこしくなってしまうのだろう。

 だから俺は当たり障りのない言葉で先を促すことにした。

 

「結局、俺に何の用なんだよ」

「だ、だから、その……。今回も、アンタに色々助けられたから、だから……」

 

 言葉が尻すぼみになっていくのに比例して、俯いた御坂の顔がさらに紅潮していく。表情は前髪が隠してしまっているため見えないが、もしかしたら恥ずかしさで泣きそうになっているのかもしれない。

 理由はよくわからないが柚姫も似たような感じだから、多分そうなのだろうと俺が勝手に見当を付けているだけだが。

 

「それにアンタが人一倍怪我してたし……、平気そうな顔見れて安心したとか思ってないし――――ああもう! だからっ……!」

 

 何を言っていたかは聞き取れなかったが、御坂が口の中で何かもごもご言っていたかと思うと、突然俺の目の前に紙袋を突き出してきた。

 

「これ! 柚姫さんの分とあの赤毛の人の分も入ってるから、ちゃんと食べなさいよね!」

 

 紙袋を俺に押し付けて、御坂は逃げるように小走りで大通りの雑踏の中に消えていく。

 彼女の目は潤んでもいなかったが、顔は変わらず真っ赤になったままだった。あのまま行けば顔から火を吹きそうなくらいに。

 

 

 彼女の姿が完全に見えなくなったところで、遠くから、

 

 

 

 

『ようやく見つけましたわ、お姉さま~~~~!』

『だぁあああ! 往来で抱きつくなぁあああ!!』

 

 

 

 なにやら賑やかな声が聞こえてきた。ついでに御坂が電撃を放ち、白井が感電する音も聞こえた。羨ましいくらい元気が有り余っているようだった。

 

 

 

 

「……まあ、いいか」

 

 

 気を取り直して、さて今回の出来はどうだろうな、と受け取った紙袋を開けてみる。

 

 

「へぇ……」

 

 

 思わず声を零してしまった。

 先ほど勢い良く突き出されたせいか、生地が多少欠けてはいるものの、色は狐色で普通に美味しそうだ。星や動物といった様々な形の生地の上には、それぞれ装飾のチョコが手描きで飾り付けてある。色の付き方がまだ甘いような気もするが、前回焦がしてしまったから気を遣ってのことだろう。とりあえず焼き加減は問題は無いようだ。

 

 きっと前回のアレから半年間、人目を忍んで練習してきたんだろう。いきなり器具を使わずに手で装飾するのはやりすぎだとは思うが、それ込みで納得のできる出来になるまで練習したのがよくわかる。でなければ昨日の騒動の直後、しかも何故だかは知らないがプール掃除を慌ててやった後、僅かな時間でこれを作ったのだ。普段から練習している人間でなければ作れるものじゃない。……装飾は何故だかデフォルメされたカエルの顔ばかりだったが。

 不意に垣間見ることができた御坂の女子らしい部分に(普段から血気盛んな姿しか見ていない分余計に)、しみじみと感じ入っていると、

 

 

 

 

 

 

 

――それはいいが、人捜しのほうを忘れてはいないだろうか我が宿主。

  そろそろ日も暮れる。これ以上時間をかけるのは、余計な手間を増やすだけだと思うのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕方がないな、とでも言いたげなエイワスの言葉で現実に引き戻された。

 

 

 

(……ああ、わかっているよ)

 

 

 

 そうだった。今は余計な思考に時間を割いているわけにはいかない。すでに日が傾いて、辺りを夕日が包みこんでいる。日が落ちてしまえば捜索は困難になるだろう。最悪、そのメリアちゃんとやらが不良たちに絡まれるなんていう面倒臭いことになりかねない。そんなことになる前に見つけ出して、さっさと月詠宅に送り届けて帰りたかった。

 

 

 大通りに戻って赤くなった空を見上げれば、夕焼けが染みて目を細めた。目に映る町は赤い塗料をぶち撒けられた絵画のように夕日一色に染まっている。

 

 

 街路樹も、ビル群も、横を通り過ぎていく学生たちも。

 自らでさえ、鮮血を被っているのではないかと思ってしまうくらいに、目に見えるもの全てが赤く染まっていた。

 

 

 

 

 

 忌々しい。

 どうやっても血に見えてしまうから『赤』は嫌いなんだ。

 

 

 

 

「――――ッ、」

 

 

 思考を打ち切るため、舌打ちしながら捜索を再開する。

 こんな下らない事を考えないようにするために急いで探していたというのに。

 喧騒の中にいてもそれを遠くに感じてしまうくらいに、俺は理由のない生理的嫌悪にイラついていた。

 

 先ほど御坂と話していたとき、俺がどういった感情を持って彼女と接していたのかさえ思い出せなくなっていた。

 それが無性に腹立たしくて、遊び歩く学生たちがいることさえ忘れて。懐から煙草の包装を取り出そうとすれば、視界の端に灰色が入ってきた。

 

 

「…………?」

 

 

 

 行き交う学生の間に揺れる、首辺りで切りそろえられた色褪せた白髪。白いワンピースに黒のレッグウォーマーをスレンダーに着こなしている。紺のサッシュを靡かせて、モノクロの色彩を保ったまま小柄な彼女は歩いてくる。

 夕焼けの中にあって、しかし赤く染まることのないその姿に目を奪われた。そんな異質な存在が紛れ込んでいるにも関わらず、あたりの学生たちは彼女に気づいていないようにただ流れていく。

 

 

 

 懐に手を突っ込んだままそれを眺めていれば、

 

 

 

(……?)

 

 

 一瞬、彼女の姿が陽炎のように揺らいだ。景色に溶けるように輪郭を失い、しかし一瞬ではっきりとした姿形を取り戻す。

 

 

(……認識を阻害された?)

 

 

 人の意識を外しているのか、姿そのものを眩ましているのか。

 

 心当たりはあるにはある。学園都市内で確認されている『対象の意識から自身を外すことができる能力』の名は『視覚阻害』。だが能力強度はレベル2とさして高くもなく、その能力を保有している学生も一名のみだ。

 それ以前に魔術なり能力なりを使っている時点で、異能力を弾いてしまう俺には適用されないはずだ。

 

 

 ……ならば風斬氷華はどうだろう。おおよそ半年前、御坂や一方通行との一件の後に知り合った、AIM拡散力場が姿を形取った少女だ。彼女は人の姿をしているが故に、AIM拡散力場が不安定になれば姿を維持できなくなって霧散する。もっとも霧散したところで姿が保てなくなっているだけであり、姿を形作る条件が環境と一致すればどこにでもその姿を現すことができる。

 当然、風斬の霧散は現象の結果であるため『幻想殺し』で止めることはできない。もっとも幻想殺し自体が『異能を打ち消す』だけの能力だから、風斬に触れれば問答無用で消滅させてしまうのだが。

 

 先ほどの現象も、風斬の例に倣うのならば説明は付く。

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

(何か風斬とは違うように感じた。……エイワス、何かわかるか?)

 

 

 

 

――思考に耽るのは構わないがな。我が宿主よ、とうの少女もこちらに気付いたようだぞ?

 

 

 

 

 それだけ言ってエイワスの気配は離れていく。そしてそいつの言葉通り、

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

 

 

 

 

 

 彼女が見えてしまったのがいけなかったのか。

 いつの間にか俺の目の前まで来ていた灰色の少女に声を掛けられてしまっていた。俺よりも頭半分程度低い少女の、くすんだ灰色の瞳がこちらを見上げている。……具体的に何かとは言えないが、なんとなく嫌な予感がする。

 抑揚が極端に少ない声で、感情の起伏がほとんどない表情で彼女は静かに口を開いた。

 

「君、カミジョウ・トウマ?」

「ああ、そうだが……」

 

 写真を手にした彼女に、その写真と見比べながら問われて瞠目しながらも頷いた。

 そして気付いた。彼女の容姿は月詠教諭の言葉通りのもので、

 

「お前、『メリア』だな」

「うん。コモエから探してほしいって頼まれたんだ。学校に来て欲しいって言ってた」

 

 どうやら彼女はこんな時間になるまで、俺をずっと探していたのだろうか。迷ってるのかと聞くと、違うよと相変わらず淡白に答える。

 

「俺はあんたを探してほしいと頼まれた。何故月詠教諭に連絡しなかったんだ」

「……コモエの家の場所はわかってるから大丈夫だよ。君は、ちゃんと学校には行ったんだ?」

「ああ、まあ……」

 

 どうやら俺の質問に答える気はないらしい。

 意地の悪いことを真顔で言う彼女は、俺の顔を見ながら何かに気付いたように首を傾げた。

 

「トウマは、能力者だよね?」

「それ以外の何に見えるんだ」

 

 無能力者だけどなと自嘲気味に口の端を吊り上げてやれば、うん、と彼女は短く頷いた。もっとも、まだ納得できていないようだった。彼女の無表情になんとなく怪訝さが混じっているように感じた。……互いの用事は済んだだろうに、何が気に食わないんだ。

 

「うん、それは分かるんだけど、なんだろう……」

 

 じゃあな、と彼女の話を無視して、無理やり立ち去ろうとすれば彼女に腕を掴まれる。妹である柚姫より若干背が高い程度の、一般的に見れば細い部類に入る体格からしてさほど力があるようには見えないのに、俺が全力で振り解こうと力を入れても、彼女の手はびくともしない。逃げられなくなってしまった。

 先ほどから、彼女を見た瞬間からしていた悪い予感は、ここへ来て一層激しくなっていた。

 放せと言う暇もなく、彼女は世間話でもするように学園都市ではありえない言葉を口にした。

 

「『魔術』って単語に心当たりは?」

 

 『魔術』。そして『魔術師』。

 『知識』によって書き加えられた情報に記された、超能力とは別の理。それを知ってしまったがために、自分も大概科学側から外れてきている自覚はあるが、何故いつも降りかかる先を俺にするのだ厄介さんよ。

 

「……知ってる。そう言うお前こそ魔術師だな」

「うん、そう。――やっぱり魔術側の人間だったんだね」

「違う。知ってはいても俺は学園都市側だ。関わるつもりもない。……だから離せ」

 

 力が抜けた隙に彼女の手を振り払う。

 

 

 科学と魔術は交わるべきものではないと思うから。能力者である俺は魔術側の領域を侵さないし、魔術師が科学側に侵攻するなら排除するだけだ。

 

 互いの領分を守って、互いに無関心でなくとも不干渉であるならばそれでいい。

 

 

 

 突き放すようにそう説明してやれば、彼女は不承不承にではあったものの肯いてくれた。

 

 

 

 

 

 

「なら、最後に一つだけ」

 

 

 

 

 

 これ以上何かあるのか、と不機嫌さを隠さずに待っていると、

 

 

 

 

 

 

「一応、教えてもらった君の住所まで行こうと思ったんだけど、『人避け』の結界が張ってあったから止めたんだ。トウマが仕掛けたの?」

 

 

 

 

 

 

 そんな、俺の領土を侵す言葉が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 




ようやく物語に関わってきたメリア。いわゆる『綾波キャラ』ってやつです。最初からイメージが固まってていた分とても書きやすかった。
普通の生活をしている柚姫のほうは未だに掴みきれてないというのに(←オイ
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