とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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この物語は悲劇である(キリッ
と言っておいて未だに悲劇になりそうな感じが一切ない? ……仕様デス。


■2015/01/22追記
読み直したら結構駆け足ですね……。最近力み過ぎてるのかな……(汗
一応誤字脱字修正しときました。


06. Blaze Magician

 出会ったのは赤毛の不良神父。

 ……やはり赤は嫌いだ。

 

 

 

■Blaze Magician■

 

 

 

 四半刻と掛からず自室のあるマンションまでやってきた。

 第七学区内にある、多少高級志向な十二階建てのマンションの最上階。その中ほどにある『1206号室』が俺たちの部屋だ。こちらからではベランダしか見えないのだが、一切人が居ないことを除けば、特に変わった様子はない。

 物音一つしない。マンションの周囲1kmほどが人避けの結界の効果によって無人と化していた。すでに結界内に入っているにも関わらず、結界自体が幻想殺しによって消えていないことから、おそらく基点を破壊する以外に解除する方法はないのだろう。

 

 玄関の自動ドアを抜け、無人の管理人室の前、ステンレスの郵便受けの中に御坂から貰ったクッキーを入れる。念のためだ。

 手持ちの携帯装備をズボンの上から確認して、エントランス奥のエレベーターに乗り込み、12階のボタンを押す。

 

 

 

 

――上の階に気配がある。魔術師のようだが、会ってどうするのだ?

 

(そんなの、決まっている)

 

 

 外敵を排除するのは俺の仕事だ、とエイワスに告げたところで12階に到着した。

 

 

 

 エレベーターから出た途端、焦げ付いた臭いが鼻を突く。その元凶は共用廊下の先にある焦げ付いた自室の玄関だ。

 

 

 

 

「そこの不良神父。俺の部屋に何か用か」

 

 

 そこから現れた神父服姿の男を睨みつける。

 

 

 エレベーターから自室まで、間に五部屋分の距離を取って、目線一つ分背の高い男と向かい合う形になった。

 

 遠目でも目立つ赤毛と、右の目元のバーコードみたいな刺青。耳にピアスを留め、十指全てに指輪を填めて。二メートル程の長身の、真っ当な神父とは到底思えないような姿をしたその男は、当然だと言わんばかりに鼻で笑う。

 

 

「僕はただ、知人の忘れ物を取りに来ただけだよ。玄関の扉を焼き払ったことは謝るけど、まあ天災にでも遭ったと思えばいいさ」

「…………」

 

 

 直感した。俺、コイツ嫌いだ。

 人の部屋で小火を起こしたくせに全く罪悪感を覚えていないのもそうだが、赤いというだけで俺をイラつかせる。

 

 

 

――我が宿主の『赤嫌い』も、ここまでくると手の施しようがないな。

 

(煩い、黙ってろ)

 

 

 内側から届いた声を黙らせて、殺意混じりに睨み返せば、男は「僕は戦いに来たわけじゃないんだけどね」と溜息をつく。それがまた嫌味ったらしくて俺の神経を逆撫でした。

 

 

「何が狙いだ。ここは『魔術師』なんぞが目的もなく忍び込むような場所じゃあないだろう」

 

 

 ここは、学園都市は科学の領域だ。『魔術師』が訪れるような場所ではないし、科学側の人間を傷付けることは許さない。

 

 

 そういう意味を込めて言ったつもりだが、男はやれやれと肩を竦めるばかりだ。

 

 

「言ったはずだよ。僕は知り合いの忘れ物を取りに来ただけさ」

 

 

 そう言って、男は左手を持ち上げる。持っていたのは白い布で、よくよく見れば銀板が施されている。色こそ違うが聖職者の被り物(ベール)だ。

 何故そんなものが部屋にあるのかは疑問だが、どうもこの男、口の割には好戦的な性質をしているらしい。扉の開け方もそうだが、立ち振る舞いが殺し合いに身を置いている人間のそれだ。一挙動ごとの隙が少ないのだ。

 

 だが、わざわざ話を聞いてやるつもりもない。『知り合いの忘れ物』などどうでもいい。身に染み付いた人を焼いたような臭いを、甘ったるい香水でごまかしているような奴が科学側(こちらがわ)に紛れ込んでいること自体許せるものではない。

 

 

「まあいい。無理やりにでも吐いてもらう」

「どうかな? それに君は魔術に心当たりがあるらしい。悪いけど、そんな人間の下に『彼女』を置いておくわけにはいかない」

 

 

 懐から一振り、携帯式の小型剣の柄を左手で取り出す。男が懐から紙札を取り出したのを見て、柄を横薙ぎに一振りして内部に格納されていた刃を展開する。カシャカシャと可変しながら50cmほどの、切っ先のない刀身が形成された。

 

 

「ステイル=マグヌスと名乗りたいところだけど、今はやめておこう。魔法名は『Fortis931〈我が名が最強である理由をここに証明する〉』だ。そう呼んでもらってかまわないよ」

 

 

 魔術師とは真名を名乗ってはならない。名を知られるということは、その者の生まれや根源の一部を握られるということに等しい。だから魔術師は魔法名という二つ名を自らに課す。――殺し名として。

 

 

「――俺は、」

「それと君は名乗らなくて良い」

 

 

 名乗られたのなら、こちらも殺してやるという意味を篭めて名乗り返してやろうとしたのだが、ステイルの言葉によって遮られた。わざとらしく付け加えるように、笑いながら余計な言葉を吐いたのだ。

 

 

「これから殺す人間の名前なんて、覚えていても仕方が無いからね」

「それは――」

 

 

 頭にきた。完膚無きまでに頭に来た。

 俺はこんなにも短絡的だったか、と考える間もなく、

 

 

「こちらの台詞だッ!」

 

 

 感情を抑えられず、吠えた勢いのままステイル=マグヌス目掛けて駆け出していた。普段の俺ならば有り得ない、敵の前で感情を剥き出しにするという愚行を俺は今実行してしまっていた。

 

 

「――Ash To Ash〈灰は灰に〉、Dust To Dust〈塵は塵に〉」

 

 

 男が両手を掲げる。紡いだ呪文に反応して、彼の両手には拳を覆うように炎が噴出する。瞬間、視界が警告に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

――Warning. Began hostilities. System format start. Build the new Combat_Systems.

 (敵性魔術師ト交戦ヲ開始。筐体『カミジョウトウマ』ノ戦闘機構ヲ構築シマス)

 

 

 

 

(…………?)

 

 

 

 

 警告表示が消え、色の戻った視界は普段よりも明瞭としている。背後へ流れる景色の仔細を逃さずに、意識せずとも細部まで視認できるようになっていた。

 

 

 エイワスと同じように思考に介入してきた『何か』によって、俺の意思から俺の身体が微妙にズレ始めた。駆ける脚から無駄な力が抜け、姿勢はより前傾に。右手を弓矢のように後ろに番えさせて、左手は牽制のために小型剣を持ったまま前に出す。

 

 運動の無駄を削り取られながら、俺の身体は俺の思考以上の動きで廊下を駆け抜ける。

 なんなんだ、これは……。

 

 

――データバンクの管理や保守を実行するためのOSが起動しただけだ。

  今は慣らし運転とでも考えておくといい。

 

 

 

 エイワスの言葉を聞きながら、俺は自身があまり驚いていないことに気が付いた。自分の思考の中に、曰く『データバンクのOS』が割り込んできているというのに不思議と嫌悪感を覚えなかった。

 

 思考も身体も、構築され始めた機構(システム)に順応していく。

 

 

 

 

 

 

 距離はあと三部屋分――おおよそ20m。

 

 

 

 

 

 

「Squeamish Bloody Rood〈吸血殺しの紅十字〉――!」

 

 ステイルは両手を十字に振り下ろした。その動きに合わせるように、発動した魔術によって生み出された二本の炎刃が飛来する。距離は約10m。

 迫る炎刃を右の拳で叩き割って、ステイルに肉薄した。

 

 

「なっ――――」

 

 

 術が打ち消されて息を呑むステイルの5m手前、内側に捻りながら出した左足で床を蹴って、前転するように跳躍する。上下反転し横回転する視界のなか、左手に持った小型剣をそいつの首元へ振り抜いて、

 

 

 

「Innocentius〈魔女狩りの王〉――――!」

 

 

 

 突如として中空に湧き出た炎に煽られ、後方へと吹き飛ばされた。天井を蹴飛ばして、重心移動をしながら反転。右足から床に着地する。……また距離が開けてしまった。

 

「まさか、僕にコレを使わせるなんてね……」

 

 驚いたよ、と安堵しながら呟いた彼の前で、炎がゆらゆらと不規則に伸縮を繰り返している。

 ステイルが生み出した炎は術式として不完全なのだろう。火力が安定せずに強弱も定まっていないようだ。

 

 

「MTWOTFFTOIIGOIIOF〈世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ〉」

 

 

 彼自身そのことに理解が及んでいるのか、追加で本来の術式を炎に組み込んでいく。それを阻止するべく、俺は再び脚を動かした。

 

 

 

「IIBOLAIIAOE〈それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり〉。

 IIMHAIIBOD〈それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり〉」

 

 

 

 短絡化された英字の羅列を口ずさむことで、高速で術式が組み上げられていく。

 

 完成しようとしまいと幻想殺しならば打ち消せるだろう。そう考えて突き出した右手は、しかし炎で形成された左手に受け止められた。

 右手で消滅させるどころか、押し返すことすら出来ない。

 幻想殺しのお陰で俺の右手が焼けないのはありがたいが、いかんせん近すぎる。制服は端から溶け始め、幻想殺しの効果適応外の皮膚は焼け始めた。水分が蒸発していくせいで喉は乾燥し、眼球が溶けてしまいそうなほどの痛みを訴え始める。小型剣は熱を持ち始め、溶解しないまでも持った左手は焦げているだろう。

 

 

「IINFIIMS〈その名は炎、その役は剣〉。

 ICRMMBGP〈顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ〉」

 

 

 炎の左手に足止めを喰らっている間に、ステイルが術式を完成させてしまった。

 左手の付け根より先、炎から胴体が這い出てくる。胴体の次は髪を逆立てたような頭。頭の次は十字架を持った右腕だ。

 

 

 姿が完全となった炎の魔神を前に、視界情報を元に『知識』へと検索を掛ける。

 

 

 

 

 

――Magic Crass-Emperor<Innocentius>. Categorize... type-Base Defense. Ability memorable... High Speed Regeneration. Front breakthrough is difficult.

 (魔術『魔女狩リノ王(イノケンティウス)』。カテゴライズ……、拠点防衛特化型。特筆スベキハ再生能力。正面カラノ突破ハ困難)

 

 

 

 

 

 

 データバンクから引き出された詳細なデータが、俺の記憶に正確に追記されていく。見た目通り、かなり大掛かりな術らしい。

 

 

 

 

――教皇級の魔術まで用意してあるとは用心深いことだ。

  流石に真正面から戦って勝てる相手ではない。術の基点を破壊する他ないだろうよ。

 

 

 

 エイワスの言葉に答える間は与えられなかった。

 曰く『魔女狩りの王』である炎の魔神が、右手に持った十字架を振り下ろしてきたのだ。光のような熱源の塊だ。そんなものが直撃すれば右腕だけ残して消し炭になる。

 

 

「チィ――――ッ!」

 

 

 だから俺はイノケンティウスの左手を力ずくで振りほどいて――その結果として薬指と小指の指骨と指節骨が全て砕けたが、そのまま右手で魔女狩りの王の左肩を掴む。そこを支点に地面を蹴って身体を持ち上げ、振り下ろされた十字架を躱した。

 

 

 魔女狩りの王を飛び越え、ステイルの背後を取って、ギリギリ原型を留めている小型剣を振り下ろした。

 

 しかし、

 

 

 

 

「……無駄だよ。そんなものは僕には届かない」

 

 

 

 ステイルを守るように炎の腕が突き出された。軌道を阻まれ、接触した刀身がその中ほどから溶け落ちる。

 魔女狩りの王が振り返る。振り返りながら俺目掛けて振り回された十字架を右手で受け止め、中空で受け止めたために衝撃を殺しきれずに再び吹き飛ばされた。

 

 今度はステイルを挟んでエレベーターとは逆の位置、非常階段のすぐ前に転がるように着地する。

 そのまま逃げるように非常階段に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

――確かに術の基点を破壊しろとは言ったが、術者を狙えと言ったわけではない。

  知っての通りアレは拠点防衛に特化した術だ。易々と突破できる道理はないだろう。

 

(……ああ、そう)

 

 

 

 

 そういうことは早く説明してほしかったと愚痴りながら、一階下の十一階の通路に駆け込んだ。すると、そこにあったのは、

 

 

 

 

――これが術の基点のようだな。術式同様、中々派手にやるものだ。

 

 

 

 中心にルーン文字の書かれた白いシートが壁や床にびっしりと貼られていた。張り方に規則性は無く、どうやら数を用意すればそれだけで安定する術のようだった。

 

 

 無造作に一枚剥がして、手にとって観察する。

 

 

「…………」

 

 

 書いてあったのは『く』の字のような文字(CEN、カノと呼ばれる『火』を意味する文字)と、縦線に右下に向かう斜め線が引かれた文字(NYD、ナウシズと呼ばれる『必要性』を意味する文字)だ。

 ご丁寧に、耐水性に優れるラミネート加工まで施されている。これでは水によって洗い流すこともできない。

 

 

 

「…………?」

 

 

 

 そこでふと気付いた。

 

 

 

 

――どうした、なにか思いついたのか?

 

 

(ああ。……一つ聞きたい)

 

 

 今現在、この近辺に張られている結界の効力について。人避けの結界というからには、有効範囲内の人間のみを何かしらの理由をつけて結界外に出て行くように誘導するものなのか、それとも小動物のような知能を多少持っている程度の存在も追い出してしまうものなのか。

 知識(データバンク)に記載されていた二つの事例のうち、エイワスが言うには今回はどうやら前者らしい。

 

 ならば少し回りくどいが、方法が無いわけではない。

 

 

(まずは術の基点が他にあるかを探す)

 

 

 

 

――ふむ……?

  ……まあ、考えがあるのなら止めはしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分で下準備を終え、再び12階にいるステイルの前に、先ほどと同じくエレベーターを使って戻ってきた。

 

 

「なんだ、もう諦めたのかい?」

 

 

 そろそろ追いかけてやろうと思っていたのだけどね、とせせら嗤う彼の前には相変わらず魔女狩りの王が鎮座している。

 

 

「言ってろ」

 

 

 最初の衝突をなぞるように廊下を駆け抜ける。姿勢制御も先ほどと全く同じだ。

 

 

「馬鹿の一つ覚えか。その程度じゃいつまで経ったも僕の『魔女狩りの王』は――」

 

 

 呆れたように肩をすくめるステイルを守るように、魔女狩りの王が行く手を遮る。

 振り下ろされた光の十字架に、俺は右の拳を突き出した。

 

 

 そして、

 

 

「なぁっ――!?」

 

 

 

 十字架を突き破って幻想殺しが魔女狩りの王に届く。途端、再生を許さずにその身体を消し飛ばした。

 

 

「そんな、何故僕の『魔女狩りの王』が……!?」

 

 

 ステイルが信じられないと息を呑む。それもそうだ。態々紙の弱点である水を弾くためにラミネート加工まで施していた陣が破壊されたのだから。

 防衛を失ったステイルの前に立つ。余裕な表情を崩して彼は一歩後ずさりした。敵意をむき出しにしながらステイルは苦々しく口を開く。

 

 

「君は、何をしたんだ……」

「……人避けの結界があったからな。動きやすかった」

「何を言って……?」

 

 

 

 人避けの結界は、あくまでも対象を人間や生物に限定した術だ。当然、どれだけ知能を持っていようと無機物は対象外。

 しかも魔女狩りの王のための陣は十一階と五階の二箇所のみ。恐らく二箇所に陣を敷くだけでマンション全体をカバーできるのだろう。

 

 

 だから俺は、周囲を巡回していたドラム缶型の掃除機を四機ほど持ってきたのだ。それを十一階、五階にそれぞれ二機ずつ配置した。態々持ってくるは重労働ではあったが、配置してからは早かった。札を廃棄物と判断した自動掃除機は、本体下部のヘッドによって床を、ドラム缶型の筐体に内蔵されたヘッドの付いたアームによって壁と天井を掃除し始めた。結果、数分とせずに廊下は元通りの清潔なものに戻っていた。

 

 そう説明してやると、

 

 

「―――の奴、加工しておけば破られることは無いと言っていたくせにっ……!」

 

 

 

 捨て台詞を残して、男が懐から取り出したペットボトルを地面にたたきつけた。瞬間、ボトルが爆発して水蒸気が通路全体を包み込んだ。1m先も見えない。階段を駆け足で下りていく音が遠ざかっていく。

 

 霧が完全に晴れると男の姿はどこにもなく、人避けの結界は解除され、足元にはパチンコ玉のような鉄球が転がっていた。どうやらペットボトル内の鉄を一瞬で加熱させて、小規模の水蒸気爆発を起こしたらしい。

 

 敵の姿が消え、戦闘が終了したことで戦闘OSがシャットダウンした。

 

 

 

 

――曰く『外敵』を排除するのが我が宿主の仕事、ではなかったのか?

 

 

 

 

 俺がステイルを見逃したことにエイワスは疑問を持ったようだった。

 

 

 

 

(別に。今は泳がせておくさ)

 

 

 

 理由は色々とあるが、今はとりあえず様子見に徹したほうがいい、と判断したに過ぎない。

 

 

 

――そうか、ならばもう口出しはしまい。

  ……さて、我が宿主の言う『外敵』の姿は消えたのだが、どうする?

 

 

 

 

 エイワスの言葉を聞きながら焦げ付いた玄関をくぐる。というか、口出しはしまい、じゃなかったのかよ。十年も眠っていて思考回路のネジが何本か抜けたのか。

 

 

 

――何を言う。排除するかどうかに口を出さないと言ったまでだ。

  そして付け加えるならば、我が宿主の体内で眠っていた以上、我が影響を受けるのは宿主以外に有り得まい?

 

 

 

 ああそう、とだけ答えて自室を見渡した。

 下手をすれば金銭的なものまで荒らされてしまったのだろうと思っていたのだが、焼かれた玄関以外は特に何も変わった様子はなかった。

 人が暴れた様子もないことから、柚姫は外出していたのだろう。だからといって安心はできなかった。ステイルは『知人の忘れ物』とやらを取りに来ていたと言っていたから、おそらくはすでに何かしらの一件に巻き込まれてしまっているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上条~、どうした~? なんか焦げ臭いぞ~?」

 

 

 

 自室からなけなしの装備を持ち出してから通路へと出れば、知人の声が聞こえてきた。あたりに喧騒が戻りつつある。どうやら結界の効果が切れて人が戻ってきたようだった。

 

 

 

「さっき慌てて神父が駆けてったけど……。それになんか焦げたような臭いが――」

 

 

 

 エレベーターから通路に現れた給仕服姿の彼女はこちらを見て絶句した。そのまま慌てて向かってくる。……掃除機に乗っているため遅々としているが。

 

 彼女はクラスメイトである土御門元春の妹である土御門舞夏だ。セミロングの黒髪をオールバックにして、その上から指定のカチューシャをしている。土御門の伝手で何度か面識はある。

 

 ようやく玄関まで来た彼女は、珍しいことに心底驚いているらしく、大げさなほどに身振り手振りを使いながら慌てふためいていた。

 

 

「ど、どうしたんだ上条!? 火事でも起こしたのか!?」

「悪いが俺が帰るまで見張り番を頼む」

 

 

 丁度いいだろうと舞夏に留守番を押し付けることにした。

 

 

 

 

 

「おい上条~!? お前また騒動起こしてるのか~!?」

 

 

 

 

 

 背後で何やら騒いでいる土御門舞夏に軽く一瞥だけして、男を追うために非常階段を駆け下りて五階の通路から外に飛び降りた。

 約12mの高さから落下して、難無くコンクリートの地面に着地する。

 

 

 

「…………?」

 

 

 と、先ほど御坂と出会った方向から地鳴りのような音が届いた。どうやら向こうも派手にやっているらしい。そして恐らくは柚姫も巻き込まれているはずだ。

 

 

 

 

 

――やれやれ……、我が宿主は慌しいな。

  普段からこのような生活なのか?

 

(まさか)

 

 

 

 

 昨日今日がおかしいだけだと舌打ちしながら、急いで来た道を駆け戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、上条さんが走ってばかりです。そしてちょっと人間やめてきてます(というか元々人じゃ(ry。
そして何故だか戦闘では直接関係ないドラム缶が超強化されました。

今回の戦闘は言ってみればジャブの打ち合いです。お互い本気のようで、その実、力を出し切れていない部分も多いような気もします。最後の最後はリクエストされたものも含め、派手にやろうと思うので、それまで待っていただければ幸いです。
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