とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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まだ会話フェイズは続きます。この回が終われば次は戦闘です。


10. Conversation -Side.M-

 道化役を演じるなんて真っ平御免よ。

 

 

 

 

■Conversation -Side.M-■

 

 

 

 

 インデックスが倒れた。

 

 

 

 銭湯に向かう道中、当麻の姿が消えてからさほど時間も経たずに、いきなり糸の切れた人形みたいにぱたりと倒れたのだ。慌てて抱えると全身が火傷してるみたいに熱かった。意識が無くなっていた。それを見て救急車を呼ぼうとした小萌さんをメリアが止めて、私がインデックスを小萌さんの部屋に運んで今に至る。非力な私が簡単に運べるくらいにインデックスが軽かったのだ。インデックスの食べた、あれだけの量の肉は一体どこへ行ったのだろうか。

 

 当麻はまだ帰っていない。連絡を入れたが返信も返ってこない。電源も切ってしまっているらしい。当麻のことだ、万一の事はないだろうがそれでも心配だ。私もメリアも小萌さんも、今はインデックスのことで手一杯だ。当麻のことを気遣う余裕は無かった。

 

 布団に横たわるインデックスは未だ目を覚まさない。額に濡れタオルを乗せて、苦しそうに熱に魘されている。

 

 

「本当に救急車を呼ばなくて大丈夫なのでしょうか?」

「うん。むしろ呼んじゃダメ」

 

 

 自信なさそうにインデックスの看病をしていた小萌さんの言葉を、桶一杯に水を汲んで冷凍庫の氷を確認していたメリアが肯定する。「本当に? 何故?」と向けられた小萌さんの視線に私も頷く。魔術を知ったばかりの私でさえ、インデックスがいきなり倒れた理由が魔術に関するものだということが分かっていた。症状の出ない重篤な病気でもなければ、きっとそうだろう。その程度が分かっているからと言っても、目の前でインデックスが苦しんでいる現状は変わらない。

 小萌さんが仕方ないですねと頷いた。

 

「……わかりました。何か事情があるのは分かりましたが、それは私にも言えない事なのでしょうか?」

「……うん。ごめん、コモエ」

「ううん、いいのです。じゃあ私は新しい氷だけ買ってきちゃいま――――あれ?」

「ちょ、小萌さん!?」

 

 言葉の途中でいきなり小萌さんが倒れた。訳が分からないという表情をしたまま、インデックスと同じように意識を失ったのだ。慌てて駆け寄って見れば、すやすやと寝息を立てて……、ただ寝てるだけ、なのだろうか? 熱に浮かされた様子もなく苦しそうに魘されるでもなく、本当にただ寝ているように見える。

 

 

 でも、どうしていきなり……?

 

 

 ただ小萌さんが寝ているだけの小萌さんに「な、何で……?」と首をかしげていると、隣に腰を下ろしたメリアが能面みたいな無表情で私をじぃ、と見ていた。

 

「な、何かしら……?」

「ユズキは眠らないの?」

「……は?」

 

 こんな状況で眠れるわけないじゃない。そう答えるとメリアは、違う、と緩やかに首を横に振った。彼女はいつも言葉が足りないように思う。

 

「睡魔の魔術。私が掛けてる」

「……どうして」

 

 小萌さんと私に魔術を掛けているとメリアは言った。小萌さんの状態から見て、多分対象を眠らせる効果の魔術なのだろうが、私自身そんな自覚は一切ない。意識を持っていかれることも無ければ、眠気すら襲ってこない。

 

 理由は、……すぐに分かった。

 

 部屋の外、アパートの階段だ。数は一人分。かつかつ、と金属の階段を足音が登ってくる。

 

「気を遣ったつもりなんだけど」

「……余計なお世話よ」

 

 メリアのよくわからない気遣いに(メリア自身の考えに基づいた行動なのだろうが)私は少し呆れながら、もう止めてお願いだから、と念を押した。

 魔術師が来たから私を気絶させようとしたメリアも、勝手に一人で魔術師の元に向かった当麻も(無論私もなのだろうが)、なんというか気の遣い方が自分勝手だなと再確認した。見てる方向は同じなのに纏まりがない。いまいち協調性に欠いている。うん、実にらしい(・・・)。

 

 

 

 こんな状況なのにそれが可笑しくて、気が抜けてしまって。

 

 

 

「悪いけど、邪魔するよ」

「いらっしゃい。アナタがステイル=マグヌス?」

 

 玄関の鍵を破壊しながら部屋に入ってきた神父姿の赤毛の男に気軽に声を掛けてしまっていた。食事会に遅れてきた友人を迎え入れるような感じだった。そんな私を見て、彼は警戒に表情を険しくした。

 

 

「神裂の話とは随分違うようだが……」

「ええ、そうね。……『インデックスに手を上げたのは許せないけど私も言い過ぎた』、『ごめんなさい』って神裂火織に伝えといて欲しいのだけれど、いいかしら?」

 

 

 四人で話し合って、私は私なりに反省していたのだ。いくら知らなかったとはいえ、インデックスのために動いていた彼らにあの態度は不味かった。協力を申し出るには少々刺々しい態度を取ってしまっていたのだ。いくらあの時の私に他に取れる手段がなかったとしても、だ。

 

 だから神裂火織の時みたいなことはせず、出来るだけ彼らに親身になるように心がける。

 

 何て醜い身勝手な女。心の奥底で自らを嘲笑う、どこか客観的な私のことは今は無視する。そんなのを気にしてたら、またツンケンしてしまう。

 

 

「下らない。そんな言葉よりも、禁書目録を僕らに渡して欲しいね」

「私からしたら下らなくないわよ。それと、何を言われても『今のアナタたち』にはインデックスは渡せないわ。――だから、力を貸して。そしたら考えてあげる」

 

 

 言っても、ステイル=マグヌスの表情は硬いままだ。

 

 

「別に『仲間になれ』なんて言ってないわ。手伝って、って言ってるのよ。それ以上は要求しない」

 

 

 だって同じ立ち位置にいる私たちでさえ纏まりが無いのに。言ってしまえば協調性が欠片も無いのに、インデックスを助けるという同じ目的に向かって進むことが出来ているのだ。

 

 そしてそれは、きっとステイル=マグヌスと神裂火織にも同じことが言えると私は踏んでいる。

 

 

 

「アナタたちだってインデックスを助けたいんでしょ?」

「…………」

「本当はアナタたちだって苦しいんでしょう? インデックスは『知り合い』なんでしょう? だから、――ね?」

 

 アナタたちに協力させて。ゆっくりと諭すように、私なりに『私たちは敵じゃないよ』と伝えようとしたのだが、しかし(まあ馴れ馴れしかったし当たり前だと言われればそうなのだが)、

 

「ふざけるなっ!!」

「かはッ……!?」

 

 ステイルに胸倉をつかまれ、持ち上げられて壁に叩きつけられた。

 思い切り背中を土壁に強打したせいで肺から喉を通って全ての空気が出て行ってしまった。ついでに口を少し切った。……痛いわ。凄く痛い。呼吸困難になりながらもステイルを見れば、彼は、

 

 

 

 

「君に何が分かる! 僕たちがどれだけ必死に、どれだけ足掻いてきたのか君には分かるっていうのか!!」

 

 

 

 

 歯を食いしばりながら、吠えるように言葉を吐き出していた。その中に篭められているものは誰の目にも見て取れた。

 

 

 それは――『憤怒』であり『悔恨』だ。現状に、私たちに、そして彼ら自身の非力に向けられた、ぐちゃぐちゃに混ざった負の感情の渦。それを表わすようにステイルの表情も怒りや悲しみみたいな感情が織り交ぜになって、どこか泣きそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

「ストップ」

 

 

 

 

 

 ステイルの感情を理解してるかどうかは知らないが、メリアが仲裁に入ってくれた。彼女はステイルの腕を掴んで、無理やり私から引き剥がしてくれた。

 

「大の男が女の子に手を上げるのもどうかと思うよ」

「…………っ」

「けほっ……、~~~~っ……」

 

 私はずるずると床にずり落ちる。息ができるようになったのはいいのだが、いかんせん強く叩きつけられたせいで咳が止まらない。それでも今何も言えなくなってしまえば、ステイルと話せなくなってしまえば交渉も何もあったものではない。

 だから私は咳き込みながらも、立ち上がって口を動かすことにした。

 

「アナタのことなんて、けほっ……。私にはわからないわ」

 

 私はアナタじゃない。アナタじゃないのだから、ステイル(アナタ)のことを全て理解しているなんて、私には言えない。私は我が身可愛さを捨てきれない、自分の欲望に素直なだけの、ただの一女子中学生だ。

 そんな私は人に説教できるような立場でもないが、誰もが納得するような崇高な演説なんて出来ないが、コレだけは理解しているつもりだ。

 人はどこまで行っても一人だ。自分のことを自分以上に理解してくれる他者など、この世のどこを探しても存在しない。その癖一人では生きていけないから、人は他者を理解しようとする。他者に理解されようとする。

 

「違う……」

 

 そんなお題目を口にしようとして、止めた。『綺麗なだけの言葉』をいくら使ったって彼には届かないことに思い至ったのだ。そんな一般論程度の浅い考えなんて欺瞞もいいところだ。

 そうだ。そんなものに頼らなくたっていい。いくら否定されようとも、うざいと思われようとも、私は私の望みを言い続けるだけだ。直接的に戦う力を持たない私には、それしかないから。

 

「いいから、教えてよ。インデックスのことを。……アナタ(ステイル)のことを」

「…………」

 

 私が引っ張り上げてあげるから、と。

 俯いたステイルの前に立って、下から彼の顔を見上げる。道に迷った子供みたいな顔をした彼を見つめ続ける。

 

「……チッ」

「む……」

 

 舌打ちして私を睨みつけるステイルに、私も眉間に皺を寄せて睨み返す。見つめ合いが睨み合いに変わってから十数秒後、

 

 

 

「ねぇ」

 

 

 

 メリアが割って入った。いつも通りの無表情の癖にどこか呆れているのが何となく分かる表情だった。その『いつも』がいつのことかは分からないし、何で無表情にしか見えない顔から感情を読み取れるのかも分からないが。

 

 そんな彼女は横になっているインデックスの首を左手で指差して、

 

 

「インデックスの首にある術式について、知ってる?」

「え?」

「な、に……?」

 

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

 

 あの後、結果としてステイル=マグヌスとの停戦を取り付けることが出来た。

 メリアがインデックスの喉奥の術式を見つけたことが大きかったのだろう。ステイルたちも知らなかったらしく、その術式の詳しいことはわからなかった。

 そしてステイルからインデックスの現状についても教えてもらうことができた。ステイル曰く、インデックスは脳内に十万三千冊の魔導書を記憶しているために脳が圧迫され、一年ごとに記憶を消去しなければ命を落とす。

 だからステイル=マグヌスと神裂火織の二人は何度も何度もインデックスの記憶を削除し続けた。いつか記憶を消さなければならないインデックスと仲良くすれば、来るべき別れの瞬間に失い傷付くものが多くなる。だから二人はインデックスの敵を演じ続けているのだそうだ。

 

 今、私とメリア、それからステイルの三人は私たちの部屋へと向かっていた。インデックスの首にある術式を解析するために、だ。それには出来るだけ一般人がいない場所が好ましい。だから小萌さんの部屋では都合が悪かった。メリアにインデックスを抱えてもらって、私は先ほどの話で気になった点をステイルと話し合っていた。

 

 

「一年分の記憶しか持てないくらいにインデックスの記憶領域を圧迫してるのって、本当に魔導書だけなの? それとも魔導書の中に読むことによってエピソード記憶領域を狭めたり、異常なほどに脳を圧迫するような効果を持つものがあるのかしら? いくら完全記憶症候群っていても一年程度の経験や知識だけじゃ、普通は脳が圧迫される事態にはならないはずよ」

「……僕自身、彼女が覚えている魔導書全てを知ってるわけではないけど、そんな危険な魔導書は無かったはずだよ。それと、どうして一年程度の記憶で人が死に至らないと断言できる。君は脳科学者なのかい?」

「まさか」

 

 学園都市の能力開発は、何かしら能力の素質を持つ人間の脳髄を音波なり電気信号なりで開発することによって能力者を生み出すのだ。

 脳を弄る以上、脳の仕組みについて大雑把にでも理解していないといざと言う時に致命的な失敗を引き起こしかねない。言ってしまえば『学園都市内での常識』なのだ。能力開発の大前提、とも言える。

 

「ちょっと聞きたいんだけど、魔術師っていうのは科学に詳しいものなのかしら? 例えば『他の金属から金を作る』っていう錬金術みたいなものって、科学とかに詳しくないと出来ないと思うのだけど」

 

 聞けば、ステイルは首を横に振った。

 

「僕は『魔術師』さ。錬金術もある程度は齧っているけど、科学なんてものに興味はないよ」

「要するに科学はてんで駄目ってことね」

 

 ぐ、と言葉を詰まらせたステイルに私はやっぱりかと頷いた。脳の記憶について一から説明して、彼がどういう反応をするか確かめることにした。彼の反応で何が原因か分かるはずだ。

 

「簡単に説明するわね。まずは人が記憶する過程から。記憶過程は大きく分類して『感覚記憶』、『作業記憶』、『直後記憶』、『短期記憶』、『長期記憶』の五つに分かれるわ。その五つのうち『短期記憶』、『長期記憶』の二つが『陳述性記憶』で、残りの三つが『非陳述性記憶』ね。『感覚記憶』は視覚や触覚みたいな人間の五感の記憶。簡単に言えば食べ物を食べた時に感じた味や臭いや温度みたいな感覚的な記憶。感覚の記憶だから長くは保持されないわ。『作業記憶』は体験の一部を僅かな時間だけ保持することで、その情報の中からさらに一部を『長期記憶』に保存するの。言ってしまえばメモね。その中から長い間保存しなきゃいけないものを『長期記憶』というノートに写し書きするって感じよ。『直後記憶』は、簡単に言っちゃうと記憶ごとのコネクション。これが無いと『立ち上がって掃除をする』時、立ち上がった後記憶から『掃除をする』の部分が抜け落ちてしまう。自分が行動を起こす前に考えていたことを忘れちゃうのよ。『短期記憶』と『長期記憶』は――――」

「……もういい、もう分かった。それで、結局何が言いたいんだ君は」

 

 話の途中でステイルはお手上げだとばかりに肩を竦めた。話を聞いているだけなのに、彼の表情には疲労の色が濃い。……本当に科学的な話は駄目なようだった。

 つまり彼には科学的視点での、インデックスの状況の『矛盾点』を理解していないことになる。彼女が抱えている『本当の問題』に、彼らは気付いていないのだ。

 だから私はステイルにそれを教えることにした。ともすれば彼らのしてきたことが本当に『無駄』になってしまうような、残酷な真実を。

 

「要するに一口に『記憶』って言っても色々種類があるの。種類が違うのなら、それを記憶する場所もまた違う。本の内容を一言一句全て覚えて、その総数が十万三千冊なんて莫大な量になったとしても――その程度の情報量で人間の脳はパンクしたりはしないわ」

「な…………」

 

 絶句し、足を止めたステイルの前に私は立つ。彼が傷付くことが分かっていて軋む心を、これは本当のことだから教えなければならない、という見栄っ張りな義務感で押さえつける。

 

「例えば魔導書を読んで、どういう言葉が書いてあったのか理解する。この動作の中で言葉を理解し文章を記憶するのが『意味記憶』。読んでいたときの情緒を記憶するのが『エピソード記憶』。当然その二つは別物で、記憶する場所も別。それに私たちが『忘れている』と思ってるだけで、『思い出せない記憶』だってちゃんと脳内に蓄えられている。つまり、いくら莫大な量の本を全て記憶したとしても、いくら完全記憶症候群でも。情報の種類によって貯蔵される場所は違うし、完全記憶した一年分の記憶で脳死に至るほどに脳の容量が小さいなら、そもそも私たち人間は十歳になるまでに例外なく死んでるわよ?」

 

 そしてインデックスが本当に『一年分の記憶で死んでしまう体質』ならば、魔導書が原因ではないのならば。

 

「アナタたちが知らなかった首の術式が、原因なんじゃないの?」

「っ…………」

 

 ステイルは黙ったままだった。右手で頭を抱えていた彼の身体が、くらりと倒れそうになった。きっと自分が立っている地面さえ曖昧に感じるほどに、彼は打ちひしがれている。それが分かったから、分かってしまったから。私は意を決して、彼の手を取った。闇の底から引き上げるように、すこしだけ手を引いた。

 

「だから、まずは調べてみようよ。少なくともそれが原因かどうかは分かるでしょ?」

「――ああ、そうだね」

「うん」

 

 もうステイルの身体はふらつかなかった。握ったままだった私の手を振り払って、止めていた足を動かして歩き始める。軽い足取りに、私とメリアも後に続く。

 

「君は、本当に残酷だ」

 

 と、歩きながらステイルが私に振り返った。笑顔にしては苦味が強すぎたが、もう先ほどのように迷っているようには見えない。衒いが無い。

 

「神裂が言い負けるわけだ。遠慮ってものがない」

「……う」

「相手に残酷なほど真実を突きつける癖に、敵意も無ければ善意で心を抉ってくる」

「……ゴメンナサイデシタ」

 

 いや、うん。ステイルの言い分が尤もで、私は心の中で二人に平伏するしかなかった。

 

 

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

 

 

「ただいま、……なんちゃって」

 

 真っ黒な玄関をくぐって玄関から誰もいないリビングに足を踏み入れる。

 

「インデックスを寝かすならソファにお願い」

「わかった」

 

 いつも当麻が使っているソファにインデックスを横たえ、メリアが、どうするの、と言う。

 

「解析魔術は私使えないよ」

「ステイルは?」

「……僕がやろう。準備に時間が掛かるが、」

 

 ステイルの言葉に私とメリアは、お願い、と揃って頷く。

 その『準備』とやらのためにステイルが部屋から出て行ったのを見て、私たちはどうしようか、とメリアに聞けば、

 

「後は任せたほうがいい」

「……そうね」

 

 魔術を使えない私と、どうやら今は力になれないらしいメリア。二人してあまり役に立っていない状況だが、小萌さんの部屋で四人で話し合っていたときよりも随分と気分は軽い。

 それはきっと、状況が好転してきているのが分かっているから。

 

 

 

 

 

 だからだろうか、

 

 

 

 

 

「待ってて、今助けてあげるから」

 

 

 

 

 

 

 油断していた。

 

 

 

 

 

 

 病魔が潜むインデックスの喉元に優しく触れて、

 

「ダメ」

「え……?」

 

 メリアに慌てて引っ張られても、もう遅い。インデックスの喉の奥、何かが砕けるような音と共に彼女が目を見開いたのだ。ふわりとインデックスの身体が宙に浮かぶ。

 

 

 

 幽鬼のように、顔面蒼白で、機械じみた声で、

 

 

 

 

「――警告。第三章第二節、INDEX LIBRORVM PROHIBITORVM〈禁書目録〉拘束術式『首輪』。第一から第三までの結界の破壊を確認しました。結界再生……、失敗」

 

 

 

 両目の奥、赤く発光する幾何学模様を宿した双眸が私たちの姿を透過している。

 

 

 

「『首輪』の自己再生は不可能と判断します。10万3000冊の書籍の保護を最優先。侵入者を迎撃します」

 

 

 

 どうして私が触れただけで結界が破壊されたのか、なんて考える暇もなく。

 

 

 

「侵攻してきた個体に対する最も有効な魔術の組み上げ……、成功しました。『St. George's Sanctuary〈聖ジョージの聖域〉』より、『Dragon Breath〈竜王の殺息〉』を発動します」

 

 

 

 視界を覆った閃光と、私を軽々と吹き飛ばした衝撃に私は意識を失った。

 

 

 

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