とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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遅れてしまいすみませんでしたー!!(土下座
でもまだ生きてます、ご心配おかけしてすみませんでした!m(_ _;)m




13. Devils Party part.3

 何の抵抗も出来ずに、おおよそ唯人が耐えられぬ速度と運動ベクトルに身を任せて私は地面と激突する。遥か上空から叩き落され、石畳の地面に大穴を穿ちながら、私は神裂のクッションになる形で瓦礫に埋もれた。

 

 

「……痛い」

「~~~~っ!」

 

 

 瓦礫と神裂火織の体に埋もれ、背面から全身に奔った痛みに悶えながらも、それだけで済んでいることに結構驚いていた。流石に無傷とは行かなかったし瓦礫に埋もれてしまっているが、精々が手足や顔に擦り傷が付いている程度だ。落下速度は軽く音速を超えていたような気もするが、とにもかくにも私たちは今こうして無事である。そして聖人とは常軌を逸した人の形をした人外なのだから。……うん、何も問題ない。

 それよりも問題なのが、私の上に乗った神裂だ。見せ付けるみたいに私の顎から下に随分と柔らかい感触がある。その上全身に力が入らない。原因は言わずもがな。

 

「邪魔。近い。重い。柔い。見せつけ? ――離れて」

「……その言い方は癪に障りますが今は不問にしておきます。――貴女が下敷きになってくれたお陰で助かりました。並の聖人よりも頑丈なんですね。一応礼を言っておきます」

 

 私だけでは無傷でいられませんでした、と顔を顰めながら神裂が瓦礫を押し退け立ち上がる。神裂が離れたことで多少軽くなった身体を持ち上げて私も後に続いた。

 とりあえず神裂の横に並び立って――、体が重くなったのを感じてやっぱり5mほど離れた。

 

「私たち、相性悪いんだね」

「そんな関係が冷え始めた恋人みたいなことを言ってる場合ではありません」

 

 空を見上げる神裂の視線の先、グリフィンが円を描くように上空を滑空している。目だけをこちらに向けて、そいつはぐるぐると飛んでいるだけだ。……あまり好戦的ではないように見える。

 

 

――あくまでも戦力の分断を目的としているのね。一回彼らのところへ戻ろうとしてみたら? ……多分また捕まれるだけだと思うけど。

 

 

 あくまで足止めが目的、か。

 

 

「まずはあの翼獣を片付けましょう。私が切り込みます」

「わかった。また捕まらないでね」

「それはこちらの台詞です」

 

 

 それだけ言い残して神裂が横の廃墟の壁を駆け上がる。それに続いて私も神裂を追いかけた――もっとも神裂のほうが足が速いから追いつけないが。

 

 

――どうしよう、一応、『霧』使う?

 

 

 ラプラスの言葉に内心で頷く。それを聞いた彼女は、

 

 

――分かった、じゃあ『当時の私』に戻るわ。回線を切るわね。どうせ煩いって言うんでしょ?

 

 

(お願い)

 

 

 ラプラスと私の間に意識の壁が出来る。その壁に隔たれている以上、もう互いに声は届かない。と、私の体がぶれはじめ、同時にハルバードから霧が噴出した。会話は出来なくなったが、魔女(ラプラス)が今どういう状態なのかは理解していた。

 狂乱しているのだ。竜王の殺息を受け止めていた時とは比べ物にならないくらいに耳障りな、聞くに堪えないほど悲惨な恨み辛みを永遠泣き叫んでいる。生物を焼いてしまうほどの、たった一人の怨嗟だ。それも当然なのだろう。

 そうこうしている内に屋上を蹴って跳んだ神裂がグリフィンに到達する。そして一閃。

 

 

「はぁッ!!」

 

 

 気炎を吐きながら放たれた逆袈裟の一撃がグリフィンの首を切り落とした。頭と体が切り離され、私の前で地面に向かって落ちてくる。廃墟の石壁から落下中のグリフィンに向かってハルバードを投げつけた。ブーメランのように回転しながら鉄彼岸花が頭と胴体をさらに両断する。

 四分割された死体が地面へと落ちていく――半液状になって再生しながら。戻ってきたハルバードの柄を右手で握って、さらに追撃。

 

 

「……よ、っと」

 

 

 地面と激突して液状化した肉の塊目掛けて、落下しながらハルバードを叩き付けた。砕けた石畳とともにヘドロが飛び散る。唯でさえ腐っていた黒血肉が霧によって沸騰して蒸発していく。グリフィンはもう原型さえ留めていなかったが、

 

 

『Gi――、GAAAAAH!!』

 

 

 一瞬で再生した鷲頭が私を狙って火を吐き出した。馬車じみた大きさの火弾の軌道に霧の壁をはさみながら吹き飛ばされる。両足の踵で石畳を砕きながら、霧とハルバードを火弾をかき消せば大分離れたところで再生しきったグリフィンの姿が見えた。

 落ちてきた神裂が一太刀入れていたが、それもすぐに完治してしまう。いくら致命傷を入れようとも命を奪うまでに至らない。先ほどのジャバウォックもどいつもこいつも、常軌を逸した不死性を宿しているみたいだ。

 

『GAAAAAAAAAAAH!!』

「く――!?」

 

 神裂を押し退けグリフィンが舞い上がる。再び上空に飛んで、今度は体を引き上げながらその場で滞空していた。鷲頭がこちらを見下ろしている。傷なんて残っていなかった。

 グリフィンを逃がしてしまった神裂が悔しそうにそれを見上げている。

 

「――ここまでしてもダメですか。聖人二人掛りで殺せないって何なんですか」

「私を聖人に含んでいいのか分からないけど」

 

 けど、もしこの状況を意図的に作り上げた存在がいるのならば、

 

「完全に思う壺だね」

 

 私の言葉に神裂が唇を噛む。実際にその通りなのだ。不意打ちだったとは言え、戦場から遥かに離れた場所から戻ることも出来ず、打つ手もなくにこうして敵を見上げているのだから。

 ふと、神裂が私を見てぽつりと零した。

 

「こんな時に聞く事ではないのでしょうが、『何故あなたは生きてられるのですか』?」

 

 何故、世界から乖離しないのか、と。その問いに私は首を振った。私自身よく分からないからだ。ラプラス曰く、

 

「『私と完全に同調してるわけじゃないから』、って言ってた」

「……?」

「だから『まだギリギリ繋ぎ止める事ができてる』、だって」

「それは、どういう――」

 

 神裂は最後まで問いを口にすることができなかった。遥か後方から地響きと光が届いたのだ。黒い空が閃光に照らされていく。

 

 

「なっ――!?」

「あれは……」

 

 

 作り物の夜空を照らす幾重もの光の軌跡――、その内の一筋がグリフィンの下方から胴体と左翼を貫いた。グリフィンの体が傾げる。何の理由か、再生も出来ずに上空から落ちてくる。

 

 

 

 

 それはまるで。

 

 

 

 地面の目標に向けて叩き付け、鏡面で光(余波)が乱反射し、張本人の意図せぬままに偶然こっちに届いてしまったような。

 

 

 

 そんな偶発的で、本人が意図しないたった一人の基点(起爆剤)によって、事態は好転した。

 

 

 

「――神裂」

「はいっ!」

 

 鉄彼岸花を後ろに構える。神裂が鉄彼岸花に両足を掛けたのを確認して、私は思い切り神裂ごと振り回した。

 

 

「はァ――――ッ!」

 

 

 神裂がハルバードを蹴る。鍔を失った七天七刀の柄を握り締め、抜刀のために構えながら一瞬でグリフィンの目前に到達する。

 

 

「唯閃――――!」

 

 

 神速の抜刀術にグリフィンが胴体半ばで両断され、泣き別れた下半身が液状に溶け落ちた。神裂が再び七天七刀を鞘に収め、グリフィンの上半身と一緒に落下してくる。それを見て、私も神裂の後に続いて跳躍した。落下してくるグリフィンを、丁度神裂と私で挟み込むような形に――、

 

 

 

「さっきのお返し」

「吹き飛びなさい――!」

 

 

 

 

 私がハルバードを振り上げ、神裂が鞘に収められた刀を振り回して。

 

 

 

 

 

 

 

 グリフィンの上半身を明後日の方向に吹っ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 いくつもの欠損を抱えながらも、かちり、と歯車は噛み合う。

 

 

 

 

 

 

 たった一人の基点(起爆剤)によって、誰も意図しないまま明確な結果となって歯車は回り始めた――。

 

 

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 

 随分と開放的になって、中途半端な屋上のような様相を呈している十二階。新たに使えるようになった粒子障壁を使ったところで現状は相変わらずの防戦一方。

 

『HYAHAHAHAHA!!』

『HiPYA!?』

「現状を再確認。索敵――敵性総数は二。内、魔術師が一個体、並びに正体不明の敵性が一個体。分析、……不可能。魔導書に記載された術式に類似したものは見つけられず。……再度、分析を――」

 

 不安定な鈍色の障壁の向こう、狂った帽子屋が叩き付けた鎖が弾き返る。飛び掛ったハンプティダンプティが砕け散る。大きく欠損しながらも修復し続ける怪人の奥、インデックスの透き通った瞳が私たちを見ていた。……なんて冷静に現状を眺めている暇なんてなく、

 

『『HYAHAAAAAAAAAAH!!』』

「っぁ!?」

「Squeamish Bloody Rood〈吸血殺しの紅十字〉――!」

『『PiGYAAAAAH!?』』

 

 奇声を上げながら特攻してきた帽子屋と卵怪人によって、障壁に何度目かの綻びが発生する。粒子を突き破ってきた衝撃に大きく仰け反る。障壁に穿たれた隙間から身を乗り出した怪人二名をステイルが炎剣で弾き飛ばす。神裂が戦線離脱してからこの一連の流れを何度と無く繰り返していた。そろそろ阿吽の呼吸になってきていた。

 

「……まだ、まだァっ!」

 

 ステイルの援護を受けながら、叩かれるたびに散ってしまいそうな粒子を手繰っては纏め上げる。怪人たちは何度繰り返そうとも一切学習というものをしないため、ギリギリ致命傷を受けずに済んでいた。それと同時にこちらも打開策を見つけられていなかった。ついに我慢の限界に到達したらしいステイルが叫ぶように吐き捨る。

 

「くそっ、さっきから何なんだ! その便利な障壁で何とかならないのかっ!?」

「お生憎様、私自身初めてでよく分かってないわ、よっ!」

 

 障壁を補強しながらステイルにつられて私も吐き捨てるように返答する。正直に言えば二人とも焦っていた。インデックスを助けたいと衝動的に見て見ぬフリをしてきたが、私もステイルも自身の余力が残り僅かだということに薄々気付き始めていたのだ(私は体力に自信があるわけではないし、ステイルも肉体派には見えない)。その上、先ほどから廃墟を揺らす振動によって壁や柱が崩れかかっている。いつこのマンションだった物が倒壊するかもわからないのだ(巨大な蛇みたいなものが壁を削りながら昇っていったときはもうダメかと思った)。

 

「あーもう、ほんとこれどうするのよ!」

「知るかっ! それが分かればこんな苦労はしていない!」

「分からなくても何とかしなさいよ! 男でしょう!?」

「煩い黙れ! こういう状況じゃ性別なんて関係ないんだよ!」

「それはそれは情けない男児ですこと!」

「自分から前に出ておいてそう言う君は優柔不断な女の典型だね!」

「む、言ったわね!?」

「ああ言ったさ! 事実だろう!?」

 

 なんか段々幼稚になってきた言い合いに、妙にテンションが上がってきた。もうお互いヤケクソである。そしてステイルの言い分に言い返せなくなって、逃げるように矛先をインデックスへと向けた。

 

 もうどうにでもなれと放った言葉に、無意識に妙な音色で口走った音の羅列に、

 

 

「インデックス! 聞こえてるんでしょう!? 返事くらいしなさいよ! ――……って、あれ?」

 

 

 何か。インデックスの表層、防音壁みたいなものを破壊した。インデックスを包み込んでいた光が一瞬点滅して、

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

――ゆずきっ!

 

 

 

 

 

 

 声が、聞こえた。物理的な空気の波ではなく、ただの感情として。鼓膜を介さずに届いたその言葉に。

 

 

 

「――――」

 

 

 

 彼女の声に緩む頬を引き締める。でも可笑しいな、やっぱり緩んでしまう。そのくせ足は今にも飛び出してしまいそうで。

 足に全力以上に力が篭る。そして、一歩、踏み出そうとしたとき。

 

 

 

「――――っ!?」

 

 

 

 何か、とてつもない力の塊が接近していることに気付いて、

 

 

 

「伏せて!!」

「っ!? 何を――」

 

 慌てて身を翻してステイルを押し倒し、咄嗟に粒子障壁を展開する。

 直後、幾筋もの光が12階の床を貫いた。その中の一筋、帽子屋の足元から昇った光が腐った頭を貫いた。ハンプティダンプティを消し飛ばした。そしてその直後、インデックスの背後から肉の塊が飛んで来る。黒い羽を撒き散らしながら彼女の足場に激突した。衝撃を受け、唯でさえ穴だらけだった廃墟が崩れ始める。

 

「インデックスッ!」

 

 インデックスの姿が沈む。手繰り寄せたAIMと同質の力の塊に障壁を押し返されながら、私とステイルも落下していく。

 

「くそっ……!」

「このままじゃ――」

 

 このままではダメだ。このまま落下してしまえば地面と激突する。瓦礫に押しつぶされて挽肉になる。そんなことになれば、私とステイルはインデックスを救えない。そんなのはダメだ。インデックスを助ける前に脱落するなんて断じて御免だ。回し続けていた脳の限界を超えて思考を廻す。

 途端、

 

「っぁ――――」

 

 焼ききれそうな思考回路が、悪魔に無理繰りに繋がった。

 

(なに、か――)

 

 方法が必要だ。何か。インデックスを助ける、ための。何か。何か。助ける、何か。瓦礫が邪魔だ。重力が邪魔だ。落下が邪魔だ。距離が邪魔だ。邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ――助けに行けない。だったらどうする。何をすればいい。どうすればインデックスの元に行ける。どうやって行けばいい。――ああ、そうだ、

 

 

 

(空を、)

 

 

 

 飛べばいい。

 

 

 

 

 

 

――デキ、ルヨ。

 

 

 

 

 

「ぁ――――」

 

 悪魔の声が聞こえた。私の脳内に何かが流れ込んでくる。それは『拡散力場の悪魔』の使い方。一瞬でそれを理解してしまい、ステイルを置き去りにして私の体は加速した。

 

「お、おいっ!?」

 

 両の肩甲骨あたりを何かに押されて、落下を始めたインデックスへ向けて飛翔する。一秒も使わずに距離を詰め、インデックスの襟首を掴んで抱きかかえる。それだけで私は止まらず、廃墟から飛び出してしまった。遥か下方で翼みたいな鎧を纏った当麻が私たちを見上げていた。

 

 

「『首輪』、に、甚大な被害を――認。対処、を――不可。不可――不可能」

 

 インデックスの首に仕込まれていた術式が何かほざいている。どうやら再生しようとして、失敗を繰り返しているらしい。理由は分からないが、それは当然だと理解していた。それを私が理解した以上、もう先ほどのように中途半端に首輪を傷つける程度では済まされない。だって『私(マクスウェル)は隔たりを壊せる』のだから。

 だからこその能力だ。人間の世界とは違う、並みの能力者では意図して干渉できない別位相に存在しているAIMを――場合によってはそれによって生み出されたものを――私は目で見て引っ張ってくることが出来る。魔法の域に達した『科学』の力の副産物を、私は自在に手繰り寄せることができる。何故科学とは別のものを認識できるのか、なんてことは結局分からなかったが。

 今はそんなことよりも、

 

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢しなさいよね!」

 

――……うん! うん――!

 

 インデックスの声に笑みを零しながら、最後の一押し。先日の化物を外側から破壊したように、首輪を破壊するための音色を組み上げる。思い切り息を吸って、喉の術式目掛けて叫んだ。

 

 

 

 

「――『壊れなさい』ッ!!」

 

 

 

 

 その声は私の喉から吐き出されたとは思えないような不思議な響きだった。ガラスを砕くような感覚を覚えながら、彼女と共に私は瓦礫の山に突っ込んだ。

 

 

■□■□■□

 

 

 俺の視界を蹂躙した光の奔流消え去った後、騒々しい怪物(ジャバウォック)の姿は消え失せていた。竜王の顎を引っ提げたまま地面に着地してあたりを見渡せば酷い有様だ。怪物が暴れまわって出来た被害を上書きし、それ以上に周囲を蹂躙してしまっていた。殆ど衝動的に使ってしまった対■■兵装によって一撃で消し飛んでしまったらしい。どころか周囲の廃墟が穴だらけになって、すでに崩れ始めていた。……当然、柚姫たちがいた廃墟も――。

 

(あ――――)

 

 一気に熱が引いた。思考が止まり、頭が空になる――そう心配するようなことではない。宿主の家族は無事、どころか未だ死者が一人も出ていない……、む?

 

「あれ、は……」

 

 つい言葉が口から零れた。視界の先、崩れていく瓦礫のなかから見慣れた姿が飛び出してきたのだ。柚姫が禁書目録の襟首を掴み上げて、俺が作り出した瓦礫の山目掛けて一直線に滑空していた。彼女の両肩から出ていたのは、幻想猛獣の背中から噴出していたような、いつかどこかで一方通行が見つけ出した翼のような、現世のものではない突風の渦。

 

「――――」

 

 ところどころ欠けた円環を頭に浮かべた彼女の、白く光り輝いた瞳と目が合った。

 

「お前――――」

 

 なんだよそれ、と言う間も無く。彼女が禁書目録に向かって何か叫びながら彼女たちの姿が瓦礫に突っ込んだ。その衝撃で残骸が跳ね上がって二人が落下した位置に降り注いでいた。

 無意識に走り出そうとすれば、視界が再び赤く染まった。見える世界が警告の赤一色になる。

 

――Capacity Overlord. Forced Termination<DRAGON_STRIKE>.

 (筐体『機械仕掛ケノ竜王』ノ稼動限界ヲ超過。『竜王ノ顎』並ビニ右制動翼ヲ強制解除シマス)

 

「――――?」

 

 まっさらになった意識が右腕に亀裂が走ったような痛みを知覚した。否、本当に皹が入っていたのだ。立っていられず地面に膝を付いた。鱗手が、翼が、砕け散る。硝子みたいに竜王が割れ散って、俺(我)が二人に乖離した。残ったのは両手に一本ずつ握られていた、携帯端末みたいな大きさのシャドウメタルの四角柱――意匠の施された鍔の無い柄だけだ。……使い方もわかるみたいだ。

 

――ふむ……、あの程度を耐え切れないとは我も衰えたものだ……。

 

 元通りに意識を分けたエイワスの言葉でようやく我に返った。……どうやら意識を飛ばしていたらしい。ふるふる、と雑念を払うみたいに首を横に振る。その動作で頭髪から土埃を振りまいた。

 

――遊んだ後の犬みたいだぞ、我が宿主。

 

「放っとけ。――あと、そんな話をしている場合じゃない」

 

 吐き捨てて駆け足で柚姫たちの下へ向かう。二人が突っ込む前と見分けが付かないくらいに瓦礫が積もった山を慌てて掘り返そうとすれば、

 

「――~~~~~っ!! 痛ぁ~~~……」

 

 気の抜けるような声に、むくり、と瓦礫が持ち上がる。押し上げられた石の中から光の粒子に包まれた柚姫が姿を現した。腰を下ろして気絶した禁書目録を下に敷いている。どうやら重症になる傷は負ってないようだった。勢い良く激突していたように見えたのだが骨折もしてないらしい。禁書目録も同様だ。

 安心するよりも、まず困惑して口を開けないでいると、あ、と柚姫が俺を見た。

 

「お兄ちゃん」

「……よう。お前、何した」

「あ、あはは、ちょっとね。でも、終わったよ」

 

 柚姫の言葉を肯定するように周囲の景色が剥がれ始めた。汚れが水に浮くみたいに剥離していく。何をしたのかはいまいち釈然としないが、本当にこの異界の術式を破壊したらしい。……何をしたのかは後で聞けばいいか。

 気が抜けて、ど、と襲ってきた疲労に二人揃って溜息を吐く。

 

「まあ、今はいい」

「うん。――あ、目が覚めたかしら」

『――――っ』

 

 禁書目録の体が震え、柚姫の下から抜け出して弛緩したままゆらゆらと立ち上がる。――まるで操り人形みたいに。

 

「インデックス?」

『――痛いなぁ、もうちょっと手加減してくれてもいいじゃない』

 

 誰とも知れない声を吐き出しながら、禁書目録の瞼が開く。濁った碧眼が俺たちの姿を反射する。禁書目録がしないような無邪気で邪悪な笑みが表情に表れたのを見て、咄嗟に手にした柄を握り締める。

 

「……アナタは、誰?」

『秘密~♪ って言っても分かってると思うのだけど、ねぇ?』

「アリス……」

『ご名答♪ 本当は最後まで隠れてるつもりだったんだけど、』

 

 柚姫の搾り出すような声に返ってくるのは謡うような嘲笑。にやにやと笑いながら柚姫を眺め、アリスは禁書目録の体を折り曲げた。腰を下ろしたままの柚姫の顔を至近距離で覗き込む。

 

『ワタシ、アナタを気に入っちゃったの――っと♪』

「柚姫から離れろ」

 

 禁書目録の顔が新しい玩具を見つけたような、子供じみているくせに凄惨な表情をしたのを見て、俺は刀身の無い鞘を振り下ろした。もっとも禁書目録の頭頂に横薙ぎにするそれは、軽い身のこなしで避けられてしまったが。後方へ跳躍し、ダンスのステップを踏むみたいに瓦礫の山頂に足を下ろした。

 

『物騒な人ね。安心しなさいよ、どうせもう出て行くつもりだったし』

「――――」

 

 呆れたような言葉に殺意を持って返答すれば、見下ろした彼女は猫みたいに目を細めた。

 

『そう、私まで食べるつもり。でもダメ。アナタなんかに――』

 

 身体を前傾にし、腹部の前で腕を交差させて居合いに構える。アリスの言葉を聞き流しながら、高速で姿勢制御を組み上げる。最適な体運びを選択、無駄が無いように組み合わせていく。

 

 

 

――止めろ、我が宿主。まさかとは思うが……、

 

 

 

 何やら慌てているエイワスを無視し、完成した動きを体に反映した。そして、

 

 

『アナタみたいな「善人(ヒーロー)の残り滓」なんかに、私はあげない』

「『牙竜・喰霊神楽 (ガリュウ・ガリョウカグラ)』――――」

 

 

 一足で禁書目録の手前まで登り詰め、独楽みたいに左回転しながら実体の無い刀身を抜刀した。完成したフローチャートをなぞって『幻想喰いの能力だけを刀身にした刃』が、禁書目録内の異物を喰らい尽くさんと吹き荒れる。だが、

 

 

 

 

 

『アハ、あははははっ♪ 残念、外れよハズレ』

 

 

 

 

 その言葉は禁書目録の口からではなく、空間そのものから発せられていた。実体の無い刃は禁書目録の身体を透過しただけだ――否、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『女の子の服を切り刻むなんて、ホント変態さんなんだから♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ぁ」

『バイバイ♪』

 

 回線が切れるみたいに声が止んだ。そして、目の前には、歩く教会だった細かい布切れを纏う、なんというか色々あらわになった禁書目録がいて。

 

 

――だから我は止めろと言ったのだ。……我が宿主は注意散漫に過ぎる。

 

 

 

 

「――ん、あれ? とうま?」

 

 

 

 

 禁書目録の瞳に光が戻る。首輪や異物が取り払われて彼女の意識が覚醒する。大粒の翡翠色の瞳がまじまじと、いつに無く動揺している俺の姿を映した。……禁書目録を救うことが出来たのに、何故、俺は安堵もなく、一息さえつけずに固まっているのだろう?

 

 

 

 

「なんか、さむいんだよ……。――――あ、」

 

 

 

 

 禁書目録が震えながら自らの姿を見下ろして、固まる。

 

 

 

「……お兄ちゃん」

 

 

 

 義妹のものとは思えないほどの、地の底から響くような冷え切った声が背後から届いた。それに続くように、

 

 

 

「上条当麻、ここにいましたか。結界が崩壊を始めているということは、彼女は――――え」

「ただいま。…………なにこれ」

「――上条柚姫! 貴様よくも僕を――――――な、」

 

 

 

 時間が、止まる。廃墟を飛び越えて戻ってきた神裂とメリアも。瓦礫の山から命からがら脱出してきたマグヌスも。背後で震えているらしい柚姫以外の全員が、氷漬けにされたように一瞬だけ停止して、

 

 

 

 

 

 

「す、すまなかっ――――」

 

 

 

 

 

 

「とうまのばかぁあああああああああああ!!」

『何やってんだお前ぇえええええええええ!!』

 

「だっ――!?」

 

 俺はこの場にいる禁書目録を除く全員から袋叩きにされた。慌てて蹲って両手で身体を隠した禁書目録をよそに、全員が全員、それぞれ得物を持って俺に襲い掛かってきたのだ。

 

「トウマ、サイテー」

「まさかこんな状況で、こんな行為に及ぶなんてね! ……彼女を辱めたんだ、死を持って償ってもらうよ!」

「見損ないましたよ上条当麻! ――っ、ああいえ、別に頼りにしてたとかそんなことは思ってませんでした。ええ、思ってませんでしたとも!!」

「お兄ちゃん、本っ当最低ッ! いっぺん死んじゃえ女の敵――!!」

 

 ハルバードの側面が額に叩きつけられる。腹にぶち込まれたのは炎の塊。鞘に入った日本刀が俺の全身を強打してまわる。よく分からない光の玉(バスケットボールサイズ)が頭に落ちてきた。痛い。というか痛いなんてものじゃない。……お前ら、本気で俺を殺す気か。

 

「だ、から、すまなかった、と、言って――!」

『問答無用――!!』

 

 どか、ばき、がこん、がつん。

 弁明も許されずに体中を強打される。……彼らの最後の良心かどうかは知らないが刃の部分は飛んでこない。なんて考えても別に救いにはならない。

 ハルバード振るのを止めろメリア、地味に叩かれた場所潰れてんだよ。神裂も神裂でポン刀振り回すな鞘から抜こうかどうか迷うな止めろ。マグヌスは執拗に腹を狙うんじゃねぇよ陰湿なんだよお前。柚姫も「最低」だの「女の敵だ」だの連呼するんじゃねぇよ、本気で傷付くだろうが。

 

「お、ま、えら――、少しは、加減、を――!」

『黙れ性犯罪者!!』

「がぁ――!?」

 

 

 

 

 何を言っても火に油。もう俺にはどうしようもない。ああ、なんだった、この突き落とされる感じを一体どう形容したんだったか――。

 

 

 

 

――自業自得だ、我が宿主。

 

 

 

 

 

 

 なんて、一心同体なエイワスの冷めた言葉が止めだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! 不幸だ畜生がァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢は終わり。不思議の国も鏡の国もこれにてお休み。さあ、夢から覚めなさいな♪』

 

 

 どこからとも無く聞こえてきた歌声に。

 

 

 世界は白む。夢から覚める。さぁ、家に帰ろう。

 

 

 道を外れながらも帰り道へ。悪夢のような嵐過ぎれば、戻ってくるのは唯の日常。色とりどりの星が輝く絵画の裏側。広がる染みに気づくものは、まだいない。

 

 

 

 

 




これにて禁書目録編は一応の解決ということになります(最後にもう一話だけありますが)。

一応リクエストされた魔剣を私なりに解釈して組み込んだつもりです。ご希望に添えてなかったのならごめんなさい(ギャグにしておいて何を(ry
考え付いたのが中々にチート性能だったので、余裕があれば別の場所でガチ刀バトルをしてみたかったり(ちゃんとした剣術になるかは定かではないです)。むしろ似非みたいな名前+中二的なものになってしまいそうな予感。
ネーミングに結構時間を取られたというのはナイショです。しょうもないですが『牙竜』と『我流』を掛けてたり(ただのダジャレです、ほんとうに(ry

↓以下、メリアについて↓
メリアの魔法名については本当に単純な理由です。
ヴェノムスは毒、恨み。061は『733888888』を足した数字です。携帯でこの数字に対応したボタンをひらがなで入力すれば答えです。



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