とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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お待たせしました。これでようやく第二章は終了です。


14. Scalet CIRCUS

 たった一人の魔術師が作り上げたこの都市(世界)で、誰も彼もが壇上を踊る舞台装置。

 

 

 

■Scalet CIRCUS■

 

 

 

 『不思議鏡の国』と言うらしい別世界から戻って――というよりも私たち全員が纏めて異界から放り出され、天井に開いた大穴から私たちの部屋に落下して――からしばらくして。

 あの後すぐに現地解散して、先に戻っていたメリアを追うようにインデックスと二人で小萌さんのアパート目指して帰途を辿っていた。

 

「ほんとうに大変な一日だったんだよ……」

 

 隣を歩くインデックスはげんなりしている。マンションからここまで歩きながら、彼女をぼやきを聞く限り「最後の最後に全部持ってかれた」のだそうだ。

 私の部屋に残していた黒いワンピースを着込み、歩く教会だったものを抱えるインデックスに頷く。

 

「あのまま行けば普通に大団円だったよね、多分」

「まったくなんだよ」

 

 アンニュイな感じにインデックスは溜息を零す。彼女は銀髪で、元から肌白だから黒いワンピースが良く似合う。私の目には妙に色っぽく見えた。端正な顔立ちをしてスタイルも悪くないのだし(体型が子供っぽいのを除けば)、落ち着いた色の服を身に纏うとなんだか年上にさえ見えるから不思議だ。……インデックスの正確な年齢を私は知らないが。

 

「それで、とうまは何処へ行ったのかな?」

「さぁ……」

 

 ジト目を流してくるインデックスに私も首を傾げる。

 話を大団円で終わらせなかった張本人こと上条当麻とは今現在別行動中だ。ようやく終わったのか、と一息付こうとしたところで「用事が出来た」と言って何処かへ行ってしまった。……慌てて逃げていった、という風には見えなかった。というより私たちが殴ったせいで随分とボロボロで、インデックスを巻き込んだ不幸に対する制裁も終えていたのだ。そそくさと私たちに一瞥して出て行った彼は『私たちから逃げた』というよりも、仕事に追われるサラリーマンという表現がピッタリな風情だった。哀愁のようなものを感じたのだ。とうの本人がやらかしたせいで同情はできなかったけど。

 当麻が出て行ってからすぐに、ステイルと神裂もどこかへ行ってしまった。詳しくは分からないが、どうやらどこかの誰かに報告(報復)しなければならないらしい。

 ただ、去り際にステイルから、

 

――しばらく彼女のことは君に任せる。くれぐれもこれ以上あの男に妙な真似はさせないでくれよ。

 

 と念を押されてしまった。その意見には非常に同感できるのだが、生憎当麻の『アレ』は今に始まったことではないし、本人が意図せずにやってしまうから性質が悪い。

 さてどうしたものか、と考えているうちに小萌さんのアパートに到着した。鉄板の階段を上って扉を開ける。

 

「ただいまなんだよ」

「お邪魔します――、って、あれ?」

 

 メリアの姿が見えないことに気付いた。明かりのついた八畳の和室には布団の中で寝息を立てている小萌さんしかいない。その割には電気は点けっぱなしだし、鍵も掛かってなかったのだが……。

 

「どこに行ったのかしら……。――?」

 

 布団で寝ている小萌さんの横に『すぐ帰るから』とだけ記された書置きが残されていた。もしかしたら何か用事でもできたのかもしれない。こんな時間にやらなければいけない用事、なんてものは私には分からないけど、メリアにとっては重要な用件だったのだろう。

 せっかくインデックスの問題が解決したというのに、当麻もメリアもせわしない。私やインデックス、ステイルと神裂にとっては転機なのに、彼らにとってはなんだか『区切り』という感じではない。

 それどころか、これが私たちにとっての始まりでしかないという、嫌な予感が――。

 

「あ、雨なんだよ……」

 

 トタン屋根からぱたぱたと雨音が聞こえ始めた。水滴が落ち始めた窓から見れば、街灯の光の中を雨粒がぱらぱらと落ちていく。

 

「嫌な天気……」

「とうまとめりあ、だいじょうぶかな……」

 

 二人そろって布団の横に腰を下ろす。

 会話もなくなって窓を見続ける私たちを、雨音だけが静かに包んでいた。その静寂が不安を掻き立てるといえばそうなのだが、それ以上に、

 

(少しだけ、落ち着くな……)

 

 私たち二人だけだけど、落ち着けてぼうっとできる現状がじわりじわりと緊張していた精神を解していく。

 もう疲労困憊だ。これ以上動けと言われても今は無理そうだ。そして何よりも。

 

「一応だけど、終わったんだよね」

「……うん」

 

 私の言葉にインデックスも頷いて、二人揃って疲れたように笑い合う。インデックスを取り巻いていた問題は解決したのだ。

 

 

 

 

 

■□■□■□

 

 

 

 

 少しずつ落ち始めてきた雨に、小走りで開店前のカフェの屋根下に逃げ込んだ。少し濡れた肩を払って、携帯端末を取り出し、届いていたメールを確認する。集合場所に指定された地点はこの辺りでよかったはずだ。懐からソフトケースを取り出して、そこから一本口に咥える。ウィンドウに背を預けて、持っていたライターで火をつけながら吸い込んだ。袋叩きにされた体の痛みをメンソールの爽快感で紛らわせる。……だけど、痛いものは痛い。

 

「…………」

 

 エイワスが喋るわけでもなく、俺も黙ったままだ。路地裏の、学園都市内では狭い部類に入る道で、静かに雨音を聴いていた。

 しばらくして、手に持っていた端末が振動した。非通知と表示された画面を見て、警戒しながら通話ボタンを押して耳に当てる。聞こえてきたのは女の声だ。

 

『初めましてね、上条当麻くん?』

「誰だ」

 

 声の主に、十中八九暗部の人間らしいそいつに嫌悪を隠さずに不満をぶつけることにした。

 

「こんな時間に、こんな場所に呼び出して。何の用だ」

『こいつと来たら噂通り傍若無人ねー。……私自身名乗れはしないけど、「アイテム」を経由してあなたに指令を届けていた者、と言えば分かる?』

 

 俺の言葉に溜息を吐いて、随分と軽い喋り方をする女は簡単に自己紹介した。どうやら『アイテム』を担当している伝達役らしい。直接会話するのは初めてだが、偶にアイテム連中から「ふざけた奴」だとか聞いていた。

 

『私も寝耳に水だったのよー。こんな時間に叩き起こされる身にもなってほしいわ』

 

 いきなり話を聞かされたらしいその女は不満を垂れ流し始めた。一貫してどこか気の抜けた話し方だ。

 

『本当は「アイテム」の子たちに通達させようと思ったのだけど、あいつらと来たら揃って「眠いから却下」って言うんですもの。だから直接私が連絡を入れた、っていうのが理由の一つねー。もう一つは、今回の命令が重要なものだから。手紙だけじゃ伝えられない事もあるのだろうし、下手に第三者を動かすと面倒な内容だったから』

 

 そこで、こほん、と区切りを入れるようにわざとらしく咳き込んだ。そしてこれまたわざとらしく口調を真面目なものに変えた。

 

『とりあえず先日の「幻想御手」の回収、ご苦労さま。聴取を取り終えた木山春生は護送中でまだ施設に到着していないみたいだけど、まあ依頼達成ってことで良いんじゃない? それと日を跨いではいるけど、何かしらの事件に巻き込まれたってね? こちらまで情報は届いているけど、後で詳細をレポートにして提出するように』

「――了解」

 

 魔術師たちのことを『外部勢力』だと言った彼女からは、魔術について見聞があるかどうか釈然としなかった。……一応、レポートは魔術について触れずに当たり障りのない情報だけ記載すればいいだろう。魔術についての理解があればもう一度提出を求められるはずだ。

 ただ、用件がそれだけならば俺をこんなところに呼び出す理由が無い。今まである伝達経路を無視してまで電話越しの女が俺に直接指令を出す理由が無いのだ。

 

『次の任務までは時間がある。ゆっくり休みなさい――と言いたい所だけど、別の用件があるの。今回あなたを呼んだ理由がそれね』

 

 やはりか、と俺は内心溜息を吐いた。態々俺を呼び出したのだ。どう考えても厄介事だ。

 

『先ほどの一件――学園都市内で外的勢力の騒動のことね。それに危機感を覚えた統括理事会の面々は、あなたに班(チーム)を組ませることを決定したらしいわ』

「……俺一人では力不足、と?」

 

 今まで単独で任務に当たっていたのに、何を今更。そう言ってやると返ってきたのは失笑だった。

 

『あんたの実力は理事会の誰もが認めている。……でも、一人で出来ることには限界がある。今回の一件、あなた一人では手が回らないことが多々あったんじゃないの?』

「…………」

『やっぱりね。まあ、上もそれを知ってチームを組ませるなんて言い始めたのでしょうけど。……ただでさえ「アイテム」は癖のある子ばかりなのに、あなた以外に二人も厄介な手合いの面倒を見ろって言われてしまったわ。とーぜん、あんたに拒否権無いから』

「――だろうな」

 

 拒否権があるなら最初から呼び出しに応じない。そう答えてやるとスピーカーから盛大な溜息が聞こえてきた。どうやらそいつも『暗部にいる以上逆らってはいけないもの』を理解しているらしい。ただの飼い犬である俺たちは『上の命令』には服従しなければならない。電話越しの相手が飼い犬かどうかは分からないが、不満を垂らしながらも従っているあたり俺と似た立場なのだろう。

 

「それで――」

 

 一体誰の面倒を見なければいけないのか、と問おうとして、真横から聞こえてきた雨水を踏む足音に口を噤んだ。なんの前触れも無く、いきなり俺のすぐ右隣に気配が沸いたのだ。見下ろせば灰色の髪の下から、濁った色の瞳が俺を見上げていた。

 

「メリア……?」

「うん。君も呼ばれたの?」

 

 僅かに首をかしげている彼女に、俺も状況をようやく読み込めてきた。見た限り傘を持ってないようだが、彼女の服も髪も雨に濡れていないようだった。原理なんて俺は知らないが相変わらずブレている――というより『ズレ欠けている』のだろう。

 

「お前……」

「これ」

 

 何か言う前に彼女が手にしていた封筒を差し出された。中に入っていた手紙に書かれていたのは筆記体だった。おそらくは日本人のものではない名前からポピュラーな言語として英語を選んだのだろう。内容は、『アルストロメリア・グレイス様へ。あなたの居場所を紹介します。上条当麻についていけばわかります。詳しいことは彼に聞いてください』とだけ書かれていた。……ほとんど俺に丸投げじゃねぇか。何の勧誘だ。

 要するにこいつが一人目らしい。そしてとてつもなく嫌なことに、もう一人のメンバーに心当たりが出来てしまった。こちらに向かってくる足音が一人分。俺にとって馴染み深い雰囲気をした気配に振り返れば、血を撒き散らしたみたいな髪をした奴が赤い傘をくるくると回しながら笑っていて、

 

「おーおー、お二人さん仲良さそうだな。もしかしてデート中だったか?」

「深嗣――」

 

 切削深嗣。幼馴染。言い方を変えれば腐れ縁。

 勝手に病室から抜け出して、こっちが大事に巻き込まれていたのに今の今まで音信不通だった馬鹿野郎。そいつは相変わらずアクセをじゃらじゃらと鳴らし、軽薄に見える笑みをメリアに向けた。

 

「そちらさんとはハジメマシテってことになるな。切削深嗣だ、ヨロシク」

「……うん」

 

 少しだけ怪訝そうに頷いたメリアに、深嗣は笑みを深くする。……人見知りする奴にしては珍しい反応だった。

 

「お前、まさかとは思うが、」

「おう、その『まさか』だぜ? 昨日……、いや、もう一昨日か。お前妙な連中と会ってただろ。面白そうだったから俺から接触を図ってみたわけだ」

 

 深嗣の言葉にやはりかと思案する。今現在、学園都市内の学生の内、九割以上が暗部に関わらずに生活できている。暗部なんてものに関わっているのはほんの一握りの阿呆どもだけだ。無関係な人間を巻き込まないように徹底しているのだ。徹底しなければならないほどに、人道を外れたことをしているから。

 

「わかってんのかよ。暗部はお前たちが思ってるほど――」

「あーあー、せっかく力貸してやろうって言うのに傷付くねぇ。……言われなくても解ってるっての。別に、何の覚悟も無く暗部に落ちたりはしねぇよ」

「勘だけど、来たほうがいいんじゃないかって。……帰れと言われても帰らないよ」

「馬鹿どもが――」

 

 頭を抱えた。二人がこう言っている以上、梃子でも考えを変えることは無いだろう。そういう性格だということは知っていた。だから、喉からせり上がって来た言葉を溜息にして、諦めた。

 

「……もういい。好きにしろ」

「――ハッ。素直じゃねぇのな」

 

 わざとらしく肩を竦めて見せる深嗣を睨みつけていると、電話越しに『話はまとまったかしら?』と呆れ混じりの言葉が届いた。

 

『全員揃ったようね。音量を上げて他の子たちにも聞こえるようにしてちょーだい』

 

 指示通りに通話音量を上げる。

 

『ん――、聞こえる?』

「うん」

「聞こえてるぜ」

 

 深嗣とメリアが答えれば、彼女は『よろしい』と、きっと電話越しで頷きながら口にした。

 

『これからあなた達にはチームで動いてもらうことになるわ。任務内容は追って通達するけど、くれぐれも――くれぐれも、私の管轄内で面倒事は起こさないように』

 

 面倒事が本当に嫌いなのか、俺には『くれぐれも』という言葉に異様に力を入れているように聞こえた。彼女の管轄も、彼女の言う面倒事も俺の知るところではないが、彼女にしてみれば本気で念を押しているつもりなのだろう。とりあえず頷いた。深嗣とメリアも俺に続く。

 

「了解しました」

「へーへー」

「……うん」

『……イマイチ信用できない返答ね。――まあ、上条当麻がいることだし早々大事にはならないでしょう』

 

 と、女の言葉に何故だかメリアが首を傾げた。何か気になることでもあったのだろうか。

 

「どうかしたのか」

「うん。……『フラグは建ったわね』、だって。どういう意味か分かる?」

 

 メリアの言葉に、電話越しから騒々しい音が聞こえてきた。がたがたと何かを落とすような音だ。どうかしたのだろうか。

 そしてメリアもいきなり何を言い出しているのだろう。言っている言葉の意味がよくわからない。妙な電波でも受信したのだろうか。

 ただ深嗣だけは、確かになー、なんて人事みたいにぼやいていて何か知った顔だ。深嗣は何を言おうか迷いながら電話越しの女に向けて、同情するぜ、と苦笑した。

 

「ご愁傷様だな」

『う、うっさいわね! とにかく私の知り得る限りで厄介事を起こさないで。いいわね!?』

「「…………?」」

 

 二人の会話に俺とメリアは首を傾げるばかりだ。何故いきなり慌てだしてるのかさえ理解できない。そしてまたもメリアが電波を受信した。どうかしたのか、と聞けば、分からないけど楽しくなってきた、とのことだ。

 

「『これは確定ね』、だって」

『~~~~っ、もういいわっ! 話を戻すわよ!』

 

 『これ以上この話題は禁止!』と言われてメリアは黙り、深嗣もからかうのを止める。電話越しの女は自分を落ち着かせるように一つ咳き込んだ。

 

『上条当麻なら知ってるでしょうけど、「アイテム」や「スクール」、「ブロック」を見れば分かるように本来ならチームは四人一組になるのが基本なのよ。そして例に漏れずあなたたちも「四人組」よ。この場に一人いないだけでチームとしては完成してるわ。私も詳しいことは知らないけど、その子、話を聞いた限りじゃ実践投入できる段階には至っていないらしいのよねー……。調整が終わり次第投入されると思うからそのつもりで』

 

 この場にいないもう一人。その人物についての話を聞く限り、恐らくはどこぞの研究施設で培養された奴なのだろう。そして俺と同じような、戦闘のために開発された兵器扱いの学生だ。学園都市のやることはこの身に痛いほど染みているから、なんとなくわかるのだ。だからと言ってその人物に同情するつもりなんてない。同情こそが、最も疎ましい感情だということを理解しているから。

 

「で、結局俺たちは何をすればいいんだよ?」

『詳しいことは上条当麻に聞いて。任務については追って連絡するわ。ま、次の任務まで精々親睦でも深めてなさいな』

 

 深嗣の問いに答えて電話の向こうの気配が離れる。かと思えば、思い出したように戻ってきた。それと最後に、と吐き捨てるような声がこちらに届く。

 

 

 

『これも上からのお達しだけど、』

 

 

 

 そこで一つ区切るように一息入れて、

 

 

 

 

 

 

『「サーカス」。それが貴方達に与えられた識別名称よ』

 

 

 

 

 

 

 ほんと良い趣味してるわ、とだけ吐き捨てて通話がぷつりと途切れた。どうやらこれで俺たちに伝わるべき用件は大体伝達し終えたのだろう。

 

「……これでやっと休めるな」

 

 どっと疲れが押し寄せてきた。

 放課後から動いてばかりだったのだ。さらに言えば前日に幻想猛獣の一件もあって、常に緊張しっぱなしだった。肉体疲労はすぐに回復するとはいえ、精神の疲労はそう易々と消えてはくれない。少し瞼が重たくなってきた。

 

「雨、強くなってきたね」

 

 強まってきた雨。横にいたメリアの鼻先にぽつりと雨水が滴った。今になってようやく安定したのか、それとも安定と不安定の間を行ったり来たりしてるのか。なんにしても今は雨に濡れてしまうらしい。そして困ったことに傘は深嗣が持ってきた一つしかない。

 だから結局、屋根の下から出て二人して無理やり傘に潜り込んだ。

 

「おい、おいおいおい。何で全員揃って入ってくるんだよ」

「……濡れるの、嫌」

「帰ってから洗濯する気力は無い」

「お前ほんっと偉そうだよなー……って、分かったっ。分かったから肘抓んなメリアっ」

「狭い。暑い。さっさとして」

 

 一人用の傘はそこまで大きくないから、結局メリアを真ん中にして俺と深嗣が左右を挟み込む形になった。文句言いつつ歩き出した深嗣に引っ付いて帰り道を歩いていく。

 

「結成式なのになんだか締まらないね」

「打ち上げでもすっか?」

「また後日な。早くしないと柚姫たちが煩いだろ」

「『たち』ってなんだよ? うちの姫さんが野良猫でも拾ったのか?」

「似た様なものだ。良く食うのが部屋に住むことになったらしい」

「へぇ……。じゃ、いっそのこと俺たちの部屋、壁ぶち抜いて繋げちまうか?」

「もう殆ど繋がってる」

「はぁ? なんだよそれ」

「天井にも大穴開いてるよ」

「……? ますます意味分かんねぇ」

 

 いつも通りにじゃれ合いながら雨の中を歩いていく。道の先、街灯に照らされて、濡れたアスファルトがしっとりと光を反射していた。

 

「ふわ……、もう眠い」

「だなー……~~~~ッ」

「無駄口叩くな。さっさと帰るぞ、新兵ども」

「「りょーかい」」

 

 

 

 そしてここに、メンバーさえ揃っていないまま。中途半端な急造の班(チーム)が結成された。

 

 上は俺たちのことを『曲芸団(サーカス)』と喩えていた。

 理事会にとって俺たちは道化なのだろう。学園都市という舞台を踊る、都合のいい役者の群れ。何のために、誰のために、何処に向かって。その全てが一切隠されたまま、俺たちは上の意のままに踊り続ける。

 

 

 

(でも、まあ……)

 

 

 

 俺たちが向かう先なんてものは到着してから確認すればいい。もしそこから先があるのなら、その時に考えればいい。今はまだ、この心地の良い激流のようなせせらぎに身を任せているさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語の裏、暗部の奥底に隠れて造られた一室で語られる幕間の一時。

 手術室にあるようなベッドの上、一人の少女が目を覚ました。金髪碧眼、白黒のエプロンドレスを身に纏った彼女は、長時間横になっていたせいで硬くなった体を解しながら頭についていたヘッドホンじみた機材を取り外した。

 

「目が覚めたのか」

「うん。オハヨウ」

「だったら早く実験台から降りてくれ。私が代わりにそこで寝させてもらう」

 

 山のように積まれた機材と画面の山を背に、デスクチェアを回して白衣の女性が振り返った。碌に手入れをしていないのか癖が着いたままの茶髪が靡く。濃い隈を目元に湛え、疲労が色濃く残る顔で少女を見た女性は少女と交代するようにベッドに横になった。じゃらじゃらと両手首を鎖に繋がれた女性に少女はあざ笑うように微笑みかける。

 

「お疲れ様♪」

「無理やりこの部屋に押し込めた癖に良く言う」

「フフ♪ じゃあワタシはアマタちゃんのところにでも行ってようかしら」

 

 笑いながら自動扉へと向かった少女は、「あ、そうそう」と振り返りながら嘯いた。

 

「『No.5035』ちゃんを使うことになるかもね♪」

「……そうか」

 

 横になった女性が少し苦い顔をしたのを見て、少女は笑みを深くする。今度こそスライドした自動ドアを潜り抜け、扉が閉まってから天井を見上げて、

 

「さぁ、始めましょうアレイスター♪ あなたの『玩具』はワタシが壊してあげる」

 

 明後日の方向、天井を隔てた方角の先に鎮座する窓の無いビルへ向けて。

 

 

 口元に笑みを湛えながら、最後に、

 

 

 

「ワタシたちが『ふざけた実験場(学園都市)』を壊しちゃうんだから――」

 

 

 

 呟いて。

 少女の姿は暗闇に溶けて消えた。

 

 

 

 




この後はニ、三話程度使って本編で書けなかったものや日常の描写になります。番外編みたいな感じになりそうです。それが終わった後第三章で過去話に触れながら妹達や一方さん、アイテム連中の話になるかと思います。さっさと本編進めろという意見は受付ますん(←どっちだ
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