とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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三年前の自分が一体何を思って書いていたのか思い出せないのだぜ……。


02. Sister the Mistake

 

 蒸し暑い日の、ほの暖かいようないつもの通学路。

 

 

 

 

■Sister the Mistake■

 

 

 

 

 学園都市第七学区に位置するマンション。私こと上条柚姫が兄である上条当麻とともに住んでいるのは高級でもなく安っぽくもなく、普通の物件。やや高級というのが丁度良いかもしれない。

 部屋は2LDKで、二つの洋室を兄妹別々に使っていて家事は交代制。家賃は兄が払ってくれている。確か『無能力者』だったはずだが奨学金が出ているらしいのだ。本人が奨学金と言い張っているのであまり追求しないで置いた。聞こうとするといつも上手い具合に話題を変えられ、無理やり聞こうとすれば上げ足を取られ最悪説教という名の愚痴を永遠と聞かされることになるから始末が悪い。それが終わると当麻が微妙にすっきりとした顔をしているのがまた少々頭にくるのだが、今は置いておこう。

 何かしらで兄を打ち負かしてやりたいのだが、最も得意な料理ですら未だに味で勝ったためしがない。悔しいが私の兄は何かとそつなくこなせるのだ。無論口で勝てるはずもない。

 

 

 学園都市とはその名の通り学生たちの都市で、広さは東京都の約三分の一。総人口約230万人でその内教師や研究員を除けば殆どが学生だ。

 そしてこの学園都市の最たる特徴が『超能力開発』だ。そう、『超能力』である。簡単に言えば学生たちの脳を音波や微弱な電流で刺激して特殊な能力を開花させているのだ。言ってしまえば人体実験だ。だが、実際に能力者は生まれた。有名なところだと発火能力(パイロキネシス)や透視能力(クレアボヤンス)のような能力を開花させた学生もいる。その実績によって学園都市はその運営を確固たるものにしていた。

 そして能力者なんてものを生み出す土壌、科学水準は学園都市の外よりも十年程度進んでいる。無人で運転されるバスや、路面や壁を自動で掃除し、監視カメラつきのドラム缶型の掃除機。

 

 進歩した科学技術を元に、科学的理論によって『能力者』を作り出す。それが学園都市だ。

 

 

『もたもたしてると遅刻するぞ』

「ちょ、待ってってば~!」

 

 玄関の扉越しに聞こえてくる声に急いで制服を手早く着て、慌てて洗面台に駆け込み髪を整えて後ろで縛って外で待っていた当麻のもとに向かう。……うぅ、今日こそはお兄ちゃんに髪を整えて貰おうと思ったのに。

 

「お待たせっ!」

 

 慌てて飛び出てきた私を当麻は一瞥しドアのカギを閉めて歩き出す。小走りでそれに続く。横に並んで他愛無い会話をしながら学校へと向かった。

 学園都市ではどちらかといえば狭い部類に入る二歩道二車線の大通りで、隣で歩いている比較的軽装な兄が「蒸し暑いな……」なんて言ってシャツを仰いでいる。確かに蒸し暑い。サウナみたいだ。

 

 ふと当麻が足を止めた。「ちょっと待ってろ」と言って足早に方向転換して道を横断していってしまう。彼の行く先を見つめて、ああそうかと思った。自販機があった。

 ほどなくして戻ってきた彼の手にはとある炭酸飲料が二つ。私の好物だった。

 「ほれ」と彼はなんでもないみたいに缶ジュースを差し出してくるから笑ってしまう。「なんだよ」と聞かれれば「なんでもない」と答えて受け取った。

 

 彼は無愛想で人のことなんて考えてないように見えて、実は人一倍気を遣っているのだ。少なくとも私にはそう見える。当麻のそういう不器用な優しさがうれしくてむず痒い。でもやっぱりうれしい。あれ、顔に力が入らないや。

 

 そんな私を見て「だらしない顔だな」なんて言ってくるから、

 

「ばーか。お兄ちゃんが悪いんだから」

 

 なんて悪態をついて、でもにやけた顔は変えられないまま。

 

 当麻とふたり、笑いながら歩いて行く。

 

 二つの足音は重なって。

 

 温かい朝陽と粘りつくような熱気。

 

 日陰の涼しさと蝉の鳴き声。

 

 それはまるで『あの日』のような、真っ赤な――。

 

 

 

「…………あれ?」

 

 ふと、足を止めた。 

 

「…………?」

「どうした」

 

 私が足を止めたことに気づいたのか、先を歩いていた当麻も立ち止まって私に振り返る。

 何か記憶の隅に映っていたものが砂のように零れ落ちた気がした。ほんの数秒前まで考えていたことが思い出せない。今までこんなことは無かったのだが、……もしかしたら暑さに眩暈でも覚えたのかもしれない。

 熱気を振り払うようにふるふると首を左右に振る。

 

「大丈夫か?」

「あ、ううん。なんでもない」

 

 怪訝そうな兄を追い越して道の先にある信号へと向かう。すぐに歩行者用信号が青になった。

 

「じゃあ、私こっちだから。――行ってきます!」

「ああ。気をつけろよ」

 

 人ごみの中、いつもの決まり文句でスクランブル交差点を斜めに渡って対面に向かう。振り返れば決まって、他の学生よりやや背の高い当麻がこちらを見ている。こっちが振り返ったのに気付くと彼は交差点を渡らずに高校へと歩き出す。その姿が往来する学生のなかに消えて見えなくなるまで眺めていた。特に意味のない、ただの習慣といっても過言ではない行為だ。それだけを行って学校に向かいなおすのもいつも通り。

 

 柵川中学。私はそこの三年生だ。能力開発を除けば、どこにでもあるような中学校だ。能力も授業も並みの平均値。レベル3の私が少々持て囃されてしまうような学校だった。

 夏の制服は男子は白いシャツに黒いズボン。女子は白と青を基調にしたセーラー服とロングスカートだ。学園都市内で言えば少々古臭いようにも感じる制服なのだが、私は結構好いている。

 

 当麻と別れてから数分。そろそろ校舎が見え始めてくる校門近く、背後から聞きなれた声が聞こえた。

 

「かーみじょーさーん♪」

 

 瞬間、膝まであった布の感触が突然消失した。スカートが捲れ上がっていると気づくまで約1秒。なんだろう、時間が止まった。思考も止まった。

 

「え、なぁ!!?」

 

 一気に顔が熱く。スカートを慌てて抑えた。思い切り叫ぶ。

 

「きゃああああああああああああああああああああああああッ!!」

「ちょ、佐天さん!? だから朝の往来で何してるんですか!!」

 

 反論するのは頭にお花の髪飾りをつけた女の子。そして、とうの犯人はというと、

 

「……く、黒のレースは反則だと思いますっ……!」

 

 何故だか知らないが顔を真っ赤にして戦慄いていた。赤面したいのはこっちだっての。

 どうやら私を追いかけてきたらしい。少々熱の残った顔で振り返れば女子生徒が二人。

 彼女たちは後輩だ。お花飾りをつけた子が初春飾利さん。風紀委員をしていて、さっき私のために反論してくれた子だ。そしてスカート捲り色魔こと佐天涙子さん。横に花飾りをつけた黒い長髪が特徴的な彼女は活発で人懐っこいのはいいのだが少々度が過ぎるというか、やりすぎというか。まあ二人ともかわいい後輩なので、あまり可哀そうなことはできないけど。

 

「さぁてんさぁああん?」

 

 多分私は今、とても酷い顔をしていると思う。その証拠に佐天さんの笑顔は恐怖に引きつっている。

 

「は、ははははいぃいいいいいいいいい!!」

「あはは~、そんな怖がらなくていいよ~。上条さんは節度っていうものを知ってますから」

 

 にじり、にじり。徐々に間を詰めていく。腰が引けている佐天さんに一気に飛びかかった。くらえ、私の屈辱。

 

「うりゃぁ!!」

「わ、ひゃぁう、あははははっ! ちょ、くす、くすぐったい、ですぅ……」

 

 生徒が多々いる衆目のど真ん中、「あははははははは!!」と妙な絶叫が響いた。というよりも笑声。まあただ単に脇を攻めまくってるだけなんだけど。

 

「もう、スカート捲りなんかしちゃダメだって言ってるでしょ!! せめてやるなら初春さんだけにしなさい!!」

「なんで私はいいんですかー!!」

「はははっ、う、くぅ……、た、助けて、くうううぅ……」

 

 そんな感じにきゃーきゃー言いながら登校する。

 いつものことながらとても騒がしい。そんな日常が私は大好きだった。

 スカートめくりは流石に勘弁してほしいけど。

 佐天さんを解放してあげて、ふと見上げれば強い日差しに一瞬目を閉じた。

 

 




作者的に百合ちっくなものを書こうとした結果に生まれたのがこんなものだった、ような……?
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