とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

30 / 31
番外編第三弾。
一章の最後から派生した、本編では出来なかったIFのお話。

後書きに次回予告載せてみました。


--. Unrealistic HAPPY_END

 

 

 それは本来の道筋では不可能だった可能性の一つ。

 何も解決しないが故に誰も傷付かない、最も幸せな終わり。

 

 

 

 

■Unrealistic HAPPY_END■

 

 

 

 

 七月十九日、夕方。

 多くの学生、教員たちを巻き込んだ『幻想猛獣』の一件が終結した直後。幻想猛獣を相手取った激戦のなか、俺や深嗣、御坂も大した怪我をせずに病院で軽い検査をした後の夕食。当初の予定通りに俺たちの部屋を使って大人数で食卓を囲むことになった。

 ……なったのだが。

 

 

 

 

 

「お姉さまぁああああ!! 黒子の愛(つみれ)を、愛(おあげ)をぉおおおおおおお!!」

「だぁああ!! やめろって言ってんでしょうが! 落ち着いて鍋も食えんのかあああ!!」

「わひゃぁあああああ!? てミサカはミサカは緊急回避ー!?」

 

 

 リビングのテーブルで飛び散る具材。弾ける電気。イスから飛び上がる打ち止め。

 暴走する白井に対する御坂の反応にはまあ頷けるが、その言葉はそのまま御坂自身に戻ってくることを忘れるなよ。

 

 

 

 

 

「はい、これ初春の分」

「ありがとうございます佐天さん。なんか鍋奉行みたいですねー」

「佐天さん、ついでに出汁醤油取ってもらえると助かるんだけど」

「はいはいお安いご用でーす。固法先輩も私を頼ちゃって全然おっけーです」

「ふふ、なにそれ」

「この時期に鍋っていうのも乙なものですねー」

 

 

 御坂たちの対面でのんきに鍋をつつく女子三人組。

 佐天、初春、そしてその二人に紹介された固法美偉だ。縁無しの眼鏡を掛けて黒髪をミドルヘアーに切りそろえている彼女は、見た目もそうだが落ち着いた性格をしていて知的な印象を受けた。風紀委員で初春や白井の先輩になるらしい。

 ちなみに何故鍋かと言えば、大人数の食料を賄えた上で味もそこそこのものを作れる、という理由で選んだのだ。

 

 

 

 

 

 

「結局鍋はこう賑やかなのに限るよね。ちょっと隔離されてる気がしないでもないけど」

「『幻想殺し』ー、シャケ弁ないのー?」

「麦野、今は鍋パーティです。シャケ弁なんて超無いですよ」

「ブチコロスわよ『幻想殺し』」

「止めとけって。無理やり押し入ったのはこっちなんだから我慢してくれ。――ほれ、滝壺の分」

「ん、ありがと、はまづら」

 

 

 開け放った俺の部屋で、柚姫の部屋から引っ張り出したちゃぶ台を囲っているのはアイテムの面子だ。

 全員揃って押し掛けて来やがったのだ。暗部がこんな一般人ばっかのところに来ていいのかよ、と聞いたら、今はオフだからOK、とのことだ。

 

 

 

 

 

「いやぁ、まさか常盤台のお嬢様までついてくるとはおもわなかったにゃー。しかもなんか女子四人組まで来る始末。妙な男一人は余計だが、眼福だにゃー」

「えへへー、ボク、もういつ死んでも構わへん。幸せやー」

「じゃあ牛肉はもういらないわね。上条もいい加減食べないとなくなるわよ」

「ぎゃー!! そんな殺生な! 横暴やぁああ!!」

「こら。そんなに騒いだら上条ちゃんに叩き出されちゃいますよー?」

「お、旨い旨い。それにしても上条が料理上手だったなんて意外じゃん」

「当たり前です、上条ちゃんは何でもできるのですよ――って、あー! それ私のおつまみですー!」

「兄貴の友人は馬鹿ばっかなんだなー。あー、上条当麻ー、具がなくなってきたから台所借りるぞー」

 

 

 そしてダイニングキッチン前の、御坂たちの横のテーブル。

 俺や深嗣、柚姫が座る対面では、いつものクラス委員三人組が騒いで、それを嗜めながら酒の肴を取り合う教師二人。まるで自分の部屋のように自由にキッチンを漁り給仕を始めた土御門舞夏。

 と、冷蔵庫横の、玄関に繋がるホールの扉が開いた。

 

 

 

 

 

「お邪魔しまァす。ってなんだァ、こりャ」

「邪魔するわね――土御門。いきなり電話してきたかと思えば、何これ――鍋?」

「これはこれは。まるで合宿ですね」

「一方通行だぁあああ!! ってミサカはミサカは飛びついてみる!」

「行儀悪ィぞ打ち止め。ちゃんと座ってろ」

「はぁい! ってミサカはミサカは――」

 

 

 

「うぉおおおお!? 今度はアルビノ美少女とツインテお姉さまですかぁあああ!? カミやん殺してもええ?」

「我慢しろ青髪。カミやん病は今に始まったことじゃないぜよ。それとあの白髪の性別は置いといても、確かに見てくれだけはいいにゃー」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこんな集まってんだ……」

 

 途方に暮れながら呟く。

 柚姫には友達を連れてきてもいいとは言っていたし、三馬鹿+土御門妹+教師二人もまあ許容範囲内。それよりもだ。何故アイテムの連中がここにいて、かつ普通に馴染んでいるのだ。彼らの前で鍋パーティをするなどと口にした覚えはない。ついでだか何だかしらないが土御門の野郎、一方通行その他諸々まで呼びやがって。というよりお前ら面識あったのか。そしてそこの赤い髪を後ろで二つに結んだ女と、薄ら寒い笑顔を浮かべた優男は誰だ。

 土御門を睨む。

 

「ま、こういう場だからこそ許されることもあるにゃー。ちなみに名前は結標淡希と海原光貴(仮)だぜい」

「はぁ?」

「だから、『こういう場』だからだにゃー」

 

 意味が分からない。というか(仮)ってなんだ。

 というより、この部屋がここまでの許容量を有していたことに驚きだ。持ち寄ったテーブルやらを敷き詰めているから結構狭苦しいにしても、0人程いて、それだけで“少し手狭”で済んでいるのだ。予想以上にこの空間は広いらしい。今まで二、三人だけで使っていた分、少々もったいない気がする。

 テーブルにはところ狭しと鍋やら皿やらが並んでいて、バイキングみないな量の品数が出揃っている。少々作りすぎたかも知れない。

 

 作りすぎ、と隣の柚姫に呆れられていると浜面と目が合った。

 すまなそうにしている。何を言いたいのか、口にせずともわかってしまった。

 

 

 

――すまない上条、俺だけじゃこいつらを止められなかった。

 

 

 

 頷く。

 

 

 

 別にいい。お前は良くやった。

 

 

 

 

 それが伝わったのか、いたたまれない表情そのままに頷く浜面。後でなんか奢ってやろう。

 それから麦野、シャケ弁作ってやるからそう怖い顔をするな。こっちを睨むな。俺の周りが引いてることに気付け。

 

「ハッ――。ま、こういうのも悪くはねぇな。あ、柚姫、飲み物ない?」

 

 なんて隣でいいやがるのは深嗣だ。この状況(というより俺が困っているという状況)を心底楽しんでいるらしい。つまらなそうにされるよりはマシだが、もうこいつのことはどうでもいい。

 

「あ、うん、今持ってくる。お兄ちゃんも何がいい?」

「なんでもいいぞー」

「右に同じ。――いや、俺が持ってくるよ」

 

 ついでにシャケ弁つくればいいしな。

 言いつつ柚姫の頭をくしゃりと撫でてやる。

 

「うわっ、ちょ、お兄ちゃん!?」

 

 「やめてよー」と文句を言う。そんなことを言いつつも満更でもなさそうだし、こうされると嬉しいんだってことも知っているし、偶にはいいだろう。本当に偶になら。柚姫たちは今日一番の功労者なのだ。ご褒美ってやつだ。

 それに、

 

「先生も。遠慮せずに食べてくれていい」

「そーそー。さっきから何も食べてねぇだろ。早く食わねぇとなくなるぜ?」

 

「い、いや、私は――」

 

 木山先生も、だ。

 あの後、警備員に連れて行かれそうになった彼女を、少々無理をして(上を黙らせて)連れてきたのだ。本来ならそのまま連行だが、誰かしらが監視するという名目で無理矢理許可を取り付けた。職権乱用ではあるが、その分働いたので勘弁してほしい。

 それに今後、彼女にはしばらくこの部屋で生活してもらうことになるのだ(何分急だったから、ここ以外に部屋を用意できなかった)。なのでそんな借りてきた猫みたいにびくびくしないでほしい。

 

「もーいいからさ。あんたはいつも通りにしてればいいんだよ」

「そうだよ先生。せっかく四人揃っているのに、そんなに暗い顔しないで。ね?」

「だけど……」

「む、中々美味しいわね」

「だぁああ! 委員長ー、それボクのお肉やぁああああ!」

 

 

「……ん? どうしたカミやん。……何これ」

 

 はしゃいでいる土御門たちにメモを渡して、深嗣と柚姫が先生をからかっているのを背後にキッチンへ向かう。麦野用の鮭を焼きながら冷蔵庫から具材を取り出して、それを取りにきた舞夏に渡していく。

 渡し終わると、トレイに山ほど皿を乗せた土御門舞夏は俺を見て不思議そうに首をかしげていた。

 

「なーなー、上条当麻ー」

「なんだ」

「普通にいるあの人、誰だー?」

 

 木山先生を眺めながら首をかしげる舞夏に、俺は苦笑を零した。俺の顔を見て驚いたような表情をした土御門舞夏が、すぐにいつも通りの笑みに戻る。いや、どちらかといえば微笑み、と言える類の表情をしていた。

 

「そっかー、大切な人なんだなー」

「ああ、恩人だよ」

 

 その前に家族だけどな。と舞夏にしか聞こえない声量で付け加えれば、彼女は子供みたいに「しぃ」と人差し指を唇に当てる。分かってもらえて何よりだ。

 焼きあがった鮭にゴマを塗して飯に乗せ簡易な、麦野曰くシャケ弁の完成だ。それから深嗣に頼まれていた飲み物を持ってリビングに戻ると、こっちはこっちでなんかもう盛り上がっていた。

 

「上条さんだけずるい! ず~る~い~!」

「そうよ! 私だってアイツにあんなことしてもらったこと無いのにー!」

「ちょっ!? いきなり何―!?」

 

 何故だか柚姫にじゃれついている御坂と佐天。佐天は柚姫をただ単にからかっているだけのようだが、御坂だけはどこか本気のように見える。……何をしているんだアイツら。

 

「段々賑やかになってきたわね」

「そ、そうですね。……というより、私、こんなに大勢でパーティするの初めてで、どうしたらいいのか……」

「別にいつも通りでいいのよ、こういうことは」

 

 人数の多さに戸惑う初春に、先輩然としている固法。

 

「ありがとー『幻想殺し』」

「よかったね麦野。結局文句をいいつつもシャケ弁作ってくれる上条には従順なんだよね」

「それ超違いますよフレンダ。麦野はシャケ弁作ってくれる人なら誰にでも超従順なんですよ」

 

 渡したシャケ弁をおいしそうに口に運んでいく麦野と、それを見て呆れてるんだか笑っているんだか分からない表情をしている絹旗とフレンダ。

 

「はまづら、あーん」

「は!? ちょ、滝壺!?」

「あーん」

 

 滝壺に具を摘んだ箸を差し出されて困惑している浜面。

 

「一方通行! 次アレ食べたいっ! てミサカはミサカはあのなんだかよく分からない赤い食べ物を指差してみる!」

「ン、あァ……、ってあれは辛ェからこれで我慢しとけェ」

「何これプリン? ってミサカはミサカは美味しそうなデザートをまじまじと見てみる!」

「パンナ・コッタ。イタリア料理。……あいつ何でこんな物まで作ってンだ?」

 

 打ち止めの面倒を見ている一方通行。

 

「はぁ~……、賑やかでいいわね~……」

「ええ、いいことじゃないですか。何か不満でもあるのですか?」

「いいえ。あんたもお気楽でいいわね……」

 

 疲れたような表情をする赤髪の女――結標淡希と、相変わらず表面だけに見える笑みを貼り付けた優男――海原光貴(仮)。

 

「上条ちゃ~ん、おつまみはまだですか~?」

「今持ってきてくれたじゃん。ん、これも旨い。こりゃ、警備員(ウチ)の連中も呼べばよかったかな。綴里の奴に何か持って帰ってやるか……」

「えへへ~、本当に上条ちゃんの料理は絶品です~」

 

 完全に出来上がっている教師二人。

 

「やはり料理上手な男がいいのか!? そうなんやなっ!?」

「落ち着け青髪。あ、委員長。お茶とって欲しいにゃー」

「はいはいー、それくらい自分で取りに行って欲しいぜ兄貴―」

「ほら、上条も早く座りなさい。動いてばっかりでちゃんと食べてないでしょ」

 

 いつも通り意味不明なことを叫んでいる青髪と、相変わらず自由な土御門兄妹。吹寄も俺なんかに構ってないで、ちゃんと楽しむべきだ。いや、これが吹寄なりの楽しみ方なのだろうか。

 吹寄の言う通りに席に戻れば、「これで全員席についたかにゃー?」と言いつつ土御門が部屋を見回した。青髪が俺を見てサムズアップ。頼んだぞ、と俺は頷く。俺には出来ないことだが、彼らなら問題なく完遂してくれるだろう。

 土御門と青髪は席を立ち、ぱんぱんと手を二回ほど叩いた。

 

「はいはい皆様ご注目―!」

「食事会に出席の皆様、お疲れ様だった人もそうでない人も楽しんでるかにゃー!?」

 

 二人の声でこの場にいた誰もが黙って彼らを注目した。

 流石だ、と素直に感服した。常にクラスを引っ張っているだけあって集団を纏め上げるのが実に上手い。俺ではここまで上手くいかない。

 

「ではここで功労賞の発表やー!」

「名前を呼ばれた人はその場でいいから立ってもらいたいにゃー」

 

 こうして土御門と青髪主催で表彰式が幕を開けた。

 

「まず一番! 水面下の事件を追い続けた初春飾利ちゃん!」

「ちょっと恥ずかしいかもしれないが起立だにゃー」

「え、うぇええええ!?」

「ほら、立って。呼ばれてるわよ」

「あうぅ…………」

 

 妙な悲鳴を上げ、動揺しながらも固法に促されておずおずと立ち上がる初春。顔が真っ赤で茹蛸みたいだ。……注目されるのが苦手みたいだが、まあ、今回は我慢して受け取っておけ。

 

「では二番! 友達のために最後まで奮闘し続けた佐天涙子ちゃん!」

「あ、あははは! 来るとは思っていたけれども……っ!」

「はい立つにゃー」

「は、はい……」

 

 何やら少々抵抗していたようだが、土御門の言葉で諦め控えめに立ち上がる佐天。話を聞く限り普段は活発らしいのだが、どうやらこういうのには慣れていないようで。初春ほどではないが顔を赤くしながら借りてきた猫みたいに落ち着きが無い。……こういうのをギャップというのだろうか。

 何にせよ、これからも二人揃って柚姫と仲良くしてもらえると助かる。

 

「まだまだ行くでー! 三番! 巻き込まれながら幼いながらも解決に尽力した打ち止めちゃん!」

「イェーイッ! ってミサカはミサカは大ジャンプしてみる!」

「お、おい、あんまりはしゃぐンじゃねェ……!」

 

 イスの上で飛び跳ねる打ち止めを必死に抑える一方通行。

 元気が良いのは子供として当然らしいが、まあほどほどにな。一方通行も打ち止めをちゃんと見てあげるように。

 

「続いて四番! ぼろぼろになりながらも戦場を駆けるその姿は正しく獅子奮迅! 御坂美琴ちゃん!」

「お、お姉さまっ! 戦場ってどういうことですのォ――!?」

「頼むからこういう時くらいは落ち着いて……っ!」

 

 白井に引っ付かれながらなんとか立ち上がる御坂。

 まあ、白井も御坂が心配なんだよ。多少過激ではあるが、そういうのは素直に受け止めとけ。……俺が部外者だから言えることかもしれないが。

 

 

「そして最後! 彼女がいなければ化け物を倒すことが出来なかった! 上条柚姫ちゃん!」

「わ、私は『祝う側』じゃないの!?」

「いいから立てって」

「ちょ、深嗣っ……!?」

 

 まさか自分が祝われるとは思ってなかったのか、躊躇っている柚姫の両脇に手を入れて、無理やり深嗣が立ち上がらせる。

 お前も今回は立役者の一員なんだ。そしてこれは彼女たちへの、俺なりの褒美なんだ。目立つのは嫌かもしれんが、我慢してくれ。

 

「ではこの五人に盛大な拍手をー!」

 

 青髪の言葉に部屋中から拍手が沸く。拍手の雨に初春と柚姫は余計縮こまり、佐天と御坂は照れくさそうにはにかんで、打ち止めは大はしゃぎ。

 当然俺と深嗣も拍手をする。今回、お前たちがいなければ木山先生にも会えなかった。本当に感謝しているのだ。

 

「そして頑張った五人に特別プレゼントがあるにゃー!」

「…………?」

 

 と、拍手が途絶えたキリのいいところで土御門が言った言葉に俺は首をかしげた。俺はプレゼントなど用意していない――というより時間が無くて用意出来なかった。

 彼らは何か持ってきてくれているのだろうか。

 準備がいいことだ、と再び関心していた俺は、しかし次の言葉で叩き落されることとなった。

 

「なんと! これから一週間この部屋に来るたびにカミやんに特製ケーキを作ってもらえることになったにゃー!」

「しかも女の子には嬉しいカロリー控えめ! その上とても美味しいフルーツケーキやでー!」

「なっ……!」

 

 絶句した。俺はそんなこと一言もメモに書いていないし、考えもしなかった。

 だがそれを知らない周囲は沸き立つ。

 

「ちょ、マジですかー!」

「楽しみです……!」

「わーい、やったー! ってミサカはミサカはどんな料理か楽しみにしてるー!」

「アンタ、本当になんでもできるのね……」

「お、お姉さまが食べるなら私も……」

 

 目を輝かせる初春と佐天。大喜びする打ち止め。呆れたような、感心したような表情をする御坂。御坂に続く白井。

 

「それ超ずるいです! 私たちだっていつも上条当麻のために頑張ってるんですよ!」

「そうだよ! 結局私たちも女の子なんだからそういうご褒美があってもいいと思う!」

「私たち分も作れ、『幻想殺し』」

「デザート……、私もほしい……」

「…………すまん、上条」

 

 ずるい、私たちにも、と要求するアイテム連中と合掌する浜面。

 

「フルーツケーキか……、気になるわね……」

「そうね。ここまで来たら私たちも挙手しちゃおうかしら?」

 

 少し離れた立ち位置で控えめに挙手をする結標と固法。

 

「私も、上条ちゃんの余裕があるときで良いので食べたいです~」

「あ、小萌センセーも挙手するんじゃん。じゃあ私も」

 

 俺に気を遣いながら月詠教諭と黄泉川教諭も。

 

「…………」

「委員長―、デザートが欲しいなら今のうちに波に乗っておくのが吉だぜぃ」

「っ、うるさい! 上条当麻、私の分も作りなさい!」

「じゃー、私も立候補するかなー。頼んだ上条―」

 

 何やらこちらを睨んでいた吹寄が土御門に唆されて俺を罵倒する。舞夏がいつも通りの自由さで俺を追い詰める。

 そこでようやく俺は現状を飲み込むことができた。

 

「ちょっと待て! 俺はそんなこと一言も――」

「往生際が悪いぜカミやん。ここは男らしく腹を括るべきだぜい」

「そうですよ。女性にここまで期待させておいて逃げるなんていうのは、どうなんでしょうね……」

「まさかこんなに釣れるとは……。カミやん、いっぺん刺されるべきやわ」

 

 必死に撤回させようとしても、それを遮る土御門、青髪、海原。

 くそ、なんでこんなに統制が取れているのだっ……。助けを求めるように深嗣を見れば、

 

「がんばれー当麻―」

 

 と、にやにや笑っているだけだ。

 お前、余計なこと吹き込みやがったな――!

 

「――――っ! わかったよ、くそ! 作れば良いんだろう作れば!」

 

 ただし一週間限りだからな、と逃げ場が無いことを理解した俺は諦めて叫んでいた。それに、やったー、とか、わーい、だとか沸き立つ声を聞きながら、頬杖を付いて深嗣を半眼で睨みつける。……飄々を受け流された。

 

「た、大変なことになっちゃったね……」

「もういい、もう好きにしろ……」

 

 柚姫の言葉にろくに返事も出来ず、俺はうなだれる。これから一週間、女性人のおやつ給仕が決定してしまった。……不幸だ。

 

「なー、柚姫―」

「なに?」

「アレ、言ってやれよ」

 

 うなだれる俺の横、深嗣が発したあまりにも情報不足な言葉に、俺は柚姫と揃って首をかしげる。アレ、とは何だろうか。こいつもこいつで、いつも言ってることがわからない。

 

「ほら、昔あったじゃん、柚姫が恥ずかしがって言えなかったヤツ」

「ああ、あれか」

 

 思い出した。木山先生と暮らしていたころに一度だけ持ち上がった話題だ。結局あの時は木山先生に言えなくて、先生が出て行った後柚姫はひどく後悔していたはずだ。何でそんなこと覚えてんだこいつは。まあ、使うなら今が丁度いいのか。

 柚姫もそれに思い至ったのか、顔を赤く染めて焦り始める。

 

「ちょ……、それ今言うの?」

「当然。ほら、いってやれよ」

「まあ、言うなら今だろうな」

「お兄ちゃんまで!?」

 

 それから「あぅ……」とか「うぇぇ」などと妙な音を発して、ようやく観念したらしい。意を決したように先生と向き合う。

 

「先生!」

 

 が、勢いが良過ぎてリビングに響くくらいの声量が出た。何だ何だとほかの連中の視線が柚姫に集まり、柚姫は再び赤面する。木山先生も虚を突かれたように瞠目している。可哀想だとは思うが今のはお前が悪い。あとで慰めてやろうと思う。

 集まった連中全員が見つめるなか、再び柚姫が口を開いた。

 

 

 

「あ、あの、先生」

「ああ、何だ……?」

「ずっと先生にいいたかったことがあって……」

 

 

 

 その言葉に、今度は周りからどよめきが立ち始めた。「なんだァ、告白か?」とか、「え、マジ!? 柚姫さんてそういう趣味!?」だとか言葉が飛び交っている。……とりあえずお前ら黙れ。と一睨みして黙らせて、柚姫に言葉の先を促した。

 深呼吸をしてようやく落ち着いたらしい柚姫と、未だに状況が理解できていない木山先生の視線が交差する。

 

 

 

「今、言おうと思います」

「だ、だから何なんだ」

 

 

 

 

 

 

「私たちに色々なことを教えてくれて、そして私たちを育ててくれてありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――お母さん」

 

 

 

 今度は私たちが守ってあげる。

 そう締めくくった柚姫に、彼女の言葉に放心した木山先生。それと一瞬の静寂。その後、一気にまわりが沸き立った。拍手だとか「ひゅーひゅー」だとか、「まさか、彼女ってこいつらの親なの?」とか色々と騒いでいる。

 未だに呆然としている木山先生に俺たちからも声をかけることにした。

 

 

 

「母さんには随分と世話になったから。だからそのお返しをさせて欲しい」

「あー、そーだな。だから今度は突然いなくなったりするなよ、母さん」

 

 

 

 母さんと呼ぶのはからかっているわけじゃない。俺たちだって、先生のことを母親だと思っているのだ。それを言えずに後悔していたのは柚姫だけではない。だから、これからは今まで言えなかった分、存分に言ってやるつもりだ。

 そして、

 

 

 

「はは、参ったな……」

 

 

 

 

 

 『母さん』は目尻に涙を湛えながら、

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

 

 

 

 

 微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて番外編は終了となります。また、三章から空いた時間に一気に書いて投稿していく形になるので今以上に不定期になるかもしれません。
そのお詫びで、初試み、次章予告!
極力ネタバレにならないように台詞の順序も弄ってあったりします。
『』内は過去話の台詞です。

↓予告(※微ネタバレになるかもしれないので苦手な方は読み飛ばすように)



SOUND DATE -Phase03-




「じゃじゃーん!」

「涙子、これ何?」

「私が集めた都市伝説です!」

「都市伝説、ですか……?」

「……『悪夢の中に現れる少女』?」



「おいっ。おいおいおい! なんなんだありゃあっ!?」

「……水に浮いてる」

「あれは、駆動要塞(パワード・フォートレス)か……? どこにそんな戦力が……」



『だ、から……っ! そこを退けって言ってるでしょ――――!!』

『断る。こうなった以上、邪魔させてもらうからな』



「てめっ、後で覚えてろよ『幻想殺し(イマジンブレイカー)』ァアアアアアッ!!」

「ちょ、超ふざけんなぁあああああああああ――!?」

「はい死んだ! 俺今死んだァッ!?」

「大丈夫、生きてるよ浜面」

「あ、あははははっ! 生きてる、結局生きてるっ……。私今死ぬかと思ったよぉははははははははっ!!」


「ぶち破れ、深嗣ッ! メリア――ッ!」
「おォよッ!」


『何なンだッ……! 何なンだよてめェはァ……!』

『別に。ただそこのガキを放って置けなかったから来た、ただの部外者(馬鹿野郎)だよ』


「ああ、君たちか。また会ったな」

「ふざけるな……! 何で、何で『あんた』なんだよっ……!」

「せめて、君たちの行く末に、幸あらんことを――」

「だい、じょうぶ……です、と、――サカは自分なりに、笑って見せます。だか、ら、どうか私を……」



『はい、私は妹達(ミサカシリーズ)■■■■号のミサカです、とミサカは懇切丁寧に説明します』



「一人で抱え込むな! 一人で苦しむ必要なんかない!」

「どうして上条ちゃんはいつもいつも一人で傷付こうとするんですか!?」

「アンタは『化物(トクベツ)』なんかじゃないのよ! いい加減分かれ馬鹿ッ!」



「あなたの行く手を遮る障害はミサカが排除します」



「よう。七年ぶりじゃねぇか、なぁ『幻想殺し(クソガキ)』」

「演出ご苦労ォ。お望み通り来てやったぜェ」

「――してやる」

「やっぱテメェはあの時殺しておくべきだった。あー、やっぱ殺しておくべきだったぜ」

「御託は結構。さっさとうちのガキを返して貰おうかァ……」

「お前だけは必ずこの手で殺してやる――」


「木ィ原クンよォオオオオオオオオオオオオオッ!」
「木原、数多ァアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「貴様が人間を騙るな――『紛い物』のクソガキがァアアアアッ!!」






「っ、どうしてここにアリスが……?」

「アハハ♪ また会ったネ、お人形さん♪」



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。