とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine- 作:独楽と布団中の図書館
普段通りの日常風景にちょっと過激で刺激的な乱入者。
■Sweet Bullet Railgun■
一日の授業の終わりを告げる予鈴が響き、HR後特有の気だるさが教室を包む。クラスメイトが思い思いの時間をすごすなか一足先に教室を出た。正直言ってクラスの中で私は浮いている。理由は簡単で、ただ単に空気が合わないというだけだ。平和過ぎる空気が気持ち悪い。まるで海に放り出された淡水魚みたいだ、なんて思う。クラスメイトはそんな私を気遣ってか距離を置いてくれている。ただ、初春さんたちは「上条さんはですね、高嶺の花って感じなんですよ。近づき難いけど嫌な感じはしないっていうやつです」なんて言っていたが、まあ彼女たちも私を気遣ってくれたのだろう。そこは感謝。
逃げるようにして校舎を出れば、校門の前で待っていたらしい顔見知りを見つけた。
「あれ、初春さんも佐天さんもなんでいるの? 今HR終わったとこでしょ?」
「それはこっちの台詞です。上条さんだって今帰るところでしょう」
「そーですよ、だって放課後教室に行ってもいつも帰ってるじゃないですか」
「その、もしかして避けてるんですか」と佐天さんは言う。寂しそうで気まずそうで悲しそうだ。不必要な心配をかけてしまったらしい。不謹慎だが心配してくれたことが嬉かったり。
「ううん、違うの。ただ居心地が悪いから早めに上がらせてもらってるだけ」
「居心地が悪いって、苛められてるんですか……?」
「そういうわけじゃないよ。そのまんまの意味、どうしてもクラスの空気が合わなくて。それはさて置き、一緒に帰る?」
その話は今度するべきときにするよ。
彼女たちは心配していたものの納得してくれたらしい。歩きながら雑談しているうちに二人ともいつものテンションに戻った。
「セブンスミスト」に行く約束をしていたらしく、一緒に行かないかと誘われた。もちろん頷いた。セブンスミストとは衣類を専門に取り扱う大衆向けのショップだ。私は行ったことがないからよくは知らない。本当は兄と一緒に行ってみたいのだが、肝心の兄と都合がうまく合わない。困った人間を放って置けない人なのだ。
「これで明日の終業式が終わればついに夏休みっ!」
「うーん、夏休みって言われても正直やることが勉強しかないのよねー……」
「えぇっ、マジですか!?」
失礼なことを言ってくれる。これでも成績はかなりいいのに。
ふと初春さんが「あ!」と声を上げる。誰か知り合いを見つけたらしい。彼女の視線を追うとブラウスにサマーセーター、プリーツスカートを着たどこにでもいそうな女の子だった。どこかで見たような制服だ。肩辺りまである栗色の髪が特徴的。「御坂さーん」といいながら、初春さんが小走りで向かっていく。
とうの御坂さんも気づいたようで、「おー」と手を上げる。
「おっすー、そっちはお友達?」
「はいっ」
近づいてみてわかったが、この制服はたしかどこぞのお嬢様学校のものだったはずだ。
よく見ると彼女は電撃使いらしい。しかもかなり強力――、最低でもレベル4はあるのかな? なんとなくわかるのだ。
「これから一緒に洋服を見に――」
初春さんの言葉を遮り、肩を掴んで佐天さんが引っ張っていく。佐天さんも気付いたらしい。離れたところで小声で話している。
自然と、呆然とした御坂さんと私が残される形になった。
ああそうか、と思い出した。彼女が着ているのは常盤台中学の制服だったはずだ。常盤台中学とはいわゆるエリートお嬢様校というやつで入学にはレベル3以上が最低条件。噂によれば全校生徒を突撃させれば生身でホワイトハウスを攻略できるとかなんとか。
そんなお嬢様の一人が目の前にいるというわけらしい。
「あー、えっと、上条柚姫です。不束者ですが何卒よろしくお願いします、お嬢様。……って感じでいい?」
ぺこり。少しおどけながら頭を下げればお嬢様は苦笑する。「ああ、またか」って感じの顔だ。
「そんな堅苦しくならなくていいわよ、同年代なんだし。まあその感じじゃ言う必要もないだろうけど」
慣れた感じに「いちいち敬語を使わないこと」って言われた。結構人付き合いのいい人かもしれない。
「こっちこそよろしく。私は――」
そこへ「『超能力者』!」という初春さんの声が聞こえた。ついでに佐天さんの面白おかしい返答も聞こえた。テンション高いなぁ。
「それも学園都市最強の電撃使い、あの『超電磁砲』の御坂美琴さんなのですっ!!」
ずぎゃーん。面白い効果音が聞こえた気がした。
初春さんの紹介が入ってしまった。自己紹介を奪われる形となった御坂さんは微妙に居心地が悪そうだ。二人は尚も盛り上がり続けている。
レベル5第三位『超電磁砲』。御坂美琴。噂は耳にしていたがまさか本人に会えるとは思わなかった。どうりで桁違いな能力を感じたわけか。
「あのっ……あたし初春の親友やってる佐天涙子です!!」
「そ、そう、……よろしくね」
先ほどと違ってたどたどしい受け答えだ。目の輝いている佐天さんに手を握られていれば仕方ないと思う。
まるで憧れのアイドルを目の前にしているような感じだ。いやまあ、レベル5の能力者に会うなんて滅多にないし、御坂さんはそういう扱いをあまり好いていないようだが周りから見れば彼女はアイドルのようなものなのだろう。
「あ、洋服見るなら一緒に行ってもいいかしら」
御坂さんもご一緒する気らしい。意外だ。
「あれ。でも普通の衣服店よ?」
「そのくらい普通に行くわよ。お嬢様だってコンビニくらいは使うわ」
それとなく聞いてみると苦笑しながらも御坂さんは答えてくれた。
ふむふむ、いくら常盤台のお嬢様でも庶民向けのストアくらいは使うらしい。ふーん、と答えつつお嬢様に対する認識を改めた。
「じゃあそろそろ行きましょ――」
行きましょうか、まで言えなかった。
気付けば私たち四人は軟派な男子たちに囲まれていた。ざっと見て七・八人ほど。スキルアウトなのだろうか、誰も彼も学校行ってますなんて顔をしていない。
無理やり彼らを押しのけて出ようとするも金髪で唇にピアスを付けた男とスキンヘッドの大柄な男に両腕を掴まれる。金髪の男は私の腕を掴んだままタバコくさい顔を近づけてきた。
「別に逃げなくてもいいって。取って食ったりなんかしないからさ」
「良ければ俺たちと遊ばない? 俺たちも今暇してんだよね」
「ちょっと、何なんですかあなたたち……」
掴んだ手を離そうとしても、悲しいかな私は男子の手を振り払えるほど鍛えているわけではない。しかも二人がかりで両腕を押さえられているのだ。
「君たち可愛いねー。どこの中学の子?」
「あ、あははは……。私たちこれから用事あるんだけど……。とりあえず上条さんは離してほしいな~、なんて……」
「…………っ」
背後で腰が引けたような佐天さんの声と初春さんが息を呑むのが聞こえる。……っ、こいつら私の後輩に何をして……!
腕を放そうと必死にもがくが男たちは笑って私を眺めているだけだ。何をしても力じゃ勝ち目なんてない。絶体絶命。最悪だ、私にはどうすることもできない。できるならば三人だけでも逃げてもらいたいのだが。
そんな私の願いも虚しく、他の男たちが御坂さんに近づいていく。
「ねぇねぇ、あの子必死だけど助けなくていいの?」
「君だけ制服違うねぇ。どこの子?」
「さぁね。あんたらに教えることなんて何もないわ」
見下したような御坂さんの発言に、彼女を取り囲んでいた男たちは下種な笑顔で応えた。
「へぇ、強気だなぁ……」
「おらっ、―――ぃってぇ!!」
彼女の腕を掴もうとしたニット帽を被った男が突然悲鳴を上げた。見れば御坂さんが踵で足を踏んでいたのだ。
「何よ。先に手を出したのはそっちでしょ?」
バカみたい、と鼻で笑う御坂さん。
足を押さえるために屈んでいた男が彼女を睨め上げるが、御坂さんは一瞥すらくれてやらない。ただ見下げるように笑っている。
「このアマ……っ」
「流石にそれはいけないなぁ、お嬢ちゃん」
「おい、どうした?」
彼女の態度に腹を据えかねたのか、両腕を掴んでいた二人が私を離して御坂さんのほうに向かう。佐天さんと初春さんを囲んでいた人たちも、御坂さん一人を囲むように集まっていく。
足を踏まれたニット帽の男も他の仲間が集まって気を良くしたのか再び下品な笑みを浮かべた。全員が全員、にやにやと逃げ場を失った御坂さんを見ているが、御坂さんは相変わらず不敵に笑うだけだ。
「…………あれ?」
ヒクっ、と。不敵に笑っている御坂さんの口元がひくついているのが見えた。それも恐怖からくるものではなく、純粋に怒りからきているものだとわかる。男たちはそれに気付いていないようだったが、私にはわかった。
あれは爆発する。しかももう抑えが利かなそうだ。
「二人とも、こっち……!」
「え、上条さん……?」
「でも御坂さんが……」
「いいからっ」
わかっていない二人の手を引っ張ってその場から少し離れる。注意力が散漫しているのかアンチスキルたちは私たちが離れていることにも気付いていない。
「暴力は良くないって学校で教わらなかったのかい?」
「そうだなぁ、それなら俺たちが教えてあげるよ」
「それならいい場所があるぜ。おら、こっちに来――」
まだ懲りていないのか、さっき足を踏まれていたニット帽が御坂さんの腕を再び掴もうとして、
「あーもう、だからうっさいって言ってるのよ!!」
雷が落ちた。いや比喩じゃなく。
強烈な光と爆音に、とっさに目を閉じてしまう。恐る恐る目を開ければスキルアウトが全員地面に倒れていた。
あれだけの電撃でしかし全員気絶しているだけみたいだ。地面はぷすぷすと煙を上げるくらい焦げ付いているのに、スキルアウトの連中には倒れたときの傷しか付いていないように見える。焦げてすらいない。
そんな惨状の中心点で御坂さんは「まったくもう……」と溜息をした。
「ほら、さっさと行くわよ」
面倒くさそうな御坂さんの声に、圧倒的な光景に唖然としていた二人も我に帰ったようで小走りで御坂さんの下へと向かった。
「御坂さん! こんな場所で能力を使うなんて――」
「あーはいはい。さっさと行かないと日が暮れちゃうわ」
風紀委員である初春さんの注意を軽く流して、御坂さんは初春さんの手をつないでセブンスミストのある方向へと引っ張っていく。佐天さんもそれに続いて、私も慌てて小走りで追いかけた。
「あ、ちょ、ちょっと御坂さん……!」
「いいから。初春、そういうのいいから」
「うわっ、佐天さんまでっ!?」
風紀委員の仕事を優先しようとする初春さんを御坂さんと佐天さんが引っ張っていく。
「ほら、上条さんも早く」
「そうですよ。今日はいっぱい楽しむって決めてるんですから!」
今度は私も御坂さんに掴まれた。佐天さんはどうやら完全にいつもの調子を取り戻したようだ。
それに引っ張られて初春さんもいつもどおり振り回されている。不良に囲まれて平然としていた御坂さんもそうだが、二人のすぐに立ち直れるところを私は羨ましいと思っていた。私なんて未だに三人に手を挙げようとした人たちへの怒りを持て余しているというのに、彼女たちを見ているとそれすらもどうでもいいと思えるような心境になってきてしまうのだ。
「そーそー。あんなのは放っておいて行きましょう」
御坂さんは私が考えていたことがわかっているようだった。その上で気を遣ってくれているみたいだ。私のほうがお姉さんなのになぁ……。
一緒に引っ張られている初春さんと、なんだかな、と笑いながら溜息を吐いた。
道中。
またも佐天さんが暴挙に出た。
「御坂さーん、行きますよーっ!」
すぱーん。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」
ああ……、またか。御坂さんに心中で合掌した。本当、ご愁傷様。でもその悲鳴は女の子としてどうかと思うわ。というか御坂さんスカートの下に半ズボン着てるのね。私も着てみようかな。
「あらら、御坂さんズボン履いているんですね。駄目ですよ~、男を悩殺したいなら上条さんみたいに色っぽい下着にしないと。初春みたいな縞々もありですが」
「ちょっ――――!?」
「佐天さん! だから往来でセクハラしないでくださいー!」
まったくもう、佐天さんってばこういうことしなければ普通に良い子なのになぁ……。
作者の書く不良はなんだかマジでヤバイ奴らになってきてしまって困る。小物感が圧倒的に足りていないような気がする。