とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine- 作:独楽と布団中の図書館
巻き込まれ、流れに呑まれ、物語に加わる。
受動的に、ただ身を任せて。
■Seventh mist■
『超能力者』。学園都市に七人しかいない最高位の能力者。その第三位『超電磁砲』御坂美琴。
その学園都市で知らない人間はまずいないような、超の付く有名人が妙な動きをしてる。衣服店で何故か不審な挙動を見せている。なんなんだあれは。
声をかけようか無視するか迷ったが結局声をかけることにした。これ以上知り合いの醜態を晒すわけにもいかない。
丁度、試着用の鏡に映りこむ形で声をかけた。
「何してんだ、オマエ」
瞬間、声にならない悲鳴が上がる。
「な、な、なっ……!? なんであんたがここにいるのよっ!!?」
どうやら俺はいてはいけないらしい。相変わらず騒がしいやつだ。それにしても面白い動きだ。
こいつとは会ったときからまともな会話をしていない気がする。何かしら言い返してやろうとしたところで背後から「おにーちゃーん」と声がかかった。振り返ると今しがた案内してやった(迷ってしまったらしく困っていたところを助けた)六・七歳くらいの女の子が、子供用の服を持ってこっちに走り寄って来ていた。
女の子は御坂に気付いたように「あ」と声を上げた。
「トキワダイのおねーちゃんだー」
「……あ、昨日の……」
驚いたことに知り合いらしい。だが御坂にとってそこは重要ではないらしく「あんた妹なんていたの?」と驚いている。「違う」と否定する。
「この子が困っていたから連れてきただけだよ」
「ふぅん、あんたって人助けばっかしてるのね」
「好きでしてる訳じゃない」
本当はさっさと保護者のところに押し返してやりたかったが、放り捨てるわけにもいかないだろう。
とりあえず知り合いの醜態を止めることはできたから、もう用はないだろうと歩き去ろうとした矢先「ちょっと待ちなさい!」と止められた。なんなんだ。
「あんたとは決着を付けなきゃいけないのよ!」
相変わらず勝負事しか頭にないらしい。
出会うたびに電撃放たれて嫌というほど理解しているつもりだが、彼女は本気で周りが見えていないようだった。ただ単に喧嘩っ早いだけなのかもしれないが。
「――こんな子供の前ではじめるつもりか?」
もっともなことを言えば「うっ」と詰まらせる。ある程度の良識はあるらしかった。ただそこを突いた時点でこっちのペースだ。あとはこのまま適当な理由をつけてこの場を立ち去ればいい。
「文句やらがあると思うが、すぐにでも帰らせてもら――」
「お兄ちゃん?」
さてさっさと保護者を探そう、と立ち去ろうとしたところに背後から聞きなれた声が届いた。
振り返ると案の定妹の姿があった。
「……なんでこんなとこにいるんだ」
「それはこっちの台詞。なんでこんなところにいるの?」
驚きながらもどことなく嬉しそうな柚姫が小走りで寄ってくる。二人の女子がその後に続いてきた。同じ制服を着ているところを見ると学校の知り合いのようだ。
首をかしげる柚姫に、先ほど御坂に説明した通りに迷子の女の子について教えていると、「え、ちょ、お兄ちゃ……?」とうろたえていた御坂が割って入ってきた。
「『お兄ちゃん』って、あんた上条さんの兄妹だったの!?」
「さっき似たような言葉を聞いたな。……上条当麻。うちの妹と仲良くしてくれて何より。――というよりお前ら知り合いだったのか」
「うん、今さっき知り合ったの。それでこっちが私の後輩」
「あたし佐天涙子って言いますお兄さん」
「私は初春飾利っていいます」
長髪の子と頭に花飾りをした子が順に自己紹介してくれた。二人とも普通の子だ。仲良くやってるようで、妹の学校生活を少々心配していた兄としては安心した。
そういえば、俺も柚姫も家ではあまり学校のことは話さない。それ以上に夕飯を何にするかとか、家事手伝え手伝ってみたいな所帯染みた会話ばかりしているから、今更ながらに俺は柚姫の学校生活についてほとんど知らなかった。まあ柚姫なら大丈夫だろうと放任していた面も大きいのだが、これを機に兄として聞いてみてもいいかもしれない。
「なあお前ら、柚姫は学校でどんな感じ――」
――~~♪
最後までいえなかった。
どこからか着信音が聞こえたのだ。
「あ、すみません、ちょっと出てきます」
それを聞いて動いたのは初春だった。着信があったのはどうやら彼女の携帯らしい。どうやら俺の話はお流れになりそうだった。初春は端末を取り出して耳に当てる。
瞬間、慌てたような大声がこっちまで届いてきた。
『初春ッ!! 今どこにいますの!!?』
「わわわっ……、白井さん!?」
端末を落としそうになりながら初春は必死で弁明する。サボりがばれたのではないかと危惧しているように見える。しかしそんなことは、どうやら今はあまり重要ではないらしい。相当緊迫しているようだ。
ふと、通話の中で初春が口にした『虚空爆破事件』という単語が気になった。新聞で見た言葉だ。いわゆる爆破テロ。最近ではぬいぐるみや子供用の鞄に爆弾を仕掛けていて、数を重ねるたびに威力も徐々に上がっていっているらしい。まだ死者は出ていないようだが犯人が捕まらない以上楽観視はできない、か。
通話の終わったらしい初春に何か言われたらしい佐天が走り去っていくのが見えた。
セブンスミストに爆破予告でもあったか?
「上条さんとお兄さんもすぐ避難してください! いいですね!?」
「え、でも……。うん、わかったよ」
ためらいながらも柚姫は頷く。風紀委員の邪魔をするわけにはいかないと思っているのだろう。
何にしても柚姫とその友人三人。それと案内してやった女の子だけは避難させなければならないのだが、
「……?」
女の子の姿が見えない。いつの間にかどこかに遊びに行ってしまっていた。子供とはそういうものだし、こんな状況になるなら手を繋いで置けばよかったと今更ながらに後悔する。
「柚姫。こいつらと一緒に避難していろ」
「え、お兄ちゃんは?」
「さっきまで一緒にいたガキを探す」
その言葉に御坂が「あっ!」と声を上げた。彼女もそのことに気がついたらしい。
「御坂、こいつらを頼む」
それだけ言い残して柚姫たちの制止を無視して女の子の捜索に向かった。
■□■□■□
「御坂、こいつらを頼む」
「あ、お兄ちゃん!?」
柚姫さんの制止を無視してあいつは女の子を捜しに行ってしまった。なんというか本当にお人好しだ。それを指摘してやると嫌そうに否定するのだが。そのくせよくわからないけど強力らしい能力を持っているようだったから、そんなに卑屈にならなくてもいいのにと思う。超電磁砲を飛ばしても、砂鉄の刃を飛ばしても、鉄骨を使ったってアイツは当然のように凌いでしまうのだ。何事にも動じず、何でもそつなくこなせるような。完璧人間かあいつは。
思考に耽っていると初春さんに「御坂さん!」とどやされた。そうだった、早く避難誘導をしないと。すると柚姫さんが手を上げた。
「私も手伝うよ!」
兄を置いていくことはできない、とのことだった。初春さんも察したのか柚姫さんに避難誘導を手伝ってもらうことにしたらしい。
…………。
………。
……。
「よしっ」
静まり返った店内を見渡して息を吐いた。とりあえずこれで全員外に出せた。あの馬鹿と子供はどうしただろうか?
「御坂さんっ」
通路の反対側から現れた。初春さんだ。彼女も誘導が終わったらしい。あとは、柚姫さんだけだが……、
「おねーちゃーん」
声が聞こえた。小さな足音が聞こえてくる。
「え?」
さっきの女の子が駆け寄ってくる。カエルの人形を持っていた。一瞬ゲコ太かと思った。ちょっと寂しかった。
「あの馬鹿、結局――」
「――――ッ!!?」
「初春さん!?」
突然、初春さんが女の子に向かって駆け出した。そのまま女の子を抱きかかえて、持っていた人形を無理やり叩き落として、弾かれるようにまたこっちに戻ってくる。何なんだと訝っていれば彼女は「逃げてください!!」と叫んだ。その真剣な剣幕に即座に身構える。
「あれが爆弾です!!」
彼女の言葉を肯定するかのように人形が圧縮される。まるで自分の体に飲み込まれるように、べきべきと変形していく。
中に仕込まれていたアルミを基点に重力子を加速させて周囲に放出させる。『量子変速』。規模から見てもレベル4はある。一度爆発すればこの階層にある物品全てが跡形も無く吹き飛ぶ威力だ。もしかしたら近くの壁や柱に甚大な被害を与えるかもしれない。そうなればビルが倒壊することは有り得ない、なんて言えない状況になってくる。
あまり時間は残っていないが、今ならまだ間に合う。
ならば、
(レールガンで爆弾ごと吹き飛ばすッ!)
ポケットからコインを取り出し、銃を照準するように人形へ向けて構える。
爆弾へ伸ばした指の先、空中に浮いたコインが上下に小刻みに振動を始める。腕を砲台として上下に二本、プラスマイナスで対となる電極カタパルトを作り出したのだ。そのままコインに電流が流れないように電流を加速・増大させ、さらに電極カタパルトを人形に触れる位置まで押し伸ばす。このまま発射すれば人形に到達するまでのおおよそ15mの区間で弾丸は加速し続け、人形に触れた瞬間に熱と衝撃が射線上に炸裂する。人形など跡形も無く消し飛ばせるのだ。それだけの威力はあると自負している。
少々問題があるとするならば威力がありすぎること。一歩加減を間違えばこの階の内装はめちゃくちゃになり、壁や床には大穴が開くのだが、
「このビルが倒壊するよりはマシでしょ!」
ビルの構造に被害が出ないように加減してあげるから、文句ならこんなところで爆弾を作った奴に言ってもらいたい。
――充電完了。
十分な電力が貯まっていざ射出というところで、しかし私はコインを撃ち出すことはできなかった。
(なっ!?)
人形の向こう側、見知った顔が飛び出てきたのだ。
「御坂さん、どうかしたんですか!?」
「初春、大丈夫ー!?」
対面、ちょうど人形を挟んだところにある通路から柚姫さんと佐天さんが現れたのだ。
二人がこちらに気付いてすぐに、柚姫さんが「しまった……」と顔を歪めた。今のこの状況を理解したらしい。
私たちが心配になったのか、何故だかここに戻ってきてしまった佐天さんの腕を掴んでその場を離れようとする。
「戻るよ佐天さん!」
「え、ちょっ……!?」
佐天さんを引っ張りながら柚姫さんが射線から離れようとするが、レールガンを放てば多少射線から少し離れた程度では衝撃波が届いてしまう。しかも、
(これじゃ撃てないっ!!)
この距離でフルに充電したレールガンを放てば、いくら加減して直撃でなくても、それこそ壁際に避難していようともまず間違いなく致命傷になる。こちら側に衝撃が来ないように弾速と威力を調整しているだけに、標的側にいる限り、最悪の場合人間など跡形も残らない。そんなことは目に見えている。
もう時間が無い。人形はすでに消えていた。残っているのは加速した粒子のみ。考えてる余裕すらない。どうすれば、
(どうすればいい……ッ!?)
粒子の加速が臨界点に達した。
「…………ッ!」
衝撃に備え身をかがめて目を閉じた。しかし爆発の衝撃は来ない。爆音も無い。
「…………?」
目を開ければ、すぐ目の前に、加速粒子を右手でかき消した上条当麻の後姿があった。
この回では御坂さんの超電磁砲の構え方撃ち方を変えてみたのですがどうでしょうか。