とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine-   作:独楽と布団中の図書館

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06. Encounter -3rd-

 静かな出会いは、雨の中に溶けていく。

 

 

 

 

■Encounter -3rd-■

 

 

 

 

 降り注ぐ雨に身を晒して、砂利の上に倒れるように座り込んだ。座り込んだすぐ横に詰まれた鉄骨の山に地面をずりながら寄りかかる。

 

「ここは……」

 

 どこだろう、と呟いて見渡せば見たこともないような列車がいくつも並んでいた。列車置き場だろうか。見える範囲で線路が十数本ある。今しがた寄りかかった鉄骨も線路か倉庫の骨組みに使われているものかもしれない。

 全身を苛む鈍い疲労に、倒れこんでから少し動いただけですでに体は動かなくなっていた。朦朧とし始めた意識の中、見上げた夜空は曇天に覆われている。群れを成して落ちてくる水滴が衣服に弾けて吸い込まれていく。

 水を吸った布の重さに、このまま地面に溶けていけたらな、なんて自嘲気味に心中で呟いた。このまま世界から零れ落ちて消えていけたら、どれだけ救われるだろう。どれだけ報われるのだろう。

 そんなことを永遠と考えながら、ただ月明かりの届かない夜空を眺めていた。

 

「あの――」

 

 ふと、なんの脈絡もなく視界の下から声が掛かった。左肩に手を置かれていることに気付いた。

 視線を空から下ろすと、少し離れたところにある電灯を背景に、私を見下ろす形で人影がこちらを眺めているように見えた。逆光で影になっていてよく見えない。いつから居たのか気付かなかった。いつ近づかれたのかももうわからない。

 

「あの、こんなところで寝たら、風邪、引きますよ……?」

 

 街灯の光に目が慣れてきたのか、逆光に輪郭がぼんやりと浮かび上がってきた。どこかの学校の女子用の制服を着ている。自信の無さげな瞳が、縁無しの眼鏡の奥から私を覗いていた。言動や表情から受ける印象はおとなしく、小動物的なものを想像させる。腰あたりまで伸びてところどころ跳ねている黒い長髪、その頭頂から飛び出ている一房の髪が印象的だ。

 

(誰……?)

 

 不思議と危険な感じはしなかった。敵意や殺意といった類のものが一切なかったのだ。まるで、雨に濡れた野良猫やら野良犬を見つけたからちょっとだけ撫でていこうかな、って感じだ。

 まあ似たようなものだし、彼女を振り払う体力も残っていないので、こちらとしてももうどうにでもなれという感じなのだが。

 左肩に置かれた手が離れ、恐る恐るといった感じに線の細い手が再び近づいてくる。別に噛み付きなんてしないのに。もしかしたら、彼女はちょっと臆病なのかもしれない。

 

 雨が止んだ。雲の隙間から月明かりが差し込んでくる。

 ようやくはっきりと見えた彼女の姿は、まるで、

 

(天使、みたい……)

 

 そんな夢見がちな少女のようなことを考えながら、意識は闇の淵に沈んでいった。

 

 

…………………。

…………。

……。

 

 

 

 

 唐突に目が醒めた。

 

「っ――――、?」

 

 真っ先に視界に入ったのは木製の天井。ところどころ黄ばんでいて、アパートの全体像が容易に想像できるくらいに使い古された天井だった。さっきから知らないところばかりだ。

 体の疲労も多少なりとも回復しているようだったからとりあえず動こうとして、上体を起こして違和感を覚えた。

 見下ろせば、稲藁でできた床に敷かれた布。そして体にかけられた白いシーツ。そして私は見慣れない白色のワンピースを着ていた。

 どういうことだろう、と考えていると部屋の外から声が聞こえてきた。

 

『ありがとうございました風斬ちゃん』

『いえ、私が押し付けてしまったようなものですから……』

 

 それから一言二言聞こえた後、玄関の木製の扉を開けて誰かが入ってくる。

 

「あ、起きてたんですねー。ごめんなさい、ちょっと買出しに行ってましたー」

 

 女の子だった。見た目小学生くらいの女の子が両手にアルコールの缶と生肉のパックを持って入ってきた。何なんだこの摩訶不思議生物。

 

「服は濡れていたので洗濯して干しておきました。お腹が減っているようでしたらご飯を作りますけど、どうしますか?」

「――えっと、…………」

 

 ちょっと話についていけない。ただ彼女が指差した先に、先ほどまで着ていたレザーのスーツ一式掛かっていた。だがまだ乾いていないらしい。丁寧に洗われているらしく、泥汚れがほとんど落ちているように見えるし生地が傷んでいるようにも見えない。その代わりが今私が着ているワンピース、とのことだ。「それとこれも買ってきました」と、女の子にレッグウォーマーとサッシュを渡された。これを使えということらしい。

 なんとなく状況が読めてきたところで、ようやく部屋を見回した。少々散らかっている。空き缶や煙草の吸殻もあった。これはあの女の子のものだろうか。私がじろじろと部屋を見ていることに気付いた女の子が「あ、あはは……。散らかっていてごめんなさい……」とちょっと恥ずかしがっている。……少々デリカシーに欠けていたかもしれない。

 当の女の子は手にしていた食料を何か白い機械の箱(たしかレイゾウコとかいうもの)に入れて、私の横に腰掛けた。

 

「月詠小萌といいます、お名前を教えていただけますか?」

 

 なんだろう、立ち振る舞いが年不相応だ。だいぶ大人びている。女の子は付け加えるように「あ、ちなみに教師をやってます」と言った。本当だろうか。普通は信じられないようなものだが。

 聞きたいことは山ほどあったが今はとりあえず危険はないようだから、とりあえずは彼女の言うことに従おうと思う。

 

 

 

 

 

「私は――」

 

 

 

 

 

 私の名前は、

 

 

 

 

 

「アルストロメリア。メリアって呼んでほしい」

 

 

 

 




はい、再びオリキャラ登場。幻想御手編だとここで登場するだけなので、詳細は省きます。彼女の容姿は彼女視点のためこの回では説明なし。
ちなみにアルストロメリアとはユリ科の花で、日本語だと百合水仙や夢百合草と呼ばれます。
ついでに妹達編や風斬編は通過済み(魔術サイドは関わっていません)。そして暗部の四人編成のチームもすでに一部を除き編成されているという設定です。
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