とある幻想の四重響奏 -Quartet of a Imagine- 作:独楽と布団中の図書館
とりあえず週一くらいが丁度いいのかもしれない。
今夜の献立。放課後の厄介事。
嗚呼、今日も平和である。
■Trouble After School■
七月十九日。
昨夜から降り出した雨は相変わらず降り続けている。濡れた屋上に避難することもできずに、仕方なしに終業式に出席した。今は学期最後のHRの終わり際だ。月詠教諭が「はーい、みなさーん」と声を掛ける。
「明日からお楽しみの夏休みなのです。補修指定者は明日からも学校に来てもらうのでそのつもりでいてくださいねー」
カタログから目を放して、窓際最後列の席からグラウンドを見下ろせば、相変わらずの雨。『樹形図の設計者』の予報ではこの雨は今日の昼過ぎには止むらしい。『樹形図の設計者』は表向きは完全な天気予報をするためにつくられた機械であり、有する『完全な予報』とはすでに預言といえる類のものだった。
そんな詮の無いことを考えながら、一昨日の騒ぎを思い出す。
結論から言って事件は未然に防がれ、犯人も風紀委員に拘束された。俺にわかるのは、どうやら犯人の拘束にも御坂が関わっていたということくらいだ。
結局俺は、あの後御坂と一言二言交わしただけだったからその程度のことしか知らない。帰りは柚姫たちと合流してそれぞれ帰途についた。ことの顛末にも犯行動機にも、犯人本来の能力指数の不一致にも大した興味はない。
意識が完全に外に向いていたからだろう、月詠教諭に名指しされた。
「上条ちゃん、あなたのことを言っているんですよ?」
「……?」
「どうしてって顔してやがりますね。上条ちゃんも補修なのです。ちゃんと自覚してもらわないと困ります、この不真面目生徒」
補修にでることは決まっているし、承諾したはずなんだが信用されてないんだろう。客観的に見ればそれもあたりまえのことだが。
「補修はちゃんと出ますよ」
「そんな雑誌読みながら言われても説得力ありません。というよりいつからそんな物読んでたんですか。ちゃんと閉まってください。――いいですか、補修とは補って修めるという意味であって、今まで足りなかったものを補い踏み台にして進むということです。これを機に真人間になってもらわないと困るのです」
まるで俺が人非人みたいな言い方だった。まあその通りなんだろうけど。俺みたいなのがまともな訳がないのだ。不真面目でテキトーなのも全くもってその通りだ。
「――了解しました」
「……まあいいです。授業態度や進路については補修中にじっくり話し合いましょうねー」
なんでこの教師はここまでお人好しなのだろうな、なんて考える。ちょっと怖いくらいだ。何をどういう風に考えれば、ここまで真摯に他人と関われるのだろう。
それはともかくとして、右斜め前に座っている青髪ピアスが「何なんや、一体何でなんや。カミやんばっかずるいでぇえ!!」とか喚いて、青髪の目の前に座っている吹寄に「うるさい!」と物理の教科書で頭を叩かれた。そのまま撃沈した。俺の目の前、青髪の隣では土御門が盛大に欠伸を漏らしているし、深嗣は隣の席でくつくつ笑っている。
……くそ、なんでこいつらが俺の席周辺に纏まっているんだ。
「はいはい皆さん静かに。くれぐれも休み中は羽目を外し過ぎないように――」
それから夏休みの注意事項や課題についてを簡単に説明した月読教諭が「はい、話は以上です」と言葉を閉める。それを合図に青髪が「起立、さようならー」と礼をした。
これでようやく今日のところは開放される。やっと帰れるな、と呟きながら机横にかけてあった鞄に手をかける。すると深嗣が声をかけてきた。
「おい当麻」
「なんだよ」
「いや何、今日は部屋に戻ろうと思ってな」
相変わらずふてぶてしく深嗣が「たまにか顔を出してやんないと柚姫が寂しがるだろ?」とのたまった。
深嗣とはガキの頃からの昔馴染みで、俺たち二人が高校生になっても柚姫も含めて俺たちは基本的に三人一緒にいた。こいつが部屋に泊まることなんていつものことだったし、三食一緒に食べるなんて日常茶飯事だ。だがここ最近、深嗣と柚姫は会っていない。喧嘩別れのように仲が悪くなったわけではなく、深嗣が放課後勝手にどこかへ出歩いてそのまま部屋に戻ってこないというだけだ。もう子供という訳でもないし、別段心配などしていないから俺と柚姫はいちいち口を出さなかったし、深嗣の気が向けばまた戻ってくるだろうと思っていた。
どうやらそれが今日らしい。
「俺様の帰還だぜ? パーっと豪勢にしてくれよ?」
「はぁ?」
いつものことながら随分と尊大な言葉だ。相も変わらず意味がわからない。
「だから飯。飯作ってくれって、豪勢に」
「何故」
「久々の俺の凱旋だから」
こいつは戦争にでも行ってきたのか。それで目出度く帰ってこれたから飯を多くしろと。
ふざけてて言っているのがわかっているから、態々真面目にとりあうつもりも無い。だが理由はどうであれ、たまには夕食を豪華にしてもいいかもしれない。調理に手を抜いているつもりはないが、最近は割りと簡単に済ませていた。
とりあえずこいつの凱旋云々はともかくとして、今日ぐらいは出せるもの全部出してもいいかもしれない。
さて、今晩の献立はどうしようか……。
「何や面白そな話してんな。ボクらも混ぜてくれへん?」
「そうそう。食卓ってのは大人数で囲うのが一番楽しいんだぜぃ。ま、御相伴にあずかりたいってのが本音なんだがにゃー」
要するに集りたいわけだ。ついでに上条宅の位置を把握するというのも理由に入るのかもしれない。放課後、彼らに後をつけられたことが何度かあったが、すべて悉く撒いてやった。まあ謎の生徒Aと称されるくらいだ。自宅の位置くらいは知っておきたかったのだろう。
切削は幼馴染三人で水入らずに楽しみたかったのか少々微妙な顔をしていたが、まあそういうのも悪くないか、と不承不承に呟いた。どうやら断るつもりもないようだ。
「ちょっとあなた達」
と、今度は吹寄もやってきた。
「あなたたちだけじゃ何するかわかったものじゃありません。よって、私も監督役として同席します」
「…………」
すでに彼女の中では俺たちと食卓に付くことが決定事項になっているらしかった。俺に拒否権はないようだ。
「な、何よその目は」
「……あー、いやなんというか。なぁ?」
「別になんでもない」
深嗣と苦笑し合う。今俺たちが考えていたことは言わぬが花だろう。
「なんや、委員長ちゃんも寂しがったりするんやな」
瞬間、吹寄の姿がぶれる。青髪が顔面から床に叩きつけられた。なんて的確で素早い、脚払いから踵落としの二連撃。衝撃で軽く校舎が揺れた……ような気がした。
ごく稀に、女子はものすごい威力で攻撃を放つことがある。怖いくらいだ。もっとも青髪は自業自得だが。
「言いたいことがあるならいいなさい」
「――別に」
「本当に?」
言いながら吹寄が近づいてきた。正確に言えば腰を折って、顔を覗き込んできた。息が掛かるくらいの距離で吹寄の強気な顔が視界一面に広がった。
「何も思ってない。というより顔が近い」
「あっそ。……それはそれで傷つくわね」
何か呟きながら吹寄は顔を離した。彼女も人に聞かせるつもりがなかったのか、後半の言葉は声が小さくて聞き取れなかった。
拗ねたような顔の吹寄をよそに青髪と土御門が騒いでる。「もういっそうのこと合コンとかしたいにゃ~」とか、「せやなぁ、そや柚姫ちゃんの友達も呼んでパァっと思い切り合コンせえへん?」とか。……何の暗号だ。意味がわからん。
「お前の知り合いなんて全員集めても両手で足りる程度なんだ。ちょうどいいんじゃねぇの?」
「馬鹿にしてんのかお前は」
まあ、知り合いの大半は裏で知り合った連中ばかりだから呼ぼうとも思わないのだけれど。ただでさえ部屋のキャパシティギリギリなのだ。どう考えても収集がつかなくなる。
だがそんなことよりも、何よりも先に釘を刺さなければならないだろう。これが最重要項目だ。
「おい青髪」
「お、なんや? カミやんから話しかけてくるなんて珍しいな」
「妹に手出したら殺すからな」
…………。
ギクリ。青髪の動きが止まる。――ここで今殺そうか。
「そ、そんな当たり前のことやないか~、ボクが柚姫ちゃんになんかに手ぇだすはずない――」
「死ね」
――ぎゃぁあああああああああああああああああ!!
とりあえず再起不能になるまで叩き潰しておいた。
一方、そんなやり取りを遠巻きに眺めていたクラスメイトたちが、
「ねぇねぇ、上条くんてシスコンなのかな?」
「まあ今のは妹さんを『なんか』扱いしたアイツが悪いわね。というよりあんたまだ上条君狙って――、ってあれ? 上条君が読んでるのって……」
「『家族に愛のあるお弁当を』――って、料理カタログ!?」
「え、なに、上条って料理できるの?」
「相変わらず謎だな上条」
「やば、上条君の料理食べてみたいかも」
「あんた、それはもう病気だわ」
といった会話をしていたことに上条当麻は気付かなかった。
2014/11/18追記。投稿する前に確認しているんだけど、誤字が減らんね……。気付いたとこから直していきます。