砂漠に咲くは、鉄の華   作:山崎五郎

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※今回の話はオリキャラ及び原作キャラの過去の掘り下げ回です。
 また、世界観に対するオリジナル設定も併せて解説されます。
 原作キャラの過去改変要素を含む上、かなり過激な内容となっているため、そういったものが嫌いな方や興味のない方はブラウザバックを推奨いたします。




ヒューマン・デブリ

 

「…というわけで。

 これからアビドスに協力してもらうことになった元ヘルメット団四名だ。存分にこき使えよ」

 

「「「………」」」

 

「…どうしたお前ら」

 

「どうしたじゃありませんよ!!

 

 やっと帰ってきたと思ったら何ですか!?

 元ヘルメット団!?“協力してもらう”!?ユミカ先輩がやったのは“脅し”って言うんです!!」

 

「……お、おう。それはまあ、そうなんだがよ」

 

「ホシノ先輩たちも!!どうして止めなかったんですか!?

 こんなやり方…」

 

「うへ、その〜…」

 

「やめろアヤネ。

 この方法に決めたのは俺だ。ホシノ先輩も先生も、他の皆も関係ねぇよ。

 …それに、あんな兵器を取り出してくる奴らが、まともな方法で大人しくなんて出来ると思うか?」

 

 

びく、と赤髪の少女…ヘルメット団()リーダーの肩がびくり、と跳ねる。この場についてきただけはあり、自身の行為の善悪の区別程度はつくらしい。

 

 

「……碌でもないことを平気でするようになったやつは、一遍二遍でも叩き直してやらなきゃあ大人しくはなれねぇよ」

 

「それは……し、シロコ先輩!ユミカ先輩は…」

 

「私はユミカが決めたならそれでいいよ。

 もし逆らったりしたら、また私が大人しくさせるだけだから」

 

「そんな……」

 

「つってもまあ…それだけ脅してもたった四人だ。

 追われることになっても不良を続けようなんざ大した覚悟じゃねぇか、なぁ?」

 

「………」

 

「まあ、そういうわけだ。

 とりあえずこいつらを寝床に案内してくるから、後は各自持ち場に戻ってくれ。

 …シロ、ちょっと手伝ってくれるか」

 

「ん、了解」

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

「これから暫くはここで寝泊まりしてもらう。

 

 シャワーとトイレはそっちだ、一応掃除はしてあるが無駄遣いすんじゃねぇぞ。

 明日からは俺らが下校する時に施錠させてもらうからな」

 

「……分かった」

 

「あの〜…リーダーたちは私たちが見張りますので…もうちょっと自由とか…」

 

「駄目だ。

 万が一モビルスーツやモビルワーカーをいじられちゃあたまらねぇからな。

 それと、脱走したり校舎を荒らそうなんて思うなよ?そんな事をすりゃあ、連邦生徒会に突き出すだけじゃ済まさねぇからな」

 

「「「「………」」」」

 

「入れ」

 

 

元ヘルメット団の四人は、大人しく従った。

全員が部屋に入ったことを確認すると、出入り口の鍵が閉められる。

 

 

「で、この後はどうするの、ユミカ?」

 

「……何も与えねぇで暴動でも起こされちゃあ堪らねぇ。

 暇潰しのための雑誌やらボードゲームでもちょいちょい持ってきてやるか…」

 

 

 

 

「………」

 

 

備え付けられたベッドの一つに身を投げる元リーダー。

そのまま外側に背を向け身体を丸め、眠りにつこうとする。

 

メカニックの少女の姉…石動(いするぎ)リノが青髪の少女、駈星(かけぼし)ツカサに近寄り、小声で話しかける。

 

 

「あのぉ…サブリーダー…」

 

「私はもうサブリーダーではありません」

 

「いや〜そう言われましても…リーダーは本当にこれで良いんですかね?」

 

「………奥の手(リーサルウェポン)であるモビルスーツ、それを操縦できる能力。それらを駆使したうえで、敗北したのです。

 …そこから立ち直って以前のように振る舞えというのは、もはや不可能に近いでしょう」

 

「「……」」

 

「いずれにせよ、今我々にできるのは彼女たちに従うことです。

 大人しく寝るとしましょう」

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

 

「……それにしたって、ユミカ先輩はやり過ぎです!」

 

「まーまーアヤネちゃん。

 ユミカちゃんだってアビドスのこれからを考えて行動してくれたんでしょ〜?

 学校の掃除やら何やらも結構な苦労だったし、労働力が増えてくれるのは良いことだよ〜」

 

「だからって…!」

 

「……まあ、こればっかりはユミカちゃん達の経験上(・・・)強くは言えないかな。これ以上に酷いものを私たちよりも沢山、ユミカちゃんとシロコちゃんは見てきただろうから」

 

 

ホシノの言葉に、ノノミの表情が陰る。

アヤネは何のことか分からず首を傾げ…セリカが口を開いた。

 

 

「ねえ、前々から思ってたんだけどさ…ユミカ先輩とシロコ先輩に何かあったの?二人が仲いいのは知ってるけど」

 

「………そうだねぇ。

 どうせ話さなきゃいけないし…皆、二人には内緒にしといてよ?先生も」

 

「うん」

 

 

先生の返事を聞き、ホシノは机に伏せていた身体を起こす。

背もたれに体を預け、ふぅ…と息を吐いた。

 

 

「ねぇ皆。火星って行ったことある?」

 

「いきなり何の話を…」

 

「まーまー。少なくともおじさんは行ったことないかな〜。

 他の皆も無いんじゃない?良くて地球から来たとかさ」

 

 

 

 

「何百年も前、『厄祭戦』っていう大きな戦争があったのは知ってるでしょ?地球やコロニー、火星、その他多くの地球外居住惑星まで巻き込んだ大戦争。

 結果的に勝利したのは火星中心の地球外連合で…そこから色々技術が発達した結果、惑星間を移動したりその先に住んだりってのは容易になったわけ」

 

「それはまぁ…知ってるけど」

 

「けど、それで皆が皆幸せになれたわけじゃない。

 貧富の格差っていうのは、残念ながらそこかしこに残ったままだった。…それは、地球外連合(勝った側)でも同じ話で。

 

 親を失った戦災孤児や、口減らしのために捨てられた子供。

 そして…それを二束三文の値段で売り飛ばす悪い大人も現れた」

 

「人身、売買…」

 

「そ。…そうやって売り飛ばされる子供たちはヒューマンデブリって呼ばれるようになった。

 文字通りクズ鉄(デブリ)みたいな値段で売られるって理由でね」

 

「……」

 

「……」

 

 

その言葉に、マナコはくんだ腕の力が僅かに強まる。

ノノミも気まずそうに俯いた。

 

 

「ま、それはそれとして…そんな環境で、ユミカちゃん達は育ったんだよ」

 

「え!? じゃあ、二人は…」

 

「まあ、何となく予想通りだろうけど…。

 シロコちゃんとユミカちゃん(二人)は孤児だったんだよ、火星出身のね」

 

「そんな…!」

 

「さっきも言ったけど。戦争で勝ったからって、みんなが幸せになれるわけじゃない。

 火星の劣悪な環境も、ある程度マシになってるとはいえ…そこから逸れる人はどうしたっているよ。それがあの二人だった」

 

 

天を仰いで、また長いため息を吐いた。

右手が上がり、目元を抑えるように添えられる。

 

 

「そんな子たちが生きていくには…悪い手段に手を染めるしかなかった。盗みやら火事場泥棒(スカベンジ)だってやったらしいよ、実際」

 

「…!」

 

「まあ…それでも、殺人っていう一線を越えてなかったってのは、不幸中の幸いだったかな。

 まだあの二人は、更生の余地があったわけだし」

 

 

誰も、何も言えなかった。

想像を絶する二人の過去に、アヤネは、セリカは、イルナは、そして先生は…返す言葉を失った。

 

 

「まあ、つまり。

 悪いことをした人間が更生するのは簡単なことじゃないって、ユミカちゃんは分かってるってことだよ。

 …自分が当事者の一人だってんなら尚更、ね」

 

 

 

 

『………く…』

 

『うへ、まさかいきなり襲いかかってくるとはね…。

 とはいえ、流石にちょっと乱暴すぎたかなぁ?』

 

『……っ、ぐ』

 

『こらこら、無理に立たないほうが良いよ。

 服だってボロボロだし寒いでしょ…ほら』

 

 

現在より少し前、雪の降るアビドス。

今より一回り小柄なシロコに、ホシノは手を伸ばしている。

 

シロコは目をそらし、しかしゆっくりとその手を取り…

自身の後方へと引っ張った。

 

 

『うへ!?』

 

『ユミカ!』

 

『ああ!』

 

 

シロコの呼びかけとともに、隠れていたもう一人…犬神ユミカがホシノを後ろから押さえ込む。

いくら体調が万全とはいえ、自身より遥かに背格好の大きなユミカ相手には流石のホシノも押さえ込まれるしかなかった。

 

 

『おい…このまま絞め落とされたくなかったら、アンタの持ちもんあるだけ置いてって…がはっ!?』

 

『ユミカ!? うっ…!?』

 

『っはぁ〜…まさか二人目がいたとはねぇ。

 咄嗟に拳銃(こっち)を取り出せてよかったよ』

 

 

ホシノはひらひらと手を動かし、片手に持った拳銃を見せる。

そして、改めてそれともう一つ…先程落としたショットガンを拾い上げ二人に突きつけた。

 

 

『とはいえ、この手慣れっぷり…多分だけど常習犯でしょ?

 悪いけど話を…』

 

『ッ! やめろ!!』

 

『?』

 

『頼む!コイツは…シロは俺の命令を聞いて動いてただけなんだ!!

 俺ならどうにでも殺してくれ!何度でも殺してくれ!腕の一本や二本喜んでへし折る、首を刎ねてそこらに転がしてくれたって良い! だから、コイツだけは…!!』

 

『………』

 

 

 

 

「なんて、流石にあの時は思わず焦っちゃったよ。おじさん本当にやりすぎたかなってさ。…でも」

 

「実際は、そうじゃなかった?」

 

「……先生ってば、何でもお見通し?

 生きていくために仕方なかったとはいえ、裁く側はそんな事知ったこっちゃない。

 厳しい罰を与えられる事も、あったらしいよ。

 

 ―――ま、その“厳しい罰”ってのがどんなのなのかは、私には分かんないんだけどさ」

 

「……だ、だけど。その。

 なら、何で二人はキヴォトスに?

 

 いくら宇宙を行き来する手段はあっても、そんな二人じゃ火星から移動するのだって…」

 

「―――あー。やっぱそれ気になっちゃうかぁ」

 

 

やれやれ、と言わんばかりにホシノは頭をかく。

数秒間、頭に手を置いたまま沈黙し…ふぅ、とそれを破って話し始めた。

 

 

「……皆、“人捨て事件”って聞いたことあるかな?」

 

「…確か、ニュースか何かで聞いたことはあります。

 でも、詳しい詳細は…」

 

「私も」

 

「……………今から大体二年ぐらい前かな。

 ヒューマンデブリないしそれに準ずる子供たちの境遇がたびたび問題になってて、それを解決しようとやっと重い腰をあげてお偉いさん達が動き出したんだ。

 “ヒューマンデブリ撤廃令”ってやつだったかな?

 

 だけど、当然反発もあった」

 

「な、なんで!?

 苦しんでる子たちを助けられるんなら良いことじゃないの!?」

 

「残念ながら、自分の関係者ならともかく『どっかの誰かの為に労力を割いてられるか』って人は一定数いるんだよねぇ…。

 それに、人身売買の業者だって焦っただろうね。お偉いさんが決めた事なら確実に自分たちにも被害が及ぶだろうから。

 

 ―――だから」

 

 

ホシノの握られた手がぎり、と音を立てる。

その震えた拳からは、怒りが見て取れた。

 

 

「あいつらは…人身売買をやってた奴らは、あり得ない『チャンス』を与えたんだよ。

 クリスマスプレゼント代わりだって言ってね」

 

「………?」

 

 

「何人かの孤児達を宇宙救命カプセルに詰めて…。

 

 

 

 その子達を宇宙空間に放り出した。

 それで、運良く人の住んでる場所に落ちることができればお前たちは自由だってね」

 

 

「―――は?」

 

 

「そもそも救命カプセルは複数人を乗せることなんて想定してない。よくて二、三人…それでも殆ど持つかどうか分からない。

 そんな物が救命信号も出されずに放り出されても、まず助かるわけがなかった」

 

「…じゃあ」

 

「見つかったカプセルの中身は、ほとんどが酷い有様だったらしいよ。たまたま重力のある場所に落ちても…中身はめちゃくちゃ(・・・・・・)だったってさ」

 

 

その比喩の意味を理解したアヤネが、思わず口元を押さえた。

セリカの食いしばった歯がぎり、と音を鳴らし、イルナの握り拳からは血が流れていた。

 

 

「ざけんなッ!人の命をなんだと…」

 

「イルナちゃん。相手は人身売買を生業にしてるような奴らだったんだよ?

 …そんな連中が“常識”だの“良心”だのなんて、持ってると思う?」

 

「それは…ッ、けどよ…!」

 

 

「ん、でもそれは昔のこと」

 

「「「!?」」」

 

「うへ、シロコちゃんお帰り〜。

 …一応聞くけど、どのへんから聞いてた?」

 

「“人捨て”のところからかな。

 でも、私もユミカもこうして生きてる。皆が気にすることじゃない」

 

「でも…!」

 

「シロの言う通りだ。

 過去がどうあれ、俺たちが碌でもないやつで、それ以上に碌でもない連中がいたことも事実だ。

 ……そんな俺らを叩き直してくれたホシノ先輩には、感謝してるよ」

 

「………」

 

「重要なのは“これから先どうするか”だ。

 そうだろ、先生?」

 

「……うん。

 ヘルメット団だった子達とは…私も話してみるよ」

 

「ありがとよ。…今日は全員いろいろくたびれてんだろ。

 ここらで解散することにしようぜ」

 

 

ユミカの言葉に、対策委員会の面々が頷く。

先生もそれに同意し、各々用意を整え解散したのだった。

 

こうして、アビドス廃校対策委員会結成以来、類を見ない程の激動の一日が幕を下ろした。

 

 

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