※今回から元ヘルメット団の四名にも名前が与えられます。
予めご了承下さいませ。
…高層ビルが数多く立ち並ぶキヴォトスのオフィス街、その一室。黒いスーツを着込んだ大柄なオートマタが椅子の上に腰掛けている。
そこに細身な黒い人…いや、もはや人と呼んでいいのか分からない異形が歩いてきた。
「……理事、カタカタヘルメット団が失敗しました」
「そうか…主力戦車まで貸し出してやったというのに。
所詮そこらのチンピラに過ぎん奴らがどれだけ群れようとその程度か…。
しかし、リーダーの女…確か…
わざわざ腕の見せ所とモビルスーツまでくれてやったというのに、臆病風に吹かれたか…」
「……それで、次はどうなさるおつもりで?」
「ふむ…ヘルメット団もそれなりの人数だったはずだ。
それでもこの結果ならば…少数精鋭で行くとするか」
オートマタの男が机に置いてあった受話器を手に取り、何処かに電話をかけ始めた。
プルルル、と小気味いいコール音が数回響いた後、
『はい、こちら便利屋
という女性の声が、受話器から流れた。
「仕事を頼みたい、便利屋」
◇ ◇ ◇
翌日。
アビドス地下の
「……しっかし、この年になって本物のモビルスーツをいじくることになるとはなぁ…人生ってのは分からねぇもんだよ」
「全くです。
しかしアビドス高校にこんな物が残ってたとはねぇ…ガンダム・フレーム、でしたっけ?」
「ああ、俺もガキの頃教科書で読んだぐらいだよ。
まさか実物を拝むことになろうとは」
自動車工の獣人男性らが、白いモビルスーツ…バルバトスを見あげながら雑談をしている。
そこに背格好の高い金髪の少女…犬神ユミカがやって来た。
「よぉおっさん連中、お疲れさん」
「おうガキ共。
お前らたった数人で良くこんなモン動かしやがったな」
「まぁ、こっちも火急の事態だったもんでな…んで、どうだ。
コイツ直せそうか?」
「さぁな…」
「オイオイ、さぁなって」
「俺らはなぁ、そもそも武器や武装車両だってろくにいじったこともねぇんだぞ? よくて通常戦車やモビルワーカーがせいぜい、モビルスーツなんてガキの頃にちょっと触ったぐらいだ。
オマケにコイツは何百年も前、厄祭戦時代のモビルスーツと来た。動いてんのが奇跡みてぇなもんだ」
「………厄祭戦、ねぇ」
「あの…ソレは、確か大昔にあった戦争のことなのですよね?」
「ん? おう。何でも惑星間でドンパチやりまくった大戦争だったんだとよ」
モビルスーツの上部から顔を出し、話しかけたカラの言葉に獣人の男性が答える。
厄祭戦。
数百年…何世紀も前に、惑星間で起きたという大規模戦争。
地球圏の富裕層がスペースコロニーを初めとする地球外圏に対して重税を課すなどの不当な扱いに対する反発から始まり、それによって生じた不和や軋轢は遂に戦争に発展した。
モビルスーツという巨大人型兵器すら用いられ、地球圏やコロニーや火星を初めとする地球外連合両者に大きな被害をもたらした。戦争終結当時、人類の総人口はそれまでの四分の一にまで減少したという記録から、その規模がうかがい知れよう。
「……そんな戦争を終わらせた、なんて言われてるモビルスーツが、今じゃお前らの持ちもんの一つになってるとはなぁ。
何が起こるか分からねぇもんだよ」
「俺らだって持ちたくて持ってたわけじゃねぇよ。
文句があんなら何十年も前のお偉いさんに言いな」
「ケッ、生意気言いやがって…さっきも言ったが、あんま期待すんじゃねぇぞ。そもそもが骨董品みてぇなもんなんだからよ。
新しい上量産タイプの分、
「………」
◇ ◇ ◇
「モビルスーツ、ひとまず形だけは直りそうだって」
「ですが、大変なのはここからでしょう。
私も簡単に聞いただけですが、そもそもこの学園の電力の大半はバルバトスのエイハブ・リアクターから…」
「………ねぇ、アンタ何で当たり前のように
セリカはアビドスの帳簿データが入ったタブレットを操作している青髪の少女…
しかしツカサは真顔で、
「ホシノ会長及びユミカさんとの交渉の結果、会計能力を見込まれ補佐を任されることになったので。
今後はよろしくお願いします、黒見セリカさん」
「ええ…私何も聞かされてないんだけど」
「ん、でもツカサが優秀なのは分かる。
セリカは騙されやすいからサポートにちょうどいいんじゃないかな」
「んな!?」
「あら、そう言えばもう一人…ええっと、
あの子はどちらに…?」
「ん、マナコとイルナに連れられてトレーニング。
『モビルスーツ一辺倒じゃやっていけない』だって」
「うわぁ…それはまた…」
◇ ◇ ◇
「死………死ヌ………」
「おいおい、予想以上に体力ねぇなお前」
「あ…あんたらが、おかしい、だけだろ…。
何が『軽く外周十周』だよ……」
「本当ならこの後室内トレーニングもあるんだがな。
まあ…初日はこれで勘弁しておいてやる」
…元ヘルメット団リーダーこと山吹ネネは、この時己の選択を心底後悔した…と後に語る。
地面に横たわり、汗で湿気った身体に張り付いた砂が鬱陶しかったが、今はそれどころではなかった。
どうにか呼吸を整えた後も、動き出すのに暫くかかったという…。
◇ ◇ ◇
「……皆、おまたせ……」
対策委員会の会議室。
普段通りの対策委員会メンバー九名に加え、先日の一件で新たに加わった四名…計十三名が、この部屋に集まっていた。
今まさに会議中であろうその部屋に入ってきた先生が見たのは…机を囲み頭を抱えている対策委員会九名と、それを見守る元ヘルメット団四名という様相であった。
尚、新人四名の表情はと言うと。
ある者は呆れ、ある者は不安そうな表情を浮かべ、ある者は苦笑いを浮かべ、ある者はそもそも興味なさげな鉄仮面であった。
「あの…大丈夫…?」
「あ、先生…こんにちは…」
「こんにちはアヤネ…えっと。
それで、何がどうなったの?」
「それが……はぁ…」
アヤネからこれまでの経緯を聞いた。
先生は苦笑いを浮かべた。
いつものように始まった対策委員会の会議は、『借金をどのように返済していくか』という議題のもと進んでいったという。
セリカが提案してきたのは『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットで、あなたも一攫千金』というチラシに載っていた、運気アップ効果のあるブレスレットを販売するビジネス…言うまでもなくマルチ商法だった。そんなもので儲かるわけがなく却下。
続いて提案したのはホシノ。
『他校のスクールバスを拉致し、アビドスへの転入書類にサインしなければ降りられないようにする』『それにより学園の生徒数を増やし連邦生徒会での発言権を獲得する』…というもの。
後ろ盾を得ようとしていると考えれば良いのかもしれないが、方法が余りにも強引すぎるため即刻却下となった。
そしてシロコ。
彼女が提案した方法は『銀行を襲う』。…早い話が強盗である。
その時点でアウトラインを思い切りぶっちぎっているのだが、ついでに言わせてもらうと取り出された覆面はどれもカラフルなものだった。
シロコが青、ユミカが白、アヤネが黄色、シズカがオレンジ、セリカが赤、イルナがマゼンタ、マナコが黒、ノノミが緑、ホシノがピンク。
『…あのなぁシロ。
銀行強盗に使う覆面をこんなバレやすそうな色分けにすんなよ…せめて黒統一だろ』
『ん…確かに。流石ユミカだね』
『そういう問題じゃありませんけど!?』
当然却下だった。
続いて提案したのはノノミ。
その方法はなんと…『スクールアイドル』だった。
『私たち全員でアイドルとしてデビューするんです!
アニメで見たんですけど、学校を復興させる定番の方法なんですよ!』
『定番…?』
『…そもそもそれでどうやって借金を返してくんだ?
そもそもがカツカツなのにライブの為の会場やらなんやらで予算がすっ飛ぶぞ』
そんなわけで却下。
これまでの中で一番マシではあったが。
その後もマナコの
『オレがボディービルディングの大会に出て優勝する。
それで得た賞金を返済に充てれば…』
『大会そのものが不定期な上優勝できることを前提に話さないでもらえますか!?
それに本格的なトレーニングとなれば器具や食事管理の費用が別にかかりますよね?』
『う………』
というものや、イルナの
『ゲヘナとかミレニアムの廃墟探索ツアーってのはどうよ!?
『そもそも
『あー…確かに?
それで何にも出てこなけりゃ無駄足だもんなぁ…』
という案が出たが、あえなく没となった。
そして最後に出た案が…
『ん』
『……二年の犬神ユミカさん、どうぞ…』
『もう疲れ切ってるじゃねぇか…。
これまで出てきた案を振り返ってみても、どれもいまいち現実離れしたものばかりだ。
とにかく、俺たちには先立つものが必要だ』
『んー、それはまあそうなんだけどさ。
そんじゃ、ユミカちゃんはどうするんだい?』
『……ヘルメット団の連中から回収した弾薬やモビルスーツ。
あれを、全部売っ払う』
『え、売っちゃうの!?』
『ああ。特にモビルスーツには
そんなモン、他の学園からしても喉から手が出るほど欲しい品の筈だ……交渉次第じゃ、かなりの高額を狙えるだろうぜ』
ユミカはそう言ってニヤリ、と口角を吊り上げた。
その自信ありげな雰囲気に、対策委員会の面々の顔色が明るいものに変わっていく。
…ホシノを除いて。
『ん~……でもさ?
モビルスーツってすっごい貴重品なんでしょ?それこそトリニティやミレニアムでもなかなか持ち込めないレベルの。
そんな物を
『……それは…』
目を逸らす。
ホシノの言葉も最もだった。
アビドスは嘗てこそ現在のトリニティやゲヘナに並ぶほどの力を持った学園だったが、今は見る影もない。
衰退し力を失った上、莫大な借金まで抱えている学園が『(量産機とはいえ)モビルスーツを売る』と言ってもそうそう信用はしてもらえないだろう。
「…で、会議はすっかりどん詰まりになっちゃったわけかぁ」
「はい…」
苦笑いを浮かべた先生の言葉に力なく言葉を返すアヤネ。
その直後に口から出たため息は、おそらくこの部屋のCO2濃度を2%程跳ね上げたことだろう。
「…あ、私そろそろバイトの時間じゃん」
「ん…なら、会議は一旦切り上げようか。
お昼は柴関に行こう」
「おーいいねぇ。
こーゆー時はガッツリ行っちゃおっか〜」
「はぁ…まあいいけど。
今度はちゃんと自分でお金払ってよね?」
対策委員会の面々は立ち上がり、各々部屋を出ていく。
その背中を見送ろうとした元ヘルメット団の四名に、
「皆も行こう?」
と先生が声をかけた。
「いや…自分ら持ち合わせが」
「なら私が奢るから!
四人分ぐらい安いものだからさ」
「でも…」
「リーダー、ここはお言葉に甘えましょう!」
「人の好意を無碍にするのは良くありません」
「だからもうリーダーじゃないっての…はぁ。
んじゃ、ご馳走になります」
渋々立ち上がり、先生とネネ達はアビドスの面々を追いかけて部屋を出るのだった。