砂漠に咲くは、鉄の華   作:山崎五郎

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便利屋68

 

「――くぁ〜!!

 やっぱうンめぇなぁ柴関のラーメンは!」

 

「イルナのはつけ麺だけどね…ていうか、あんた本当につけ麺好きよね」

 

「確かに。

 中学の時から普通のラーメンを食べてるところ見たこと無いような…」

 

「そんなに〜?

 イルナちゃんってば筋金入りのつけ麺好きなんだねぇ」

 

 

アルバイト中のセリカも含め、対策委員会の面々が談笑をしている。

そんな様子を、先生とネネを始めとした元ヘルメット団メンバーは少し離れた席から眺めていた。

 

 

「…何であいつら、あんな風に話せんだ?」

 

「リーダー?」

 

「だってよ…学校は借金まみれ、ついこないだも不良に襲われたってのに…どうしてあんな風に笑えるんだよ」

 

「…それとこれとは別、ってことなんじゃないかな。

 悩む時は真剣に悩む。でも、楽しめる時には全力で楽しむ。

 ずっと悩み続けて気が滅入るのも嫌じゃない?」

 

「それは、そうかもしんないけど…」

 

 

先生の言葉に、ネネは納得のいかない表情を浮かべる。

しかし考えるだけ無駄と思ったのか、やや乱雑に丼鉢から麺を掬い上げ一息に啜った。

 

 

「…うめ」

 

「確かにこのラーメンとっても美味しいですよね〜。

 私、もうちょっと余裕ができたら常連さんになっちゃいましょうかね?」

 

「姉さん、流石にこればかり食べるのは…」

 

 

リノとカラも談笑を始めた。

一方青髪の少女…ツカサは黙々とラーメンを食べ進めている。

ひとまず落ち着いたのを確認して安心し、先生もふぅ、と一息つく。

 

改めて自分の分のラーメンを食べ進め…

 

 

「そんな! お金がないのは悪いことじゃないわよ!」

 

「…ん?セリカ?」

 

 

…ようとして。声のした方を振り向く。

そこにはバイト中のセリカがたった今やってきた四人の少女を激励?励まし?ている様が見えた。

 

 

「何の騒ぎですかねー?」

 

「気にしたってしょーがねぇだろ。

 さっさと食べちまおうぜ…」

 

 

ネネは我関せずとラーメンを食べることを続行する。

しかし生徒の問題となれば放って置くわけには行かない。先生は座席から少しだけ身を乗り出し、出入り口の方を改めて見た。

 

新しく入ってきた四人は、アビドスに負けず劣らずの特徴的な生徒だった。

頭から角?の生えた赤いロングヘアの少女、長めの銀髪をサイドテールにした小柄な少女、黒と白髪のロゴ付きパーカーを着た少女、軍服のような服を着た紫髪の少女…。

 

そして先生は気がついた。

あの制服には見覚えがある。

 

 

「アレって確か、ゲヘナ学園の制服じゃ…」

 

 

キヴォトスにやって来た初日、助けてもらったゲヘナ風紀委員会のメンバーである火宮チナツ。

彼女に見せてもらったデータに、あの紫髪の少女…ハルカと呼ばれた彼女の制服に近いものがあったのを、先生は思い出した。

 

 

「ふうん…? 確かにゲヘナ学園は比較的アビドス(ここ)に近いところにはありますけど…どうしてわざわざここまで?」

 

「ゲヘナはキヴォトスでもかなり治安が悪いと聞きますし…安全な場所まで逃げてきたのでしょうか」

 

「…ソレもあるけど、お金に困ってるみたいだね。

 『600円以下』とか『貧乏』って言葉が聞こえたし」

 

 

リノとカラの疑問に、先生が答えた。

件の四人は今でもお金について雑談を続けている。

どうやら誰かの依頼を受けてアビドスまで来たらしい。

 

 

「依頼を受けて、ですか…エージェントか何かでしょうか?」

 

「それにしちゃ随分ポンコツっぽいけどな…オマケにラーメンも注文できない程貧乏なんじゃたかが知れてるだろ」

 

「そうとも限りませんよ?

 資金難でも、本人が実力を発揮できていないだけという場合もあります。相応の武器や役割を与えれば大きく化ける事もあり得るのでは?

 リーダーも実際そうだったでしょう」

 

「………」

 

 

ツカサの鋭い言葉にバツの悪そうな顔を浮かべたネネは、誤魔化すかのようにラーメンを啜った。

 

再びゲヘナの少女達の方を見ると、何やらシロコ達と盛り上がっているのが見える。…正確には赤いロングヘアの少女だけが。

パーカーの少女とサイドテールの少女はシロコ達を見ながら何かを話している。

 

…紫髪の少女は、夢中で自分の分のラーメンを味わっていた。

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇    

 

 

 

「それじゃ元気でね!」

 

「お仕事頑張ってくださいね〜☆」

 

「ええ! あなた達も学園復興頑張って!

 私も応援してるわ!」

 

 

昼食を終えたアビドスの面々は、店の外でゲヘナの少女たちと別れ帰路につく。

モビルワーカーに乗り込んだ一同は、少しだけ身を乗り出しながら赤髪の少女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

まだバイト中のセリカを除き、全員で校舎に帰還した。

 

 

「…さて、この後はどうするかねぇ。

 元々会議の気分転換も兼ねて行ったわけだが…」

 

「ん、もう特に話せそうなこともない」

 

「だな〜。

 セリカもバイトで帰ってこねぇ訳だし、今日はもう解散で良いんじゃねェの?」

 

「うーん…もう少し話しておいたほうが良い気が…」

 

 

アヤネが呟くものの、先ほどの会議の光景が彼女の頭をよぎる。

正直、これ以上話しても何か良いアイデアが出るとは思えなかった。

 

 

「……そういや、こないだ戦闘したばっかだったってのに、モビルスーツやモビルワーカーばっかメンテして銃の手入れもろくに出来てなかったな」

 

「ん、確かに。

 じゃあ残りの時間はメンテナンスに()てよっか」

 

「………仕方ありませんね」

 

 

 

 

そうして、現在アビドスにある装備や弾薬のチェックの最中。

先生はネネとツカサのもとに居た。

 

各々、自分の武器である銃の整備を行っている。

 

 

「…」

 

「「……」」

 

「…」

 

「「……」」

 

 

沈黙、と言うべきか。

或いは静寂か。

 

そのどちらとも言えないそれを破ったのは、「こんなの見てて楽しいのか?」というネネの一言だった。

 

 

「うーん…楽しいかどうかはともかく、勉強にはなるかな」

 

「そーかよ。

 …なら勝手に見てれば」

 

「う、ううん……あ、そうだ。

 二人のこと、ちょっと聞いても良いかな?」

 

「「?」」

 

 

先程から話しかけられていたネネだけでなく、ツカサも整備の手を止め先生の方を向いた。

 

 

「二人はこれからやりたいこととかある?」

 

「――ンなこと聞いてどうすんだよ」

 

「…う、ん。まあそうなんだけど。

 何かしら『目標がある』って言うのは結構大事だと思うよ?

 

 この先迷ったり立ち止まったりすることがあっても、それが道標(みちしるべ)になってくれたりするし」

 

「………私は。

 また、モビルスーツに乗れるならそれでいい」

 

「……」

 

「もう一度モビルスーツに乗って、阿頼耶識なんか使わなくたって強いって証明してみせる。

 それでアイツより…砂狼シロコよりも私の方が強いって証明してやる」

 

「………ネネ。それは…」

 

 

 

 

「先生!」

 

「んっ!? …アヤネ、どうかした?」

 

「その、大規模な兵力が確認されて…現在、ここに向かって接近中です!」

 

「敵…?」

 

「ネネ、落ち着いて。

 …相手が誰なのかは分かる?」

 

「はい! どうやら日雇いの傭兵のようで…」

 

「傭兵…とにかく止めないとね。

 皆にも戦闘準備するように伝えて!」

 

「了解しました!」

 

 

先生の指示を聞いたアヤネは、駆け足で他のメンバーのもとへ向かった。

そして先生も、腰を上げその後を追おうとする。

 

 

「待て。

 …私も連れてけ」

 

「ネネ?」

 

 

その足を、ネネの一言が止める。

自身の銃を組み上げ、立ち上がった。

 

 

「戦闘になるんだろ?

 だったら私も出る」

 

「……一応、理由を聞かせてもらえる?」

 

「戦闘ならアイツも出てくるんだろ。

 …近くで戦えば、何か盗めるかもしれないからな」

 

「………それは」

 

 

 

「俺は賛成だ。

 今は少しでも頭数がほしいとこだからな」

 

「…あれ、ユミカ!?

 いつの間に…」

 

「あんまり(おせ)えもんだから様子見に来たんだよ。

 …それで。俺は一向に構わねぇわけだが…」

 

 

先生はユミカを見、そしてネネを見て…はぁ、とため息を一つこぼした。

 

 

「分かった。

 …但し、必要以上に危ないことはしないでね。あと、シロコたちに食ってかかったりするもダメだよ」

 

「…『食ってかかったり』はともかく、『危ないこと』は無理があるだろうよ、先生」

 

 

ユミカの言葉に思わずがくっ、とずっこけた先生。

ものの例えだよ、と反論しやれやれという反応をユミカが返す。

 

…そんな二人を一瞥し、ネネは部屋を出た。

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

「うへ〜、すっごい数だね」

 

「逃げてェ〜…」

 

「ん…逃がしてもらえるもんならね」

 

 

傭兵集団の前に立った対策委員会の面々。

前線部隊であるホシノ、イルナ、シロコが各々言葉を零した。

 

しかしノノミは「ん〜?」と目元の上に手をやり、何かを確かめるかのように凝視する。

 

 

「あ! あの先頭の子たち、ラーメン屋であった人たちです!」

 

「ん、本当だ」

 

「うっ…!」

 

 

派手なコートを羽織った赤いロングヘアの少女…陸八魔(りくはちま)アルが気まずそうな声を零す。

 

 

「あ~あ、せっかくセリカのやつにラーメン特盛サービスしてもらったってのになァ。

 見事に恩を仇で返されちまったワケか」

 

「う、ぐぐ…それは…!」

 

「あはは、その節はありがと!

 でもそれはそれ、これはこれだよ。『騙して悪いが仕事なんでな』ってやつ?」

 

「依頼を受けた以上、公私はハッキリさせないとね」

 

言葉に詰まるアルに反し、飄々と言葉を返す銀髪の少女と、毅然とした態度な黒白髪の少女…浅黄(あさぎ)ムツキ鬼方(おにかた)カヨコ

 

 

『依頼、ねぇ』

 

「? 通信機?」

 

『アビドス廃校対策委員会の犬神ユミカだ。

 陸八魔さんだっけか? アンタに聞きたいことがあんだよ』

 

「………」

 

『アンタらに依頼をよこしたのは誰だ?』

 

「…ふふん、それは勿論企業秘密よ?」

 

『そうかよ。なら、質問を変えさせてもらう

 

 

そいつらは、アンタらに名前を名乗ったか?』

 

「!?」

 

 

アルが驚きの表情を浮かべる。

しかしそれはすぐに冷静な表情の裏に隠れ、そして何かを考えるかのように目を閉じ…。

 

 

「フフ。

 …それも、企業秘密よ」

 

 

素敵な笑みとともに、言葉を返した。

 

 

『そうかよ。なら…』

 

「ん。直接口を割らせるだけ」

 

『だな』

 

 

シロコとユミカが、互いに口角を吊り上げる。

アビドスの面々が、傭兵たちが、そしてそれを率いるゲヘナ生徒…便利屋68が、それぞれの得物を構え…。

 

 

 

「総員、攻撃!」

 

『戦闘開始だッ!』

 

 

 

二つの号砲が、戦場に鳴り響いた。

 

 

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