砂漠に咲くは、鉄の華   作:山崎五郎

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話の都合上、今回にはヘイローやキヴォトスの人物に言及します。 詳しいことは今後語りますので今回は簡略的です。
御了承ください。




来訪者、先生

 

アビドス高等学校自治区、そのマンションの一室。

携帯電話のアラームの音を聞き、一人の少女が目を覚ました。

 

ここは砂狼シロコの現在の私宅であり、部屋には自身の愛用するロードバイクやそれらに関する小物、そして愛用する銃(・・・・・)を立てかけていくためのホルダーがある。

 

いつものようにシロコが制服に着替え登校の準備をしていると、これまた聞き慣れたインターホンの呼び鈴の音がした。

 

 

『おーいシロ、起きてるかー?』

 

「ん、今起きたところ。 ちょっと待ってて」

 

 

やって来たのは犬神ユミカだった。

彼女にとってはストリートチルドレン時代からの姉妹分であり、アビドスに入学してからもこうして共に登校するのが毎朝のルーティンになっていた。

 

 

「わざわざ毎朝迎えに来なくても…」

 

『良いんだよ、俺が好きでやってんだから。

 それに、なんかトラブルに巻き込まれても俺ら二人なら一人ずつよりなんとかできそうじゃねぇの、なあ?』

 

「ん、それは確かに」

 

 

それぞれ付けたインカムと小型戦車…MW(モビルワーカー)の通信機能で談笑しながらアビドスに向かう。

彼女たちにとってはすっかり見慣れた光景である。

 

 

『……ん?』

 

「ユミカ? どうかしたの?」

 

『いや、俺ら以外の生体反応をキャッチした…この先か?』

 

 

そこは現在も生きている都市部から離れた地点。

周りの建物は殆どが砂に埋もれ、かつて高層ビルであったそれは半分以上がその姿を隠しているそんな場所で、生体反応をキャッチしたという。

 

こんなところを通るのは基本的に自分たちしかいない。

他の可能性があるとすれば…アビドスを拠点にしようとする不良グループぐらいのもの。

 

二人は警戒しつつもその生体反応に向かって進んでいく。

…そこには。

 

 

「…人?」

 

『行き倒れか? こんなとこまで大した装備もなしに徒歩かよ…運が悪かったか、それとも考えなしか…』

 

「…ん、待って、ユミカ。

 この人、まだ息がある」

 

『マジか!?』

 

「ん、マジ。 貴方、大丈夫?」

 

 

シロコは倒れている人…おそらく成人しているであろう男性の体を揺すって声を掛ける。

男はどうにか首を動かし、かすれた声で『水』と言った。

 

 

『ったく…ちょっと待ってろ』

 

 

それを聞いたユミカは通信を切り、ペットボトルを一本持ってモビルワーカーから姿を現した。

 

 

「ホレ、水くらい飲めんだろ?

 立てるか?」

 

「はっ、はぁ…!

 あ、あっありがとう!!」

 

「うお…!?」

 

 

男はユミカから半ば無理矢理ペットボトルを受け取り…というより奪い、勢いよく中の水を飲み干した。

ぷはーっ、と気持ちよく声を上げる男に対し、ユミカはやれやれと言った顔をしているが。

 

 

「はあっ…いやぁ助かったよ、ありがとう!!」

 

「……どういたしまして」

 

「ん…ねぇ、貴方もしかして連邦生徒会の関係者?」

 

「…分かんのか、シロ?」

 

「ん、このコート、連邦生徒会のロゴマークが付いてるから。

 たぶん暑くてすぐ脱いじゃったんでしょ?」

 

「あはは…お恥ずかしながら。

 アビドスが砂漠地帯になってるってのは聞いてたんだけど、まさかここまでとは思ってなくて…」

 

「……それで、そんなお偉いさんがわざわざアビドスまで何の御用で?」

 

 

ユミカはやや棘のある言い方でそう聞く。

それもそのはず、連邦生徒会とはこのキヴォトス全土においての政治の中心…行政組織にあたる存在である。

 

アビドスは現在の危機的状況に対して連邦生徒会に今まで支援要請を送り続けていた。

しかし連邦生徒会はそれらを無視し続け、アビドスもまた(一応要請は続けていたものの)彼女らに大した期待はしていなかった。

 

そんな再三の要請を無視し続けた連邦生徒会が突然やって来た。

ユミカに言わせてみれば『今更なんだ』という苛立ちと『何を考えている』という怪しさからその様な態度になってしまうのも仕方のないことである。

 

 

「えっと…実はアビドスの生徒さんから救援要請?の手紙を貰って。

 奥空アヤネさんって子からなんだけど…」

 

「アヤネが? …なる程な」

 

 

それならば合点がいく。

アヤネは現在一年生であり、アビドスの問題に深く関わり始めてまだ浅い。

 

借りにも一年音沙汰なしの自分よりは、連邦生徒会関係を頼ろうとしても不思議ではない…と、やや強引ではあるがユミカは納得した。

した、というよりはさせたという方が正しいかもしれないが。

 

 

「ん、じゃあ学校まで行こう。

 すぐそこだから私が案内する」

 

「…仕方ねぇか」

 

「あ、あの〜…」

 

「あぁ?」「ん?」

 

「ちょっと、ここまで歩き通しで動けなくって…もうちょっと助けてもらえないかな?」

 

「「……………」」

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

「おはようございます…」

 

「あ、ユミカ先輩おはよ。シロコ先輩も…ん?」

 

「先輩がた、その後ろの人は…?」

 

「わぁ、シロコちゃんとユミカちゃんが大人を拉致して来ました!」

 

「は?」「ん?」

 

「らっ、拉致!? とうとうお二人が犯罪に手を…!?」

 

「おっ落ち着いてアヤネちゃん!

 何とか今のうちにもみ消す方法を考えないと…!!」

 

 

ノノミの一言を真に受けたアヤネとセリカが慌て始める。

ユミカとその後ろに立っている男性は頭を抱え、シロコは表情こそ変わっていないものの困惑した素振りを見せた。

 

 

「…えっと、何の騒ぎ? その人誰?」

 

「あっ、し、シズカ先輩!?」

 

「大変なの! とうとうシロコ先輩とユミカ先輩が犯罪を…!」

 

「……いや、この人はただのお客さんだよ。

 うちの学校に用があるって言うから連れてきたの」

 

「「……えっ?」」

 

「…要するに、二人の勘違いだったってことで、いいの?」

 

「後はノノミも、だ。 なぁ?」

 

「あらあら…ごめんなさい…」

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

「えっと…じゃあ改めまして。

 初めまして! 連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生です!

 よろしくね、みんな!」

 

シャーレ。その名前にはユミカも聞き覚えのあるものだった。

つい先日行方不明になった連邦生徒会長…この学園都市キヴォトス全体における、実質的なリーダーである人物。

 

その会長が目の前の『先生』と呼ばれる人物の活動拠点として立ち上げていた組織。

生徒(こども)”が政治を行うようなキヴォトスにおいて、“先生(おとな)”としてあらゆる相談に応じ、その上で学園や学年を問わず生徒に協力を仰ぐことの出来る超法規的組織……と言う話をニュースで聞いたことがあった。

 

 

「わぁ…ということは、支援要請が受理されたんですね!

 良かったですね、アヤネちゃん!」

 

「はい! これで弾薬や物資の報酬が受けられます…!

 あ、他の皆さんにも知らせないと! えっと…」

 

「あー。 ホシノ先輩はたぶん屋上で、マナコとイルナは…筋トレでジョギング中かな? 暫くは帰ってこないかも」

 

「私、呼んでくる!」

 

セリカは部屋を飛び出し、ホシノの元へと向かった。

その間に、現在ここにいるアビドスの面々もまた先生に自己紹介をした。

 

「それと、今ここにいないのが…二年の酒井マナコと、一年の絹織イルナ。

 まあ、そろそろいい時間だし戻って来ると…」

 

「セリカちゃ~ん、おじさんもう歳なんだからもっと優しく…」

 

「大して変わらないでしょうが! ほら、ちょっとは三年らしくする!」

 

がらがらと音を立てて、二名の生徒が入室してきた。

一人は先ほど出ていったセリカ、そしてもう一名は…

 

「やあどうも〜三年の小鳥遊ホシノだよ。 よろしく〜」

 

「初めまして、シャーレの先生です。 よろしくね」

 

「………なぁ、シロ。

 ちょいと先生に、校舎内を案内してやっちゃくれねぇか?」

 

「ん? …分かった。

 行こう、先生」

 

「え、あ…ちょ、ちょっと引っ張らないで…!」

 

 

シロコは先生の手を引き部屋を出る。

…一応は笑みを浮かべていたユミカの表情が変わった。

 

 

「さて…お前ら、どう思う?」

 

「どう、って…先生のことですか?」

 

「支援要請が受理されたのなら、良いことだと思いますが…」

 

「ああ。 それに関しちゃあありがてぇとは思う。

 だがよ…お前らも気づいてるだろ? あの大人…先生はただの人間だ、文字通りのな」

 

「「「!」」」

 

 

そう、シロコやユミカ達天輪(ヘイロー)を持つ者や、人の姿をしていない人々は新人類というものにカテゴライズされる。

彼ら彼女らは銃から放たれる弾丸や、手榴弾を初めとする爆弾による爆撃でも大した傷を負うことはない。

 

しかし通常の人間…先生のようなヘイローのない人間となると話は別である。 通常の耐久力しか持っていなければ、銃弾一発が命中するだけで致命傷となりかねない。

 

 

「加えて、あの人は行方不明になった連邦生徒会長と入れ替わる形で現れたって話だ。

 幾ら先生の諸々の状況を用意したのが連邦生徒会長(当の本人)って話にしたって、出来過ぎてるとは思わねぇか」

 

「そんな! せっかく助けていただけるのにそんな事…」

 

「邪推が過ぎるってのは百も承知だ。

 だがよ、同時にあの人を信頼できる要素が足りなすぎるってのもまた事実だ。

 今までアビドスの状況を真っ当にどうにかしようとした大人なんて、現れやしなかったのも事実だろ。

 

 第一、ヘイローもない普通の人間がキヴォトスにノコノコやって来ること事態、そもそもおかしいとは思わねぇか?」

 

「それ、は…」

 

「……だけど、助けに来てくれたのは事実だよ。

 ひとまずは、それでも良いじゃないか」

 

「そうですね。 それにあの人、なんだか悪いことを考えられなさそうな雰囲気でしたし☆」

 

「いや、雰囲気って……」

 

「―――ま、とりあえずは様子見ってことでいいんじゃない?

 そのへんはユミカちゃんが目を光らせとくってことで、よろしくね〜」

 

「はっ?」

 

「そうですね☆」

「そうね、賛成」

「よろしくお願いしますね、ユミカ先輩?」

 

「おい、お前ら…!」

 

「言い出しっぺ、ってやつだよユミカ。

 信頼できないなら、自分で確かめなきゃね?」

 

「………勘弁してくれよ…」

 

 

苦笑いを浮かべながら、ユミカはがくりと肩を落とした。

その様子を見て、他のメンバーは思わず笑ってしまった。

 

しかし、そんな和やかな雰囲気を銃声が散らした。

 

 

「っ!? 銃声だと…!?」

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

「アビドスの諸君!

 今日こそお前たちの学校は私達がいただく!! 総員、攻撃ー!!」

 

 

揃ってフルフェイスヘルメットを装着した不良生徒たちが、各々の銃を掃射しながらアビドスに攻め入ろうとしていた。

 

 

「あいつらは…!」

 

カタカタヘルメット団です!

 先日追い払ったばかりなのに…!」

 

「まだ補給物資もないのに…!

 クソッ、せめてマナコとイルナを呼び戻して…」

 

「ダメだ、シズカ。

 あいつらは装備を置いてってる、挟撃を狙おうにもそんな状態じゃいいマトになるだけだ」

 

「じゃあどうするってのさ!

 ただでさえ欠けてるメンバーに、ヘイローがない先生までなんて…!

 狭い校舎内じゃ、モビルワーカーだって出すわけにもいかない!」

 

「……今回は俺が援護に回る。

 お前は念の為地下で用意をしといてくれ」

 

「あっ、ユミカ…!」

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

「あれ、ユミカ!?」

 

「ん…? 先生じゃねぇか?

 こんなとこでどうした?」

 

「案内の途中でシロコが下に降りていってね…ユミカはどこに向かうの?」

 

「屋上だ。

 狙撃はあんまし得意じゃねぇが、下の奴らが戦いやすいように牽制やら何やらにはなんだろ」

 

「……分かった。 じゃあ、これを着けておいてくれるかな」

 

「あん?」

 

 

先生が手渡したのはイヤホンだった。

耳に着けろ、と言いたいらしい。

 

 

「……指揮は私がするよ。

 ただその前に、みんなにどうしても聞きたいことがあってね」

 

「あぁ?」

 

「それに関しては後で。

 今はとりあえず屋上に向かって!」

 

「……了解!」

 

 

ユミカは階段を駆け上がる。

屋上への扉のノブに手をかけ、敵のいる方角を見渡しやすい位置につくとスナイパーライフルを組み上げた。

 

 

『皆! 皆に聞いておきたい事がある!』

 

「あ? …先生か?

 こんな時に何だよ…」

 

君たちは、どうしてこの学校を守りたいの!?

 

「………」

 

 

ユミカは言葉を失った。

そんな事、アビドスに来てからは考えてもいなかった(・・・・・・・・・)からだ。

 

あの時ホシノに救われたから?

シロコがこの場所を気に入っているから?

この状況を見て見捨てられないと思ったから?

 

様々な理由が浮かんでくる。

だが、それはとても莫大な借金を抱えた高校に通い続け守ろうとする理由としては不十分だ。

 

 

 

『…そんなの、決まってる』

 

「? …シロ?」

 

『ここが、私たちの居場所だから。

 それを、あんな奴らになんて渡したくない』

 

「……シロ、お前」

 

『それに、私にはユミカとの約束がある』

 

「!」

 

『だから。 …ここで、諦めるわけには行かない』

 

「シロ……」

 

 

 

 

――――ねぇ、つぎはどうすればいい? ユミカ?

 

 

 

 

「……へっ。

 ああそうだ、ここは俺らの学校だ!

 

あんなどこの馬の骨かも分からねぇような奴らにくれてやる理由なんてねぇ! だよなぁ、シロぉ!!」

 

『ん、その通り』

 

『…よし! じゃあ、あの子達を追っ払おう!』

 

 

先生の掛け声に応えるように、

シロコが、ノノミが、セリカが、ホシノが武器を構え、アヤネも支援による戦闘態勢を整える。

 

ユミカもまた、組み上げたスナイパーライフルを眼下の敵に向けて構えた。

 

 

『さぁ…皆行くよ!』

 

 

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