砂漠に咲くは、鉄の華   作:山崎五郎

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本作における阿頼耶識システムは、流石に本家本元と同じものにするわけには行かないので設定を改変しています。
ほぼ独自設定な上、他と被らないようにしたつもりですが万が一の場合は通報せずにご指摘していただけますと幸いです。




火蓋を切る

 

「つーわけで、こいつらが理由(わけ)あって留守にしてたうちの残りの生徒の…」

 

「二年、酒井マナコ」

 

「一年絹織イルナ!

 どうぞよろしく!」

 

「よろしく、二人とも」

 

「というわけで…以上九名、アビドス高等学校の現在の全生徒にして、廃校対策委員会のメンバーだ」

 

 

全生徒、という言葉を聞いて先生は思わず目を見開い(ぎょっとし)た。

九名、他学校で言えばほんのいちクラスにも満たない人数が、この学園に残った生徒のすべてだと。

 

その事実に、さすがに驚きを隠すことができなかった。

 

 

「まあ、驚くのも無理はねぇ。

 正直学校が存続している現状が奇跡みたいなもんだからな」

 

「まあ、否定できないよね〜。

 ホント、セリカちゃんたちが入ってきてくれて助かったよ」

 

 

ユミカは頭を掻き、ホシノは机に体を伸ばしながらそう話した。

先生はそんな様子を見ながらも、気になっていたことを尋ねる。

 

 

「対策委員会、っていうのは何なの?」

 

「対策委員会とは、アビドスを復興させるために有志が集った部活です」

 

「この通り、全校生徒が集ったアビドス唯一の部活なんですよ〜」

 

「……その、シロコたち以外の生徒は?」

 

「ん、私やユミカが入学したときにはもうホシノ先輩しか居なかった。 皆転校したり、退学したりでアビドスから出ていったんだって」

 

「まあ、先生もここまで来る途中で見ただろうが…御覧の有様だ。 オマケに自治区内の住民もほぼ出て行っちまって、放置された廃墟やら空き家やらにさっきみたいな不良連中が(たむろ)ってる始末だしよ…」

 

 

先生も思わず口をつぐんだ。

そんな状況で彼女たちは今までどれ程の苦難を味わったのだろう、と思わずにはいられない。

 

 

「ただ、過去の先輩たちがモビルワーカーやらを残しておいてくれたのは幸いだったね。

 アレのおかげで遠くの任務に出たり迎撃したりがだいぶ楽にはなってるし」

 

「シズカ。 モビルワーカー、っていうのは…ユミカが乗ってきてたアレのこと?」

 

「うん。 何百年も前、それこそ『厄祭戦』時代に作られた軽装戦車…搭乗者一人で移動、索敵、射撃を行えるよう作られたもの。 今うちには、ソレが四台ある」

 

「とはいえ、モビルワーカーにも結局専用弾が必要なのは同じです。 改めて、先生が来てくださって助かりました。

 先ほどの書類には、それらも補給品に含まれていましたし」

 

「けどよ、結局現状がカツカツなのは変わってねぇんじゃねーの? 今のは補給を“受けられる”ようになったってだけの話だろ?」

 

 

イルナの思わぬ指摘にアヤネやセリカはハッとした表情を浮かべた。 確かに弾薬や物資の補給こそ許可が下りたが、それでアビドスの問題のすべてが解決するわけではない。

 

 

「オマケに、ヘルメット団も追い払いこそしたが未だ健在だ。

 以前よりはマシに戦えはするが、そうなれば向こうも数を増やすなりして対抗してくるだろう」

 

「前進はした、けど危ういままかぁ…」

 

「ま、確かにマナコちゃんとシズカちゃんの言うことも正しいね。

 そーゆーわけで、おじさんもちょっと作戦を練ってみたよ〜」

 

 

「マジか!? ホシノ先輩が!?」

 

「明日は雨が降るんじゃないの!?」

 

「いや、下手したら雪が降るかもな。

 雪かきの用意をしておくか」

 

「う、うへ…皆ちょっとひどくない!?

 おじさんだってこれでも真剣に考えたんだよ〜!?」

 

「ん、皆ちょっとビックリしてるだけ。

 それでホシノ先輩、作戦って?」

 

 

「…こほん。 

 おじさんの考えだと、数日もすればヘルメット団はまた攻めてくるよ。 このところはそういうサイクルで来てるからね〜。

 

だから、皆揃ってるうちに一気に向こうの本丸(アジト)…とまでは行かなくても、前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。

向こうも今が一番消耗してるだろうからさ」

 

「成る程。 こっちも先生のお陰で物資の憂いは無くなってる。

 攻め込むにも申し分ないタイミングってわけだ」

 

「ほぉ〜おンもしれぇ!

 今までやられた分キッチリお返ししてやろうじゃねぇか、なぁマナコ!」

 

「あぁ。

 それに、校外での戦闘となればモビルワーカーも出せる。 思う存分攻め叩いてやるとしよう」

 

「まあ、こんな感じで皆も乗り気だからさ〜。

 先生もいいよね?」

 

「うん。 ただ、前哨基地ってどのぐらいの距離なの?

 戦車まで持ち出すとなると…」

 

「ん、ここからだいたい30kmぐらいの所。

 モビルワーカーで飛ばせば5分もかからないはずだよ」

 

「今出せるのは3台だから…今回はユミカ、シロコ、マナコに乗ってもらうことになるかな? 私とアヤネちゃんは学校に残ってナビゲーターに徹しようか」

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

アビドス高等学校、地下駐車場。

ある程度作戦を立て終わったアビドス面々&先生は、出撃用意のためにこの場所へと移動していた。

 

「おお…これがモビルワーカー…」

 

「さっきも乗ってたじゃねぇか…そんな驚くことか?」

 

「いや、少なくとも私はこのタイプの戦車は見たことなかったからさ…まあそもそも普通の戦車だってろくに見たことないけど」

 

「まあ、TK-53なんて古いタイプの物を使ってるのなんてキヴォトスでもアビドス(うち)ぐらいだからね。

 それこそトリニティとかゲヘナみたいな有名校なら見覚えのあるタイプが揃ってるんじゃないかな?」

 

「うーん…そうかな…」

 

 

顎に手をやりながらうむむ、と唸る先生。

そうこうしているうちにユミカからお呼び出しがかかる。

 

 

「先生、早いとこ乗り込んでくれよ。

 現場で指揮を執ってもらう以上はアンタにも乗り込んでもらわねぇとな」

 

「あ、ごめん。

 えっと…こっちの後ろの方に乗り込めばいいの?」

 

「おう。一応シートベルトはしとけよ?」

 

「了解。よっと…ん?」

 

 

操縦席の後方、指揮官用の席に乗り込み…先生はあるもの(・・・・)を目にして声を漏らした。

 

 

「どしたー、先生?」

 

「あ、ごめん。

 その、何かカメラみたいなものがシートの方についてて…プロジェクター?かな。 なんなのかなって…」

 

「あー…そいつは…」

 

阿頼耶識システム

 『厄祭戦』時代に造られたインターフェースシステム…その一部だね』

 

「シズカ。知ってるの?」

 

『まあ、これでもメカニックだからね。

 とはいえ、それは私たちみたいなヘイロー持ちが使うことを前提としたシステムだから、そもそも先生には反応もしないだろうけど…ユミカ、一応指揮官席の方はシステムを切っておいて』

 

「了解だ」

 

 

ユミカが座っている運転席の方からぱちん、と音がした。

おそらく先ほどの阿頼耶識、というもののシステムを切ったのだろう。

が、それはそれとして先生にも疑問が浮かんだ。

 

 

「ねぇ、阿頼耶識システムってどんなシステムなの?」

 

「どう、って言われてもな…確か『モビルワーカー等を体感的に動かしやすくする』だとか言われてたような気はするんだが…」

 

『主な目的は空間認識、把握能力の拡大を狙ったもの。

 搭乗者の天輪(ヘイロー)をカメラ部分でスキャニングして、擬似的に同調することで外部の危機に反応しやすくする。

 それにより直感的かつ迅速な操作を可能とさせ…長くなりそうだからやめておくよ。

 まあ、簡単に言えば操縦者の思い通りに動かしやすくするためのシステムってところかな』

 

「へえ……やっぱり聞いたこともないな」

 

『まあ、今の時代でも珍しくなったものだからね。

 私たちが使ってるのも、元から備えられてたものだし』

 

「ま、何にせよちゃんと動いてるんなら御の字だろ。

 んじゃ、改めて出発するとしようぜ!」

 

 

ユミカの掛け声に合わせ、シロコとマナコもモビルワーカーの操縦席に乗り込む。セリカ、ノノミ、イルナも後部座席や荷台部へと乗り、戦場へ向けて出撃した。

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

『カタカタヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに入りました。 半径15km圏内に、敵の反応を多数検知!』

 

「こっちも視認できたぜ、さすがに驚いてやがんな。

 先生、歩兵部隊の指揮を頼む…先生?」

 

「……ごめんユミカ、ちょっと待って」

 

「車酔いかよ……」

 

 

ユミカはやれやれと言わんばかりの声でため息をつくが、そもそもここまでかなりの速度で飛ばしてきている。 実際当初の予定であった5分よりもかなり早く到着できたが、無茶な運転が多かったのも確かだ。

普段乗り慣れているであろうアビドス面々ならばともかく、殆ど縁のない先生ならばこうなっても致し方がないというものだろう。

 

 

『ん…ユミカ、何か言ってるよ』

 

「あぁ?」

 

 

 

 

「よく来たなアビドス諸君!

 今までの意趣返しのつもりなら残念だったな、我々カタカタヘルメット団の拠点は君たちの様なカツカツの学校とは訳が違う!

 この圧倒的な物量差に怯えながら無様にがはあっ!?

 

「えっ!?」

 

「おし、命中だ。

 シロ、マナコ、良くやった。 宣戦布告にはちょうどいいだろ」

 

どうやらヘルメット団を撃つように指示したのはユミカらしい。

シロコとマナコの乗るモビルワーカーの砲口からは白煙が上がっており、通信機の向こうではふんす、と鼻を鳴らしているシロコが映っていた。 

 

『ん、このまま一気に押し込む』

 

『………なあ、犬神、砂狼』

 

「あぁ?」

『ん?』

 

『撃って、良かったんだよな?』

 

「当たり前だろ」

『ん、当たり前』

 

「えぇ……」

 

「………こ、の…!!

 お前ら、ぶっ飛ばす!!!」

 

 

マナコのやや申し訳なさ気な質問に、あっさりと応えるユミカとシロコ。

それに少しだけ困惑する先生。

その一連の流れに巻き込まれ、激怒するヘルメット団。

 

この戦場の火蓋は、なんとも混沌とした形で切られたのだった。

 

 

 





TK-53

軽装戦車『モビルワーカー』の一種で、かなり旧式の機体。
通常の戦車と異なり移動、弾装填、砲撃を全て一人で行える上、機動力も通常の戦車以上。


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