アビドスが学校を狙うカタカタヘルメット団を追撃せんと始まった襲撃戦。それはあっけなく決着する。
結果は…当然というべきかアビドス側の勝利。
以下、その戦闘における要点を簡略的に抜粋したものである。
「ぐわあっ!?」
「あ、あいつら戦車で攻め込んできやがった!?」
「落ち着け!あんなボロいモビルワーカーなんざ、移動用ローラーを壊せばイチコロ…」
「させっかっての!喰らいな!」
シロコとマナコが自身の駆るモビルワーカーで敵陣前線を大きく削る。 そこに『アビドスの(自称)切り込み隊長』である絹織イルナが自身の得物である
爆発で更に崩れた陣形を…
「おらあああっ!!」
「ぐあっ!?」
「お、斧ォ!?」
右手に持った手斧で追撃。
安全性を考慮して刃のついていない模造品ではあるが、その質量による鋼鉄の一撃は、銃撃と爆撃によって負傷したヘルメット団の意識を刈り取るには十分だった。
「へっ…馬鹿が、背中ががら空きだっての!」
「うへ〜そうでもないよ?」
「へ? ごはっ!?」
「おお、ホシノ先輩! 助かった!」
「やれやれ、イルナちゃんってば猪突猛進なんだからさ〜。
おじさんそろそろ助けきれないよ〜」
「またまたぁ!いつもそう言う割にはバッチリフォローしてくれんじゃねぇか! うし、もっと行くぜ!!」
猪突猛進に突き進むイルナを、盾役であるホシノがフォローする。
そして2人のタンクによって生まれた隙を、モビルワーカーや後方からの攻撃部隊で更に突き崩す。
これが、アビドス流の集団戦闘だ。
先生の指揮もあり、更に勢いを増したアビドスにもはやヘルメット団が敵うはずもなく。
またしても三流の悪役のようなセリフを吐いて、カタカタヘルメット団は敗走したのであった。
◇ ◇ ◇
「っしゃーっ! アタシらの勝ちだっ!!」
『皆さんお疲れ様でした!』
「アヤネちゃんもオペレーターお疲れ様。
あと…先生も、指揮ありがとう」
「だな。おかげでかなり戦いやすくなったんじゃねぇの?」
「ん、確かに。
ユミカが指揮を執ってた時も悪くなかったけど、先生はもっと見える範囲が大きいような…」
「うーん、まあそれは…これのおかげかな?
皆が戦っているところが見やすいから指揮もしやすいんだよ」
と、先生は持っていたタブレット端末を軽く撫でた。
シッテムの箱。 行方知れずとなった連邦生徒会長が残したオーパーツであり、先生の戦闘指揮はこれを使用して行われる、らしい。
「ふーん…何の変哲もない端末にしか見えねぇが…」
「ん、とは言え的確に指示を出せる先生が凄いのも本当のこと。
でも、指揮能力だけで勝負すればユミカも負けてない…はず」
「はずって…そこは言い切ってくれよシロ…」
「ん…帰ったら将棋とかで勝負してみる?」
「はいはい皆〜雑談なら帰ってからにしよう?」
戦勝を祝い会話に花を咲かせる面々を、ホシノの鶴の一声が止めた。 軽くはーい、と返事を返し、アビドス一行は学校に向けて帰還するのだった。
◇ ◇ ◇
「さて、何はともあれ目の前の問題が一つ片付いたわけだな」
アビドスに帰還した一行は、改めて対策委員会の会議室に集まっていた。 ホワイトボードには、アビドスが現在抱えている問題の数々が箇条書きで並べられている。
そして、その場には先生も同席していた。
本来なら先生が頼まれたのは『学校を狙う不良集団を追い払うこと』と『弾薬や物資の補給支援』でありもうアビドスに協力の必要はないはずなのだが、
『さっきシロコから借金について聞いて…流石に無視して帰ることも出来ないよ』
という、本人の強い希望によってこの場に残ることとなった。
「えーと、それで。
借金って、どのぐらいあるの?」
「…えっと、だいたい9億円ぐらいかな?」
「きゅう…おく……???」
「正確に言うと9億6235万円、ですね。
更に正確な額だと…」
「す、ストップ二人とも!
先生の理解が追いついてないから!!」
話し続けるホシノとアヤネをシズカが阻止する。
そのあまりにも途方にもない金額に、思わず先生の意識が何処かへ飛び去ってしまいそうになる。
その有様を見てセリカはふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「…はっ、ご、ごめん。
えっと…どうしてそんな金額になっちゃったの?」
「えっと…このアビドスは元々大きな砂漠とオアシスを売りにしていたんですが…数十年前に大規模な砂嵐に襲われたんです。
元々砂嵐はあったのですが、その際の砂嵐は想像を絶するもので…多くの居住区や都市部、更には名物であったオアシスも砂に覆われてしまい…」
「当時のアビドスのお偉いさんは借金をしてでもその被害を何とかしようとした。 だけどそんな風にボロボロに傾いたアビドスを助けようとするところなんて無くて…」
「……悪徳な金融に頼った、ってこと?」
「はい。…最初はそれでもすぐに完済できる見込みだったんでしょう。 ですが、砂嵐はその後も毎年発生し、その度に借金が嵩み…今に至ります」
「現在、自治区の半分は砂に埋もれちまってる。
アビドスの校舎だって本館が埋もれたからこの別館が実質的な本校舎になってる有様だ」
それだけの話を聞き、思わず先生は腕を組みうーん、と唸る。
それを見てセリカはさらに目つきを鋭いものにした。
「…皆、大変な思いをしてたんだね。
いや、大変どころじゃないかもしれないけど」
「まぁ、な」
「……うん、決めた。
私も引き続きアビドスの皆に協力するよ!
借金のことも何とか出来るように、最大限手伝うから!」
その先生の発言を聞き、ある者は明るい顔になり、ある者は驚きで目を見開き、ある者はさらに目つきを鋭くした。
「……! はいっ、よろしくお願いします、先生!」
「うへ〜、こんな話聞いたあとでそんなこと言っちゃうなんて、先生も変わり者だねぇ」
「でもよ、シャーレってすげぇ組織なんだろ?
そんなとこが味方についてくれるんならありがてぇじゃねぇか!」
「ん、そうだね。希望が見えてくるかもしれない」
「……どうにかするって言ったって、具体的にどうするつもりよ。まさか肩代わりでもするつもり?」
「…セリカちゃん?」
「そりゃ、さっきの指揮は戦いやすかったし、助けてくれたことには感謝するけど…今まで大人が私たちを助けてくれたことなんてなかったじゃない。
あったとしても、助けるふりをして騙そうとした奴だっていたのに…」
「でも…」
「それなのに、突然やって来て『何とかする』なんて…そんなの、納得できるわけないでしょ!」
「「「「…………」」」」
沈黙が場を包んだ。
セリカの言葉には、確かに今まで受けてきた苦しみに対する怒りや恨みに満ちたもので、その事実は他のアビドスの面々も知っているものだった。
それ故に、何も言えない。
「そうだな。 セリカの言うことにも一理ある」
「…ユミカ?」
「先生。 アンタがどういう考えでアビドスを助けるって言うのか、ソレは俺らには分からねぇ。セリカの言う通り、今までアビドスが関わってきた“大人”ってやつはロクな連中じゃなかったからな」
「………」
「これから助けてもらう分際で偉そうなことを言うってのは分かってる。だが、この通りアンタを百パーセント信じられないやつがいるってのも事実なんだ。
もし、アンタが本気でアビドスを助けたいって思うなら…俺達に、アンタを信じさせてくれ」
「……そうだね。 私も、これからの行動で示していくよ。
改めて…よろしく」
先生は手を差し出す。
ユミカも一瞬躊躇ったが、その手を握り返して握手を交わしたのだった。