砂漠に咲くは、鉄の華   作:山崎五郎

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※この回から本格的に『ガンダム』シリーズの機体が登場します。
それらが受け入れられない方はブラウザバックを推奨いたします。


白い悪魔

 

アビドス高等学校、対策委員会本部。

その部屋で、ホシノと先生…そしてシズカを除いた対策委員会の面々は苦い顔を浮かべながら二人を待ち続けていた。

 

ソレは、数分前のこと…

 

 

『セリカが昨日から家に戻ってないだと!?』

 

『はい、今朝様子を見に行ったら鞄と靴がなくて…』

 

『携帯には連絡してみました?』

 

『しました…でも、数時間前から電源を切っていたみたいで、繋がらなくて…』

 

『アタシの方で柴関にも連絡してみたんだが…昨日は定時で店を出たっきりみたいでよ…』

 

『……ユミカ、ちょっと皆を任せても良いかな』

 

『? どうした』

 

『ちょっとこっちでも調べたいことができて…』

 

 

 

そして、それからさらに数分後。

アヤネの端末に着信が入った。

 

 

「はいっ!ホシノ先輩ですか!?」

 

『うん、アヤネちゃん。

 皆にも聞こえるようにスピーカーにしてくれるかな?』

 

「はい!」

 

『皆、今私の方で連邦生徒会のセントラルネットワークにアクセスしてきたよ。 セリカの端末の位置情報を特定した』

 

「セントラルネットワーク…先生、そんな権限までお持ちなんですね」

 

『まあ、リンちゃんにバレたら始末書は確実かな…』

 

「マージかよ、先生も肝が太いなぁ」

 

『生徒のためなら始末書の一枚や二枚くらい安いものだよ!

 それで、セリカの現在位置なんだけど…』

 

 

その言葉と同時に、アヤネの携帯に位置情報のスクリーンショットが送られてきた。

そこは、対策委員会にも見覚えのある場所だった。

 

 

「このエリア…以前危険要素分析をした時に、カタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です!」

 

「ん、やっぱりヘルメット団の仕業だったね」

 

「ああ、奴らこの間の腹いせにセリカを連れ去りやがったってことか…ふざけやがって」

 

 

シロコが眉を顰め、ユミカが歯をぎり、と鳴らす。

他の面々も、各々怒りや苛立ちの反応を見せた。

 

 

「とにかく、考えていても仕方ありません!

 すぐに用意をして、セリカちゃんを助けに行きましょう!」

 

「応よ! モビルワーカーで飛ばせばすぐに追いつく…」

 

「皆、ちょっと待って!

 先生達も!」

 

 

ガラリ、と扉を開けシズカが慌てて入ってきた。

手に持ったタブレット端末には何かの情報が映し出されている。

 

 

「シズカ?」

 

『何かあったの!?』

 

「うん…昨日の夜なんだけど、アビドス周辺でうちの動力炉以外のエイハブ・ウェーブが観測されたんだ」

 

「「「「「「『!?』」」」」」」

 

『…エイハブ・ウェーブ? って何?』

 

 

シズカが口にした単語にアビドスの面々は驚きを示す…が、先生は聞き慣れない言葉に首を傾げた。

 

 

「エイハブ・ウェーブっていうのは、『厄祭戦』時代に造られた半永久的エネルギーを作り出すエイハブ・リアクターから出る磁気嵐の事だよ」

 

『…半永久的エネルギー?

 そんな事が…』

 

「問題はソレがうちの動力炉以外から(・・・・)観測されたってこと。

 今の時代にエイハブ・リアクターの保有が確認されてるのなんて、それこそトリニティやゲヘナみたいな有名校ぐらいなのに…」

 

『……つまり、どういう事?』

 

「そんな機関を使うような強力な兵器が持ち込まれている可能性があるって事だよ。

 もしかしたら…ソレがカタカタヘルメット団の奴らのものかもしれない」

 

 

「……シズカ、アヤネ。

 一つ、頼まれてくれるか」

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

 

「……う、うぅん……あれ!?」

 

 

ガタガタと不規則に揺れる何処かで、セリカは目を覚ました。

起き上がる為に手を伸ばそうとしたが、両手が後ろに回ったまま動かない。

 

 

「これ、手を縛られてるの…?

 …そうだ、私攫われたんだ…!」

 

 

足に力を込め、どうにか上半身を起こす。

周囲は暗く、目が慣れても良く見えない…が、僅かに光が差し込んでいた。

 

 

「ここ、トラックの荷台かな…?

 あそこから外が見えるかしら、よい、しょ…」

 

 

また倒れ込まないように壁に寄りかかりながら、足だけで光の方に近づく。 荷台のすき間から見えた外の様子は…砂漠と、殆どが砂に埋れた線路だった。

 

 

「砂漠に…廃線?

 もしかして…郊外の砂漠!? どうしよう、ここじゃ連絡がつかないのに…!!」

 

 

この付近は砂漠化の影響で既に廃墟地帯と化しており、通信のための設備も破損したまま放置されている。

セリカも存在を知ってこそいたが、こんな廃墟地帯の地形を把握しきっているわけではない。

 

もし仮に脱出できたとしても…連絡が取れるところまで身一つで戻れる保証もない。

…セリカの脳裏に、最悪の展開がよぎった。

 

 

「どうしよう…私、このまま埋められちゃうのかな。

 連絡もできないで…私、皆のこと見捨てたって思われるのかな…。

 

 裏切ったって、誤解されたまま、死ぬなんて…。

 うっ、ううぅ…」

 

 

自分が死ぬかもしれない、という恐怖に、セリカは思わず涙を流す。 こんな事なら、あの時ひどいことを言わなければよかった、あんな態度を取らなければよかった…そんな考えが次々襲ってくる。

 

 

 

しかし、そんな考えを吹き飛ばすように。

トラックが大きな音を立てて揺れた。

 

 

「へっ…!? う、うわああっ!?」

 

 

そのままガタン、とトラックが音を立てて横倒しになった。

荷台に張られていた黒い幕も爆破の衝撃で吹っ飛び、そこからどうにかセリカは脱出できた。

 

 

「ゲホ、ゲホ…な、何!?

 トラックが爆発した!?」

 

『セリカ! 生きてるか!?生きてるよな!?』

 

「い、イルナ!?

 それに、皆もなんで…」

 

『ん、半泣きのセリカ発見!

 やっぱりヘルメット団のトラックだった!!』

 

「!?」

 

 

荷台から脱出したセリカが見たのは、数台のモビルワーカーとそれに乗っていたアビドスの面々。

スピーカーから聞こえた同級生(イルナ)の声に驚いたのも束の間、続けて聞こえてきたシロコの声に別の意味で驚いた。

 

 

『おし! こんな所をわざわざ走ってるなんて怪しいと思ってたがアタリだったな』

 

「にしてもセリカちゃんを泣かすなんてねぇ〜。

 コレはもう許しておけないね、ヘルメット団…それはそれとして。

 ごめんねセリカちゃん、寂しい思いさせちゃって!」

 

「なっ、ち、違っ!! 誰が泣いてなんか!!」

 

『ん、嘘!この目で見た!』

 

『アタシもバッチシ見たぜ!

 こないだ動物映画見たときみたくベソかいて…』

 

「うわあああああっ!!

 うっさい!うっさいうっさい黙れーっ!!

 

 だいたいみんな馬鹿じゃないの!?確証もないのにいきなりモビルワーカーでトラック撃ったりなんかして!

 もし違ってたらどうするつもりだったのよ!」

 

「大丈夫!

 一応登録情報とか、諸々のことは簡易的だけど調べたからね!」

 

「せ、先生まで!? なんで…」

 

「ストーカーを舐めてもらっちゃ困るよ!

 こっちは情報網なら負けるつもりはないっ!」

 

「何自慢げに言ってるのよ!」

 

 

ふんす、と腕を組み鼻を鳴らした先生をセリカは呆れながら怒鳴る。

そんなセリカにズカズカと近づくものが一人、マナコだ。

 

 

「フンッ…!」

 

「ひゃっ!?

 な、縄をちぎって…」

 

『お前ら、感動の再会の中悪いが…(やっこ)さんも随分お怒りみたいだ、相手する用意はしとけよ!』

 

『ん。 セリカは下がってて。

 すぐに片付けてくるから』

 

『おっと、抜け駆けはさせねぇぜシロコ先輩!』

 

『お前にばかり、良いカッコさせるかよ!!』

 

 

改めてモビルワーカーに乗り込んだマナコも含め、シロコ・イルナ・マナコの三人がモビルワーカーで敵に迫る。

ホシノとノノミもまたそれに乗って敵との戦闘を開始した。

 

 

「セリカ、これ!」

 

「あ、私の荷物…それに銃も!」

 

「一応連れ去られた場所で回収しておいたんだ。

 さすがに今は戦わせるわけにいかないけど…念のため、ね」

 

「あ、うん……」

 

『へっ…よしお前ら、この際だ。

 ヘルメット団の連中を、纏めて蹴散らすぞォ!!』

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

『ぐああっ!?』『くそ、あいつらなんて速さだっ!』『この反応…阿頼耶識か!?』『クソッ、なんで当たらないんだよぉ!』

 

 

通信機から次々と悲鳴が聞こえてくる。

敵はモビルワーカーありきとはいえ、たった数名。

そんな数に、数十人近くのメンバーが蹴散らされていく。

 

そんな様子を、カタカタヘルメット団のリーダーは…どこかの操縦席(コックピット)から見ていた。

 

 

「……やっぱり、とんでもない連中だな。

 それは、認めてやるよ、だが…」

 

 

操縦用のレバーを両手に掴む。

モニターを起動させ…

 

 

GRAZE STANDARD TYPE EB-06

 

 

の文字が浮かび上がった。

 

 

「……調子に乗るのも、ここまでだ」

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

 

『おっ…ユミカ、敵が下がってくぞ!』

 

『ん、このまま一気に追撃する』

 

「二人とも無理はしないで!

 何か罠が仕掛けられてるかもしれない!」

 

『先生もあんま頭出すなよ!

 一応移動して…っ!?これは!?』

 

 

 

大地が揺れる。

土煙が上がった地点を見ると…まるで、着弾点の様に(・・・・・・)抉れていた

 

 

『っ、何だ!?』

 

「じゅ、銃撃ですか!?

 それとも砲撃!?」

 

「でも、あんな大きな…っ!!

 皆下がって!!

 

 

大きな黒い影を見て、ホシノが号令を出す。

慌てて後退したアビドスの面々の上空から…巨大な鉄の巨人が地面に降り立った。

 

 

モビルスーツだとッ!?』

 

 

ユミカが驚きの声をあげた。

 

巨大人型機動兵器、モビルスーツ。本来ならキヴォトスにもそうそう現れないようなそれが、今自分たちの前に立っている。

それも、確かに武装して。

 

声を上げないほうが、無理があるというものだろう。

 

 

「モビル、スーツ…? あれは…」

 

『先生!席に入って隠れてろ!セリカもだ!!』

 

「うっ、うん!」

「了解!」

 

 

 

『……聞こえるか、アビドスの諸君』

 

『この声…!』

 

「ヘルメット団のリーダーか…!!」

 

『認めてやるよ、お前らは強い…。

 だから、こっちも出し惜しみをせず、潰させてもらうぞ!』

 

 

ヘルメット団リーダーの乗ったモビルスーツ…グレイズの頭部が開き、モノアイが光を放って動く。

 

 

『おいおい…どうすんだよユミカ(大将)、モビルスーツ相手なんて勝てるわけねぇ…』

 

「は、早く逃げないと!」

 

『どこに!?』

 

「とにかく今はこの場から離れるよ!

 何とか対策を…」

 

『それじゃ駄目だ、ホシノ先輩』

 

「ユミカちゃん!?」

 

『奴らにはもう俺らの学校の場所が割れちまってる。

 このままノコノコ逃げれば、腹いせにあのモビルスーツで学校をぶっ壊されちまうのがオチだ。

 …それに、この現状じゃどうしても機動力で負ける。

 追いつかれて仲良く踏み潰されるかもな』

 

「ならどうするってのさ!?

 このまま闘うにしたってモビルスーツの装甲相手じゃ…」

 

 

そう、モビルスーツの装甲強度はキヴォトスの天輪(ヘイロー)持ちの人間は愚か、モビルワーカーのそれよりも遥かに上。

携行している銃器はおろか、戦車砲でもマトモにダメージを与えることはできない。

 

 

『分からねぇか、先輩? 俺らには、逃げ場なんてねぇってことだよ。

 …なぁ、シロ』

 

『ん、それで。

 ――次はどうすればいい、ユミカ?

 

『―――へッ』

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

『お前ら無理はするな!

 シロが戻って来るまで時間が稼げりゃいいんだ!』

 

『ンなこと言ったってよォ!』

 

『避けるだけで精一杯だぞ…!!』

 

『そしたらよ…このクソッタレな状況に、一発かましてやれるんだ!だからそれまで……!!』

 

 

逃げ回るアビドスのモビルワーカー。

黄色や水色、ピンクに塗装されたそれらは、砂漠をスイスイと駆けて攻撃を避けていく。

 

グレイズはそれを手に持ったライフルで撃ち、時にバトルアックスで叩き潰そうとする。

戦況は、奇跡的に膠着していた。

 

 

「……サブリーダー。

 アレにリーダーが乗ってるんでしょ!?」

 

「……ああ」

 

「スッゲー…モビルスーツを自分の身体みたいに…」

 

 

(ああ…そうだ、そうさ!

モビルスーツさえあれば、コレさえあれば!

 

私は誰にだって……!!)

 

 

ヘルメット団リーダーは、そんな事を考える。

それは、ヘルメット団のメンバーにも、アビドスの面々も知らない。

 

 

『チョロチョロと、ネズミみたいに…。

 いい加減潰れろッ!!』

 

「ッ!! イルナちゃん、左!!」

 

『応ッ!!』

 

 

腹立たしげに地面を蹴り上げたグレイズの足。

それによって巻き上がった土の塊や砂を、イルナのモビルワーカーがすんでの所で(かわ)した。

 

 

『足を止めるなッ!!

 もう少しだ、あと少しで…!!』

 

『…っ!ユミカ先輩!』

 

『あいつ、こっちを見てる!!』

 

 

 

『……そうか。

 お前らが、指揮をしてるんだなッ!!』

 

 

 

グレイズがスラスターから蒼白い炎を噴き出し迫る。

ライフルから放たれる銃弾を躱しながら、モビルワーカーはポイント(・・・・)まで逃げる。

 

 

『死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!うわああああっ!!』

 

『死なねぇッ!! 死んでたまるか…!』

 

 

悲鳴をあげるセリカを遮るように、ユミカが強く言い放つ。

 

 

『このままじゃ…こんな所じゃ…!!

 

 

―――終われねぇッ!!!』

 

 

『潰れろォッ!!』

 

 

まるでグレイズに向き直るように、ある地点で止まる。

それに向けてグレイズがバトルアックスを振り下ろそうとし…

 

 

『だろ……

 

 

―――シロぉッ!!!』

 

 

その中間の地面が、炸裂した。

 

 

 

 

 

巻き上がる土煙。

その遮られた視界の向こうから。

 

 

―――白い悪魔(ガンダム)が、姿を現す。

 

 

『何ッ…ぐあああッ!!?』

 

 

白い悪魔が振るった鉄塊(メイス)に、グレイズが吹き飛ばされ地面を転がる。

その度に巻き上がる大きな土煙が、その戦いの大きさを物語る。

 

 

「あれって…」

 

『あれ、うちの動力炉の!?』

 

『本当に、動いたのか…』

 

「……ガンダム…」

 

 

『……シロ…』

 

 

 

 

―――ねぇ、つぎはどうすればいい? ユミカ?

 

 

―――きまってんだろ。 いくんだよ。

 

 

―――どこに?

 

 

―――ここじゃねぇ、どっか。 おれたちの、本当(ほんとう)居場所(いばしょ)に…!

 

 

 

(…うん。行こう…

 

―――私たち、みんなで)

 

 

シロコは、白いモビルスーツ…ガンダム・バルバトス操縦席(コックピット)で、優しく微笑む。

 

 

かくして、アビドスの砂漠の大地に。

厄祭を終わらせたと語られる白い悪魔(ガンダム)は、再び大地に立った。

 

 

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