砂漠に咲くは、鉄の華   作:山崎五郎

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勝者と敗者

 

――コ!

 

―ロコ!

 

「シロコ!」

 

 

「……ん?

 あれ…シズカ?それにアヤネも…」

 

「良かった!目を覚ましたんだね!」

 

「良かったです、シロコ先輩…!」

 

「いったい何が…っ!?

 い、つっ…!!」

 

 

シロコが目を覚ますと、眼前にいたのは同級生(シズカ)後輩(アヤネ)のメカニックコンビ。

シズカは冷や汗を流し、アヤネは涙目になっているその状況を確かめようと身体を起こそうとして…頭にぴしり、と痛みが走った。

 

 

「ああ、ちょっと待って。

 シロコが気を失ってる状態じゃ、阿頼耶識との接続が切れなかったんだ…よっと」

 

 

ぶん、と音を立ててバルバトスとシロコの同調(リンク)が解除される。それと共にシロコの頭痛が引いていき、バルバトスの頭上に浮かんでいた天輪(ヘイロー)も姿を消した。

 

 

「――どうなったの?」

 

「……結果だけ言えば、私たちの勝ちだよ。

 相手のリーダーが乗ってたモビルスーツは機能停止、ヘルメット団は一人残らず拘束済み。

 今、ユミカたちが連中のアジトで尋問でもしてるんじゃないかな…」

 

「…そっか。

 なら、良かった」

 

「良くありませんっ!シロコ先輩怪我してるじゃないですか!

 出血だって…!」

 

「ん? …あ、そういえば鼻血出てたっけ。

 マフラー汚れなくて良かった」

 

 

「「………」」

 

 

自分の身体よりマフラーの心配をするシロコ。

シズカとアヤネは顔を見合わせ…はぁあ、と大きくため息をついた。

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

「…ぁ」

 

「リーダー!」「良かった、目ぇ覚ました!」「ホントに死んじゃったかと…!」

 

「……お前ら、なんで。

 ここは…」

 

 

目を覚ますと、そこには見慣れた顔がいくつも並び、聞き慣れた声がいくつも聞こえてきた。

いつもと違うのは、普段身につけ素顔を隠しているはずのそれがどれもないということ。

 

そして…それは自分自身にも同じく。

 

 

「おはようございます」

 

 

かつ、かつという足音と共に声が聞こえた。

これまた見覚えのある制服の人間が数人と、スーツ姿の天輪(ヘイロー)のない男が一人。

 

 

「お前ら、アビドスの…なんで!」

 

「なんで俺らがアジト(ここ)に居るんだってか?

 案内してくれたんだよ、ご親切なお前の部下がな」

 

「っ…!?」

 

「すいません、リーダー…」

「大人しく案内しないと何されるか分かんなかったんです…」

 

 

数人が申し訳なさそうに俯き、あるいは項垂れる。

リーダーはぎり、を奥歯を噛みアビドス生徒…犬神ユミカを睨みつけた。

 

 

「おいおい、まさか卑怯なんて言うつもりねぇだろうな?

 先にモビルスーツ(あんなもん)持ち出してきやがったのはお前らの方だろ?」

 

「……私らを、どうするつもりだ?」

 

「あぁ?」

 

「わざわざアジトまで来たんだ。

 おまけにご丁寧に拘束までしてる…今までの“お返し”でもしようってのか?」

 

(むし)ろされねぇと思ってるんなら、俺らとしちゃあソッチのほうが驚きだよ。

 今まで俺らがお前らの相手するのに、どれだけの物資や弾薬が無駄になったと思ってやがる?」

 

「………」

 

「かけたくもねぇ労力をかけさせられて、オマケにモビルスーツの相手までして命の危機にまで瀕したんだ。

 ――その落とし前は、キッチリつけてもらう」

 

 

ユミカがそう言い終わるやいなや、1枚のタブレット端末を懐から取り出した。画面に表示されていたのは、カタカタヘルメット団が使用していた弾薬や戦車、そしてモビルスーツの情報だった。

 

 

「ただのチンピラグループのいち派閥にしちゃあ、随分羽振りが良いんだな、カタカタヘルメット団ってのはよ?

 こんな寂れたとこが本拠地(アジト)だってのにな」

 

「何が言いたい…」

 

「この武器やらモビルスーツやらは誰から貰ったもんだ?

 武器の弾薬やら戦車なら強奪で理由をつけられるだろうが、モビルスーツに関しちゃあそうはいかねぇ。

 トリニティやミレニアムにすら普通は出回らない、まして武装した状態のモビルスーツなんざそこらのチンピラと大差ないお前らなんぞに用意できるわけねぇだろ?」

 

「………」

 

「お前らの雇い主は誰だ?」

 

「……………知らない」

 

 

だん、とコンクリートの床の一部が弾け飛んだ。

ユミカの手に握られたSIG SAUER P220(ハンドガン)の口が、床の亀裂を真っ直ぐに睨んでいる。

 

 

「次は当てる。

 もう一度聞く、お前らの雇い主は、誰だ?」

 

「ほ、本当に知らないんだよ!!

 私らは強盗どころかカツアゲだってろくに出来ないような弱小グループだったんだ!

 ヘルメット団派閥でも弱小中の弱小で…」

 

「おい、誰がお前らの身の上話を聞かせろっつった?

 それとも、この耳はまともに言葉も聞き取れないってか?え?」

 

 

リーダーの少女の耳に銃口を収めるように、ユミカはハンドガンを突きつける。

その上でわざとらしく、いかにも脅すように安全装置をゆっくりと外し…

 

 

「ユミカ。 …それ以上は流石に許せないかな」

 

 

先生に諌められた。

ユミカは先生の方を数秒間睨み返し……ふう、とため息をつき銃を下ろした。

 

 

「悪い。俺も頭にきてたもんでな…。

 まあ、話さねぇなら話さねぇでこっちで勝手に探るまでだ。あのモビルスーツの製造元や発注データを辿れば…」

 

「あの〜。それ、たぶん無理だと思います〜」

 

「我々の方でも調べてみたのですが、発注元やロールアウト時のデータも完全に消去されていました。

 復元もほぼ不可能かと……」

 

「……あいつらは?」

 

「うちのメカニックの双子で…って言ってもあのモビルスーツが送られてきたのを聞きつけて無理矢理入団したんだけど」

 

「………本当に、あの…モビルスーツがどこから来たのか、知らないんだね?」

 

「――数週間前だったんだ。

 その日はヘルメット団の派閥抗争で、私らもそこそこに暴れ回って帰るとこだったんだよ。

 そしたら…」

 

 

 

 

 

『学校を占拠して引き渡せだぁ?』

 

『ああ、当然報酬は出す。

 全校生徒たった九名の弱小校だ、大した問題ではあるまい?』

 

『……ケッ、馬鹿馬鹿しい。

 新しいアジトにできるってんならともかく、なんで引き渡しなんかしなけりゃいけないんだっつーの。

 それに、人に物を頼むってんなら名前の一つくらい名乗るのが筋ってもんじゃねーのかよ』

 

『生憎簡単に晒せる名前ではないのでね。

 まあ…我々がどのぐらいのものかは君たちの住処に帰ってみれば分かるとも。それでは』

 

『は?何言って…おい!』

 

 

 

「それで、電話は切られて…。

 初めは無視しておしまいだと思ってたんだ。

 だけど……」

 

 

 

『……なんだ、コレ』

 

 

本拠地である寂れた倉庫。

緑色を基調とした無骨なデザインの鉄の人型兵器(モビルスーツ)が、膝をつき鎮座していた。

 

 

『リーダー、これ…もしかしてモビルスーツってやつ!?』

 

『それだけじゃねーぞ!

 弾薬に見たことない銃もこんなにある!』

 

『これ戦車じゃね!?』

 

 

それ以外にも見たこともない武器や兵器の数々を前に、ヘルメット団のメンバーたちは目を輝かせる。

しかしそんな盛り上がりを見せたメンバーたちとは裏腹に、リーダーはその赤髪が悪目立ちする程の青ざめた顔色になっていた。

 

 

「私も最初は単純に驚いただけだったんだ。

 モビルスーツを見たのなんて教科書の中ぐらいで、実物なんてこの先一度か二度見れるかってくらいで…。

 

だけど、その後すぐに我に返ったよ。

 

 

相手はモビルスーツ(こんなもの)を送りつけられるぐらいに大きな相手なんだってさ」

 

 

 

「……なる程な。

 そんな相手に逆らえば自分たちみてぇなチンピラの集まりなんて一捻りにされるのなんて目に見えてる。だから必死こいてアビドスを叩き潰そうとしたってわけか」

 

「………ああ、そうだよ!それの何が悪い!?

 相手の正体がどうあれ、モビルスーツを前金代わりに置いていける時点で私らなんて足元にも及ばないようなとんでもない奴なんて分かりきったことだろ!逆らえばこっちが潰されかねない!

 そんな相手に従って何が悪いんだよ!?」

 

「少なくとも。…モビルスーツで人を攻撃しようとしたのは、褒められたことじゃないのは確かだと思うよ」

 

 

それは先ほどから話していたアビドス生徒(犬神ユミカ)ではなく、隣に立っていた大人(先生)から出た言葉だった。

そのあまりにも真っ当な、至極当然の指摘にリーダーの少女は黙るしかできない。

 

 

「私は君たちみたいにヘイローを持っているわけじゃない。身体が頑丈なわけでも、すごい力があるわけでもない。

 それでも、あんな大きな機械に攻撃されればただじゃ済まないことぐらいは分かるよ」

 

「それは…」

 

「確かに、姿の見えない大きな相手に怯える気持ちは分かるよ。

 だけど、君は危うく人殺しになるかもしれなかったんだ。…それは分かってほしい」

 

「………」

 

 

ヘルメット団は口をつぐんだ。

ある者は俯き、バツの悪い顔をして視線を逸らすものもいる。

 

 

「要するに、だ。

 お前らが碌でもないことをしたのは変わらねぇ。このまま行けばお前らは連邦生徒会から矯正局送りは確実だろうよ」

 

「………」

 

「だがよ。そうならない道があるって言われたら、どうする?」

 

「「「「!?」」」」

 

 

ユミカの発言に、ヘルメット団のみならずアビドスの面々も驚きの表情を浮かべる。その思わぬ提案に、ヘルメット団の者たちは「本当か!?」「助かるんだったら何でもする!」など必死に命乞いを始めた。

 

 

「条件は単純だ。これからお前らはアビドス(俺たち)の言いなりになって動け」

 

「は…?」

 

「アビドスは普段から資金繰りにも苦労しててな。

 バイトだのなんだのにも人手不足なんだよ。そんなとこに働き手が一人二人でも増えてくれりゃあありがたいと思わねぇか?」

 

 

「ふざけんな!なんで私らがお前らを助けるために仕事なんか…」

「そうだそうだ!舐めたこと言ってんじゃ」

 

ダァン

 

「「ひいっ!?」」

 

反抗しようとしたヘルメット団の団員の足元が、銃弾で穿たれた。ユミカはその窪みから銃口を逸らさず、鋭い目つきを団員たちに向ける。

 

 

「…お前ら状況を分かってんのか?

 この状況で、相手に命令できる権利があるのはアビドス(俺ら)か、ヘルメット団(お前ら)か、どっちだ?」

 

「「「………」」」

 

「別に従いたくなきゃ好きにしろよ。

 その場合…お前らは殺人未遂者として連邦生徒会に追われる身、下手すりゃ矯正局行きだがな」

 

「「「………」」」

 

「さぁ選べ。俺らの下につくか、これから追われ続ける日々を送るか。

 どっちも嫌ってんなら、今すぐ突き出してやってもいいぞ」

 

 

ユミカのその気迫…別世界ならば“スゴ味”とでも評されそうなそれに恐怖したヘルメット団は、思わず押し黙る。

 

 

「あの、それならば私たちは出ていく方向で…」

 

「機械いじりができないならご用は無いので!」

 

 

しかし、メカニックの双子はあっけなくそう答えた。

そのあまりにも軽い反応に、他のヘルメット団員は驚きに目を見開き、裏切り者と怒声を浴びせる。

 

 

「……あー、お前ら二人って、確かメカニックだよな?」

 

「? はい!」

 

「うちにもメカニックは居るんだが、本職が一人に兼職が一人で心許なくてよ。…悪いがあんたらには残ってもらう」

 

「えーっ!?私たちの意思は!?」

 

「無い。

 それに、どのみちアンタもモビルスーツをいじくるのに協力した時点でほぼ共犯者だ。矯正局に送られれば機械いじりもクソもねぇぞ」

 

「……姉さん、ここは…」

 

「…二人揃ってお世話になります……」

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇   

 

 

 

 

「……ん、ユミカお帰り。

 …そっちのは…」

 

「まあ待てよシロ。ちゃんと説明すっから。

 …さあ、こっからの話をしようぜ」

 

 

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